わたしとの付き合い方は年々わかることが増えてきても、他者のことはずっとわからないし決めつけたくもない。それでも知ろうとすることの積み重ねでしか、“わからない”を越えていけないし、よりよい社会も想像できないだろう、と日々自分に言い聞かせています。そんな「わたしとあなた」をめぐるあれこれについて考えている時に、よく再生する音楽を選びました。
連載
レベッカ・ソルニットの言葉から影響を受けた曲/ボウイが歌う「彼らが大量虐殺を行うなら」
2026/6/3
songs for me and youでは、レコードショップ、ライブハウス、音楽ライター、ミュージシャンをはじめ、さまざまなお仕事をしている音楽を愛する方々が「わたしとあなた」をテーマに選んだ楽曲とともに、その楽曲を選んだ背景にまつわる言葉をお届けしていきます。
音楽にはときに自分と向き合う時間をつくり、ときに日常の機微や誰かとの関係、社会への問いを映し出す力があります。この連載を通じて、時代や国、ジャンルを超え、新たな楽曲や、音楽を通じて世界を知るおもしろさと出会うきっかけが生まれたらうれしいです。
第一回目は、長野県松本市にあるインディペンデント・レコードショップ「MARKING RECORDS」の店主で、DJや音楽イベントの企画なども行なっている前田理子さんが選んでくれました。
わたしとの付き合い方は年々わかることが増えてきても、他者のことはずっとわからないし決めつけたくもない。それでも知ろうとすることの積み重ねでしか、“わからない”を越えていけないし、よりよい社会も想像できないだろう、と日々自分に言い聞かせています。そんな「わたしとあなた」をめぐるあれこれについて考えている時に、よく再生する音楽を選びました。
💿The Sandwitches – In the Garden(2011)
3人のソングライターによって結成されたサンドウィッチズ(ウィッチは魔女のwitch)という、バンド名からして魅力的な彼女たちの1曲。コーラスパートで各々が思い思いのトーンで遠吠えのような声をかけ合わせる、自由な伸びやかなムードを生み出しています。
💿Cate Le Bon – Moderation(2022)
揺らぎのある音像と声に、着実に歩を進めるベースライン。洞窟の前でCate Le Bonが佇み、様々なポーズを取るビデオも印象的。この曲が収録されたアルバム『Pompeii』は、レベッカ・ソルニットがヴァージニア・ウルフについて語った「目を開けたままで闇の中をゆくこと」に影響を受けたそうです。暗闇の中をわからないという自覚とともに進んでいくための、静かな力が漂う曲だと感じます。
MARKING RECORDS ONLINE SHOP/Bandcamp(『Pompeii』に収録)/Website/Instagram
💿Valentina Magaletti – Words I First Saw(2020)
Vanishing TwinやMoinといったバンドでも活動するパーカッショニストValentina Magalettiの得体の知れない、探求心に満ちたドラミングが大好きです。Words I First Saw、新しい言葉に出会うときは、いつだって新しい自分や他者を知るときだなと思います。
💿堀嵜菜那と山脈 – 新しいルビ(2023)
名古屋のSSW・堀嵜菜那さんの曲は、絡み合ったり離れたりする音や言葉が愉快だったり少し怖かったりして、聴く度にわかりそうでわからない感覚で満たされ、新鮮な驚きをおぼえます。「新しい言葉」が見落とされてきた/周縁化されてきたものを定義することならば、「新しいルビ」は当たり前とされているものを角度を変えて見ることかも、などと考えました。
MARKING RECORDS ONLINE SHOP/Bandcamp(『ただの動き』に収録)/Website/Instagram
💿Anna Homler & Steve Moshier – Ee Chê(1985)
アメリカ西海岸のパフォーマンス・アーティストAnna Homlerと前衛音楽家のSteve Moshierによる、架空の言葉で歌われるアヴァン・フォーク。言語を越えて、よりプリミティブなやり方で「あなた」と手を取り合おうとする、祈りのような曲に聞こえます。遠い昔の音楽のようで、同時にとても未来的。
💿Joyul – Marginalia(2021)
韓国ソウルを拠点とするアーティストJoyulのアルバム『Earwitness』から。水の滴りや鳥のさえずりなどの環境音に、有機的なエレクトロニクスにパーカッション。深いリバーブに包まれた静謐な歌と、スロウコアの影がみえるギターの鳴り。特に人間以外の生き物の声や、目に見えない気配に耳を澄ませたい時に聴きたくなる曲です。
💿Slapp Happy – I’m All Alone(1972)
どうにもならない孤独な自分が、どうしようもなく世界につながれていることの絶望と、世界とつながっていることの希望。ダグマー・クラウゼの可憐で生々しいヴォーカルが聴ける、2000年のライブ盤が圧倒的に好きです。
💿ANOHNI and the Johnsons – Can’t (2023)
愛する友に「あなたに死んでほしくない」と語りかけ、自身の脆さと弱さを吐露する中で湧き上がる、燃えるような感情。それらがソウルフルなグルーヴと共鳴する1曲。バンド名は、性的マイノリティの権利獲得運動の転換点となったストーンウォールの反乱(1969年)の象徴的存在とされる トランスジェンダーのアクティビスト、マーシャ・P・ジョンソンの名からとられています。
MARKING RECORDS(ONLINE SHOP)/Bandcamp(『My Back Was A Bridge For You To Cross』に収録)/Website/Instagram
各曲の下にはBandcampのリンクや、レコードが購入できるページへのリンクもつけているので、気になる曲があればぜひ、レコードやCD、デジタルデータの購入もおすすめです💫
前田理子
1989年生まれ。長野県出身シンガポール経由、会社員生活を経て、2016年に長野県松本市にてレコードショップMARKING RECORDSをオープン。現在ひとり店主をしながら、音楽についての文章を書いたり字幕翻訳をしたりしている。バンドHer Braidsのメンバーとしても活動中。
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