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i meet you

LGBTQ+のための映像配信「GagaOOLala」ジェイ・リン。ゲイで父親で、経営者だからできることを

台湾国際クィア映画祭の立ち上げ、同性婚法制化に向けた活動も

社会のことから、ごく個人的なことまで。me and youがこの場所を耕すために考えを深めたい「6つの灯火」をめぐる対話シリーズ、「i meet you」。LGBTQ+コンテンツに特化した台湾発の映像配信サービス「GagaOOLala」を立ち上げ運営するジェイ・リンさんにお話をうかがいました。このテキストは、me and youの本『わたしとあなた 小さな光のための対話集』にも収録されています。

※この取材は2021年10月に行われました。

台湾でレズビアンの友人たちとおすすめの映画やドラマの情報を交換する際、よく利用されているのがGagaOOLala(ガガウーララ)。LGBTQ+コンテンツに特化した台湾発の映像配信サービスです。2016年の立ち上げ以来、アジアに重点を置きながら、世界中のクィア映像作品とオリジナルドラマを全世界に配信してきました。コンテンツのゲイ・レズビアン・BL Yaoi・クィアの分類分け、オリジナル作品のなかから愛の物語を10本紹介する「Queer Up The Volume」の特集、ゲイ向けのウェブマガジン『GagaTai』とレズビアン向けの『LalaTai』など、視聴者が見たいコンテンツにアクセスできるよう工夫しながら、多様でユニークなクィア映像を紹介しています。

GagaOOLala社のオフィスを訪ね、GagaOOLalaのCEOで映画プロデューサー、『台湾国際クィア映画祭』 の共同創設者、そして活動家のジェイ・リン(林志杰)さんからお話を伺いました。ジェイさんがクィア映画の上映を台湾の映画館から始めて、その後いつでもどこでも誰でも視聴できるように配信サービスに規模を拡大した経緯には、台湾の婚姻平等運動、そしてゲイであり父親であるジェイさんの物語と表現が深く関わっていました。LGBTQ+コミュニティと子どもたちが安心して生きられる社会を目指して、何度も覚悟を新たにしてきたジェイさんの言葉をお届けします。

ゲイだと公表しながらメディア業界で会社を経営する立場だからできることを。クィア映画祭から配信サービスへ

―ジェイさんはGagaOOLalaを立ち上げる前に『臺灣國際酷兒影展(台湾国際クィア映画祭)(※1)』を創設したそうですね。クィア映画に特化した映画祭をまずは台湾で、その後世界中に配信するサービスをつくり上げるに至った旅路をぜひ伺いたいです。

ジェイ:2005年にコンテンツ制作とチャンネル配信を行うメディア企業Portico Media(※2)を起業し、今年(2021年)で16周年を迎えました。この会社では、2014年までの10年間はテレビ局への配給などの配信事業をやっていたんです。多少浮き沈みはありつつも収益は安定していましたが、配信するコンテンツは他のブランドが製作したもので、仕事内容はそれほど刺激的ではなく虚脱感を覚えていました。自分にはどんな可能性や機会があるのだろうかと一度立ち止まって考え、新しいビジネスモデルを検討し、自社ブランドとしてプラットフォームを立ち上げ、そこでコンテンツを配信する案を考えるようになりました。

また、個人的にLGBTQ+の活動にもっと携わりたいとも思っていました。わたしは自分がゲイであることを公表しているのですが、ゲイだと公表しながら会社の経営ができることは特権だと思い、その立場にいるからこそできることをしたいと思ったんです。それで、情熱を持ってLGBTQ+の人々のために仕事に取り組むことに決めました。

LGBTQ+のための映像配信「GagaOOLala」ジェイ・リン。ゲイで父親で、経営者だからできることを

ジェイ・リンさん

―初めに映画祭を行おうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

ジェイ:当時、多くの欧米諸国がLGBTQ+に関するコンテンツやチャンネル、配信サービスを始めていたのを見て刺激を受け、2014年に友人と一緒に台湾国際クィア映画祭を立ち上げることにしました。映画祭の期間は一年に二週間だけなので、引き続きPortico Mediaの運営をしながら、並行してLGBTQ+コミュニティとの活動に挑戦するには手を付けやすいと思ったんです。配信サービスをしていると365日、常に仕事で気を張っている必要がありますから(笑)。

クィア映画祭を立ち上げるためには、わたしの人生におけるカミングアウトの最後のピースである、両親へのカミングアウトを避けられないと気づきました。大学時代から当時40歳まで、わたしはたくさんの人々に自分のセクシュアリティを公表してきましたが、両親にだけは話せていませんでした。映画祭が始まる直前に両親にカミングアウトできたことは、心が浄化されるような体験になりました。二人ともわたしの話をすんなり受け入れ、理解を示したことは意外でした。互いに涙を流し何度も抱擁したあと、両親は第一回目の映画祭に足を運んでくれ、母、父、息子としてより関係が深まりました。あの日、7年前の映画祭でカミングアウトできて良かったと今は思っています。父は数年前に認知症を患い、また、それによって母は感情的に不安定な状態です。もしカミングアウトをするのが今だったら、両親は受け止める余裕がなかったか、あるいはカミングアウトの意味合いやその後の人生への影響はまったく違ったものになっていたでしょう。

LGBTQ+のための映像配信「GagaOOLala」ジェイ・リン。ゲイで父親で、経営者だからできることを

『臺灣國際酷兒影展(台湾国際クィア映画祭)』で。

―クィア映画祭の始まりとご両親へのカミングアウトについて、個人的でとても大切なお話を共有してくださってありがとうございます。映画祭を行うなかで、なぜより多くの視聴者にLGBTQ+コンテンツを届けたいと思ったのでしょうか。

ジェイ:映画祭を数年続けるうちに、LGBTQ+コンテンツを心から待ち望みながらもなかなかアクセスできない人々が多くいることを知りました。クィア映画を映画館で観ることでゲイだと気づかれるのを恐れる人もいれば、台北や高雄での上映会に参加するためだけにわざわざ遠くから来るのが難しい人もいます。また、台湾に在住していない人、例えば南アジアの人々が、インドネシアやマレーシア、シンガポール、香港でもクィア映画を上映してくれないかと映画祭のSNSを通じて連絡をくれたりしました。

わたしはもともとメディア業界で働いてきた自分の経験と配信事業やコンテンツ事業への知識を活かして、映画祭で行ってきたことをオンライン配信サービスにすることで、クィア映画をより多くの視聴者に届けられると思い立ちました。そして、非営利団体や社会慈善事業を別途立ち上げるのではなく、Portico MediaのCEOとして事業のビジネスモデルを確立すれば、配信サービスを長期的に継続できると考えました。それでGagaOOLalaのサービスを始動し、初めは1本だったオリジナル作品が50本になり、アジアだけでなく世界中のLGBTQ+の映像作品650本を配信するまでになりました。映画の上映から始めて配信サービスを立ち上げるというのは、今振り返ると理に適っていますが、当時はたしかな計画や根拠に基づいていたわけではありませんでした。台湾で映画祭の企画と運営を実現できた手応えを元に、メディア業界で働く者としてさらにLGBTQ+コミュニティに貢献しようと一歩進めた結果が今のGagaOOLalaのあり方に直結しています。

LGBTQ+のための映像配信「GagaOOLala」ジェイ・リン。ゲイで父親で、経営者だからできることを

GagaOOLalaのウェブサイト「Lost in Islandic Paradise: Passionate Thai Romance」や「K-Queer Films」、「Sugoi Japanese LGBTQ+ movies」など国ごとの特集も。日本語の字幕がついた作品も数多い。

2019年に台湾で合法化した同性婚。GagaOOLalaも関わってきた「婚姻平權大平台(結婚平等権利連盟)」の貢献

―世界のどこからでも、誰でも多様なクィア映画にアクセスできるようにしたGagaOOLalaの功績と影響力はLGBTQ+コミュニティにとって計り知れません。さらに、GagaOOLalaはジェンダー平等のための社会運動にも積極的に参加し、台湾社会を動かしましたね。GagaOOLalaは婚姻平權大平台(結婚平等権利連盟)(※3)の組成団体の一つとして広報部門を担い、2019年の同性婚の法制化に大きく貢献したそうですが、GagaOOLalaがどのように婚姻平等運動に関わってきたのか教えてください。

ジェイ:台湾国際クィア映画祭を始めて数年経つと、台湾同志遊行(台湾プライドパレード)と並んでLGBTQ+の権利運動の中心的な存在になりました。GagaOOLalaを立ち上げた2016年は、結婚の平等を求める運動が一層緊急性を増した年でもあったんです。同性パートナーがいた大学教授が自殺した事件(※4)を受けて、このような不幸な思いを個人にさせる社会は変えるべきではないかと、婚姻の平等権をめぐる議論が10月頃から国全体で巻き起こりました。

当時わたしたちはちょうど3回目のクィア映画祭を開催していて、もともとこの年はホテル会場を借りて、Queermosa Awards(※5)という授賞式を映画祭の最後に行うことを企画していたんです。Queermosa AwardsはLGBTQ+コミュニティを代表する先駆者やリーダーを表彰するというもので、この年からスタートしたのですが、LGBTQ+の人々の存在と声をマスメディアで取り上げるという目的を果たすと同時に、LGBTQ+コミュニティが集い、結婚の平等を実現させようと意思表明する場となりました。そのなかで同性婚の法案成立を推し進めようと婚姻平權大平台を立ち上げる話があがり、台湾国際クィア映画祭とGagaOOLalaの創設者として設立に関わることにしました。映画祭で築いてきたコミュニティと一緒に、クィア映画や上映会の経験、なにより物語を伝える力を活かして、連盟の取り組みに間違いなく貢献できると考えたからです。

LGBTQ+のための映像配信「GagaOOLala」ジェイ・リン。ゲイで父親で、経営者だからできることを

2016年の「Queermosa Awards」で。

ジェイ:ただわたし個人の状況としては、これらの準備を進める2015年の後半から疲れ切っていました。同年6月に同性パートナーとの間に双子を授かり、Queermosa Awardsの準備もし、さらにこれまで通り会社の経営もしていました。GagaOOLalaを設立するためにクィア映画祭の運営を離れることになったので引き継ぎをして、さらにGagaOOLalaの立ち上げまで計画し、それに加えて連盟にも入ったので、体力が尽きて死ぬかと思いましたね。特に赤ちゃんの世話はやることだらけですし、よりによって双子なのでもう大変で(笑)。

でも子どもたちの存在があったからこそ、LGBTQ+の人々が世の中からもっと受け入れられ表象される社会を目指して活動を続けられました。子どもたちをこの世に送り出したのはわたしであり、二人の息子を育てるゲイの父親としてより良い社会を築く責任があると思いました。今のわたしの行動が子どもたちの成長と将来の生活に直接影響を与えると思うと、すべて全力で推し進めて連盟の活動にも参加すると決めました。婚姻平權大平台は、会社として、そしてチームとして取り組むべき使命的なプロジェクトだったので、社員全員に声を掛けると、台湾の歴史をつくるまたとない機会だからと言って、みんな積極的に関わってくれました。

―婚姻平權大平台(結婚平等権利連盟)は2020年に彩虹平權大平台(台湾平等運動)と名前を変え、あらゆるジェンダーの不平等をなくし、より多様で包括的な台湾社会を実現するために活動を続けているそうですね。

ジェイ:2019年に同性婚が合法化したあとも、連盟は活発に運動を続けています。結婚の平等は一つの到達点であり、注目して取り組んでいくべき問題はまだ他にも多くあります。今も連盟は立法府のドアを叩いたり、提携団体に研修を行ったり、コミュニティ向けのイベントを開催しています。台湾平等運動には深く関与していませんが、今も連盟のメンバーです。

LGBTQ+のための映像配信「GagaOOLala」ジェイ・リン。ゲイで父親で、経営者だからできることを

彩虹平權大平台のイベントで。(写真提供:社團法人台灣彩虹平權大平台協會 Taiwan Equality)

「表象を通して、ゲイの人々が家族を築くことは普通であり、騒ぎ立てるようなことではないと視聴者に感じてもらえれば嬉しい」

―GagaOOLalaは近年世界中の映画監督や公共放送、映画祭と協力して、オリジナルのクィアドラマを製作し、放映していますね。例えば今年(2021年)日本で上映された作品では、ゲイのカップルが結婚して父親となり子育てに奮闘する『酷蓋爸爸(PAPA&DADDY)』 があり、これはRakuten TVで配信されました。また『第一次遇見花香的那刻(最初の花の香り)』では高校の同級生の結婚式で再会した女性二人の恋愛を描き、東京国際映画祭で上映されました。現在のポスト同性婚時代の台湾において、GagaOOLalaがクィア作品の製作や配信に取り組むことにはどんな意義や可能性があると思いますか。

ジェイ:法制度を変えたからといって、人の意識や感情もすぐに変わるわけではありません。やはり時間がかかるものです。従来の固定観念に働きかけるためには、理由付けされた説得が必要になります。ただし「わたしの言うことを聞いた方がいい。あなたは間違っている」などとは言わないことが大切です。

わたしは物語と表現、そして可視化を通して偏見に向き合ってきました。法における結婚平等が実現した今、政治や科学、あるいは接客産業などさまざまな業界で、より多くの人々が家庭や地域や職場で自分の性自認とセクシュアリティ、家族についてカミングアウトする勇気を持つことができ、そしてカミングアウトしたあとも自分らしく安心して生きられる社会になることを願っています。安心してカミングアウトができる環境によってLGBTQ+の認知が広がること、そして当事者が社会で安心感を得られるようになることで、社会通念が変わっていくと思います。

文化やメディアの側面からGagaOOLalaができることは、語られてこなかった物語の穴を埋めること、また、LGBTQ+の人々に思いを馳せられるような物語を伝えることです。だから現代のゲイの家族が直面している数々の困難を表現した『酷蓋爸爸』のようなドラマを製作しています。台湾で両親がゲイである家族はたった300世帯ほどしかありません。ゲイの保護者を持つ子どもたちの多くは、自分のアイデンティティを守ろうとしたりバックラッシュを恐れたりして、他人に家族の話をしたがりません。このような状況を踏まえて、現実に基づいた架空の物語をつくり、語ることで、両親がゲイである家族というのはどのようなことなのか人々の想像を促します。表象を通して、ゲイの人々が家族を築くことは普通であり、騒ぎ立てるようなことではないと視聴者に感じてもらえれば嬉しいです。

『酷蓋爸爸』はシーズン2まで配信されている。

―台湾では同性婚が可能になって法整備が進み、さまざまな家族のあり方が認知され可視化されるようになってきています。その法が実際に適用された社会に生きる人々の文化や生活を意識して、クィアの家族の現状を映し物語を伝える作品を製作してきたんですね。

ジェイ:こういった力強いドラマシリーズはアメリカでたくさん放送されていますね。例えば『Modern Family』というドラマにはゲイの家族もストレートの家族も登場します。どんな形態の家族もたしかに家族であり、家族が抱える悩みや葛藤、そしてその苦難を乗り越えて家族がともに成長していく姿を見せています。映像配信サービスとして、また製作スタジオとして、GagaOOLalaがやりたい表現とはこのようなものです。

二年前にアメリカのPBS(公共放送サービス)と共同制作した『Made in Boise』というドキュメンタリー映画では、同性パートナーとの子どもを望む人など、代理母出産を依頼する人と代理母の関係をテーマに扱いました。もともとアジアで共有したいテーマだと考えていましたが、わたしたちだけでは製作が難しかったのでプロダクションの過程でPBSと協力し、完成後はここ台湾でも放送しました。代理母の視点や立場を多くの人に知ってもらいたいと思い、賛同されなかったり、異なる観点からの意見もあったりしたのですが、それも含めて議論を深める作品になりました。

ドキュメンタリー映画『Made in Boise』の予告編。代理出産は、依頼を受けた女性の身体的・精神的負担や、倫理的問題、親権をめぐる問題、法制度が整っていない現状など、さまざまな観点において多くの課題・問題も抱えている。

「LGBTQ+というジャンルが必要ない環境に台湾はどんどん近づいています」

―ここまで話題に出たドラマはどれもセクシュアリティと現代社会の家族の関係がテーマですね。お話を聞いていて、ジェイさんはこれまで家族やコミュニティのために尽力されてきたことがよくわかりました。ジェイさんにとって家族やコミュニティの存在はどんな意味がありますか。

ジェイ:コミュニティはとても重要で、特にLGBTQ+の人々にとってはコミュニティが家族になります。誰もが個人でさまざまなコミュニティに入っているものですが、わたしが最近頼りにしているコミュニティの一つがゲイの両親の集まり、台灣同志家庭權益促進會(台湾LGBT家族権利擁護協会)(※6)です 。両親がゲイである家族はLGBTQ+コミュニティのなかでもごく少数で、親がゲイであることで子どもが学校で虐められたり、親戚から拒絶されたりする難しさはなかなか理解されていません。そこで、台北に住む30〜40世帯の両親がゲイである家族が集い、お互いに支援し合うコミュニティに入っています。頻繁に顔を合わせて、子どもたちを遊ばせている間に親たちは質問を交わし、励まし合うことで、ストレスや困難を伴う生活から少し離れられるんです。

コミュニティでもっとも重要なことはコミュニケーションです。自分の問題や課題を伝えることで、それを乗り越えた人、あるいは今同じことを経験している人が共感し、助けになってくれます。安心して自分の問題に向き合い、生きづらさを共有し、助けを求められる関係をつくりあげ、それを維持できるので、コミュニティは大切なんです。これは家族の関係に似ています。「家族」は、血縁の家族だけを指すのでなく、自分が選んだ家族も家族です。すべての血縁の家族がLGBTQ+の息子や娘を受け入れているわけではなく、誰もが協力を得られるとは限りませんから。だからこそLGBTQ+コミュニティは開かれているべきだし、コミュニティの存在が時に家族の役割を果たすことに意義があります。

―GagaOOLalaとクィア映像作品のこれからのあり方をどのように考えていますか。

ジェイ:GagaOOLalaの今後の目標は、わたしが台湾国際クィア映画祭を開催していたときから変わっていません。それは、クィア映画祭の存在が必要ない社会にすることです。つまり、一般の映画館やテレビ、配信サービスなど、通常のメディアでLGBTQ+映画を視聴できる社会です。台北金馬影展(台北金馬映画祭)をはじめとした他の映画祭でも観られるようになり、むしろLGBTQ+というジャンルが必要ない環境に台湾はどんどん近づいています。これからの映画祭は、映画を持ち込んで上映するだけではなく、コミュニティの構築など新しい使命や機能を果たすことが求められていると思います。台湾では、さまざまな配信サービスや映画祭を通じてLGBTQ+映画に触れる機会が増えていて、総じて良い流れだと希望を持っています。

※1:臺灣國際酷兒影展(台湾国際クィア映画祭)は、2014年の創設以来、毎年秋に台湾で開催される国際クィア映画祭。台湾の人々に世界中のクィア映画を紹介するだけでなく、台湾の優れたクィア映画を国際的な舞台で紹介することにも力を入れる。映画の上映の他に、監督によるレクチャーイベントや地元の映画制作者を対象とした2日間のワークショップなど、クリエイター同士の交流と対話の場づくりにも力を入れる。1990年代に台湾で始まった同性愛者の人権を求める運動から生まれた映画祭で、映画やメディアを通してクィアの声を一般市民や政府に発信し、コミュニティの連帯を促すことを目的としている。

※2:Portico Media は、コンテンツ制作とチャンネル配信を行うメディア企業。台湾の主要なIPTVやデジタルケーブルのプラットフォームと提携し、世界のプレミアムチャンネルやコンテンツを配信している。

※3:婚姻平權大平台(結婚平等権利連盟)は、2016年に女性の権利団体とGagaOOLalaを含むLGBTQ+の権利団体、合計5団体の組成母体が結成した市民団体。結婚の平等を訴え、台湾のジェンダー運動史上最大規模となった25万人を超えるデモを率いたり、立法府への働きかけの他、全国での講演会や展示会など、2019年の同性婚の法制化の実現に多大な貢献をした。この連盟は2020年に彩虹平權大平台(台湾平等運動)と名前を変え、あらゆるジェンダーの不平等をなくし、より多様で包括的な台湾社会を実現するために活動を続けている。LGBTQ+コミュニティと共に、政策提言、社会教育活動、デジタルコンテンツの作成、リサーチ、企業研修、法令の草案作成、政府の監視と助言など、幅広くジェンダー運動を展開してきた。

※4:国立台湾大学のフランス文学の教授であり、数々の台湾ニューシネマのフランス語字幕を担当した翻訳家、そしてコラージュ画家のジャック・ピクーさんは、35年間一緒に暮らした同性パートナーの曽敬超さんの死後、自ら命を絶った。二人は法律上結婚できなかったため、2015年に曽さんが癌で亡くなった際、ピクーさんは家族として救命措置に意見する法的権利がなく、遺体を引き取ることもできなかった。また、曽さんはピクーさんに財産を遺せなかった。この出来事をきっかけに、台湾では各界で同性婚の合法化を求める声が高まった。

※5:Queermosa Awardsは、芸術、音楽、政治、ジャーナリズム、映画、ビジネスの分野において、LGBTQ+の声を届けるために努力する人々や企業の功績を称える授賞式。第1回目には500人以上のゲストが参加し、LGBTQ+を支持する音楽家やアーティストがパフォーマンスを披露した。計らずしてJacques Picouxさんの自殺から2週間後に開催され、結婚の平等を求める社会運動と婚姻平權大平台の創設のきっかけになり、この問題を一般に広く認知させることになった。

※6:台灣同志家庭權益促進會(台湾LGBT家族権利擁護協会)は、政策や法律を通じてLGBTQ+の家族の権利のために活動している団体で、性別や性的指向に関係なく安心して家庭で子どもを育てられる社会を目指して、LGBTQ+家族のコミュニティやネットワーク形成、社会教育を行っている。2016年に子どもを持ちたいLGBTQ+家族向けに窓口を設け、人工授精や養子縁組の相談、権利の保護、情報提供、専門機関への紹介を行うGagaOOLalaと同様に彩虹平權大平台の組成母体の一つ。

(取材:2021年10月1日)

ジェイ・リン

台湾国際クィア映画祭とアジア初のクィア映画ストリーミングプラットフォーム「GagaOOLala」の創設者兼ディレクター。2004年にPortico Mediaを設立し、コンテンツ開発、製作、配給、マーケティングを行う拠点として多くの作品を生み出し、金馬奨の最優秀短編映画賞や台北映画賞の最優秀長編映画賞など数々の賞を受賞。また、婚姻平權大平台(結婚平等権利連盟)の設立にも関わり、台湾や世界におけるLGBTQの認知向上に向けて活動している活動家としても知られている。

『わたしとあなた 小さな光のための対話集』

編集:me and you(野村由芽・竹中万季)
発行:me and you
価格:3,850円(税込)
発売日:2022年8月20日

『わたしとあなた 小さな光のための対話集』│me and you little magazine

陰キャクィアが緩く集まって遊ぶイベント、「陰気なクィアパーティ」を不定期で開催しています。4月23日のパーティでは、このジェイ・リンさんの取材記事を読書会で取り上げました。次回は6月末にジンの交換会を計画しています。ツイッターで追って情報を発信します。是非遊びに来て下さい。

Twitter

コンセプト文:__クィアなカルチャーとして支持されているもののほとんどが社交的で活動的で派手だ。(中略)クィアのカルチャーの系譜に自分のアイデンティティの関連を見いだせず、なんだか居心地の悪さを感じる。もっと陰気なクィア・カルチャーはないのか?__(『ケルベロス・セオリーZINE』/uranoさん「陰気なレズビアンらと焚き火を囲む」より)陰気で、いつもベッドに寝転がっていて、ナイトクラブに集ったりするのはもってのほか。だけど差別には抵抗したいし、気が向いたら人の隣にいたい。そんなクィアたちが積年の願いを果たすため、「陰気なクィアパーティ」を開催します。

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