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同じ日の日記

創造力も失わないし、疲弊しない/桜井杜音

仕事中の楽しい瞬間を見逃したくない。退屈しない仕事を作れるようになりたい

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2025年7月は、7月20日(日)の日記を集めました。公募で送ってくださった桜井杜音さんの日記です。

今年も夏が来て、今日から私が勤める飲食店でもかき氷を出しはじめた。6月下旬にとある商店街を散歩した時には、喫茶店にたこ焼き屋と、ジャンルを問わずあらゆるお店でかき氷が出ていた。年々暑い日が早まっている。それを思うと少し出遅れたかなと思う。

おそらく、弊店のかき氷の味のラインナップは他店と比べて偏っている。チャイティー、梅、そして新作のマンゴー。この3種類。スパイス料理を出すお店なので、スパイスに合う味がチョイスされている。

かき氷を綺麗につくるのはけっこう難しい。うかうかしてると最初の方に乗せた氷が、みぞれのようにべちゃっとするし、思うに任せて山をつくると予想以上にいびつな形になる。丁寧さとスピード、どちらも求められて、カレーや他の料理をつくるのと比べても難易度は高めだと思う。

電動のかき氷機のスイッチを押して、氷を削る刃の位置をハンドルを回して調整する。すると、大きくて薄い氷がふわふわと、容器の上に落ちてくる。微妙に不規則な動きとにらめっこしながら、手を動かす。

ひらひらと落ちる氷は美しいけど、捕まえるのが難しい。容器をなるべく氷の出口に近づけて、回しながら落としたい位置に氷を誘導する。内側から外側へ、そっと肉付けしていく。

今日気づいたコツなのだが、樹木の年輪を思い浮かべてつくると、うまくいく気がする(それに、木を生み出すキャラ的な何かになれた気がして気分もいい)。木の幹が太く成長するイメージを手元に浮かべながら、どんどん落ちてくる氷を積み上げていく。

これでもかというボリュームまで氷が乗っかったら、シロップをかける。とろりとしたマンゴーは思うように流れていかない。てっぺんから下に向けて放射状に、丁寧にシロップを塗る。最後に一振り、ティースプーンで適量のスパイスをかけて、完成。

一度つくりはじめると他の作業と並行できない、やり直しがきかない。最初はそんなかき氷をつくるのが億劫にも思えたけれど、最近は楽しくなってきた。綺麗なかき氷ができる条件とは、ちょっとした工夫、気づき、心の平静をうまく積み重ねることのように感じる。ほんの5分の出来事で大げさかもしれないけれど、私にとってはそういう壮大さがある。

効率よく仕事ができるように、様々な技術が発展している。自分の仕事に絡めるなら、生成AIで分かりやすい商品のキャッチフレーズやビジュアルイメージが作れたり。電動のかき氷機があることそれ自体だってそうだ。効率よく仕事が進むことは、人々に楽をもたらすのか、退屈をもたらすのか。そういうことがよく語られている気がする。

私には専門的な話はできないけれど、このかき氷を作っている時間は、効率と創造のバランスが丁度よく思える。設計に基づいて綺麗に落ちる氷と、計算する間もなく氷を積み上げる自分の手。創造力も失わないし、疲弊しない。ただ、よさげなかき氷をつくることに注力する。

大学生時代に一番友達が多くできた。彼らの大半はホワイトカラーだ。遊びに行けば相変わらず楽しいし、みんなの近況を聞くのも好きだ。けれど、仕事の話や休日にどこかへ出かけた話になると、肩身が狭く感じること少しがある。収入や、使えるお金、気軽に遠くへ行ける余裕だったり。自分ではちょっと手を出しづらい生活の潤いを迷いなく手に入れて、人生がどんどん進んでいるようにみえる。そういう時に、選んだ仕事や築いた価値観が、本当に自分を楽にしているのか。揺らぐ時がある。

仕事は面倒なもの、早く片づけた方がいいものとくくらずに、楽しい瞬間を見逃したくない。退屈しない仕事を作れるようになりたい。自分が商品やサービスを受け取る立場にたった時にも、できるだけ、工夫や試行錯誤が垣間見えるものを受け取りたい。手持ちの金銭の都合上、すべて質の良いもの、という訳にはいかないけれど。あと、インフラに近いほど、見極めるのが難しい。

目の前にかき氷を出すと、多くのお客さんが、わぁっと、声を漏らしてくれる。食べ終わり、器に残り汁が残っていたら少しへこむし、完食していたら中々うれしい。この夏の幸せの一つはこれでいいなと思える。

桜井杜音

1999年生まれ。東京都中野区・新井薬師にある無国籍スパイス料理店「Spice Bar SUZU」の店員。他、ライティング業や自主音楽制作、杉並区善福寺にある本のある場所「蔵書室ふもと」の店番などする。

Website│Spice Bar SUZU
lit.link
Instagram│蔵書室ふもと

映画と、対話。『波打ち際に足跡を残す』を観て話す会

日時:2026年10月31日(土)会場:西荻シネマ準備室(東京都杉並区西荻南3-6-2 ことビル2階)
料金:おとな 2,000円、こども・学生 1,000円(※未就学児の膝上鑑賞は無料)
※当日現金払いでお願いします。
定員:各回 20名

<第1部>開場 14:00/上映・対話会 14:30~16:00
<第2部>開場17:00/上映・対話会 17:30~19:00

35分の上映後、少人数グループに分かれて対話会を実施します。
特定のテーマは設けません。一人ひとりの感想を話してみてください。

Peatix

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