どんな人でも、心の調子が優れなくなることがあります。それは風邪で体調を崩してしまうように、いたって当然のことであるはず。うつ病などの気分障害の患者は年々増えているといわれており、さらにパンデミックの影響で、感染や死への恐怖に加え、ソーシャルディスタンスによる孤独や社会的・経済的不安を経験した人も多く、メンタルヘルスの問題は以前に比べより身近なものとして捉えられ始めています。しかし、メンタルヘルスについて語ることは、しばしばタブー視されてしまうのが現状ではないでしょうか。
心の調子を崩してしまったとき、どのように自分自身をケアすれば良いか。また、誰もが何らかのストレスを抱えているなかで、手を取り合って生きていくためにはどうすれば良いのか。今回は、『セルフケアの道具箱―ストレスと上手につきあう100のワーク―』(晶文社)を執筆され、認知行動療法やスキーマ療法など、心理学の理論や手法をもとにストレスマネジメント支援を行なっている、洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長の伊藤絵美さんにお話を伺いました。
伊藤さんはセルフケアとは、「自分で自分を上手に助ける」ことだと表現しています。調子が悪い人だけのものではなく、セルフケアは誰にとっても必要なもの。体調管理を行うのと同様に、自身のストレスをマネジメントしていくことで、個人間や組織内のコミュニケーションを円滑にし、関係性を良い方向へ向かわせ、ときに他者が抱える負荷を軽くする手助けにも繋がると言います。伊藤さんが認知行動療法やスキーマ療法を研究されることになった経緯から、ストレスへの具体的な対処方法や、心の不調を抱えている人とのコミュニケーションの仕方について、さらに、コミュニティ、組織、社会におけるケアの重要性について、お話を伺いました。