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和田彩花と宇多丸が語る、アイドルの輝きと痛み「応援しながら、声を上げてほしい」

『アイドルになってよかったと言いたい』記念トークレポ前編。QJWeb連動企画

和田彩花さんは、15年ものあいだアイドルとして活動してきました。アイドルが好きで、誇りを持っているからこそ、その輝きの裏側にある違和感や、見過ごされてきた痛みに向き合おうとしています。

和田彩花さんの著書『アイドルを好きになってよかったと言いたい』の発売を記念して、長年にわたりアイドル文化/アイドルソングを語り続けてきたライムスター・宇多丸さんとの対談イベントが行われました。「好き」であることと、「おかしい」と思うことに声を上げることが、両立するように。アイドルをめぐる違和感と、それでもなお好きでいることの意味をめぐる対話を、QJWeb(クイック・ジャパン ウェブ)さんとの連動記事としてお届けします。

♥︎後編の記事を読む(QJWebで2026年6月18日に公開予定)

「好きだった」からこそ見える、アイドルの違和感

宇多丸:和田さんと話すということで、ハロプロ(ハロー!プロジェクト)に関することから話すと、僕は初期のモーニング娘。の大ファンでした。そのときにできた友人が今でもつながっていて、今日も最前列にいるんですよ。

和田:宇多丸さんがモーニング娘。を好きだったこと、知らなかったです。

『アイドルになってよかったと言いたい』発売記念 和田彩花×ライムスター宇多丸「アイドルを好きになってよかったと言いたい」の様子

宇多丸:世代的に「82年組(※)」直撃でしたが、ただ、80年代には実はすでに時代的な臨界点みたいなものがやってきていて、「アイドル」に求められるイメージと、生身の若者の実像とのズレがどんどん大きくなっていた。そんななか、1986年に岡田有希子さんというトップアイドルがお亡くなりになって、すごくショックを受けたんです。僕らの前ではニコニコして歌っていた人が実は苦しんでいた、という状況……きっとこの構造自体が、そのつもりはなくても本人を傷つけるシステムだなと思って。それで、アイドル文化からしばらく意識的に距離を置きました。

とはいえ、安室奈美恵さんが出てきたときは「めちゃくちゃカッコいい」と興奮して、居酒屋にあったレーザージュークボックスで“太陽のSEASON”と“TRY ME”を後輩ラッパーと何回もかけて踊りまくったりしてました(笑)。そういう新しいタイプのスキル主義を経たのちに、最初はリアリティTV的な企画から、モーニング娘。が出てきて。そこでは初期つんく♂さんならではの音楽的なマジックが起きていた。当時のつんく♂さんはたぶん、楽理的に曲を書くというよりは、DJ的なアイデアをたくさん持っていて。その奇想が腕利きの編曲家たちによって最高のかたちで具現化されることで、唯一無二の化学反応が起きまくった、という感じだったと思うんです。ゆえに、それまではアイドル文化に触れてこなかったような、マニアックな洋楽ファンなどもたくさん集まってきた。
※中森明菜、小泉今日子、早見優、松本伊代など、1982年にデビューしたアーティストやアイドルの総称

和田:アーティストの弓指寛治さんが岡田さんをテーマに絵画を描かれていて、個展を見に行ったんですね。岡田さんのことは知らなかったので、それをきっかけに調べるようになったのですが、ネットに書かれていることや周りの証言者の言葉が信じがたくて。きっと、近くにいた人も、彼女の苦しさを知らなかったんだろうなと思いました。

当時とは苦しみの種類が違うだろうけれど、私も同じ業界にいたので気持ちがめっちゃわかるんですよ。常にカメラに撮られて、全部テレビで放送される。岡田さんが自殺未遂をしたあとに、事務所に行ったらそこで「いちごジュースでも飲んで、落ち着きなよ」と言われたことが、作品になっていたんです。私はそれを見て、怒りがおさまらなくて……。

宇多丸:いやあ……そのことは僕も知らなかったです。

和田:いちごジュースで解決できる問題じゃないし、人として対等に向き合おうとしていないと思いました。いろいろな側面から見るべきなんでしょうけれど、今でもいちごジュースが好きになれないです。

宇多丸:岡田さんが10代の若者なりに苦しんでいたことが、当時の芸能界という磁場によってさらに倍増されていたところもあるんでしょうね。今でもやはり、アイドルにとってプライバシーの確保というのは難しいものですか?

和田:今は変わったと思います。女性マネージャーさんも増えて、私も同性のマネージャーさんは接していて楽でした。同じ気持ちを共有できるし、すごく支えてもらいましたね。でも、きっと岡田さんが活躍されていた当時は今よりも女性蔑視が強いだろうし、昭和のアイドルの水泳大会を切り抜き動画で見てしまって驚きました。

「嫌だ」と言えなかったこと、応援しながら声を上げること

宇多丸:ちょっと前までも、例えばAKB48の夏曲には全員水着のMVが作られていましたよね。大人数グループですから間違いなく不本意な人もいたはずで、曲としてはよくても、明らかにやりすぎな傾向があったと思います。まあこうやって「あれって、ちょっとどうなんですか」と問題提起がなされるようになったこと自体、少しずつだけれど進歩はある、という証しだと思いたいですが……アイドル当事者からしたら、現場で感じた違和感を整理できないこと、きっとたくさんあるでしょうね。

和田:いっぱいありました。最初、私は水着を嫌だとは思わなかったんです。撮影としては嫌だけれど、水着になってきた先輩たちは人気メンバーで、そこに加われるのはいいことなんだとがんばって言い聞かせてました。でも、ほかの子が「絶対に嫌だ」って言ったんです。当時15歳の私は自分の意見よりも、アイドル業界で誰が同じことをやっているか、どうすれば生き残れるかを基準に判断してしまっていた。でも同僚はちゃんと自分を基準にしてた。そのときに「嫌だよね」って、その子に共感したかった後悔が残っています。

宇多丸:まわりにそういう先輩のロールモデルがいなかっただろうし、現場の空気や上下関係もあるだろうから、難しいですよね。

和田:写真集を出すときも、上の人たちが決めたことだから意見を言うのは難しかったです。

宇多丸:アイドルに限らずあらゆる労働市場で、立場が弱くて上に言えないってことは、たくさんありますよね。和田さんの本(『アイドルになってよかったと言いたい』)は、自分の状況に当てはめてもすごくよくわかる部分が多かった。僕らフリーの人間も、雇用に関しては立場が弱いから。和田さんも、お父さまが自営業だったから契約関係のときに細かくチェックしてくれたっていう話を書かれていましたよね。

和田:そうなんです。自営業だから契約やお金の支払いといったことに詳しくて、とても助けられました。もし、会社員の家族だったら見落としていたかもしれないし、そもそも親に内緒でアイドルになる人も多いと思うので、どんな労働契約を差し出されたのか判断できていない人もいる気がします。

宇多丸:その根本には、僕も含めた日本人全体の、雇用契約を始めとする労働問題への意識の低さ、みたいなものがあるのかもしれません。考えれば考えるほど、和田さんが書いていることは日本社会全体に通じる話だなと思いますね。そんな中、アイドルを応援したいと思っても、結果として悪しき社会構造に加担してしまっているのでは?という葛藤を同時に抱いている人は、僕含め結構いるんじゃないかと思うんです。好きだけど、この構造にお金を落とすのはどうなの!? っていう。

和田:とりあえずお金を落として応援はしてもらって、でも、おかしいことがあったら一緒に声を上げてほしいです。応援しながら、声を上げてほしい。

宇多丸:僕は前から、少なくともファンが、最低限アイドル本人が望むことを肯定できるようになってほしい、と思っていて。恋愛問題が典型で、失望を感じてしまう人の気持ちも頭ごなしに否定はできないとは思うけど、それでも良識として一線は引けるだろう、と。

和田:私は、性的な魅力を明け渡すような素振りをしないようにしていました。だから、申し訳なかったけれど、同性のファンにはやさしいけれど異性のファンには厳しかったです。それは不器用な私なりに見つけ出した最善策だったんです。よく言われました、塩対応だって(笑)。でも、それくらい自由にやっていないと、自分を守れないんだなっていうのは学びました。

アンジュルムを“あり”にしてくれた、ファンの存在

宇多丸:和田さんはアンジュルムではリーダーでもあって、責任感も強いから大変だったんじゃないですか?

和田:アンジュルムのメンバーはみんな根がいい人たちだから、少し迷惑をかけられても「どうにかするよ!」って思ってました。大好きだし、すばらしい人たちだから、この子たちをどうしたら売り出せるのかずっと考えていたんですよ。この子たちが売れないと辞められない、とさえ思っていました。

でも、最近そういう話を元メンバーたちとしたら、それは私がやることじゃなかったっていうことに気づかされました。会社がやることであって、私の役割を完全に超えていたし、自分の「やってあげたい」っていう気持ちが行き過ぎていたなって思います。今は自分の感情に線を引き直して、できるところまでがんばれたら自分のことをよしよしするようにしています。

宇多丸:今でもそういう話ができるのはすごく素敵だし、やっぱり少しずつ変化はしてるってことですよね。そもそも、アンジュルムのようなグループが登場したこと自体が、シーンの進化とも言えるわけで。

和田:でも、これだけは絶対に話さなきゃいけないのが、私たちを“あり”にしてくれたのはファンの存在なんですよ。塩対応な握手会も、みなさんが“あり”にしてくれて、ありのままの私たちを認めてくれるから心強かった。ファンに恵まれていたのがアンジュルムだったなって思います。

宇多丸:それはすごくいいですね。たしかに、在り方自体を受け入れてくれるのはありがたいことで、気づけばファンもアイドルも進化した証拠ですよね。はっきりと、初期のスマイレージとアンジュルムでは歌も雰囲気も違うし……本にも書かれていますけど、たとえば作詞家の児玉雨子さんが、近年のハロプロを象徴するような、とてもいい仕事を大量にされている。

和田:ほんとうに大好きです、雨子さん。

アンジュルム『次々続々』(ANGERME[One by One, One after Another])(Promotion Edit)

宇多丸:事務所もいろいろな変化の渦中だと思いますし、和田さんの経験や思考がこういう風に言葉として残ることは、間違いなく「重し」になっていると思いますよ。これはお世辞ではなく、近年のアイドルについて書かれた本の中でも、当事者自らこの業界の問題点を率直に語っている、もっとも重要な本だと思っています。これは本当に歴史的ですよ。

和田:うれしいです、ありがとうございます。宇多丸さんはアイドルから離れたり近づいたり、どういう変化を辿っていたんですか?

宇多丸:最近つくづく思うのは、BEYOOOOONDSの“灰toダイヤモンド”みたいなエンパワーメント曲、言ってしまえばポジティブな要素を積み重ねたような楽曲って、ほかのジャンルで歌うのは難しいんです。ラップでもロックバンドでもシンガーソングライターでも、ほかのジャンルだとどうしてもウソくさいというか、空虚な感じになりやすい。ところが、アイドル的な表現でやると、猛烈な力になる、っていうのは最近の気づきです。

BEYOOOOONDS『灰toダイヤモンド』Promotion Edit

和田:私も、アイドルってすごいパワーを持っているなって思います。うまく言葉にできないのですが。

宇多丸:アイドル的なよさを説明しきるのって、難しいですよね。大昔は「完成度の中のほつれ」という言い方をしてみた時代もありましたが、当然それはもう通用しない。僕が今もある程度有効なんじゃないかと考えている定義は、「“魅力”が“実力”を凌駕し、そのギャップをファンが“応援“で埋める」、この構造全体が「アイドル的」なのだ、というものです。これなら、たとえば「長島(茂雄)さんのアイドル性」みたいなところまでカバーできるので(笑)。もちろんその長島さんとか、わかりやすいところで松浦亜弥さんなどは、言うまでもなく元の“実力”からして非常に高いレベルにある人たちなわけですが、同時にそれでもやっぱり、そういう成果主義的な次元を超えた“魅力”があふれ出ているからこそ、明らかに「アイドル的」と見なされもする、という。一方で、もう20年ほど前ですしご本人の言葉かどうかはわかりませんが、つんく♂さんにインタビュー依頼をしたら、事務所から「そもそも『アイドル』をプロデュースしているつもりはない」というような返答が来て、お断りされたことがあります。

和田:たしかに、つんく♂さんから「アイドルだからこうしろ」と教わったことはないです。芸能人として、どうすべきか。たとえば、お金を貯めたら歯をきれいにしなさい、とか(笑)。小学生で研修生だった時に、つんく♂さんが講義してくださることが定期的にあって、すごいお話がおもしろかったんですよ。いつでもネタを出せるように、どんな質問を振られても、なんでも答えられるように、頭の中の引き出しを全部埋めておきなさいって教わったことをよく覚えています。自分の引き出しを増やしなさいって何度も話してくれました。

アイドルは、学校教育の代わりにはならない

宇多丸:めちゃくちゃおもしろいですね。それってつまり、アイドルを卒業した後も、芸能界で生き残ってゆくため、なんなら一般社会でうまく生きてゆくためにも、今のうちにちゃんといろいろ蓄積しときなさいよ、ってことを教えてくれているわけですよね。そう言えば振付師の竹中夏海先生が「ハロプロは研修生システムをきちんと構築しているのがすごい」という話を先日されていましたが、その辺りはどうでしたか?

和田:良かったこともありますけど、よくヤサグレなかったなって思います(笑)。ルールが厳しくて、身だしなみも毎回注意されて、時間も全部管理されていて、自分の意見はあまり聞いてもらえない。そんな環境で育ったら、反動でどういう道に行くのかわからないなって思います。今は違うと思いますけど。

宇多丸:たしかに、それは教育としてはあまりいいかたちだったとは言えないかも。

和田:ただ、会社としては何人もいる若者を管理するには、ルール化して仕組みを作ったほうが楽だったんだろうなって思います。

宇多丸:端的に言えば、未成年労働の問題ですよね。自我が形成される前だから、取り決めによって歪みが生じてしまうのはよくある話で、よっぽど大人側がフォローしないといけないなと思います。

和田:アイドルは、学校教育の代わりになると思っちゃいけないし、「特別なことをしている」というあこがれで覆い隠さないほうがいいと思います。あと、マネージャーさんのケアも必要だと思っていました。10人前後のメンバーに対して、チーフと現場数人だけで、衣裳の用意も、ライブのセットリストの準備もしないといけない。相当に余裕がない状況だなと思っていました。理想論ではありますけど、マネージャーさんももっと働きやすくなってほしいと思います。

宇多丸:人材からコストカットされてしまう話は、どの労働現場でも起こっていることですよね。

和田:私、ある撮影でウェディングドレスを用意されて、絶対に着たくないって大泣きして、現場も止まっちゃったんですね。申し訳なかったけれど、どうしても自分の気持ちが大事で。でもそうやって、気持ちをオープンにして、いろいろな話をしたことで、あるスタッフさんは「いつかカウンセリングの資格を取りたい」と言ってくれたんです。未来のために心がけようとする人もいる、ということがすごく嬉しかったです。

和田彩花

1994年8月1日生まれ、群馬県出身。詩と言葉のアーティスト。2019年に6代目リーダーを務めた「ハロー!プロジェクト」、また「アンジュルム」を卒業。アイドルグループでの活動経験を通し、フェミニズム、ジェンダーの視点からアイドルについて、アイドルの労働問題について発信している。音楽活動ではオルタナポップバンド「和田彩花とオムニバス」、ダブ・アンビエンスのアブストラクトバンド「LOLOET(ロロエ)」にて作詞、歌、朗読を担当。実践女子大学大学院博士前期課程美術史学修了しており、美術館や展覧会についての執筆、講演、メディア出演も行う。

宇多丸

1969年東京都生まれ。ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパー、またTBSラジオ『アフター6ジャンクション 2』(月曜~木曜 20:00~生放送・2025年5月現在)を担当するラジオパーソナリティ。
1989年、大学在学中に「ライムスター」を結成。日本ヒップホップの草創期から牽引し、最前線で活躍してきたシーン立役者の一人。また2007年にTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』がスタートすると、趣向を凝らした特集、愛と本音で語りつくす映画評コーナーが話題を集めて、2009年に第46回ギャラクシー賞「DJパーソナリティ賞」を受賞。ほか、2000年6月から続く雑誌『BUBKA』でのアイドルソング時評『マブ論』、またその書籍化含めて、映画関連書籍やお悩み相談本など、多数の著作活動も行っている。近作にライムスターのアルバム『Open The Window』(2023)、同ツアーの映像作品『King of Stage at 日本武道館』(2024)などがある。

『アイドルになってよかったと言いたい』

著者:和田彩花
発売日:2026年3月9日
発行:太田出版
価格:2,420円(税込)

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