me and you野村:SNS、特にTwitter上では、まったく異なる経験を重ねてきた、知識量も異なる、会ったことのない人たち同士のやり取りが行われていて。そこで得ることもありながら、なかには意図的なもの・そうでないもの含め、誰かを傷つけるやり取りも存在しています。こうした場所で自分の考えを伝えていくことについて、どうしたらいいかと悩んでしまうことがあります。
清水:Twitterはわたしもずーっとやってるんですが、敵しかつくってない気がします(笑)。良くも悪くもTwitterの距離感はフラットなんですよね。親しい人に向けて話している話が会ったことがない人にも同じように届いてしまうというか。対面やメールだと感じられる相手との距離感がないのが難しいところです。それでも続けているのは、研究者でフェミニストで実名でやっている人がそもそも少なかったし、「ああいう話を研究者の人がしていることに、ほっとしました」という学生の意見を聞くことがあったりしたから。わたしはTwitterで誰かを説得しようとするのは最初から諦めていて、わたしが投げたことを誰かが拾って役に立つなら良いし、役に立たなければ断ち切ってくれればそれでもいいという思いでやっています。
―別の問題として、Twitterではフェミニストに対する誹謗中傷もありますね。
清水:誹謗中傷を受けた方はどんどんTwitterから撤退していますよね。そうしたくなる気持ちはわたしも痛いほどわかります。でも同時に、撤退するというのはプラットフォームをひとつ奪われているということなので、非常に大きな問題です。明らかなヘイトスピーチや差別は規制できたとしても、悪意は規制しきれない。誹謗中傷をする側が問題だという前提ですが、悪意に悪意で返すことが今の自分にとって必要なのか。自分が出さなくてはいけないメッセージというのはなんなのか。個別で大切にしたい相手とDMや直接会って話すほうがいいんじゃないか。誹謗中傷で傷ついている人を慰めるべきじゃないか。そういういろいろなことを考えてそれぞれ優先順位をつけていくのが大事な気がします。そうでないと、絶対的な数が少ないフェミニズムは疲労させられて撤退させられてしまう一方なので。
感情の高まりのようなものに巻き込まれないようにするというのもあるのではないかと思います。巻き込まれると、自分が本当に大事にしたい理念や、理念は違うけれどきちんと話をしていかなくてはいけない人に向けられる余力がなくなってしまいます。
―悪意に応答し続けても消耗するよりも、その分のパワーを自分が大切にしていることに使おうと。
清水:アクティビズムでもなんでも「辛くなったら一旦引く」のがすごく大事だと、フェミニズムやレズビアン系のアクティビストの友人たちから以前教えてもらいました。「まずいと思ったら一旦引いて休む。それでまた回復したら戻ればいい。そうでないと本当に潰れちゃうし、運動もつながっていかない。それに運動は一人が休んだからといって消えてしまうものでもない」って。
―いい言葉ですね。
清水:時間が経てば経つほど、そのとおりだなと実感します。必要なときに休んで、精神的な回復や知識の補給をして、絶対に放っておけないことがあったらそのときまた出ていけばいい。誰かが戦線離脱したように見えたときには、その人が担っていた部分をちゃんとフォローアップしてあげたほうがいいし、あとで戦線離脱していた人が戻ってきたときに「あの人がその穴を埋めてるんだね」とお互い認識しておくのは結構大事かなと思います。
―続けていくためには、自分一人だけでなく周りの人たちと穴を埋め合うというのは他のことでも言えそうですね。特定の領域で活動していると、関連するすべてのトピックやイシューについての発言を個人が求められてしまう風潮もあると思うので、すごく大事だと思いました。
清水:言える人が言えばいいんです。もちろん、たとえばフェミニストとして活動をしていて、民族差別とか障害者差別とか長期にわたって起きている問題に関して一切発言しない場合、「あなたのフェミニズムはなんなの?」と問われる場面はあるかもしれません。でも、何かある度、すべてに応答する必要はないと思っています。
me and you竹中:SNS上では一部で歪曲された「フェミニズム/フェミニスト像」がつくり上げられ、それに対して批判が集まっているケースも見かけます。
清水:「フェミニズムだからだめ」と藁人形みたいなものがつくられている状況は今も確かにありますね。でもこれはSNSに始まったことではなく、2000年代頭、2ちゃんねるなどネット掲示板で起こったフェミニズムに対するバックラッシュは酷いありさまでした。大学でも「フェミニズムをやりたい」というだけで先生にだめ出しをされるということがいくらでもあった。その流れで見ると、むしろフェミニズムのイメージはすこし改善したくらいだと思います。だからあんまり悲観的になりすぎる必要もないかなと。もちろん今のままでいいわけでもないし、昔のような状況に戻る可能性もあるので気をつけないといけない。
―ましになっている面もある。
清水:今の状況は楽観視できないですし、いつでも攻め込まれるという警戒心は持ちたいです。でも負けっぱなしだと思うと、イヤになるじゃないですか。もうどっか行こうかな、みたいな(笑)。そうならないためには、よくなったところはよくなったと認識して、その活動に尽力した人たちの功績を見ていくのも大事かなと思います。