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i meet you

台北のクィアによるクィアのためのパーティー。Queer Trash Taiwan主催・バイロンに聞く

ユーモアとノスタルジアで抑圧に抵抗。クィアが安心して集える場所

社会のことから、ごく個人的なことまで。me and youがこの場所を耕すために考えを深めたい「6つの灯火」をめぐる対話シリーズ、「i meet you」。台湾で暮らす燈里さんの案内で、クィアのための音楽パーティー『Queer Trash Taiwan』の主催者で音楽家のバイロン・デュヴェルさんにお話を伺いました。このテキストは、me and youの本『わたしとあなた 小さな光のための対話集』にも収録されています。

※この取材は2021年10月に行われました。

クィアによるクィアのための音楽パーティー、Queer Trash Taiwan(QT)。台湾台北市にあるクラブバー、23 Music Room を会場に、入場料無料で毎月開催されています。DJがクィアの人々の青春時代を彩った1980年代から2000年代のポップ音楽を流し、そこにクィア・コミュニティの人々が集い、ともに踊り、歌い、飲み、語り合う場です。毎回異なるテーマに基づいた音楽や内装、ドレスコード、イベントがあり、主催者も客も華やかにクリエイティブに着飾ります。2020年10月に活動をスタートし、ロックダウン中もQTはZINE やラジオを通してクィア文化を発信し続け、コミュニティとのつながりを維持しました。イベントが再開した今、会場に入りきらないほど多くの観客が賑わいを見せています。

2021年10月に一周年を迎えたQT。主催者であり音楽家のバイロン・デュヴェル(宋正一)にこの一年を振り返ってもらいながら、個人の誕生日会から始まったQTが台北の新しいクィア・シーンを築くまで、その旅路を聞きました。自身の独自性を貫きつつ、友人のアイデアや過去の音楽文化を楽しく取り込んで抑圧に抵抗する、バイロンの鋭さとユーモアの両方が表れた取材となりました。

「QTはわたしの世代に語りかけるし、1つ下の世代にも響く。一緒に覚えていることを共有するノスタルジックなパーティーだ」

―バイロンが一年前にQueer Trash Taiwan(QT)を立ち上げた経緯を教えてください。

Byron:去年一回目のQTを開催した日は、わたしの誕生日だった。もともと自分の誕生日を友達と祝いたいとは思っていたけれど、酒で酔い潰れる気分じゃなかった。それで、友達のソニア・キャリコ(※1)が「外で公にパーティーを開いたらどうか」って提案したんだ。入場無料で、主催者のわたしに飲食代の売上のうちいくらかお金が入るパーティー。完璧な案だと思った。友達は酒を飲めるし、わたしは踊れて、運営という責任があるから酔えないし。誕生日会と称して友達からは金を巻き上げられる(笑)。このパーティーが最初のQTになったよ。

二回目のQTは友達の誕生日のために開いた。一回目のQTが楽しかったから、自分の誕生日会も同じようなパーティーをして祝いたいと言われて、いいよって引き受けた。そしてまた別の友達の誕生日が来て、もう一度QTを開いたのが三回目になった。だから基本的には全部わたしたちの誕生日を祝うパーティーで、それがQTの始まり。

台北のクィアによるクィアのためのパーティー。Queer Trash Taiwan主催・バイロンに聞く

バイロン・デュヴェルさん。バイロンさんと親しい燈里さんの家で取材を行いました

―QTの遊び心溢れるテーマはどうやって決めているの? インスピレーションはある?

Byron:「ゴミ」がイベント全体のテーマっていうだけ。QTのテーマ案の二割くらいはメットガラから来ているかもしれない。メットガラの発想自体が超ゴミっぽいから。

―今月の一周年記念のQTのテーマもまさに「ゴミ・ガラ」で、先日のメットガライベントを皮肉る予定だそうだね。「ゴミ」っていうのはどういう意味?

Byron:「これはゴミっぽい」って言うのは決して悪口じゃないんだ。その時代の大衆文化の影響が表れていて、俗っぽく悪趣味だということ。過去のメットガラを見ると、当時はなんであんなセンスのない安っぽいものが流行り、人々は悪趣味な流行を追っていたんだろうと思う。「ゴミ・ガラ」では、今の時代に過去の大衆文化を再現してみるんだ。おもしろおかしくやってるだけだね。

―QTはバイロンが持っているアイデアを表現する絶好の機会だね。

Byron:自己表現をしているつもりはないんだけどね。わたしはゴミっぽい人間ではないし。ただパーティーにいるだけ。QTはノスタルジックなパーティーだとわたしは思ってる。そのすべてのテーマは、大人になってから振り返り思い出す記憶に基づいている。あなたはわたしより10歳くらい若いと思うけれど、一部同じ時代を共有していて記憶も重なっている。だからQTはわたしの世代に語りかけるし、一つ下の世代にも響く。一緒に覚えていることを共有するノスタルジックなパーティーだ。

「もともとはただのゴミから生まれたアイデアが、まさかクィアのシーンをつくるとは思わなかった」

―QTを企画から運営、宣伝まで全部一人でインディペンデントに行っているって本当?

Byron:主催はわたしとシャオファー(陳謙豪)の二人だけど、わたしが全体の責任者としてほぼ一人で全部やってる。シャオファーは名の知れた素晴らしいビジュアル・アーティストで、台湾の重要な音楽家のMVを手掛けてるよ。周杰倫(アジアを中心に活動する国際的な歌手)とかね。なんでシャオファーほどの人がQTに関わりたいのか正直わからない。たぶん彼もこの機会を使ってなにかを表現したりつくり出したりしたいのかもしれない。シャオファーにはパーティーの予告映像をつくってもらっている。

シャオファーが手掛けた「ゴミ・ガラ」がテーマのパーティ予告映像『Byron Presents: A year of Queer Trash – Trash GALA』

―テーマ毎におもしろい宣伝動画やイメージが発表されるのをいつも楽しみにしているよ。パーティーの準備は負担にならない?

Byron:「ゴミ音楽」を流すDJたちがいてくれるおかげで、準備はそんなに大変じゃないんだ。たしかにやることはたくさんあるけれど、難しいタスクではない。音楽を決めて、DJとドラァグクイーンを見つけて、テーマを設定して、宣伝する。それで完成。パーティーで試したいアイデアも大量にあるし。それから、DJがかける音楽のプレイリストもわたしがつくってる。ゴミ音楽と聞くとみんなはポップを期待するけど、ずっとゴミだけをかけ続けるわけにもいかない。パンクロックも入れたりね。

2021年12月のQTのテーマは「台湾のポップソングの夜」にするつもり。名前は「BINLANCIAGA(ビンランシアガ)」にしようと思ってる。檳榔(ビンラン)(※2)とバレンシアガを組み合わせてBINLANCIAGA。バーテンダーから観客に檳榔を配ってもらう予定なんだ。音楽は台湾人のDJに台湾のポップ音楽を流してもらう。基本的にはわたしがプレイリストをつくって事前にDJ全員に送り、当日DJにミックスしてもらっている。

「BINLANCIAGA」がテーマのパーティ予告映像『台灣騷仔笨叟Queer Trash Taiwan:BINLANCIAGA’s Xmas Trailer 檳榔世家ㄝ聖誕節』

―QTではどんなグループの人々を見かける?

Byron:台湾の他のクィアパーティーは大半がゲイ男性だけど、わたしのパーティーはレズビアンだらけなんだ。彼女たちは、QTが良い取り組みだからってサポートの意を示して一人最低500台湾ドルはチップをくれる。旧正月のQTはママのように慕ってるレズビアンの友人の誕生日会を兼ねていたこともあって、たくさんのレズビアンの友達を招待した。チップだけで五万台湾ドルにもなったよ。レズビアンは踊ったり誰かと話せたりする場所を必要としていて、わたしは23 Music Room と一緒にそういう場や機会を提供しようとしている。それでレズビアンの人数がどんどん増えていった。

もともとはただのゴミから生まれたアイデアが、まさかクィアのシーンをつくるとは思わなかった。これは新しいシーンで、わたしのパーティーの参加者はみんなクィアだと一目でわかるけれど、同時にあらゆるグループに所属する人々でもある。それがすごく良いと思ってる。なぜかと言うと、台湾ではみんなすぐ縄張りをつくりたがるから。例えばナイトクラブごとに、僕たちはPawnshopの観客、わたしたちはB1だけ、俺たちはFINAL所属、といった感じでダサすぎる。ただでさえ仕事で成功するために縄張り争いをしなくちゃいけないのに、どうして遊びの場でもそんなことするんだろう。

―確かにバイロンのパーティーでは、各ナイトクラブの客がごった混ぜになって一緒に踊っているね。台湾のアンダーグラウンドシーンはどんな場所だと思う?

Byron:台湾には混沌としていて豊かなアンダーグラウンドシーンがあると思う。わたしは昔はインディーズのバンドに所属していて、アングラのスペースで過ごした時間が長い。そこでは人々が集まってなにかをつくり出そうとしていた。わたしたちがアンダーグラウンドでサブカルチャーをつくるのは、LGBTQ+ の人々がまだ十分世間から認識されていないと感じるから。LGBTQ+ の人たちをアンダーグラウンドな存在だとは思っていないし、人として見ている。だから、パーティーでは参加者にただありのままの姿でいてほしいんだ。ありのままでいられるように安全な空間にしているから、安心して来てほしい。

台湾の人はいつも自分が所属できるグループを探していて、グループに入ろうと必死になる。でも、グループに入る前にまずは本来の自分の姿にならないといけない。それが自己表現につながるかもしれないし、そうして初めて自分に似た人に会うことができると思う。

「偽物でない真の自分自身でありながら、積極的に制作し続ける姿勢がすごく大切だと思う」

―QTが誕生日会だった当初は1年も続くと思っていた?

Byron:いや、思ってなかった。一周年と言っても、実際に現場でパーティーを開けたのは6か月で、残りの6か月は眠っていたようなものだね。だから一気に一周年記念に飛んできたように感じる。去年3回目のパーティーが終わったあと、旧正月の期間にこれからやりたいパーティーの案を書き出してたんだ。例えば、本当は6月にクィアパンクロックパーティーを開催する予定だった。2、3回分パーティーを開く計画があったけれど、感染症対策の規制で実現しなかった。

―コロナの自粛期間中、パーティーが開催できなかった時期に、QTは『Queer Trash Zine』を4冊出版していたね。

Byron:最初のZINE を出版したのはパンクロックパーティーを開くはずだった2021年6月。1980年代半ばの「クィアコア(※3)」という文化・社会運動をテーマにした。クィアコアはクィアの音楽シーンをつくり出した運動で革命的だった。4冊目のZINEではクィア音楽を象徴する人物を特集して、例えばブルース・ラ・ブルース(※4)はクィアコア運動を始めた人物だった。パーティーを開けなかった期間は隔週に1冊このZINE を発行していて、4冊目を出したあとまたパーティーを再開できることになった。InstagramにもこのZINEを載せたら、ブルース本人が投稿を見てこのZINEがほしいって連絡をくれたんだ。すごいと思った。彼こそパイオニアでクィアパンクの父だから。もちろん彼にZINE を送ってあげたよ。

―ロックダウン中にQTはInstagramでライブ配信もしていたね。バイロンとゲストで会話をするラジオ配信をしたようだけど、その取り組みについても共有してくれる?

Byron:友達のヨースト・レリベルドがロックダウンから逃げるためにドイツから台湾に来たんだけど、可哀想に、また別のロックダウンに入っちゃった。そのときのわたしはQTが忘れられないように何とか続けていく方法を模索していたところで、ヨーストが家で過ごす際の精神的健康について話して配信したいと言うから、じゃあ一緒にやってみるかという運びになった。エピソード1はヨーストと二人でひたすら話したけど、こんなこと言って申し訳ないが、彼は本当に根暗で悲観的な話ばかりするから、配信にもう一人入ってもらうことにした(笑)。エピソード2以降は自分のコネを駆使してオーストラリアからパリ、NYまで、世界中に住む友達にゲスト出演してもらったんだ。ロックダウンをどうやって過ごしているか、仕事にどんな影響があったかなど、いろいろな体験談を聞けて楽しかった。台湾のドラァグアーティストや心理学者にも登壇してもらった。話が途切れてもCM休憩を挟めないから、話し続けないといけなくて大変だった。最終話では、達成感のあまり水に見せかけたウォッカを飲みながら酔っ払って配信してたよ(笑)。視聴者は有益な情報だと思ってくれたみたい。

―バイロンはQTの他に音楽や詩の創作活動もしているよね。

Byron:音楽家として今もずっと曲を書いてる。以前はバンドにいてパンクロックのアルバムも出した。Spotifyで聴けるよ(※5)。わたしの見た目は今と全然違うけどね。あのときはマッチョで短髪で、カッコよく決めてパンクロックを歌ってた。R&Bも歌ったし、エレクトロポップの曲を歌っていたときは、台湾だけでなく海外のミュージシャンとも一緒に活動することがあった。欧米で音楽をやっていた中華系の友達とは、エレクトロポップのシーンに蔓延る人種差別の体験を歌ったりもした。最近は個人的にフォークとローファイのスタイルで音楽をつくってる。悲しくて魅惑的な感じ。他のアーティストのために作詞をするようにもなった。

―バイロンにとって創作にはどんな意味がある?

Byron:どんな音楽をつくりたいのか、どの方向に進みたいのかわからなくなった時期があって、そのときから詩を書き始めた。詩を書くときにはすべてを書き出す必要がある。作詞はさらに難しくて、一時期書けなくなってそこで音楽活動をいったん止めてしまった。でも書くこと自体は昔から好きだし、書き続けないといけないと思った。あなたがクリエイティブな活動をやりたいと思ってるなら、絶対やるべきだと思う。あなたのアートには価値があって、アートで武装できるから。書くという行為を通して言葉に力を込められて、まるで銃みたいだと思う。ただ、間違った人を撃たないように気をつけてね。

台北のクィアによるクィアのためのパーティー。Queer Trash Taiwan主催・バイロンに聞く

バイロンのInstagramでも自身の詩や写真などの作品を見ることができる

Byron:今はSNSが主流で、「あの子たちはこれをやって有名になったから、わたしも流行を追えばあんな風に人気になれるはず」ってなりがち。でも「あの子たち」とあなたは違う。あなた自身の主張が必要で、自分がつくるものに従わないといけない。だから偽物でない真の自分自身でありながら、積極的に制作し続ける姿勢がすごく大切だと思う。わたしのことを嫌って言葉をねじ曲げようとしてくる奴らを蹴散らして気分爽快になること、それがわたしにとっての創作。

※1:ソニア・キャリコ(Sonia Calico)は台北を拠点に活動しているプロデューサー。QTPにDJとして参加している。
※2:檳榔はヤシ科の植物で、実を少量の石灰と一緒にキンマの葉でくるみ噛むと、煙草のような軽い興奮や酩酊感が得られる。台湾では中高年男性を中心に檳榔を噛む習慣がある人は多く、専門販売所を町のどこでも見かける。
※3:クィアコアは、一九八〇年代半ばにパンク・サブカルチャーの流れを組んで始まった文化・社会運動であり、パンクロックに由来する音楽ジャンルである。同性愛嫌悪や性差別の問題に対して、音楽やZINE を通して自分たちの物語を語り、抑圧的な政治や宗教的教義に反発し、DIYの精神を持って独自の文化を創造する場を切り開いた。「クィアコア」をテーマにした『Queer Trash Zine』vol.1。台湾人アーティストのLi Ya Wenや、クィアコアの映画を撮っているYony Leyser などをフィーチャー
※4:ブルース・ラ・ブルース(Bruce LaBruce)はカナダの映画監督。インディペンデント映画の美術とゲイポルノを融合させたスタイルでさまざまな性的タブーを探る。一九八五年から一九九一年に発行した八冊のクィア・パンク・ジン『J.D.s』ではクィアをテーマにした曲のリストを作成し、これがクィアコア運動の立ち上げにつながった。
※5:『The Best Of/Formosa Romance』

バイロン・デュヴェル

パンクロックバンド、diamond tigerzとFormosa Romanceのボーカルであり、台湾のLGBTQ+音楽パーティーレーベル、Queer Trashの創設者である。

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Queer Trash Taiwan

A trash party for queer people, Not a queer party for trash people. 🤮🦄💋🏳️‍🌈

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