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『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』連動イベント『わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEK END』が開催
(2026年7月4日・11日・12日@渋谷ヒカリエ 8/COURT)
昔の視覚装置や古道具に囲まれて。近代化の視覚文化を見つめ、時代と大衆の記憶を辿る
2026/7/3
写真表現の可能性を切り開いてきた30名の日本の女性写真家による、およそ200点の作品が集まる展覧会『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』。1950年代以降の日本の女性写真家の功績にフォーカスした書籍『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』の刊行後、世界を巡回してきた同展の連動企画として、7月4日からBunkamura Gallery 8/で『STILL/LIFE 静寂の余韻に』展が開催されます。
「生きること(LIFE)」と「静けさ(STILL)」のあわいにあるものをとらえる女性写真家を紹介する同展から、清水裕貴さん、鈴木のぞみさん、頭山ゆう紀さんの3名にインタビュー。暮らしの中で飾ることを想定した作品が選ばれていることを踏まえ、作家のアトリエに訪問し、各々の写真表現におけるまなざしや、今回展示される作品についてのお話に加えて、暮らしの中にどのように作品を取り入れているかを見せていただきました。
この記事では、鈴木のぞみさんのアトリエをご紹介。「事物の記憶」を可視化することに取り組む鈴木さんの広々したアトリエは、19〜20世紀頃に実際に使われていた視覚装置などの古道具が集められた、長い年月の流れを感じる空間でした。
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ーアトリエとご自宅がつながっている非常に特徴的な空間ですが、ここはもともとどのような場所だったんですか?
鈴木:アトリエとして使用している方は、元美容院だったんです。以前は古民家や廃校になった中学校のアトリエを借りて制作をしていたのですが、イギリスに滞在して帰ってきてから、アトリエをどうするかずっと課題で。物件を見ることが好きなので、いろいろ検討したなかでこの場所を見つけました。
ただ、家族みんな音楽をやっていたし、自分も高校生の頃からバンドをやっていたので、そのまま音楽をやるつもりでいたんです。バンドをやるなら大学はいらないから、高校を出たあとどうしようと思っていたときに、勉強するなら写真かなと思って、写真の専門学校に入りました。最初はライブの写真を撮ろうと思っていたんですけど、そこで出会った先生たちが、自分の作品を撮っている人だったので、そこから自分の作品をつくることが楽しくなりました。
ーご自身やパートナーの方の作品、ほかの作家の方の作品と共に、和菓子の型や活版印刷の活字、民芸品のようなものなども混在して飾られていますね。
鈴木:古いものが好きで集めてしまうので、ものが多いんです。リビングの飾り棚は特に、驚異の部屋(15〜18世紀のヨーロッパでつくられていた、カテゴリーを越境した珍しい品々が集められた空間)のようになったらいいなと思っています。驚異の部屋には博物学的な自然物の標本に限らず、美術品や道具類、聖遺物や人魚のミイラなども飾られていたといいます。私も夫もそれに惹かれて、実家から持ち帰ってきた夫の母からの手紙や、飼い猫の抜けた歯やヒゲなども飾っています。
ー飾られている写真やアート作品はどのようなものですか。
鈴木:夫が選んで飾っている作品もあるのですが、私が好きな作家さんの作品を自分で額装したものもあります。同世代の作家さんや、制作をするときに目に入るとちょっと気持ちが引き締まって、私ももっと制作を頑張ろうと思えるような、尊敬する作家さんの作品を選んでいたりします。
ー子どもの頃から何かをつくることは好きだったんですか?
鈴木:小さい頃から絵を描くことが好きで、理想の間取りを描いたりもしていました。漫画家を目指していた時期もありましたが、高校生の頃から油彩画を描くことが楽しくなりました。
大学時代は絵画を専攻されていたと思うのですが、どのように現在の写真表現に辿り着いたのでしょう。
鈴木:私の関心が支持体(絵画を描く際に必要な土台のこと)とイメージの関係性にあることがだんだんわかってきて、キャンバスに油絵の具で描く伝統的な技法ではなく、コンセプトに合わせた素材で作品をつくれないかと考えていました。卒業後に勤めていた美術予備校で、誰も使わなくなった暗室に残されていた写真の技法書を読んだことがきっかけで、現在も作品に使用している写真の感光乳剤を知りました。写真の技法を使うことで、自分のやりたかったことが実現できるのではないかと思い、それ以来写真による表現が中心になりました。
ー鈴木さんは古い眼鏡や鏡などに像を焼き付けて作品を作られていますが、古いものの中でも関心のある時代はありますか?
鈴木:近代化にまつわるものに関心があります。近代化の過程で視覚文化が広がり、見る/見られるという関係も築かれて、それまでの価値観や慣習に、現在につながっていくような変化が起きました。日本の場合、西洋の文化による影響や帝国主義は、写真やカメラの歴史と密接に結びついていると考えているんです。
テレビもないような時代に、当時の人々がなにを見たいと思い、娯楽としてどのようなものが見られていたのかを知りたいですし、それを作品として可視化することで、作品を観た方にも、当時の視覚文化や「見る」ことについて、あらためて考えてもらうきっかけになったらと考えています。
鈴木さんは「事物の記憶」をテーマとして扱われています。人間の視点でものを見るばかりでなく、無機物が眼差すことについて詳しく伺えますか?
鈴木:たとえば窓を使った作品の場合、窓から外の景色を見ていた人の記憶でもありながら、窓自体もその景色にずっと対峙していたと思うんです。壁に掛けられた鏡だったら、人が見ているときはその姿を映すけれど、人がいないときでも鏡は不在の状態の室内をずっと映していると思うと、人間よりもその景色を見続けていると感じ、ものの眼差しを感じます。
個人宅で使われていた窓や鏡を中心に制作していた頃は、その窓が使われていた実際の場所から見える景色をカメラで撮影して窓ガラスに焼き付けたり、鏡を使っていたご本人の肖像を焼き付けたりしていました。そのときは、ものと焼き付ける像を恣意的に組み合わせることはしないようにしていました。
ーそこから変化があったのでしょうか?
鈴木:その後、イギリスで在外研修をしていたときに骨董市や博物館で見た近代の大量生産品がにとても惹かれて。いまほど多様化していない近代は、おそらく皆が同じものを見て、同じように熱狂していたと思うんです。だからこそ、そのものが使われていた時代と国と用途から、私が推測して、一個人の記憶ではなく、時代が持っていた集合的な記憶として見ていたかもしれない風景を、像として焼き付けてもいいのかもしれないと思いました。
たとえば万国博覧会は多くの人が見ていただろうから、当時の眼鏡にクリスタルパレス(1851年に開催されたロンドン万博の会場)の像を焼き付けたり。大きな歴史や、当時を象徴するような対象物が含まれた作品もつくるようになりました。いまは個人的な記憶と、大衆の記憶の両方に関心を持っています。
―同じ時代であっても、焼き付けられるものによって映る景色が違うのも面白いですね。
鈴木:遠くを見るための近視用だと思って入手した眼鏡が、実は手元を拡大する読書用だったりすることもあって。そうすると「何かしらの本を焼き付ける作品にしなくては」と。ものが持つ情報ってすごく多いので、そのものをよく見て知っていくなかで、そこにあったかもしれない記憶について考えていくことは時間がかかるけれど、楽しいです。
―ものが持つバックグラウンドが鈴木さんの制作の大事なきっかけなんですね。
鈴木:私はおそらく事物の来歴や物事の構造に関心があって、自分の内側から湧き出るようなメッセージやイメージがあるわけではありません。作者として自分自身を表現するというよりは、自分の外側にあるものから作品をつくりたいと考えています。私の作品にももちろん主観や主体性はあるのですが、私自身の視点がなるべく入らない制作方法の方が、私が試みている「事物の記憶」の可視化に合致するように思います。作品をつくるうえで、自分から表現したいものがないことは私の足りない部分であるように思い、コンプレックスにも感じていましたが、いまのような表現方法であるならば、それでもいいのかもしれないと考えるようになりました。
―最後に、『STILL/LIFE 静寂の余韻に』で展示される作品について教えてください。
鈴木:日常の景色を写している作品がいいのではないかと思ったので、窓と鏡という私たちの身近にありながら、写真というメディウムを象徴する事物による作品で構成する予定です。モノクロの写真による像を焼き付けることで、実際の風景から色彩の情報が減り、より抽象的で静かな景色になっているのかなと思います。
静寂である分、観る人に想像してもらう余白のようなものが生まれ、作品に焼き付けられた像がより普遍的なものとして、皆さんの日常で何気なく過ぎていく時間の中にある、鏡に映る像や窓の外の景色がふと気になるような瞬間と接続することがあればと思います。
鈴木のぞみ
1983年 埼玉県生まれ
2007年 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業。
2015年 東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了
東京藝術大学大学院博士後期課程在籍中に、2018年度ポーラ美術振興財団在外研修員として渡英。
2022年、同大学院博士後期課程修了。写真の原理を通して事物に宿る記憶の顕在化を試みている。
プロフィール
『STILL/LIFE 静寂の余韻に』
日時:2026年7月4日(土)〜7月20日(月・祝)11:00〜20:00 ※会期中無休
会場:Bunkamura Gallery 8/(渋谷ヒカリエ8F)
入場料:無料
出展作家:清水裕貴/スクリプカリウ落合安奈/鈴木のぞみ/頭山ゆう紀/中井菜央/細倉真弓/𠮷田多麻希
企画協力:竹内万里子
制作協力:コンタクト
主催:Bunkamura
『わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEKEND』
会期:7月4日(土)、7月11日(土)、7月12日(日)
時間:11:30オープン
場所:渋谷ヒカリエ 8/COURT
主催:東急株式会社
企画・制作:Bunkamura/me and you
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