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i meet you

物事の「変化」はどこから生まれる?竹田ダニエルさんとZ世代の現象から考える

Z世代のアーティストやポップカルチャー、ミレニアルとの関係から過去と未来を考える

社会のことから、ごく個人的なことまで。me and youがこの場所を耕すために考えを深めたい「6つの灯火」をめぐる対話シリーズ、「i meet you」。アメリカのZ世代にまなざしを向け、アメリカ事情・カルチャー・アイデンティティにおける変化の現象からこれからの社会のかたちを考える竹田ダニエルさんにお話をうかがいました。このテキストは、me and youの本『わたしとあなた 小さな光のための対話集』にも収録されています。

「世代」という言葉は、「その年代の人々の特徴」を語るためによく使われます。あるいは、マーケティングの用語として耳にすることもあるかもしれません。「世代」とひとことで言っても、一人ひとりの生育環境も、考え方ももちろん異なり、決して個人をひとくくりにはできません。そのうえで、世代の違いによってお互いを「わかりあえない」と感じたり、逆に「世代でくくることには意味がない」といった声を耳にすることもあり、異なる世代との向き合い方に悩んだことがある人も少なくないのではないでしょうか。

今回話を聞いたのは、アメリカのZ世代の現象を考察する竹田ダニエルさん。アメリカに暮らし、「ジレニアル」というミレニアルとZ世代の間であるという立場から、日本とは異なるアメリカのZ世代に注目し、社会問題やメンタルヘルスなどへの関心の高まりを、カルチャーやアイデンティティ、社会構造の変化という観点から紹介しています。

「世代」によって、一人ひとりのすべての考え方や行動が決まるわけではないという前提に立ちながら、インタビューのなかで「どの世代も突然登場したわけではない」という話題が挙がったように、すべての世代は関係し合っています。同じ時代に生きるうえでどんな価値観を共有し、それが自らに影響しているのか/影響していないのかを考えることは、自分と社会の両方を知るきっかけになるのかもしれません。異なる世代の個人と個人はどのようにお互いの違いと共通点を理解し、社会を前に進めるための変化をともに起こしていけるのでしょうか。考えてみたいと思います。

問題意識を持たないことこそが自分たちの不安を募らせるという感覚

ーまず、アメリカで「Z世代」はどう定義されているんでしょうか?

竹田:アメリカでも最近ようやくZ世代についての本が出版されるようになってきました。それらを見ていると、Z世代の定義は大きく分けて二つ。生まれた年代でくくるものと、価値観でくくるものがあります。前者でいえば、Z世代は1990年代半ばから2000年代にかけて生まれた世代にあたります。後者でいうと、デジタルネイティブで、スマホでいつでも無数の情報にアクセスできて、それまでの「常識」や「普通」にとらわれず、政治的にもリベラルな価値観を持っていると言われています。

ただ、「Z世代」と言っても保守的な人もたくさんいるし、育った環境によっても考え方が全然違う。だから年齢による区別はナンセンスだと思っていて、わたし自身は「変化に積極的に参加することを可能にする価値観」のことを「Z世代的価値観」と呼んでいます。

ーなるほど。それを前提にしたうえで、もう少しアメリカのZ世代の特徴を聞いてもいいですか?

竹田:アメリカのZ世代にはある種の緊迫感があります。気候危機が代表的ですが、人種差別や法システム、女性やセクシュアル・マイノリティに対する差別など、社会的な問題を改善しなければ、今より被害の少ないマシな未来はないという意識が強いです。それと関連して、ブーマー(ベビーブーマー世代。1940年代後半から1964年頃までに生まれた世代)に対する嫌悪感や苛立ちもある。ブーマー世代が後先考えずに好き勝手に過ごしていたせいで、問題の皺寄せがZ世代にきているという感覚がある。具体的には、不動産価格の高騰で若者が家を借りたり買えなくなったりしているハウジング・クライシスや気候危機などが挙げられます。

また、誰にとっても暮らしやすい社会をつくるという持続可能性の観点からいえば、人種やセクシュアル・マイノリティに対する差別も上の世代が積み残してきた課題です。こういう問題をこれ以上放っておくことはできないし、問題意識を持たないことこそが自分たちの不安を募らせるという感覚が、Z世代にはあります。だから、当事者としての問題意識を持ってアクションを起こすのは当然なんです。

ー英語圏のメディアでZ世代はどう取り上げられているのでしょうか?

竹田:社会問題に声をあげる「すごい若者」という文脈と、「大人が共感できない変な感覚を持った連中」という文脈の二つがあります。Z世代に先行するミレニアル世代(1981年〜1996年頃生まれ)との比較でもよく語られます。

ミレニアル世代の間では、「トレンドを追うこと」が重要な価値観とされてきました。アボカドトーストやミレニアルピンク(淡いトーンのピンク※1)など、新しいトレンドに乗ることが「クール」だとされていた風潮があった。そして同時に、ミレニアル世代がもう大人になっているにもかかわらず、いまだに「ミレニアル世代はくだらないものにお金を使っている、地に足がついていない若者」というステレオタイプのレッテルを上の世代から貼られている。ティーン、または20代の若者はもうミレニアル世代ではなくZ世代であるということさえ知らない大人もたくさんいます。ミレニアル世代のこのような世代傾向に対して、Z世代はこれまでの「常識」や「普通」にとらわれないのが特徴的です。ファッションセンスも個性的な人が多いし、ジェンダーアイデンティティも多様化している。ポップカルチャーにおいてはビリー・アイリッシュやリル・ナズ・Xがその象徴として語られています。

でもどちらかというと、メディアでは「大人が共感できない」存在として取り上げられることのほうが多いですね。わたしは年齢的に「ジレニアル」というミレニアルとZ世代の間なんですが、同世代と話していて、年下の人たちが聴いている音楽が全然わからないときは「最近のGen Z(Z世代)やばい(笑)」みたいに自分自身も使うことがあります。

Billie Eilish – bad guy

Lil Nas X – Panini (Official Video)

ヴィクトリアズ・シークレットの変化や『セックス・エデュケーション』の登場

ーZ世代は賞賛されるだけではなくて、「最近の若者は〜」みたいな使われ方もしているんですね。

竹田:そうですね。ただ、Z世代は大人に反抗したいわけではないんです。アメリカの人口ボリュームでは、Z世代がいちばん多い。だから、同世代たちだけでカルチャーをつくっていけるし経済圏も回せる、つまり大人の意見を聞く必要がないんです。対照的に日本は少子化で若者は少ないし、年功序列の文化も根強い。だから若者が大人の言うことに従わず、自分たちの好きなことをやるというのは構造的に難しいだろうなと思います。

ー日本では若い世代は圧倒的にマイノリティですよね。

竹田:アメリカには、これまでもベトナム戦争中の反戦運動や、ブラックパンサー党(1966年に結成され、1970年代にかけてアフリカ系アメリカ人のコミュニティを人種差別や暴力から守るために活動した黒人解放闘争のための自衛組織)など、社会的な変化やカルチャーをリードしてきたのは常に若者だったという歴史があります。若者の多くは反抗するものだし、それは別に悪いことではないという価値観が前提としてある。だから「Gen Z やばい」というのも揶揄ではなくて、「年下のほうが情報量多いな(だから見習おう)」というニュアンスなんです。アメリカは、自分より若い世代に対して謙虚で「自分たちも知らなきゃ」という態度の大人が多い気がします。

ーミレニアル世代と比較すると、ほかにどんなことが言えるでしょうか?

竹田:アメリカのミレニアル世代は日本の「ゆとり世代」の語られ方と似ていて、大人たちから「ダメな世代」だと言われ続けてきました。「怠け者で、貯金がなくて、変なものに熱中している地に足がついていない世代だ」と。「責任感がなくて子どもっぽい」とも言われ続けた結果、「どうせ自分はミレニアルだから(家も買えないし、結婚もできないし、子どもも産めない)!」みたいな言い方をする人が少なくなく、捻くれていて自虐的な態度が強い、と語られることが多いですね。でもミレニアル世代がなぜそうなったかといえば、不景気で競争が激しい社会のなかでストレスを抱えながら育ってきたからです。社会的な要素が原因なんです。

一方のZ世代は、自分たちの世代の価値観に誇りを持っているという特徴があります。だからむしろ、さらに上の世代にいじめられて自虐的になっているミレニアル世代がかわいそう、という気持ちがあるんですよね。ミレニアル世代とZ世代のあいだには確執があるとも言われますが、それはメディアが対立構図で説明しようとした側面が大きく、先行世代が残した課題の尻拭いをさせられているという点では共通点のほうが多いです。

ー突然変異的にZ世代が生まれたんじゃなくて、ミレニアル世代とも連続しているということですよね。反面教師的なことも含めて。

竹田:本当にそのとおりです。たとえば、ミレニアル世代においてはセレブの体型の変動をゴシップとして扱うことが今より多かったですよね。トレンドのファッションも、ローウエストのジーンズやクロップド丈、肩を露出させるような服を痩せたモデルが着ている姿が人気を集めていた。当時のヴィクトリアズ・シークレットのモデルがその典型だったと思います。それを見て無理なダイエットを経験して、大人になるにつれて「えっ、これってめっちゃ不健康だし、若い子がこれやってるのかわいそうじゃない? 変えようよ」って気づいていったのがミレニアル世代の人たちだと思うんです。

Z世代は、ミレニアル世代が「変えようよ」って言った恩恵を受けている。今はヴィクトリアズ・シークレットのモデルもさまざまな体型の人がいるし、例えばNetflix で人気のドラマ『セックス・エデュケーション』にクィアなキャラクターたちが登場していて。多様性が当たり前だとされている社会を、ミレニアル世代が失敗や葛藤を経験しながらつくってきたと言われればたしかにそうだと思います。その多様な価値観を自然に体現しているのがZ世代なんです。

『セックス・エデュケーション』

ーなるほど。

竹田:例えば今、Z世代が「ミレニアル世代が若者だったときに流行したローライズジーンズや丈の長いジーンズがすごくかっこいい」ってSNSで投稿したりもするんです。Y2Kファッション(Year 2000。2000年頃に流行したファッション)もまた流行していますよね。その投稿をミレニアル世代の人たちが引用して「このジーンズを穿くためにわたしたちは過酷なダイエットをして、それが健康に良くなくてやめたのに」とか、「このフレアのジーンズは床に引きずって汚くなるからやめたのに」ってネガティブなコメントをしたりしていて。

ファッションサイクルはこれまでも何度も繰り返されてきたけれど、自分の外見や体型を受け入れる価値観が根付こうとしている現代において、Z世代に新たな不健康なトレンドが生まれてしまう危惧を、ミレニアル世代は当事者意識として持っているんです。見守ってくれているという意味での世代間の差は、悪いものではないなと思います。

ヴィクトリアズ・シークレットは2021年に新たなパートナーシッププラットフォームである「The VS Collective」を設立。アメリカのサッカー選手であるミーガン・ラピノーを含む7名が名を連ね、革新的なプロダクトや魅力的なコンテンツ、内部の教育プログラム、女性たちをサポートする活動などに携わっていくことを発表した

クィアの人たちのセーフスペースになっているGay TikTok、オリヴィア・ロドリゴやエマ・チェンバレンが言及するメンタルヘルス

ー竹田さんは大学でニュー・メディア・スタディーズ(メディアの変遷と出現を多様な視点から研究する学問)も副専攻にされているとのことですが、ミレニアル世代やZ世代への影響が大きかったメディアにはどんなものがあるのでしょうか?

竹田:TikTok は強烈なアルゴリズムの力によって、ユーザーが好むような動画をひたすら流してくる、その構造によってどんどんニッチなサブジャンルが生まれ、クリエイターもニッチなコンテンツを投稿するようになってきました。特定の属性にだけウケるような、いわゆる「内輪ネタ」的なコンテンツは狭いコミュニティ内でしか回らないから、それぞれの価値観で「セーフスペース」的に盛り上がれるんです。マスにウケる必要もなくて、Z世代と相性がいいと感じます。わたしがすごく好きなクリッシー(Chrissy Chlapecka)とグリフィン(Griffin Maxwell Brooks)はいつも二人で派手な格好して、「ゲイたちよ〜! 今日もファビュラスに生きようぜ!」みたいなノリなんです(笑)。資本主義やジェンダーロールをユーモラスに批判したり、すごくシュールなことを言っていたりするんです。

アメリカではTikTok のコンテンツがStraight TikTok とGay TikTok というものに大きくわかれていて、前者はメインストリームな動画のこと、後者はメインストリームではないニッチなジョークや社会問題に対して皮肉的に批判したり、クィアなクリエイターたちが自分のライフスタイルを発信していたり、独特の美学のあるものがそう呼ばれています。学校や世間から「なにこの格好?」と言われるかもしれないけど、TikTok だったら「かっこいい」と思ってくれるユーザーたちとコミュニティをつくれる。日々の生活の文句をユーモラスに垂れ流したときに、共鳴してくれるユーザーがたくさんいることがわかっているから「クィア」であることを誇りに思って発信できる。TikTok はクィアな子たちにとってもセーフスペースになっているんです。kemioくんは日本語圏のSNSでそれと似たことをやっていると感じます。

@griffinmaxwellbrooks of course we are just kidding ❤️ love is love ! @chrissychlapecka @chrissyissohot #bimbo #brycehall #griffinmaxwellbrooks ♬ dont act straight when youre gay - GMB

Griffin Maxwell BrooksとChrissy ChlapeckaのTikTok

ーミレニアル世代とSNSの関係はどうでしょう?

竹田:TikTok がZ世代のメディアだとしたら、 TumblrやInstagramの初期はミレニアル世代的なメディアと言えると思います。Tumblrでは画像と言葉を組み合わせた投稿が流行りましたよね。フェミニストがエンパワリングな(または、エンパワーメントになるような)メッセージや詩を投稿したり、起業家の人たちが「朝早く起きて誰よりも努力する」といった言葉を投稿したり。自分にとって気分のいい世界観をビジュアルと言葉でつくるのがTumblr文化。それに憧れていたZ世代が似たような投稿をインスタでやっているとも言われています。

Tumblr文化のなかで、例えば鬱や摂食障害であることがクールとされる「ヘロイン・シック」(痩せた体型で顔色が青白い雰囲気のスタイル、1990年代に流行した)という美学がありました。めちゃくちゃ痩せている子がタバコを吸っている画像や、白黒で退廃的な画像が流行していて。

ーSNSの影響も含め、若者のメンタルヘルスは大きな問題になっていますよね。

竹田:今はメンタルヘルスという概念が広く普及しているので、TikTok で自分や友達の精神状況を、セラピストが使うような用語を用いて分析する「セラピースピーク」が流行っているんです。オリヴィア・ロドリゴは“good 4 u” という曲で、「わたしが紹介してやったセラピストがよかったみたいね。新しい彼女のためにもよりいい男になっちゃって」というふうに歌っています。元カレにキレながらも、メンタルヘルスの心配をしているんです(笑)。オリヴィアのお父さんがセラピストだっていうのも面白い情報ですよね。 

竹田:​​YouTubeでもエマ・チェンバレンという子が「今日まじ鬱」みたいなことをオープンにユーモアを交えて発信して人気になっています。ただ一周回って最近は、自分のメンタルヘルスをジョークみたいに軽々しく言うのは不健康なんじゃないか、という批判も出てきている状況です。

ーZ世代は政治的関心が高いとも言われていますが、そのあたりはどうでしょう?

竹田:それがZ世代らしさかと言われると少し微妙なところですが、アメリカ全体の風潮として、アクティビズムのなかに「パフォーマティブ、またはパフォーマンス的」になってしまっているものがあるのではないかという問いかけはよくされるようになっています。SNSでの投票呼びかけなど、実質的な効果があるものもある一方で、ブラック・ライブズ・マターのときに流行ったインスタの「黒い画像」投稿など、実効性のないパフォーマンス的なものがたくさん出てきている。だからこそ、「そのアクションは本当に変化を起こしているのか」が問われるフェーズになってきています。グリーンウォッシングしているブランドも厳しく批判されるし、政治家にも著名人にも「聞こえのいい」パフォーマンスじゃなくて、実効性のあるアクションを求めるようになっています。

ー2021年のメットガラで米下院議員のAOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)が着ていた「Tax The Rich」ドレスにも賛否両論がありました。富裕層が集まる場所でメッセージを発信したことに肯定的な意見がある一方、メットガラの入場料が高額であることや、パフォーマンスではなく、今すぐ取り組まなければならない問題に向き合うべきだといった批判などがありましたね。

竹田:政治家にはもっと求めていいと思います。政治家はタレントやアイドルではありません。自分が応援しているからといって手放しに褒めなきゃいけないということはない。むしろ応援しているなら、より良い方向に向いてもらうために、建設的な批判をフィードバックするべきです。自分が憧れている人や影響力があると思っている人になにを求めるのかをもう一度問わなきゃいけないというのは、自戒としても思います。

「若い子を応援したい」ではなく、「過去の自分にあげられなかった社会をつくりたい」

ー竹田さんは日本語圏の幅広いメディアでZ世代についての記事を書かれていますが、その際に心がけていることはありますか?

竹田:わたしは、記事では自分の個人的な意見や属性はできるだけ書かないようにしています。というのも、弱者や抑圧層の声を拡張し、マスに向けて変化を促すことが目的なのであれば、自分が注目されることやエンゲージメントを稼ぐことが重要な要素になってしまってはいけないと思うからです。どんなアクティビズムにおいてもそうですが、ムーブメントの本質を伝えるときに「自己主張」が邪魔になってしまうことが多いですよね。なので、記事には客観的事実や自分の経験から通して見える「現象」だけを書くようにしています。現象を知ることによって、記事を読んだ人に当事者意識が生まれて、願わくは自ら行動するようになったらいいなと思っています。文化的な違いがあるので、「アメリカはこうだから日本もこうするべき」とはまったく思っていません。日本には日本なりのやり方があるはずです。

ただ、現象の根本的な心理や社会的な背景を知れば、日本でも応用できるものがあるはずだと考えています。たとえばSNSでインフォグラフィックを使って新しい概念やフレーズを紹介している『Blossom The Project』や『NO YOUTH NO JAPAN』はその成功例だと思います。それと、記事では新しい言葉や概念を積極的に紹介するようにしています。新しい言葉や知識を知ることで、自分が苦しんでいる原因を理解したり、社会を変える動機づけになったりすることがあると思うからです。

メンタルヘルスと社会問題について話すことをテーマに、日本語と英語で発信している「Blossom The Project」

U30世代のための社会と政治の教科書メディア「NO YOUTH NO JAPAN」

ー日本のメディアが取り上げる「Z世代」について違和感などがあれば教えてください。

竹田:Z世代を代弁する〇〇」や「Z世代を代表する〇〇」という持ち上げ方はZ世代的な価値観と矛盾していると思います。「Z世代に支持されている人」ならまだわかるんですけど。

ー価値観やあり方が多様だから、一人がアイコン化するのは理にかなわない。

竹田:価値観が多様で、流動的で、そして矛盾しているのがZ世代です。矛盾しているというのは、例えば「環境問題やばいよね」と言いながら、新しい服がほしくてファッション誌を買っていたりする。決して完璧ではありません。矛盾を抱えていて、常に自問自答している。「生きづらいなあ」と思っている。だから、Z世代はいい意味で、罪悪感を抱えて生きているなと思います。でもそれは間違うことに怯えているわけではありません。むしろ「自分たちはいつでも学んで改善できる」という姿勢につながっているんです。

ー自分自身が間違う可能性や矛盾を抱えながらも、それを自覚して学んでいこうという姿勢は年齢や世代を問わず重要だと感じます。

竹田:あとメディアの取り上げ方で嫌なのは、「Z世代に売るにはどうしたらいいか?」というようなマーケティング視点。Z世代を消費して、資本主義に回収しようとするのはZ世代的な価値観と相容れません。それから「Z世代は〇〇」みたいな、わかりやすい切り口の記事も反応はいいと思うんですけど、すごく表面的ですよね。Z世代的な価値観を学びたいのであれば、本質を伝えないといけないと感じます。

わたしがZ世代の企画をやらせてもらうときは、打ち合わせをしっかりするようにしているのですが、話を聞いていると、自分たちが思っていることをZ世代に代弁させたいんだなというのが、だんだん見えてくるんです。でもそれは裏返せば、その人たちも同じ価値観を共有しているということじゃないですか。Z世代と同じように、環境問題について変化を起こしたいと思っているし、理不尽な性差別やジェンダーロールに悩んでいる。「Z世代的価値観」が年代を問わず共有できるというのはそういうことです。だから、もっと広い世代に伝わっていいんじゃないかと思っています。

ーわざわざ代弁させなくても、同じ価値観を持っているんだから自分たちでやればいいですよね。

竹田:わたしは変化を見たいんです。今まではAだったものがBに変わった。その原因はどこにあるのか。もちろん全員がBになるべきと言いたいわけではないんですけど、AからBへの移行にはなにかしらの力学が働いているわけで。その変化のプロセスこそ、他のことにも応用できる本質だと思っているから、興味深いんです。

ーメディアは真新しい事象を単純化して伝えがちです。でも、その事象の真っ只中にいる当事者であればこそ、「そんな簡単なことじゃない」と思いますよね。

竹田:当事者が自分たちの世代について語るのは重要なことだと思います。どの世代であっても、世代論は上の世代から一方的に決めつけられがちです。「わたしたちの世代はこういう価値観を持っています」と胸を張って言うことはエンパワリングなことだし、その世代以外の人たちにとってもインスピレーションになるはずです。だからZ世代は自分たちが持っている良さに自信を持って、まわりの人たちを巻き込んでいくくらいでいいんじゃないかなと思うんですよね。

ーもしかしたら、Z世代がポジティブに語られるのは、自分たちのことを自らの言葉で語っているからかもしれませんね。

竹田:「bitch」や「queer」にはもともと侮蔑語として使われていた言葉を当事者たちがポジティブな意味合いに置き換えていった歴史がありますけど、「Gen Z」も似ているところがあるのかもしれません。まわりは変だと思うかもしれないけど、本人たちは「これでいい」と言える、というか。星占いに似ているなと思うこともあります。何座か知ることによって、自分と向き合うきっかけができるみたいな(笑)。

ー最後に、Z世代と先行世代が連帯するにはなにが必要だと思いますか?

竹田:上の世代には「若い子を応援したい」ではなく、「過去の自分にあげられなかった社会をつくりたい」と、いち当事者として考えてくれたらいいなと思います。みんな同じ社会で生きているんだから、どんな社会問題であっても、最終的には自分にも戻ってきますよね。

※1:毎年流行色を発表しているPantone 社が、2016年に「ローズクォーツ」をトレンドカラーとして発表

(取材:2021年10月28日)

竹田ダニエル

カリフォルニア出身、現在米国在住のZ世代。ライターとしては「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆。インディペンデント音楽シーンで活躍する数多くのアーティストに携わり、「音楽と社会」を結びつける社会活動も積極的に行っている。現在、「群像」にて「世界と私のA to Z」連載中。

『世界と私のAtоZ』

著者:竹田ダニエル
発行:講談社
価格:1,650円(税込)
発売日:2022年11月22日(火)

世界と私のA to Z │講談社BOOK CLUB

『わたしとあなた 小さな光のための対話集』

編集:me and you(野村由芽・竹中万季)
発行:me and you
価格:3,850円(税込)
発売日:2022年8月20日

『わたしとあなた 小さな光のための対話集』│me and you little magazine

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