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同じ日の日記

胡乱な”誠実さ”も、滑稽な”まっとうさ”も、手放せないまま/升味加耀

諦めきれない希望と、粛々と息をして

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年12月は、12月16日(月)の日記を集めました。演劇ユニット・果てとチークの主宰で、今年1月には「わかりあえないまま、それでも友達でいることの、尊く辛い“終わらなさ”」を描いた演劇作品『きみはともだち』を上演した、劇作家・演出家・俳優の升味加耀さんの日記です。

わたしにとっての演劇は、
すごくアンビバレントな存在。

いつも「演劇やりたい」と「演劇なんかやってていいのか?」のせめぎあい。

糞みたいな構造を無視して、
自分の特権性を意識せず、
無邪気に上演に向かえたらどんなにいいだろうと思う。

でもそんなこと無理だよね。
嫌でも目を見開かなきゃいけない。
教養や倫理がゴミみたいに扱われる世界で、
それでもわたしはそれらを後生大事に抱き締めていたい。
さぞ滑稽で生きづらいように見えるだろうけど、
自分を、人間を、これ以上諦めたくないからそうしている。

なにかを楽しむことに、罪悪感が生まれたのはいつからだろう。

今は、どんなに楽しい時間があっても、
その後に信じられない絶望と虚無がやってくる。
それでバランスをとった気になっている。

こんな恥ずかしいエゴある? とまた落ち込む。

でも自分で自分を罰して律していく以外に、
誠実な創作をする術がわからない。
わたしはだらしのない人間だから、
すぐ言い訳をしたくなる。
その甘えをできるだけ切り捨てたいと思う。

演劇に希望なんてあるんだろうか。
悶々としながら、稽古場に向かう日々。

お世話になっている助成金の書類に、
「この公演が演劇業界や社会に与えたと思われる影響」を書く欄があって、
思わず頭を抱えてしまう。

作品ひとつで変わる程度の構造なら、
こんなに絶望していない。

劇場でお客さまから熱い反応をもらうと、
達成感のようなものを覚えたりもする。
変化の兆しを期待したりもする。

だけど、現実は一向に変わんないね。
やってる意味を見失いそうになる。

みたいなことを、ぐるぐる考えるスパイラル。
不毛だ~。

というわけで、『きみはともだち』が終演した後の白紙のスケジュールを前に、
ボーッとしている最近です。

でもきっと、わたしが生きている間に何かが劇的に変わることは決してないんだろうから、
できることを粛々とやる。
誰かの頭に1ミリでも残ることを祈りながら。

写真は、前回公演『害悪』で一番好きなシーンの川村瑞樹。
場面転換中の川村、いつも最高だった。

升味加耀

ノンバイナリー。
2016 年、留学先のベルリンにて、果てとチークを旗揚げ。 以降、全ユニット作品の劇作・演出を担当。
19 年、『害悪』が令和元年度北海道戯曲賞最終候補作となる。
20 年、渋谷PARCO の新しいカルチャーフェスティバル P.O.N.D.に招聘。
22 年、東京芸術祭ファーム Asian Performing Arts Camp に参加。
23 年、『はやくぜんぶおわってしまえ』が第 29 回劇作家協会新人戯曲賞最終候補作となる。
24 年、『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』が第 68 回岸田國士戯曲賞最終候補作となる。
公益財団法人セゾン文化財団フェロー。
非現実的で極端な設定や、ポップでドライな会話を用い、社会に遍在する透明化された差別や断絶を、登場人物の混乱や葛藤、ショッキングな結末を通して活写する。

©Kikuko Usuyama by CREA

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