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産む・産まないにまつわる揺らぎを語らう場を。舟喜さとみが本屋で開いた語らう場

孤独は固有のものであっても、同じ場所を共有することができるんだということを信じたい

母になるか、ならないか。子どもを産むか、産まないか。繊細な話題だからこそ、それぞれの思いがあっても交わせる場所が少なく、その問いと向き合う時間は、とても孤独なものです。そこには一人ひとり異なる揺らぎや葛藤があり、決して一括りにすることはできません。

だからこそ、本屋B&Bのスタッフである舟喜さとみさんが、自身の妊娠をきっかけに昨年2025年の夏に立ち上げたフェア『わたしが、わたしのからだを孤独にしないためにー産むことと、産まないことのあいだ』は、さまざまな立場や状況の人が交わる機会となり、ウェブ上でもフェア会場でも多くの反響を呼びました。

この記事では、約1年前、フェアが終了し、子どもを出産した後におこなった舟喜さんへのインタビューに加え、育休を経て仕事に復帰し、この9月に再びおこなう『わたしが、わたしのからだを孤独にしないために』関連イベントを控えたいまの思いを綴っていただいたテキストを掲載します。

書店員してこのフェアを企画しようと思った背景や、フェアの前後で経験した妊娠・出産というあまりにも未知な出来事の過程で生じる、揺らぎや変化。一人の経験を知ることを通じて、異なる境遇の誰かに思いを馳せるきっかけになることを願って。

孤独は孤独であっても、場所を共有することができるんだということを信じたかった

―『わたしが、わたしのからだを孤独にしないためにー産むことと、産まないことのあいだ』のお知らせが出たとき、「話したいと思ってた!」と声がすごい勢いで広がっていきましたよね。

舟喜:そうなんです、すごくびっくりしました。

―これまでも舟喜さんはK-BOOKフェアやパレスチナに関するフェアをはじめ、さまざまな企画をB&Bで行われてきましたが、このフェアをやってみようと思ったきっかけは?

舟喜:妊娠がわかった当初はただうれしい気持ちでいっぱいで、いまの自分がやれることをやりたいという気持ちがなんとなくあったなかで、だんだんと「あとこれくらいしたら育休に入るんだな」「どこかでまた、この仕事に戻ってこられるのかな」という不安が湧いてきました。それから身体の変化がどんどん進むにつれて、めちゃくちゃ孤独になっていって。

産む・産まないにまつわる揺らぎを語らう場を。舟喜さとみが本屋で開いた語らう場

舟喜さとみさん

―どんな孤独だったんでしょうか?

舟喜:もちろんパートナーとの子どもではあるけれど、自分ひとりの身体のなかで10か月間育てていくことが責任重大に感じていました。「この生命を守っていかねば」って。自分の身体にこれから何が起こっていくのか、なんとなくは知っていてもよくわからないなかで、たとえば初期流産のリスクだとか、具体的に調べて初めて知ったことがたくさんあったんです。生理痛も個人差があるけれど、つわりや初期の体調不良にも個人差があって、大丈夫だったっていう人もいれば、水も飲めずに入院が必要な人もいたりして。

―つわりっていつ頃から始まるんでしたっけ……?

舟喜:それも人それぞれだけど、妊娠がわかって6、7週目くらいから始まる人もいて、その頃はまだ早期流産の可能性があったりと安定しない時期だから、まわりの人に言いづらい場合もあるんですよね。

妊娠して初めて知ったことなのですが、自分が妊娠したことをまわりの人に伝えるタイミングにも、暗黙のルールのようなものがあって。基本的には安定期と呼ばれる5か月を過ぎてからが多いみたいです。それくらい、妊娠初期というのは何が起こるかわからないし、センシティブな期間なんですよね。

ただ、人それぞれに生活や仕事があるなかで、隠すことのほうが身体に悪影響である場合もあると思います。だからまわりの人に伝えるタイミングもそれぞれであっていいと思うのですが、あまりに早すぎると「浮かれちゃっている」という世間の目があることをSNSで知ったりして、複雑な思いがありました。

―体調に変化があるのに、誰にも言えない状況はとてもつらいですよね。

舟喜:わたしの場合は、風通しがよくて相談しやすい職場なのと、担当しているイベントもたくさんあったので、言わずに体調を崩して突然迷惑をかけるよりは素直に話したいと思って、早い段階で産休のタイミングについてまわりに話すことができたんですけど、妊娠していることを隠しながら働いている方もたくさんいらっしゃると思います。

産む・産まないにまつわる揺らぎを語らう場を。舟喜さとみが本屋で開いた語らう場

写真:Kenichi Aikawa

―『わたしが、わたしのからだを孤独にしないために―産むことと、産まないことのあいだ』というタイトルにした理由についても伺ってみたいなと思って。これから出産する方へ、赤ちゃんが産まれる方へ、といったフェアは書店などでも見かけることがありますが、「産まない」「産めない」「産むのが難しい」ほうの孤独にも光を当てているところも、この企画が多くの人に届いた部分だと感じます。

舟喜:妊娠してからは、X(Twitter)で自分の状況について調べることが多かったんですけど、不妊治療をしている人や、流産で子どもを亡くした方の投稿も出てきて。そのなかには、異なる立場の人同士で対立のような状況が起きている場面もありました。そうした投稿を見ていると、異なるつらさがある違う立場の人同士が共存できないように一見思えるけれど、でも本当は、社会の力によってそうした状況が生まれているのではないかと思っていて。たとえば、不妊治療している人が仕事を休んだり早退したりできるように支援する会社はまだ少ないですし、構造のほうに問題があるというか。

―別にお互いに戦う必要はないのに、戦う構造がつくられている。

舟喜:そうなんです。最初は自分自身の孤独から場所をつくりたいと思っていたけれど、自分だけではなくいろんな立場にいる人にとっての場所をつくって、そうした分断に抗いたいと思いました。孤独は固有のものであっても、同じ場所を共有することができるんだということを信じたかったんです。

産む・産まないにまつわる揺らぎを語らう場を。舟喜さとみが本屋で開いた語らう場

小林エリカさんのイラスト「私自身の母がまだ二十代だった、母でなかった頃のポートレート」がメインビジュアルに描かれている。「母ではないときの自分を忘れたくない。きっと絶対に消えはしないし、いつまでもその自分と生きていくことができると思えました」(舟喜さん)写真:Kenichi Aikawa

本を通じて人の話を聞いてみたい、自分が違和感を抱いていることをみんなで共有したい

―舟喜さんがフェアに際してつくったZINEには、「子どもを持つことは昔から夢だったけど、同時に全く抵抗や迷うことがなかったわけではない」と書かれていました。昔から子どもを持つのが夢だったのには、何か理由はあるのでしょうか?

舟喜:家族というものにすごく憧れがあったんですよね。子どもの頃、おばあちゃんといとこといっしょに、三世帯で住んでいたんです。うちはわたしと両親の3人で、いとこは子どもが3人いる5人家族で。わたしは小さいときから母が病気で、いつも寝ていたから、なかなかいっしょに遊んだりできなかったのですが、いとこの家はお母さんが元気で、すごく楽しそうに見えて。近い距離だったこともあって比較してしまうところがあり、どうしても寂しく感じていました。

それで、「自分が子どもを育てることで、母のことを知りたい」「わたしが母にしてほしかったことを子どもに向けることができたら、自分をケアすることもできるのではないか」と感じていました。フェア中におこなわれたトークでもご登場いただいた中村佑子さんの『マザリング』(集英社)で、「子育てをしていると、自分の子ども時代をもう一度演じ直すという感覚がある」という相馬千秋さんの言葉を読んで、まさにそれだなと思いました。

でも、さっき憧れと言ったけれど、大人になってフェミニズムを学んで、社会から押し付けられた家族像のようなものがあることも知って。一概に憧れとは言えないと気づいていたんですけどね。

写真:Kenichi Aikawa

―「理想の家族像」のようなものは、同時に何かしらの役割を生む可能性もありますよね。

舟喜:そうそう。頭ではそうしたこともわかってるけれど、でも気持ち的にはどうしても家族に憧れていたんです。あと、最近は「死ぬのが怖い」という感情がめちゃめちゃあって。なんで自分がこの世界に産まれたんだろうとか、産まれるってなんだろうとか、ずっと考えていました。だから、生を感じる経験をしてみたかった。

同時に、「気候変動も進んでいるこの世界で、産まれた子どもたちは生きていくことができるのだろうか」とか、葛藤もあって。虐殺や戦争も止まない、自分の無力感もおぼえる世界のなか、自分がほしいという気持ちで産んでいいのかな、なんて思ったりもしていました。

―葛藤があったんですね。

舟喜:揺らぎはありながら、年齢のこともあるし、まずは妊活してみようかとなりました。パートナーも13個上で、男性側も高齢になるとリスクがあり、子どもができにくくなる可能性もあるので。葛藤や迷いがあったとしても、身体の年齢というのは待っていてはくれないんですよね。

―わたしは子どもがほしいと思ったことや、産み育てるイメージがずっとなくて、いまもないままです。だからといって、時期によって気持ちの塩梅も違っているし、誰かから白黒で判断されたくはないし、本当に選択が難しいことですよね。同じ選択を選んでいたとしても、その過程や背景にある思いはそれぞれあるはずで。今回のフェアでは、二項対立では語りきれない、迷いや選択のグラデーションに光を当てているように感じました。

舟喜:そうなんですよね。フェアではノートを置いていたのですが、そこに集まった言葉を読んでも、みんながすぐに選択できているわけではなくて。年齢や身体の状態はもちろん、「こうだったかも」「将来こうなるかも」と、自分と向き合っていろんな選択肢について考えている。でも、そういうのって話さないじゃないですか。それは相手の状況がどうかわからないからですよね。この場所があってよかったという声を聞いて、フェアをやってよかったなと思いました。

置いてあったノートには、フェアに訪れたさまざまな立場の人たちが自らの思いを綴った

―妊活や女性の健康課題にまつわる仕事をしている人・団体のような専門家によるイベントなどもあるなかで、舟喜さんは本屋という自分の持ち場で、自分個人が感じた課題感をもとに開かれた場所をつくってみることを実践されているのがいいな、と思いました。

舟喜:昔からいろんな考えの人が集まっている場所が好きで、本も多様ですよね。そうした本の力を信じているというか、希望を感じているんです。たとえば、本屋は何か買わなくても誰でも入れるし、敷居がそんなに高くない。旅先でもふらっと入ることができるし。本を通じて人の話を聞いてみたい、自分が違和感を抱いていることをみんなで共有したい、という思いが強いのかもしれません。

―話したいけど、あまり話せる場所がない……ということがあるときに、自分の仕事の延長線でできることをやってみると、新たな場が生まれていろんな人の声が聞けるという。

舟喜:今回のフェアも、「わたしはこんなことをやりたいんです」「いまこんな風に感じてます」と言ったことで、そこに関心を持ってくれた人がアイディアを寄せてくれることもあったりして。

―フェアについてお知らせした後で生まれた企画もありますか?

舟喜:そうですね。今回のフェアでは、佐古奈々花さんというパレスチナ解放の活動もしているイラストレーターの方が、すごく最初の段階で興味を持ってくれて(佐古さんがフェアについて綴った記事)。話したい人が話せる場があったらいいですよね、別に話したくない人は無理して話さなくていいんだけど、多分、話したい人はいますよねって話して、それが自分のなかで大きいテーマになりました。話したい人は話して、話したくない人は本を見ているだけでもいい。

―本が真ん中にあると、ぽつぽつと話す人も、まったく話さない人も両方いることが成り立つ空間になりますね。

舟喜:でも、すごく怖かったです。反響が思ったよりも大きかった。孤独を感じてる人に見つけてもらいたいとは思っていたんですけど、あまりにも大きかったがゆえに、誰かを傷つけてしまったらどうしよう、期待してもらったけど答えられなかったらどうしようという不安もありました。

母の揺らぎにまつわる話は、もっと世の中に溢れていてもいい

―少子化対策の名のもとに、「女性は子どもを産むべきだ」という言説も多く見られます。けれど実際には、子どもを産む・産まないという選択には、身体の状態はもちろん、経済状況や仕事、価値観や生き方そのものが深く関わっているはずです。そうした複雑な事情が無視され、女性だけが一つの生き方に押し込められているように感じることがありますよね。

舟喜:今回妊娠して気づいたことなのですが、自分で希望した妊娠をした後も、重いつわりや度重なる出血で病院通いの日々……など、自分でも自分の身体に追いつくことができないことに驚きました。産む・産まないという選択には、こんなにままならない身体の存在もあるわけで、社会のシステムに合うわけがないんですよね。「女性は子どもを産むべきだ」っていう人は、女性の人生や身体のことをあまりにも知らない、想像していないと思います。

フェアである方が話していたことなんですけど、いまの社会は、産むにしても産まないにしても、「なんであなたはその選択をしたの?」と問われますよね。でも、本来はいちいち言葉にする必要も別にないのではないかって。産みたいと思うこと自体、ある程度のエゴはあるし、別にそれでいい。それを聞いて、本当にそうだなって。

わたし自身も、この選択についてはっきりと明確な理由があるわけではないし、それぞれの人生のなかで選択は変化していくものですよね。それなのに、社会や政治が選択を強いてこようとするのは、個人の人生を全く想像していないとしか思えません。みんな揺らぎのなかで生きている。そのなかで、自分が自分の身体について安心して選択し続けることができる環境を整えることが政治の仕事だろうと思います。

―人はロボットではないのだから、と感じることがあります。

舟喜:生命に関することは、誰かが決めることではないというか。コントロールできないものですよね。

生殖補助医療の対象を「法律婚をしている異性カップル」に限定しようとしている「特定生殖補助医療法案」(2025年2月に提出され、その後廃案)の修正に関する呼びかけや、出産や子育てにまつわるさまざまな団体によるパンフレットも(写真:Kenichi Aikawa)

―舟喜さんのZINEには、子宮後屈や子宮腺筋症、妊娠糖尿病といったことについても書かれていて、わたしは正直、そこで初めてその状態や症状について知ったんです。妊娠とは一言で語れない、さまざまな身体の状態が複雑に関わることなのだ、とあらためて理解したというか。

舟喜:まず、生理痛が20歳のときから本当に重くて、ずっとピルを飲んでいたんです。それで日常生活がやっと送れる感じだったんですけど、ピルを飲んでいたら妊娠できないから、やめて。そうすると、めちゃめちゃ痛いんですよね。それでも仕事も日常生活も続けていかなきゃいけないわけで。

あと、子宮腺筋症(本来は子宮の内側にあるはずの子宮内膜に似た組織が、子宮の筋肉のなかに入り込んで増殖する病気)や子宮後屈(子宮が背中側に傾いている状態)があって、もともと子どもができにくいと言われていたので、「こんなに毎日つらい思いをしてるのに、できないこともあるんだ」という気持ちになったりもして。「こんな気持ちでい続けることって幸せなんだろうか」と思ったりもしていました。

でも、思ったよりも早く妊娠することができて。ただ、その後の妊娠生活がここまでつらいっていうのは本当に知らなかったんです。わたしの場合は、お腹に頻繁に血腫ができて出血する切迫流産になって、後期には子宮が開いて赤ちゃんが早く産まれてしまいそうになる切迫早産の状態になって。赤ちゃんは、正産期(いつ産まれても外の世界で元気に生きることができる)まで一日でも長く子宮の中にいることが重要で。絶対安静になりました。

産む・産まないにまつわる揺らぎを語らう場を。舟喜さとみが本屋で開いた語らう場

フェアには生理に関連するアイテムも並べられた(写真:Kenichi Aikawa)

―それから入院することになったんですね。

舟喜:本当はもうちょっと働く予定だったんです。予定が本当に狂ったというか……でも、このフェアはどうしてもやりたくて、設営には行って。結局、その直後に産まれてしまったんです。病院の先生は、設営に行ったことは関係ないって言ってくれたんですけどね。早く産まれると病気のリスクなどもあるので、「自分のやりたいことを優先して、無理をしてしまったのかも」「これでよかったのかな」と感じて、だいぶ落ち込みました。

―妊活をしていた時期から、切迫流産などの話は知っていた?

舟喜:まったく知らなかったです。妊娠・出産を経てみんな産まれてきているから、当たり前なことだと思いすぎて、その過程にはいろんな場合があるということを知らなさすぎるんですよね。でも、予想して何かをすることもできないし。

写真:Kenichi Aikawa

―女性も男性も、産む人も産まない人も、母体にどのような負担がかかるかをあと数歩知っていれば、身近にいる人のことをもっと想像できるかもしれないと、自戒を込めて感じました。ZINEでは赤ちゃんが産まれた後も、冷凍した母乳を毎日届けていた話も書いていましたよね。

舟喜:赤ちゃんが産まれた後は、NICU(新生児集中治療室)に行くことになりました。いままでではお母さんのお腹の中で胎盤を通して栄養を取っていたけれど、外の世界で栄養を取るには母乳を飲まなくてはいけなくて。母乳は身体に免疫をつくってくれたり、早く産まれた赤ちゃん特有の病気を防いだりする効果があるらしいんです。だから、NICUに赤ちゃんがいるお母さんは、みんな自分の母乳を冷凍して持って行って、それを看護師さんが赤ちゃんにあげてくれています。わたしも3時間に1回ぐらい手や機械で搾乳して、冷凍保存したものを毎日届けていました。

―予想していなかった経験が多かったと思いますが、赤ちゃんと出会って、母になっていま感じていることについても聞いてみたいです。

舟喜:いま一番大きな感情としては、出産で生と死のリアルに直面して「死ぬのが怖くなった」というのがあります。たとえば「子どもがおじいちゃんになったとき、わたしはいないんだ」と自分が死ぬことも怖くなったし、「子どもが病気になったらどうしよう」っていう怖さもあるし。明日子どもが退院するので、家に帰ったらどう感じるかはまたわからないけれど、既に感じ方がいろいろと変わってきてはいるなと思います。

あと、さっき写真を撮ってもらったじゃないですか。最近、昔のアルバムを整理していて、前まではただ小さな頃の思い出として見ていたのが、撮る人がどんな気持ちでこの瞬間を撮りたいと思ったのか、写真を撮る親の目で見るようになってきて。まさにさっき話した再演の話のようで、そうやってもう一回自分の子ども時代を見ていくのかな、って不思議な感じがします。

―「人類の全員が、母という人間から産まれてくる、出産されてくるのに、社会はそのことを忘れすぎてはいないか。もっと自分が産まれてきた過程を知ることが必要なのでは? と、マタニティマークをつけていても電車やバスでは無視される日々にも悲しい思いをいだきました」とZINEにも書かれていましたが、身近な「母」一人ひとりに、枠にはめることのできない葛藤や感情の機微がさまざまにあるということを知っていける機会がもっとあるといいですよね。

舟喜:「出産はみんながやっていることだから、当たり前にやらなきゃいけない」と自分に課している人も多いと思うんです。気持ちの揺らぎがあっても、当たり前だと思うと、外になかなか出せなくなりますよね。そうした意味でも、どうやってお母さんが過ごしていたか、どういう揺らぎがあったのかという話が世の中に溢れていてもいいような気がしていて。自分が産まれてからの母親しか知らないことが多いけれど、母が母じゃなかったときの母の話も、もっと聞いてみたいと思います。

育休を経て仕事に復帰したいま、思うこと/舟喜さとみ

約1年間の育休が明けて、4月から本屋の仕事に復帰しました。いまは、育児と仕事の両立という日々に向き合っているところです。竹中さんに書いていただいた記事を読みながら、フェアを企画した頃は妊娠中で、自分の身体の変化に追いつくことができずに孤独を抱えていたことを思い出しました。あの頃のわたしがいまの自分を見たら、きっと輝いてみえるだろうと思います。お腹の中にいる子どもを守る責任感から身体が解放されて、子どもは元気に成長してくれていて。本当にありがたく、素晴らしいことです。でも、わたしの心のなかには、2か月半の早産というトラウマがあること、二人目の子どもについて考えることもあるけれど、再び妊娠するというのはとても怖いという気持ち、仕事をしながら育児をすることのままならなさ……そうした新しい孤独がポツポツと湧き出ています。過去の自分と現在の自分でさえ、こんな風に異なる孤独を抱えていくのだから、誰かと孤独を分かち合うということは、難しいことなのかもしれません。それでも、わたしたちは日々を懸命に生きていて、目の前にいる人のことを、わかりたい、わかり合いたいと思っているのではないでしょうか。

この文章を書いている日に、鈴木みろさんの『33歳という日々』という漫画のスピンオフ作品で<もしかしたら私はこの先「産む」という奇跡は起こせないかもしれない だけど私は「生まれる」という奇跡を起こした自分を もっと認めてあげたい>という言葉に出会いました。ハッとした気持ちです。

産むこと、産まないことについてはそれぞれの選択やままならなさがあるけれど、そんなままならなさのなかで、わたしたちはみんな生まれてきたのですよね。そんなわたしたちの奇跡的な「生」をもっと祝福したいし、ひとりひとりの大切な人生、それぞれの選択を、奪われない、そして奪わない社会を目指したいです。そのために、まずはお互いの「生」を知ることができたら。

「わたしが、わたしのからだを孤独にしないためにー産むことと、産まないことのあいだ」は、今後も様々な形で「生」を知る場所、孤独を共有する場所としてひらいていきたいと思っています。近い日にちでは、9月頭に下北沢・BONUS TRACKでブックマルシェを開催します。一日かぎりの場所で、同じ時間を共有できたらうれしいです。ぜひ、遊びにきてください。

舟喜さとみ

1990年うまれ、東京在住。本屋B&Bでケア、フェミニズム、KBOOK棚担当、イベントやフェアの企画・運営などをしています。韓国ドラマファンクラブ『私たちの賢い本屋生活』、三日子と舟『10月のおやすみ日記』など。

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BOOK LOVER’S HOLIDAY
byわたしが、わたしのからだを孤独にしないために

日時:2026年9月6日(日) 12:00〜19:00
場所:BONUS TRACKギャラリー1/キッチン/ハウス/広場

「わたしが、わたしのからだを孤独にしないためにー産むことと、産まないことのあいだ」をテーマにしたブックマルシェ。

「からだの孤独」というのは、自分の体や人生と向き合う限り、一生続くテーマかもしれません。自分の孤独は自分だけのものですが、そのことについて考える時間を誰かと共有することで、少しでも自分の心を照らしたり、抱きしめることができたら。それぞれの固有の人生を、想像する時間をつくることができたら。このテーマに共鳴してくださった著者・出版社・カフェ・アーティストのみなさんが出店する、一日限りのイベントです。

note

子どもとの日々ー父が語る言葉、聞く言葉

日時:9月1日(火)〜9月30日(水)
場所:本屋B&B

育児や家事、そして仕事。その背景にはさまざまな状況があるなかで、父が育児や家事について語りにくさを抱えていることがあるのではないか。
喜びの瞬間や、葛藤の時間。子どもとの日々を過ごしている父の言葉を、もっと聞いてみたい。そんな思いから、このフェアを企画しました。

22人の父たちに、子どもとの日々のなかで支えになった本や、共に過ごした本を選んでいただきました。
みなさんに寄せていただいたコメントとあわせて、父が語る言葉に耳を澄ませてみませんか。

<選書参加者>
阿部和重/伊藤淳/伊藤康/内沼晋太郎/岡田悠/清田隆之/今野良介/斎藤陽道/佐藤ねじ/JOE/白石正明/菅野貴文/鈴木純/角田貴広/滝口悠生/武田俊/田野英知/中川紀彦/生江秀/松村孝宏/宮崎智之/Yamada Keisuke

わたしが、わたしのからだを孤独にしないために―産むことと、産まないことのあいだ(イベント終了済)

日時:2025年5月17日(土)〜6月13日(金)
場所:下北沢B&B

<参加者>
アリサ、石田月美、イヌコ、小川公代、小山内園子、GO MAYUMI、小林エリカ、佐古奈々花(猋社)、佐藤舞、竹中万季、田中千絵、月岡ツキ、中村佑子、本屋B&Bスタッフ、柊有花、福田和子、プリーツ倶楽部、真野いずみ、三好愛、Reina Tashiro、吉田恵里香、リプロ・アクセス東大有志

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