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個人的なことだけど、個人的すぎないように。写真家・頭山ゆう紀のアトリエへ

はじめは祖母が家に暗室をつくってくれた。死と向きあうことから、生きることの方へ

写真表現の可能性を切り開いてきた30名の日本の女性写真家による、およそ200点の作品が集まる展覧会『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』。1950年代以降の日本の女性写真家の功績にフォーカスした書籍『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』の刊行後、世界を巡回してきた同展の連動企画として、7月4日からBunkamura Gallery 8/で『STILL/LIFE 静寂の余韻に』展が開催されます。

「生きること(LIFE)」と「静けさ(STILL)」のあわいにあるものをとらえる女性写真家を紹介する同展から、清水裕貴さん、鈴木のぞみさん、頭山ゆう紀さんの3名にインタビュー。暮らしの中で飾ることを想定した作品が選ばれていることを踏まえ、作家のアトリエに訪問し、各々の写真表現におけるまなざしや、今回展示される作品についてのお話に加えて、暮らしの中にどのように作品を取り入れているかを見せていただきました。

この記事では、頭山ゆう紀さんのアトリエをご紹介。暗室の作業を大切にしている頭山さんは、暗室がつくれることを決め手にいまの家を選んだと言います。「生きている中で撮っていく」という言葉の通り、寝室が暗室に早変わりする自宅兼アトリエは、創作と生活が混じり合った場所でした。

瞬間を切り取るのではなく、時間の幅を撮りたい

ー写真を始めたきっかけを伺えますか?

頭山:中学生の頃にコンパクトカメラや写ルンですが流行って、姉がコンパクトカメラを買ってもらったのを見て、自分も買ってもらったんです。実家が坂の途中にあって、夕方、坂の上から見える景色がすごく良かったので、ちょうどいいタイミングで撮るために急いで学校から帰ったりしていました。

ただ、家族みんな音楽をやっていたし、自分も高校生の頃からバンドをやっていたので、そのまま音楽をやるつもりでいたんです。バンドをやるなら大学はいらないから、高校を出たあとどうしようと思っていたときに、勉強するなら写真かなと思って、写真の専門学校に入りました。最初はライブの写真を撮ろうと思っていたんですけど、そこで出会った先生たちが、自分の作品を撮っている人だったので、そこから自分の作品をつくることが楽しくなりました。

頭山ゆう紀さん

ー当時はどのような写真を撮っていたんですか?

頭山:先生が街で写真を撮っていたので、その影響で私も街中で声をかけて女性のポートレートを撮らせてもらっていました。でもだんだんそれが苦しくなってきてしまって。そもそもあまり人が得意ではなくて、リハビリみたいな感覚で頑張っていたけど、写真ってそういう作品だけじゃないなと思うようになったんです。卒業制作を2つつくらなきゃいけなかったので、1つはポートレートの作品を提出して、もう1つはいまに繋がるような日常の写真を撮って提出しました。

ー「撮ろう」という心の動きはどのようなときに起きますか?

頭山:私は植物に反応することが多いんですけど、風がちょっと吹いているときとか、その植物のよさが出ていると感じたときに撮りたくなります。あまり瞬間を切り撮ろうとは思っていなくて、時間の幅を撮りたいという感覚があります。過去から来ていまいるということは意識していますね。意識することで実際に写真が変わるのかはわからないですけど(笑)。

個人的なことだけど、個人的すぎないように。写真家・頭山ゆう紀のアトリエへ

「残された風景」#005 写真集原稿

祖母の介護のときは、カメラにすごく救われた

ー「あまり人が得意ではない」というお話がありましたが、これまで発表されている作品は、写っている対象が直接的に人ではなくても、身近な方との関係性や出来事を踏まえたうえで撮影されている写真も多いように思います。

頭山:突然どこかで「撮れ」と言われて撮れなくもないけれど、撮りたいのは関係のあるところなのかなと思います。ただ、人との関係性を前面に出そうとは思っていないんです。たとえば今回も展示する「残された風景」は祖母の介護をしていたときに撮った作品ですけど、祖母自身は写したくなかったし、「私のストーリー」というふうにはあまりしたくなくて。個人的なことだけど、個人的すぎないようにというのは心がけていています。

頭山ゆう紀「残された風景」クロモジェニックプリント Courtesy of POETIC SCAPE/亡き祖母の在宅介護の時間に撮影されたシリーズ

ー今回『STILL/LIFE 静寂の余韻に』で「残された風景」を展示することは、ご自身で選ばれたんですか。

頭山:いえ、指名がありました。でも、展示のリリースの文章を読んでぴったりだなと思いました。私の写真ってカラーでもあまり色がなくて、自分では意識していないつもりだけど、静かでシンプルな景色が好みなんだと思います。

―それは先ほど頭山さんがおっしゃっていた、「個人的にしすぎたくない」ということとも関係していますか?

頭山:昔からカメラを持って構えるとちょっと冷静になるんですよね。「境界線13」という作品のときは自分が泣いている写真を撮ったりもしているんですけど、カメラを構えるとスイッチが入って涙が収まったりして。だから祖母の介護のときは、そのことにすごく救われました。ずっと家にいたので、逃げたくなったときにカメラを持って庭に出るとさーっと落ち着いたんです。「残された風景」はその感覚が写真になっている感じがあるのかもしれない。

頭山ゆう紀さんの写真集『境界線13』(発行:赤々舎/2008年)

光が防げる家を借りて、寝室兼作業部屋を暗室に

ー頭山さんは暗室の作業を大切にされているそうですね。

頭山:通っていた専門学校が暗室に力を入れていたし、昔から手作業でものをつくることが好きだったので、自然と好きになりました。学校だと人が多くてやりにくいこともあって、はじめは祖母が祖父母宅の一室に水道まで取り付けて暗室をつくってくれたんです。

暗室にこもっていると、「暗闇で薬品を混ぜて何をしてるんだろう?」ってちょっと不思議な感覚になります。時間を忘れるし、写真が現れてくることにテンションがあがるから、1人で暗室で作業をするのはいい時間だなと思います。祖母が亡くなったあと落ち込んでいたけど、「やろう」と思って、1ヶ月ぐらいずっと暗室の作業をしていました。その時期は1日中ずっと作業をしていたので、出かけて人に会っても声が出なくてうまく話せなかったです。

―現在のご自宅にも暗室があるんですね。

頭山:暗室がつくれるかどうかが決め手で、ここなら光が防げると思ってこの家にしました。本当はもっと窓が少ない方が暗室をつくりやすいんですけど、結構なんとでもなります。

ーラボにプリントをお願いする写真家の方もいますが、頭山さんがご自身で現像するのはなぜですか?

頭山:撮るときにある程度完成系が頭の中で決まっているので、それはやっぱり自分にしか再現できないです。「残された風景」のときは、祖母が「壁に墨絵が見える」と言っていたイメージで庭を撮ったので、墨絵のようにしたくて、自分で色々やり方を変えて最終的なプリントを仕上げました。人にお願いするよさもあるし、自分がコントロールしすぎるのもよくないから、写真集の場合、編集はお任せしたりしています。

左の写真が、祖母の「墨絵が見える」という言葉をもとに自らプリントを仕上げたもの。右の写真のタイトルは、Infog

死と向きあって写真を撮っている感覚から、生きることの方へ

ー鑑賞する立場としてはどんな写真が好みですか。

頭山:石内(都)さんの写真は、被写体との関係性が一方的すぎないところが好きです。作者の意図が前面に出ている写真があまり好きじゃないんです。私の写真のベースには、家族が撮った子どもの頃の写真があって、たとえば母が撮った私と姉の写真がすごく好き。あとは父がジャズピアニストだったので、実家にレコードがいっぱいあって、そのジャケット写真のイメージが頭にあったから、すんなりモノクロを撮るようになったのかなと思います。

個人的なことだけど、個人的すぎないように。写真家・頭山ゆう紀のアトリエへ

家族写真

個人的なことだけど、個人的すぎないように。写真家・頭山ゆう紀のアトリエへ

家に遊びに来ていた猫のダイスケちゃんとぐぅすけちゃん(頭山さんが呼んでいた名前)

個人的なことだけど、個人的すぎないように。写真家・頭山ゆう紀のアトリエへ

前から、祖母の介護中に眺めていたロバート・アダムスの写真集『This day』。介護が辛くて作品をつくろうと考えていたとき、この写真がきっかけでモノクロを撮ることに。「その方が頭を切り替えられて楽だったから」。中央は、石内都さんの『One Days』。奥はリー・フリードランダーが植物の茎を撮った『STEMS』

ー本棚にご自身の作品も含めいくつか作品が飾られていますが、フレームに入っているものもあれば、そのまま置かれているものもありますね。

頭山:飾り方にこだわりがあるわけではないんです(笑)。展示用に試しにパネルに直接貼ったり、タッカーで固定したりしたものが、捨てられずに飾ってあります。フレームは買うと高いので自分でつくったりもしていますね。あとは子どもの頃の家族写真や、部屋に置きやすい友人の作品、推しと一緒に撮った写真を間違えて消したら嫌だなと思ってプリントしたものを飾っています。

個人的なことだけど、個人的すぎないように。写真家・頭山ゆう紀のアトリエへ

夫のCDジャケット原稿

個人的なことだけど、個人的すぎないように。写真家・頭山ゆう紀のアトリエへ

亡くなった祖父の描き途中の絵

―今後はどんな作品を撮っていきたいですか。

頭山:最近、訪問介護の仕事を始めて、高齢者や様々な障害のある方とコミュニケーションを多くとるようになったなかで、感覚の変化があったんです。これまでは死と向きあって写真を撮っている感覚があったけれど、いまは生きることの方を考えている感じがします。

ーおばあさまの介護のご経験で感じられたこととも、また違う感覚がありますか?

頭山:そうですね。相手がもともと知らない人で、仕事として時間が決まっているということもあるけど、祖母の介護のときの後悔があるので、そのときにできなかったことをやっている感じもします。だから、いまはコミュニケーションに関心があって、人を撮ってもいいかもしれないとちょっと思っています。私は短期間で撮ることがあまり得意ではないから、作品をつくり始めるのも撮り終えるのも長くかかるんです。生きている中で撮っている感覚なので、マイペースにやっていきたいです。

頭山ゆう紀

1983年千葉県生まれ
東京ビジュアルアーツ写真学科卒業
生と死、時間や気配など目に見えないものを写真に捉える。自室の暗室でプリント作業をし、
時間をかけて写真と向き合うことで時間の束や空気の粒子を立体的に表現する。

『STILL/LIFE 静寂の余韻に』

日時:2026年7月4日(土)〜7月20日(月・祝)11:00〜20:00 ※会期中無休
会場:Bunkamura Gallery 8/(渋谷ヒカリエ8F)
入場料:無料
出展作家:清水裕貴/スクリプカリウ落合安奈/鈴木のぞみ/頭山ゆう紀/中井菜央/細倉真弓/𠮷田多麻希
企画協力:竹内万里子
制作協力:コンタクト
主催:Bunkamura

Web

『わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEKEND』

会期:7月4日(土)、7月11日(土)、7月12日(日)
時間:11:30オープン
場所:渋谷ヒカリエ 8/COURT
主催:東急株式会社
企画・制作:Bunkamura/me and you

『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』連動イベント『わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEK END』が開催

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