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山本奈衣瑠がめぐる、女性写真家たちの軌跡。「こう見られたい」より、自分に集中した先の輝き

『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』から出発。渋谷でまなざす日本女性写真家の歩み

豊かな写真表現が成し遂げられてきたにもかかわらず、男性の写真家を中心とした歴史の中で、その功績に見合う紹介がいまもなお充分とは言い難い日本の女性写真家たち。「女性写真家」という視点から日本の写真史を編み直す試みともいえるBunkamura ザ・ミュージアムによる展覧会『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』(ヒカリエホール/渋谷ヒカリエ9F)とその連動企画が現在、渋谷の街の各所で行われています。

今回は『まなざしの奇跡』展とともに、『STILL/LIFE 静寂の余韻に』展(Bunkamura Gallery 8/)、『まなざしの奇跡』展開催記念特集上映『明かりが消えたら目をひらいて』が行われるBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、長島有里枝さんの個展『before the dog, behind the cat』(MINA/Museum of Imaginary Narrative Arts)を、俳優・モデルの山本奈衣瑠さんとともに巡りました。

被写体として数々の写真に写されてきた山本さんは、自身のInstagramで西洋絵画の歴史的なバックグラウンドについて解説を行うなどアートに関心が深く、自ら撮影した写真をもとにしたZINEも制作しています。これまでたくさんの時間を過ごしてきたという渋谷の街で行われたこの取り組みは、山本さんの目にどのように映ったのでしょうか。

日本の女性の写真家の歴史や、作家の存在が語られることに興味があった

それぞれの視点と方法によって、たしかなインパクトのある写真作品を残してきた日本の女性写真家30名の作品が集まった『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』展。フランス・アルル国際写真祭を皮切りにヨーロッパ各国を巡回してきたこの展覧会を、山本さんは以前から楽しみにしていたといいます。

山本:電車や街でポスターを見かけて、すごい写真家の方たちの名前が揃っていることに驚いて、友達とも盛り上がっていました。私は美術が好きなんですけど、歴史を振り返ると女性作家はやっぱりすごく少ないし、美術のグループや運動の中で語られることがあまりなくて。最近も学生運動のことを調べていたり、女性が男性社会の中でどう生きてきたか、生きていくのかみたいなところにはずっと関心があります。こんなふうに大々的に展覧会が開催されて、女性作家の文脈や歴史が見直され、作家の方たちの存在が語られることに興味がありました。

山本奈衣瑠さん。『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』会場にて

『まなざしの奇跡』展は、2024年に刊行された書籍『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』が礎となっています。

写真家、川内倫子さんの言葉をもとにつけられたこの英題をどのように解釈するかについても気になっていたのだそう。

山本:幸せという言葉を発することが難しいときがあるじゃないですか。自分の身の回りから目を離すと、世界のどこかは幸せじゃないし、選択肢や情報が増えたからこそ、なにをもって幸せと言っていいのかと思ってしまう瞬間があって。それに、女性の作家の方たちが活動してこられる間、確実に苦労しているのはわかっていることだから、どういう意味合いで「幸せ」という言葉をタイトルに使ったのかなとすごく気になっていました。

会場に入ると、4つの章に分けられた構成のもと、各作家の代表作や日本では未発表の作品まで、およそ200点が並びます。幕末の写真家、島隆の紹介から始まる展示のなか、山本さんが「これも写真なの!?」と早速興奮していたのが、1899年に生まれ、アメリカで写真の技術を得た写真家、山沢栄子さんの鮮やかな画面構成の作品。

山本:私はマルセル・デュシャンやマン・レイなどのシュルレアリスムの作家や、現代アートが好きで、既成の概念をスマートにぶち壊すような作品に惹かれるんです。山沢さんの作品にもそういう感覚があると思ったし、日本の女性作家でこういう作風のアーティストを知らなかったから、新しい出会いでした。会場でまず目に入ったのが山沢さんの作品で、「待って、これって写真展だよね」というサプライズが初めからありました。

山本奈衣瑠がめぐる、女性写真家たちの軌跡。「こう見られたい」より、自分に集中した先の輝き

山沢栄子さんの作品の前で。1926年に渡米し、油絵と写真を学んだ後、帰国後は大阪に写真スタジオを開設。ポートレートや広告写真を手がけたのち抽象写真の制作を始めた

山本奈衣瑠がめぐる、女性写真家たちの軌跡。「こう見られたい」より、自分に集中した先の輝き

“第1章「写真」をめぐる冒険—想像力を解き放て!”では、フォトグラムやコラージュ、モンタージュ、インスタレーションなど、「写真」や「見ること」のイメージを揺さぶる作品が並ぶ

「自分の鑑賞スタイルはいつもこんな感じで、赤裸々にぶつかっていく」

インスタレーションや映像作品も並ぶなかで、作品の前で屈んだり、斜めや横に立ったり、距離を変えてみたり、身体中を目一杯使って鑑賞していた山本さん。ル・コルビュジエやマハトマ・ガンジーが実際に使用していた眼鏡を通して彼らの視点を垣間見る米田知子さんの作品の前では、その着眼点に「面白すぎる!」と崩れ落ちます。

山本:自分の鑑賞スタイルはいつもこんな感じで、赤裸々にぶつかっていくタイプなんです。やろうと思ってやっているわけじゃなくて、集中していると自然とこうなっちゃいます(笑)。

山本奈衣瑠がめぐる、女性写真家たちの軌跡。「こう見られたい」より、自分に集中した先の輝き

20世紀のイデオロギーや歴史的史実を考察し、対象への綿密なリサーチのもと、写真や映像を通じ、土地や人々、アーカイブの中に隠された歴史を浮き彫りにし、多層的な記憶を呼び起こす米田知子さん。近現代の知識人が実際に使用していた眼鏡と、彼らにゆかりある文章や写真・楽譜などを組み合わせてモノクロ写真に収めたシリーズ「Between Visible and Invisible」より
※特別に許可を得て撮影しています

同様にさまざまな角度から眺めていたのが、多和田有希さんの作品。ワークショップに持ち寄られた写真を燃やし、古代ローマの副葬品である涙壺に釉薬として焼き付けた作品からは、山本さん自身の写真に対する思いが触発されたようでした。

山本:写真って残るものじゃないですか。親戚が亡くなったときにたくさんの写真が出てきて、いらない写真なんて一つもないけど、現実的にとっておくことができないから、どうしても選別しなきゃいけなくて。そのときに、写真はいつか消えるかもしれないけれど、撮ることで残そうとする心の動きが面白いなと思いました。

多和田さんの涙壺の作品にはかつて写真だったものが焼き付けられているけど、これも写真と言えるのか、写真ってなんなんだろうって。誰かの記憶に残っていれば写真なのか、ものとしての存在があるから写真なのか……。答えはないけど、こうやってぐるぐる考えるのも楽しいです。

身体と情報の往復でイメージを編み替え、変容を立ち上げる実践を行う多和田有希さんの作品。参加者が燃やすための写真を持ち寄り、燃やした後の灰を釉薬として焼き付けた「Lachrymatory」(左)。海の写真を2枚プリントし、母と娘がそれぞれ夜などに「水の部分を燃やす」というルールに従って燃やした「I am in You」(右)

現在休館中のBunkamura ザ・ミュージアムが展覧会を行っているヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)のアトリウムからの眺め

「自分と作品との間だけで生まれる感覚にときめくし、そこに答えがある感じがする」

ヒカリエホールの一つ下のフロアにあるBunkamura Gallery 8/で開催されていたのは『STILL/LIFE 静寂の余韻に』(現在会期終了)。「生きること(LIFE)」と「静けさ(STILL)」をテーマにした同展には、清水裕貴さん、スクリプカリウ落合安奈さん、鈴木のぞみさん、頭山ゆう紀さん、中井菜央さん、細倉真弓さん、𠮷田多麻希さんの7名が参加。

こちらには日常にも取り入れやすいサイズ感の作品が揃い、写真との距離を身近に感じられるようになっていました。

山本:個人的に、海外の作家さんと比べると、日本の作家さんとはなかなか新しく出会いづらくて。こういう場で知らない作家さんと出会えるのは嬉しいです。

鈴木(のぞみ)さんの窓ガラスの作品(『Other Days, Other Eyes:柿の木荘102号室の東の窓』)は最初に目に入って、デュシャンの大ガラス(『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』)みたい! と思いました。「事物の記憶」をテーマにされていると聞いて、面白いなと思います。

鈴木のぞみさん『Other Days, Other Eyes:柿の木荘102号室の東の窓』。鈴木のぞみさんのインタビューはこちらから(自分の表現よりも、事物の記憶を写す。写真家・鈴木のぞみのアトリエ訪問

山本:中井(菜央)さんの作品は、油絵のように見えるくらい抽象度が高くて、一見写真なのかもわからない曖昧な感じが素晴らしい。ものが本来の役割を果たしていないように見える作品を見ると、自分と作家さんや作品が繋がったような気がして。自分と作品との間だけで生まれる感覚にときめくし、そこに答えがある感じがするんです。ちなみにそれはデュシャンからの受け売りなんですけど(笑)。ただ美しいものを見ているだけじゃなくて、自由さや伸縮性みたいなものが作品にも自分にもあるように感じられるとすごく楽しいです。

『STILL/LIFE 静寂の余韻に』展示風景(会期終了)

自分のためだけに映画館で観る楽しみ

Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下では、『まなざしの奇跡』展に参加している作家を含む、片山真理さん、川内倫子さん、小松浩子さん、野口里佳さん、細倉真弓さん、やなぎみわさん、山城知佳子さんなどの映像作品を中心に全6プログラムからなる上映企画『明かりが消えたら目をひらいて』を開催。普段は美術館やギャラリーで展示されている映像作品を映画館で鑑賞することによって、「観る」行為を問い直す試みです。前述の作家たちの作品を鑑賞するうえで、参考となる映画作品も同時に上映されるのだそう。

映画を観るとき、複数の上映館がある場合にもまずル・シネマを優先するほど、日頃からよくル・シネマを訪れているという山本さん。

Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下のロビーは、映画好きでもあるという中山英之建築設計事務所が内装をデザイン。レッドカーペットならぬ「シャドウカーペット」(影色のカーペット)が落ち着いた雰囲気を演出。スタンドカフェ「ドゥ マゴ パリ プチカフェ」も併設されている

山本:ル・シネマは映画を観る環境としてすごくよくて、観る前からすごくわくわくするんです。ここで友達と待ち合わせしたりするくらい日常の中にある場所です。

私はこの企画でも上映される野口里佳さんの作品が好きで、映像作品もめちゃくちゃ面白いじゃないですか。以前展覧会で作品を観たときに、おこがましいけど、なにか同じものを喋れる気がすると思ったんです。映像作品を展覧会の流れの中で観るのももちろん最高だけど、座った状態で真正面から膝と膝を突き合わせて観たことは確かにないし、やってみたいです。美術館の展示はみんなで観る行為だけど、映画館で座って観るのは自分のためだけに観る行為という感じがします。始まったらぜひ観に行きたいです!

かつての渋谷といまの渋谷がつながる面白さ

L PACK.がディレクションを行うMINA(Museum of Imaginary Narrative Arts)は、年4回作品が入れ替わるギャラリーであり、カフェでもある空間です。

MINA(Museum of Imaginary Narrative Arts)

こちらでは『まなざしの奇跡』展にも参加している写真家、長島有里枝さんの個展『before the dog, behind the cat』が開催。1994年に長島さんがティッシュ配りのアルバイト中に渋谷を写したスナップ、2025年に発表された猫や風景の写真とドローイングをコラージュしたシリーズ、撮影時期不明のモノクロ写真を合板にプリントした2018年の作品をMINAのテーブルに仕立て直したものという、異なる時期の作品が並びます。

MINAで行われている長島有里枝さんの個展『before the dog, behind the cat』の展示風景。展覧会とコラボした限定メニューも

山本:西洋美術が好きだからか、古いものと自分がどうやって繋がっているかがすごく気になるんです。絵画を観ていて、波や太陽が絵画の中に描かれていたときに、その海はいまも存在しているし、波の動きはいまも止まっていないと思うと、ちゃんと繋がってる! って感動します。長島さんの展示もまさに、自分がまだ自我を持つ前の渋谷の写真に知っている景色があることに、いま言ったような感覚を感じました。写真の中に渋谷が写っているのにこのMINAも渋谷にあって、その真ん中に自分が立っている感じもすごく面白いです。

みんなバキバキに決めてるし、超かましてる

たっぷり時間を使って展覧会を巡ってきた最後に、MINAで甘いものを食べながら、今日の感想について山本さんにお話を伺いました。

―4つの会場を巡ってきましたが、いかがでしたか?

山本:めちゃくちゃ最高でした! そもそも楽しみにしていた展示だったんですけど、観ている間「これを見せたい」「この人と話したい」と思う仲のいい友達の顔が浮かんで。展示を見て思ったのは、みんなバキバキに決めてるし、超かましてるじゃん! ということでした。自分のことに集中して突き詰めてものをつくっている人って、全員かっこいいじゃないですか。自分より先に生きてきた人たちの、その当たり前のかっこよさをちゃんと真正面から見据えた展示という感じがしました。

ー女性の写真家が主流の権威から正当な評価を得づらかったという文脈や前提はありつつ、そもそも個々の作品の持つエネルギーを感じられる展示でしたね。

山本:もちろんその裏にはいろんなことがあったと思うし、そういう感覚が表れていた作品もあったと思うんです。女性と自認している立場から見ると、超勝手だけどエンパワメントされる感覚もありました。でも見ているときはただパンチの強さに食らっていて。全体的に、「美しいもの」という感じがしないのがよかったですね。いまの時代ってどう見られるかとか、どういうポジションにいたいかとかをよくも悪くもコントロールできる気がするけど、そういうことじゃなく、「自分のやりたいことをやりまっせ」という感じが溢れまくっていることにもくらいました。

山本奈衣瑠がめぐる、女性写真家たちの軌跡。「こう見られたい」より、自分に集中した先の輝き

『まなざしの奇跡』志賀理江子さんの作品

山本奈衣瑠がめぐる、女性写真家たちの軌跡。「こう見られたい」より、自分に集中した先の輝き

『まなざしの奇跡』岩根愛さんの作品

ー『まなざしの奇跡』というタイトルって言葉としては繊細で美しい響きがあるし、奈衣瑠さんは英題の「I’m So Happy You Are Here」という言葉についても気にかけていましたよね。

山本:展示自体はもっとぶん殴ってくるような感じでした。「新しいことをやろう」とか「こう見られたい」とか「こういうことをやろう」というより、自分に集中しまくった結果の「自分ここにあり」という強さを感じました。

最近友達とも「集中が一番いいよね」という話をしていて。20代で一生懸命自分に集中してダッシュで走ってきて、「自分は多分これっぽい」というものができて30代の扉を開けたら、ここでまたもう1回自分に集中しないと、自分が別の誰かのものになっちゃう気がしたんです。関わる人が増えてきたときに、自分の思いとは違う形にコントロールされそうな感じがすることがあって。周りから求めてもらえるのはありがたいことでもあるんですけど、そこが心地いいと思って座っちゃうと、実はそこは椅子じゃない、ということもあると感じます。どこにいたって、常にずっと自分に集中していることこそが面白いと思うんです。

作家の皆さんも、作品の中で一度答えが出てもまた次の答えを探し続けていて、それをずっとやめないことこそが、輝かしい面白さである気がして。周りがなにを言ってもただ自分に集中して、探求してきた結果が写真に写っていることにすごく勇気づけられたし、「ですよね!」と先輩たちに共感しました。

『まなざしの奇跡』原美樹子さんの作品(左)、多和田有希さんの作品(右)

ー置かれた環境はそれぞれ違っていても、自分に集中し続けることがそう簡単ではないのはよくわかりますしね。

山本:いまの時代だからこその難しさもあると思います。いまって、「正しいっぽいこと」を自分が見つけたかのように言いたい感じがどの界隈にもあると思うんですよ。いろんな情報や答えで溢れ返っているけど、この展示では、「その人のまなざしって実は踵の左横ぐらいの場所にあったんだ!」みたいな、本当にそれぞれの作家の方が突き詰めた独自のまなざしを教えてもらえて、めちゃめちゃ豊かになった感じがします。しかもそれが自分が普段からいる渋谷という日常の場所にある空間で見られたこともすごくよかったんですよね。

残せないけど覚えている身体の質感が消えないように

ー奈衣瑠さんにとって渋谷はどんな街ですか。

山本:最近は仕事で来ることが多いです。あとは友達と会う場所。特別な意味があって来るというよりは、生活の中で便利な場所ですね。20代前半くらいはもっとこの街にいて、本当に意味のわからない時間を過ごしたりしていたので、「ここで友達の誕生日動画撮ったな」とか「あのカフェ潰れたな」とか、そういう過去の自分があちこちにいるのが渋谷なんです。

別にすごく居心地がいいわけでもないし、ずっといたいわけじゃないけど、この10年ぐらい生活の中で当たり前に渋谷にいたからこそ、吹いたら飛んでいって忘れてしまいそうな超普通の時間がこの街に詰まっていることを思い出させてくれる。ただ歩いたとか、ただ誰かと帰ったみたいな、もう何年かしたら覚えているかわからないかもしれないものを不意に思い出させてくれる場所で、そういう意味では好きな街ですね。

ー何気ない瞬間を大事にしているんですね。

山本:『まなざしの奇跡』の第4章(「日常」をめぐる冒険―見過ごされた風景の中でー)にもそういう感覚があったと思うんです。野口(里佳)さんの「見えないけれどそこにあるもの、それをなんとかして写真にしたいのです」という言葉が、もう切実すぎて。その言葉をいま思い出しても泣きそうなんですけど、残せないけど覚えている身体の質感ってあるじゃないですか。ざわつきとか、ときめきとか、怒りみたいな、そういう心の肌触りみたいなものがすごく大切で、なくなってほしくなさすぎて、消えないように頑張ってしがみついてるんです。そういうものに、自分がいま生かされてる気がする。

ー切実に大事だと思った記憶や経験も、生きているとだんだん薄く遠ざかっていくし、儚いですよね。

山本:私はものすごく過去に執着しているから、それをどんな方法や質感で残しておけるかの実験をしているんです。文章で書いたり、iPhoneで撮ったり、忘れたくない空気の匂いがどういう形や色だったかを想像してノートに残しておいたり、その日拾ったものを残したりしています。そういう感覚を覚えていると、人の作品を観たときに、「もしかしてそれって私も知ってるかも」と思えるんです。

ーだからこそ鑑賞中も身体を一生懸命使って観ているのかなと思いました。

山本:多分その方が情報を集められるから、身体が動くんだと思います。

山本奈衣瑠さんがつくっているZINE。日常に潜む 絵画や彫刻、ドローイングなど、名前の無い芸術作品たちをまとめている

ー観ている間、笑っていたのも印象的で。「面白さ」ってたとえば腕組みするような興味深さのように、色々な方向性があると思うんですけど、奈衣瑠さんは爆笑しながら観ていましたよね(笑)。

山本:子どもの頃、公園に捨ててあったホットレモンのペットボトルを土に埋めたらどうなるんだろうっていう実験を友達とやったんです。もちろんプラスチックだからなににもならないですよ。でもいま自分がものをつくったり、遊びの中でやっていることって、子どもの頃のそういう「これをやったら、めっちゃおもろくない!?」という感覚の延長線上にあって。

マルセル・デュシャンや赤瀬川原平はその感覚に答えをくれたのでリスペクトしてるんですけど、今日展示に参加していた人たちもすごい人なのに、やっていることは「なにそのアイデア!?」っていう感じで。真剣に考えれば真面目に「興味深い」となるかもしれないけど、最初に思いついた瞬間はきっと「面白い!」っていう、素直なときめきがあったんだろうなと作品を観ていて感じたから、笑ってしまったんです。

ー「観る」ことって目と頭が主体というイメージだけど、実際は身体まるごとの行為で、真摯にまなざすことは鑑賞者の側も変える行いなんだとあらためて感じて、奈衣瑠さんの鑑賞の姿勢が興味深かったです。

山本:実際に、観ている作家さんや作品ごとに身体が変わるのを感じました。たとえば志賀(理江子)さんの作品は前から楽しみにしていて、初めて生で観たんですけど、観ている間の身体には緊張感があったように思います。それが志賀さんの意図したことかはわからないけど、自分がそう感じるってことは、作品における光の感じだったり、なにかしらそういう要素がある気がするんです。逆に野口(里佳)さんの写真は身体がすごくあったかくなりました。今回セクションの分け方もすごくよくて、だからこそあんなに広くていろんな作品があるのに、一つひとつに集中できたし、作家さんごとに展示方法や空間の明るさが違うのもよかったです。

作家さんたち自身も、きっとまなざすことで身体が変わっているんじゃないかなと思います。写真家の方がシャッターを押すときって、空間の音を聞いているような気がして。写真が撮られたときに起きたリズムと、私が作品を受け取ったときのリズムが混ざり合うことが、もしかしたら私と作品とが見つめ合っているということなのかもしれないと感じました。

『まなざしの奇跡』杉浦邦恵さんの作品(左)、石内都さんの作品(右)

ー今回、記事のためにAmanoさんが写真を撮っていたけれど、写真で写真を撮るのもある種不思議な行為だなと感じていて、さらに写真の前に立って写真を撮られている奈衣瑠さんはどんな感覚なんだろうとも思っていました。

山本:石内(都)さんの作品は遺品の写真をあんな大きなサイズで観ること自体にちょっと緊張したし、フリーダ・カーロの遺品の靴を撮った作品の横で撮ってもらっているときに、「すごいことしてる」と思って。そこに誰かの魂みたいなものが絶対にある何十年前の服や靴を写真にした作品の横に現代の自分がいて、そこでまた写真を撮られることで、時代を超えて1枚のものになるんですよね。そのレイヤー感に不思議な気持ちになったし、写真ってそういういろんな力があるんだと思いました。

山本奈衣瑠

モデル/俳優
モデルとして活動を始め、その後2022年に主演を務めた映画「猫は逃げた」が公開されそれ以降俳優業にも力を入れている。2024年にヒロインを演じた映画「SUPER HAPPY FOREVER」では高崎映画祭で最優秀助演俳優賞を受賞しその後も韓国Netflix「GOOD NEWS」に出演するなど作品の幅を広げている。個人ではZINE製作、エッセイ寄稿、趣味はラジオ視聴、西洋絵画 解読など、ジャンルに問わず多方面でも活動中。

Insatgram

『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』

日時:2026年7月4日(土)〜8月26日(水)10:00〜19:00(最終入場は18:30まで) ※会期中無休
会場:ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)
入場料(税込):一般…2,200円(鑑賞券)、U-30割(30歳以下/大学生含む)…1,500円(鑑賞券)、高校・中学・小学生…1,000円(鑑賞券)
出展作家:石内都/石川真生/今井壽惠/岩根愛/潮田登久子/岡上淑子/岡部桃/オノデラユキ/片山真理/川内倫子/小松浩子/今道子/澤田知子/志賀理江子/杉浦邦恵/多和田有希/常盤とよ子/長島有里枝/楢橋朝子/西村多美子/蜷川実花/野口里佳/野村佐紀子/原美樹子/ヒロミックス/藤岡亜弥/やなぎみわ/山沢栄子/米田知子/渡辺眸
島隆(※特別出品)
日本展担当キュレーター:竹内万里子
主催:Bunkamura

Web

『STILL/LIFE 静寂の余韻に』(会期終了)

日時:2026年7月4日(土)〜7月20日(月・祝)11:00〜20:00 ※会期中無休
会場:Bunkamura Gallery 8/(渋谷ヒカリエ8F)
入場料:無料
出展作家:清水裕貴/スクリプカリウ落合安奈/鈴木のぞみ/頭山ゆう紀/中井菜央/細倉真弓/𠮷田多麻希
企画協力:竹内万里子
制作協力:コンタクト
主催:Bunkamura

Web

長島有里枝個展『before the dog, behind the cat』

日時:2026年7月10日(金)〜9月27日(日)11:00〜20:00 ※休館日なし
会場:MINA
入場料:無料
主催:MINA

Web

『明かりが消えたら目をひらいて』

日時:8月7日(金)~8月27日(木)
会場:Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
鑑賞料金(税込):一般・シニア ¥1,500/学生、障がい者手帳をお持ちの方 ¥1,000
※ザ・ミュージアム「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展半券ご提示で各料金が¥200引き
※特別興行につきサービスデー、その他各種割引は適用外

上映プログラム:
Program A, B
ムーヴィング・イメージズ──片山真理、川内倫子、小松浩子、野口里佳、細倉真弓、やなぎみわ
Program C
震えている──山城知佳子作品集
Program D, E
そこにカメラがある──ホン・ダイェ『私はトンボ』、シャンタル・アケルマン『家からの手紙』
Program F
私もあなたを見よう──見返すまなざし カリスト・マクナルティー『デルフィーヌとキャロル』

Web

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