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「無駄づくり」藤原麻里菜×「途中でやめる」山下陽光 働き方と稼ぎ方を発明する二人

好きなことで長く働くための方法、SNSとの付き合い方、面白いお金の使い方

年収は高いほうがいい。貯金はあればあるほどいい。お金を持っていればいるほどいい――。いまの社会のなかで、働くこととお金について考えてみようとするとき、当たり前のようになっているそんな価値観があります。しかし一人ひとりに合った働き方や生き方の形は、必ずしもそうした価値観の中だけに存在するわけではありません。

頭に思い浮かんだ不必要な物をつくる「無駄づくり」主宰の藤原麻里菜さんと、リメイクブランド「途中でやめる」を手がける山下陽光さんは、生産性や効率性といった観点からは「不要なもの」とされる価値観を屋号に掲げながら、お金を稼ぎ、暮らしを成り立たせています。そんな二人に話を聞いてみることで、いまよりも自分がもっといきいきと働けたり、我慢や無理をしないで暮らしていけたりするような労働やお金との付き合い方のヒントが見つかるかもしれません。

記事の前編では、好きなことで長く働くための方法、スマホやSNSとの向き合い方の変化を踏まえて懐中時計を買った話、「とあるキーワード」で検索してメルカリ買い物をした話……など、働くことや、お金を稼いで使うことについて、たっぷりのアイデアとともに話を聞きました。

後編:「無駄づくり」藤原麻里菜×「途中でやめる」山下陽光 フリーランスならではの悩みとの向き合い方(freee│note)

「面白い服を安く売ってるのを見て、『そんなに安いんだったら買おうかな』っていう人は結構いる」(山下)

─山下さんは「途中でやめる」を始めて今年で20年、藤原さんは「無駄づくり」を始めて昨年で10年を迎えられました。お二人ともこれまでにほかの人がやっていないことや方法で活動をされてきたと思うのですが、そのなかで迷いはなかったですか?

山下:僕の商売は「つくった洋服がひとつ売れたらいくら入る」というように実は計算がわかりやすくて、魚屋さんや豆腐屋さんのやり方とあまり変わらないと思うんですよね。だから「ほかの人がやっていないことをやっている」という気持ちはあんまりなくて。最近は原稿や美術展の依頼も増えているんですけど、もともとは服の販売ではなくてそういうことがやりたい人だったんです。でも気づいたら、そんなに気合いを入れていたつもりでもない服の方が、どんどん売れていくようになって、「服の人」と言われるようになったので「じゃあ、それで」みたいな感じでいまに至っています。

「無駄づくり」藤原麻里菜×「途中でやめる」山下陽光 働き方と稼ぎ方を発明する二人

左から藤原麻里菜さん、山下陽光さん

─「服の人のつもりじゃなかったのに」という気持ちにはならなかったですか?

山下:ならなくはないんですけど、服も好きっちゃ好きだし、自己表現みたいなこともさせてもらえていて、楽しいからいいかなーって。ファッション業界って、2パーセントぐらいの超ファッション好きの人だけでできあがっていると思っていて、俺は業界にも服にもそんなに興味がないし、ほとんどの人がそうだと思うんです。でも服を着ない人って、基本的にはいないじゃないですか。だから俺みたいにちょっと面白い服を安く売ってるのを見て、「そんなに安いんだったら買おうかな」っていう人は結構いる。これならうちの家族ぐらいは食っていけるなという方法を見つけた感じですね。

山下さんはX(Twitter)で「途中でやめる」の
稼ぎ方にまつわる情報を公開している

藤原:それって、最初から計画的に「これならいける」みたいな感じで始めたんですか?

山下:いや、続けていくうちにですね。だから、もし服で食べていけなくなったら、ほかのことをやろうかなと思ってます。たとえばのアイデアとして、ご飯屋さんって普通はお腹いっぱいになる量が出てくるじゃないですか。でも、ランチセットに付いてくる、普通の3分の1ぐらいの量のそばやカレーが150円くらいで食べられる、小腹を満たすためだけの店ってないんですよね。そういうものをやってみようかなとか。

商売のアイデアを生み出すための方法も紹介

「プリミティブな気持ちを第一に優先して、自分を冷笑的に見ないことを大切にしたいと思っています」(藤原)

─藤原さんに聞いてみたいなと思っていたのが、以前に藤原さんがSNSでポストされていた「好きなことを長く続けるためには、我に返らないことが大事なのだ」という内容についてで。ものをつくっていて「我に返る」ことに直面したことがある人は、少なくないと思うんです。

藤原:私はそもそも、結構我に返るタイプなんです。「なんでこんなことしてるんだろう」「将来大丈夫かな」「恥ずかしくないの」って、別人格の自分が自分を冷笑的に見てくるんですよね。でも、なにかの役に立たなくても、10年後路頭に迷ったとしても、別にいいじゃんとも思うんです。

というのも、私はやっぱりものづくりと文章を書くことがすごく好きで、ずっと続けたいんです。ただ、得意かというとそうじゃなくて。嫌だなと思いながらつくったり書いたりしているし、すごいものばかりつくれるわけでもないです。それでもやっぱり、つくる過程が楽しくて好きなんですよね。小さい頃に砂場で遊んだり、体を動かすのが楽しかったような、プリミティブな気持ちを第一に優先して、自分を冷笑的に見ないことを大切にしたいと思っています。

─そういう感覚にとらわれずにいることって、なかなか難しかったりしますよね。なにかしら実を結ばないと意味がないのかなと思ってしまったり。

藤原:社会のなかでは結果を求められることが多いから、「楽しい」という理由だけではだめな気がしてしまうけど、私は「楽しい」だけで続けていいと思っているんです。「お金が稼げているから意味がある」とか「これだけ稼いでるんだから自分はすごい」と思っていた時期が私もあったんです。でも、そうじゃないなと思い直して。

スマホからSNSのアプリを削除。懐中時計を新しく購入。SNSの向き合い方の変化

─持っているお金や、稼いでいる金額の多寡が、人間性への評価のように語られる風潮が一部にはあるし、お金に関する情報には「老後は〇〇円以上貯金がないと暮らせない」「〇〇歳なら年収や貯金が〇〇円以上はあるべき」といった、不安をあおるような内容もセットで付いてくることが多いと感じます。

藤原:悩みますよね。

山下:ネットを見ないのが一番いいんじゃないですかね。

藤原:私はスマホからSNSのアプリを消しました。パソコンや社用携帯で少しは見るんですけど、基本的にアウトプットだけして、インプットはしないようにしています。注意を引くものこそが良しとされていて、自分のペースで働いたり、自分のペースで稼いだり、本当に自分の欲しいものを手に入れたりすることがしづらくなっている気がすることが怖いなと思っていて。一方で、山下さんの服を知ったのはX(Twitter)がきっかけだったし、「これいいな」っていう新しい価値観を知るきっかけがSNSにあったりもするんですけどね。

山下:僕もいま頑張って、スマホを1日30分ぐらいしか触らないようにしてるんです。ヴィム・ヴェンダースの『PERFECT DAYS』を観たら、カセットテープやフィルムカメラが出てきたので、影響されてカセットテープを買っちゃって。劇中で流れていた曲が良すぎたので調べたら、Spotifyにプレイリストがあって全部聴けたんだけど、なんの感動もなかったんですよ。多分苦労して手に入れてないからなんですよね。それで、わざわざスピーカーから音を流してラジカセで録音したのを聴いたら、ちょっと嬉しくなったんです。スマホって必要な機能がひとつの機械に全部が入ってるじゃないですか。だから機能を分解した方がいいんじゃないかなと思っていて、最近懐中時計を買ったんですよ(笑)。

─時間を知りたくて手に取ったはずなのに、ついそのままだらだら見てしまったりします……。

山下:どうでもいいことがすごく気になったりしますよね。多分、スマホやネットって、増強剤なんだと思うんです。たとえば、いまから飲みに行こうとしたら、本来このあたりに縁がある人じゃないと、近くにどんなお店があるか知らないはずじゃないですか。でも検索してすぐに予約までできるし、目の前にお店があるのに、「この店で大丈夫かな」ってググってしまう。スマホって、きっと自分の力を700倍ぐらいにしてくれるアイテムなんです。でも、そもそもの自分はそんなんじゃないって、頑張ってスマホを使わなくしたことによって気づきました。

藤原:みんながスマホを使えることが前提になっていて、わからないことがあると、「ググればいいじゃん」っていうのが当たり前になっているけど、たしかにそれを自分の力だと勘違いしてしまうところがありますよね。

山下:特にSNSを見ていると、考え方も世の中の流れについ乗っかってしまうというか。「主流はこうらしいから、これと違う意見を言っちゃいけないっぽいな」って、空気をめちゃくちゃ読むようになって、面白い意見が出てきづらいと感じます。

藤原:私、いまは本当はSNSじゃなくて、町の掲示板に自分の新作を貼り出してお知らせすることで食べていけたらいいなと思ってるんです。ショーウィンドウみたいな場所を借りて、週に1回ぐらいのペースで動画と実物で新作を置いて、みんなにそこに見に来てもらうことができないかなって。

藤原さんの「無駄づくり」

─いまのお話で思い出したのですが、山下さんはイヤホンのゴムや、納豆に付いてきたタレや辛子を街に隠して、SNSでお知らせされていますよね。あれはどうしてやっているんですか?

山下:ネットじゃないところに面白いことがあるよ、と言いたいからです。本当は、それをネットで言うつまらなさがちょっとあるんですけどね……(笑)。「あいつがSNSで言ってたから行ってみよう」というよりも、歩いていて自分でふと見つけて「これってなんなの?」ってなった方が面白いじゃないですか。

─街中でしょっちゅう見かけるステッカーとか、つい気になったりします。

藤原:水道工事のマグネット、あるじゃないですか。ああいう感じのマグネットをつくって配って、QRコードから無駄づくりの動画が見られるとか、やりたいですね。

山下:よく行くカフェの机の裏に、鏡字で文章が書いてあって、スマホのインカメで見たら、文字が読めたりするのもいいなあと思います。

42年前のミネラルウォーター、メルカリで「お土産」を検索して買う。「買う」ことで閃く、商売のアイデア

─お二人とも活動にSNSを利用されてきたと思うのですが、いまはリアルな場に関心が移ってきているんですね。

山下:そもそも昔だったら僕みたいな人は絶対に世に出られなかったし、いまのような活動でお金を稼いで暮らしていくのは無理だったと思います。それが可能になったのも、業界のしがらみにとらわれずに一人で活動できるのも、SNSのおかげです。だから「SNSさまさま」という感じはしつつ、やっぱりSNSってそんなにいいものじゃないなという気持ちもあって、どうしたものかなと思いますね。

藤原:昔は不思議なぐらい「ここしかない」と思ってX(Twitter)をやっていたんですよね。でも変なコメントもいっぱいくるし、変な拡散のされ方もするし、嫌な思いをしたことが結構あって、コロナ禍の前ぐらいから、ちょっと嫌だなとも思っていたんです。ただ仕事で使うことも多いし、作品をアウトプットする場所がほかになかったこともあって、やめようにもやめられなくて。

山下:とはいえSNSも、まだいくらでもやりようがある気もするんですよね。無理に嫌な思いをしてSNSを使って暮らしていくことをしなくてもいいけど、SNSを使って正しく自分を知ってもらって、お金にも困らずやっていくことはできるんじゃないかなっていう気がするんです。

藤原:私がYouTubeを始めた頃は、自分も含め、ちゃらんぽらんな人ばかりがやっていた感じがするんですけど、コロナ禍以降、会社員の方が副業で始めることも増えてきて、ルーティーンを公開する動画が結構伸びていたりしますよね。私は飽和状態になればなるほど面白いものが出てくると思っていて、たとえばおしゃれなナイトルーティン動画が流行ったら、おしゃれじゃないナイトルーティン動画をやる人が増えるとか、なにかが流行ると、その逆のことをやる人が現れますよね。そうやっていろんなカルチャーが生まれている面白さはあると思います。

─昨年11月に開催された『SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2023』でのトークで、山下さんがフリマで売り物じゃないものを買ったというお話をされていたことが興味深くて。なんのためにどのようにお金を稼ぐのかを考えるうえで、お金の使い方についての話も聞いてみたいなと思ったのですが、いまどういう風にお金を使っていると楽しいですか?

藤原:最近はあんまりお金を使わないんですよね。高い服を買っていた時期もあるんですけど、それも落ち着きました。いまお金を使うのは、なにかを経験したり、どこかに行ったりすることに対してです。メルカリで検索ワードを工夫してなにかを買うのは結構好きで、「お土産」って検索して、自分は行ったことがない国のお土産を買ったこともあるし、子どもが描いた絵を家に飾ったら、絶対に家が明るくなるはずだと思って、知らない子どもが描いた絵を買ったりしたことがあります。

山下:僕、実は今日いろいろと変なものを持ってきていて。これすごくないですか。1982年8月24日に製造された、42年前のミネラルウォーターなんです。

─これはどちらで購入されたんですか?

山下:大井競馬場のフリマです。売ってる人から「飲めないよ」って言われたんですけど、3個100円で買いました。今度呼ばれている展覧会に、1982年8月24日生まれの人が来たらあげようかなと思って。飲めないけど、もらったら嬉しいですよね。

藤原:かわいいですね。

山下:あと『iPodは何を変えたのか?』という本も持ってきました。「これが世界を変えましたよ」っていう大上段からきてるけど、いやいやいや、このあとスマホが出ますからっていう(笑)。僕が読んでも面白いけど、いま20歳ぐらいの子にこの本を渡したら、より面白がってくれるんじゃないかなと思ったんですよね。

─コレクター的に面白いものを集めたいというよりも、それをどう手渡していくかや、ものを通じて新しい価値を生み出すことに関心があるんですね。

山下:そうですね、買っていくうちに閃いちゃうんです。最近バンドのTシャツがめちゃくちゃ値上がりしているので、売れるんじゃないかなと思って「ニルヴァーナ」って書いてある帽子をつくってるんですよ。でも、売ったらどこかから怒られそうなので、文学賞にしようかなと。「私が一番ニルヴァーナを好きです文学」を書いて応募してもらって、もっとも良かった人に「ニルヴァーナ」帽子をあげようと思っているんです。その代わり、文学の著作権は俺がいただいて、それをまとめて本にする。そんな仕組みをつくったら、自分がいいなと思うものを交換できる気がしします。 そういうことをしたいんですよね。

「無駄づくり」藤原麻里菜×「途中でやめる」山下陽光 働き方と稼ぎ方を発明する二人

ちなみに藤原さんのホームランバーは当たりでした

freeeのnoteに掲載している後編「『無駄づくり』藤原麻里菜×『途中でやめる』山下陽光 フリーランスならではの悩みとの向き合い方」では、事務作業の苦労や依頼にまつわるもやもや、横のつながりの大切さなど、フリーランスならではの悩みについてお話ししています。

藤原麻里菜
1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。
株式会社 無駄 代表取締役。
2013年から頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。
2016年、Google社主催の「YouTubeNextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25000人以上の来場者を記録した。2021年「考える術(ダイヤモンド社)」「無駄なマシーンを発明しよう(技術評論社)」を上梓。
「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択/「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門審査委員会推薦作品に選出/ 2021年 Forbes Japanが選ぶ「世界を変える30歳未満」30 UNDER 30 JAPANに選出される。青年版国民栄誉賞TOYP会頭特別賞受賞。

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山下陽光

1977年生まれ。【途中でやめる】という名前で洋服をリメイクしたり、作ったりしてます。学校を卒業する頃から景気悪くなるぞー、なったぞ、今年が今までで1番景気悪いってのを更新し続けてて、コラー、このヤローとか言いながらいよいよ洒落にならないくらいの不景気と絶望!どうしてくれんだ!バイトやめんだよ!で、『バイトやめる学校』って本を2017年に書きました。

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