連載
100年後の人にも響くような本を扱えたら
2024/6/4
一冊の本に出会うことは、新しい扉をひらくこと。たとえば頭や心にもやもやと霧がかかっているようなとき、世界の未知の側面に手を伸ばしたいとき、旅に出たとき、いつもは歩かない街に行ってみたいなとふと思ったとき……。そんなとき、本屋を訪れてみるのはいかがでしょう?
この記事では、me and youがおすすめしたい本屋さんをご紹介します。me and youが出版している小さな本を取り扱ってくださっている独立系の書店を中心に、自分の意思でお店を立ち上げたり、心地よい方法を日々工夫しながら、その土地に根づいた場所づくりを行っているお店たち。つくり手の表情が見える本屋は、そこに集まった人たちが想いや考えを交換したり、学びあうような場になったりしていることも。訪れればきっと、さまざまな形の居心地のよさに出会えるような本屋たちです。
今回ご紹介するのは鳥取県湯梨浜町にある「汽水空港」。店主のモリテツヤさんに言葉を寄せていただきました。記事の最後には、『あの本屋に行こう』のGoogle Mapも埋め込んでいるので、お散歩や旅のおともにぜひご活用くださいね。
1.どんなことを大切にしている本屋ですか?
地方オブ地方の小さな町、鳥取県湯梨浜町で、田畑をしながら運営しています。大切にしているのは土と文化です。社会とはまた別の足場である土の上に片足を置きながら、人のつくりだす文化も大事にしたい。そう思って作物をつくりつつ、家を修繕したりしながら日々本屋で人々と交流しています。人間が暮らし、文化を形成する以前から存在し続けている足場、それが土です。土の恵みは市場経済がどうであろうと生まれ続けているもの。資本主義経済以前、国家成立以前からある足場、それが土です。とはいえ現代を生きる人々は国があり、金があり、金を媒介に様々な交流をして生きていくものです。そしてその交流によって生まれるものも大事にしたい。そんなことを考えながら店を運営しています。
都市一極集中の暮らし、生活の効率化ばかりを追求する社会への抗いと創造をしていけたらと思っています。数年前から借りている耕作放棄地を「汽水空港ターミナル2(食える公園)」と名付け、パブリックとプライベートの境界が曖昧な公園づくりをしています。
2.選書のこだわりは?
100年後の人にも響くような本を扱えたらと思っています。そして日々買い取りしている古本はあまり内容にこだわらずに店に置くことをこだわっています。
3.お店の空間のこだわりは?
元々は小さなおもちゃ屋の倉庫でしたが、狭かったのでセルフで増築し、狭いながらもなるべく快適に過ごせる空間を意識しました。
4.「わたしとあなた」というテーマで、おすすめしたい本を1冊教えてください。
『人類学とは何か』(著:ティム・インゴルド、発行:亜紀書房/2020年)
同じ時代、同じ国、同じ町に暮らしていたとしても、政治的な考え、経済システムへの考え、暮らし、人生観、世界観の異なる人々同士で暮らしているのが現代社会ですが、特に今は考えの異なる人々同士のコミュニケーションが「啓蒙する側(正しい側)/啓蒙される側(誤っている側)」という構図を描いてしまいがちです。単純化された構図に人との関係を落とし込んだ先に、心地良い風が吹く予感がしません。そんなことを考えていた時に出会ったのが、この本でした。本文中の“私の定義では、人類学とは、世界に入っていき、人々とともにする哲学である。”という言葉は、人との関係を「する/される」関係ではなく「共に哲学をする人々である」という意識を促してくれました。「わたしとあなた」が共に哲学をする関係でありますように。
🚶♀️本屋を訪れてみよう
me and youがご紹介したい本屋を地図にまとめました。
汽水空港さんのほか、全国の本屋を都度更新していきますので、おでかけのお供にチェックしてみてくださいね。
モリテツヤ
汽水空港乗務員。田畑をしつつ、時々建築したり、文章書いたりしながらどうにか生きている人間。
プロフィール
古本(特に民俗学や文化人類学など)の買い取り募集してます!
おしらせ
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