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連載

jig theater(鳥取):連載「あの映画館に行こう」

鳥取県の真ん中、湖畔の丘の上にある、元小学校の一室を改装した小さな映画館

映画館でスクリーンを見つめるとき、わたしたちは、他者の背景にある日々やその連なりを、社会の一面を、複雑さや曖昧さを、ひいては自分自身を見つめているのかもしれません。

この連載では、me and youがおすすめしたい映画館をご紹介。独立系のミニシアターを中心に、me and you little magazineで記事を制作した作品やカルチャートピックスページでおすすめした作品を上映している映画館から、つくる人をバックアップする映画館、地域に根ざした場づくりをおこなっている映画館、その場ならではの鑑賞体験ができる映画館まで、さまざまな映画館で働く人たちの声を集めます。

今回ご紹介するのは、鳥取県中部の湖を一望する丘の上で2021年に開館したjig theater。新作、リバイバルかかわらず「戸惑い」を案内するというコンセプトのもと上映をおこなっているほか、ライブイベントを開催することも。この映画館を営む柴田修兵さん、三宅優子さんに言葉を寄せていただきました。

記事の最後には「あの映画館へ行こう」のGoogle Mapも埋め込んでいるので、お散歩や旅のおともにぜひご活用くださいね。

たくさんの表情と声、言葉を受け取って。「戸惑い」に出会えるような編成を

jig theater・柴田修兵さん、三宅優子さん

1.どんなことを大切にしている映画館ですか?

ジグシアターは鳥取県の真ん中にある湯梨浜町、東郷湖の湖畔の丘の上にある、元小学校の一室を改装した小さな映画館です。

客席の椅子は、京都で設計をしている奥泉理佐子さんがデザインしたもので、木製のパレットにクッション材と布を直接敷いた、構造の見えるソファのようなつくりです。
劇場の内装や設備はできるだけシンプルに、心地よく映画を観られる空間であることを大切にしています。

ジグシアターの「ジグ」は、大工用語の「治具(じぐ)」から来ています。治具とは、加工の際に下支えや案内となる簡易な道具のことで、完成したものの表には現れません。

私たちの劇場もまた、映画とお客さんの出会いを静かに下支えするような存在でありたいと考えています。

2.上映作品を選ぶとき、プログラムをつくるときのこだわりは?

私たちは「戸惑い」をコンセプトに上映作品やプログラムを組んでいます。とはいえ、映画を選ぶたびに、「戸惑い」とは何かを自分たちに問い直すことになります。

一風変わった、あるいはあまりに真摯につくられた映画に出会ったとき、人はときどき戸惑いを覚えます。それは、映画が見知らぬ世界への窓になるだけでなく、見知っているはずの世界までも別様に変えてしまうからだと思います。

それはすぐに現れる変化ではないかもしれません。それでも、私たちの人生を、そして社会のあり方をも、根本的に変えてしまうかもしれない。

この5年間、映画館を運営するなかで、上映後にたくさんのお客さんと話をしてきました。感銘を受けた顔、困ったような顔、笑いをこらえる顔。たくさんの表情と声、言葉を受け取ってきました。

その時間の重なりは、不思議と相互に形づくられる、どこか抽象的な輪郭のようなものを生んできたように思います。その輪郭を少しずつ動かしながら、遊び心も交えて、その都度新しい「戸惑い」に出会えるような番組編成を目指しています。

3.「わたしとあなた」というテーマで、これまでに上映した作品やこれから上映予定の作品からおすすめしたい映画を1本教えてください。

開館時に『逃げた女』を上映してから5年。そのあいだにホン・サンスが撮り続けてきた10本を、5周年の節目に一挙に上映する特集を行います。

ホン・サンスの作品では、私たちが映画に期待しているような出来事はほとんど起こりません。会話はどこかむず痒く、欲望や思惑が見え隠れしているのに、はっきりとは現れない。ほんのわずかに言葉の調子が変わり、気まずい沈黙が生まれる。その揺れだけで、関係の温度が動いていきます。

私たちの人生も、どこかそれに似ているのかもしれません。伏線がきれいに回収されることも、確信を得ることもほとんどない。誰かに話すほどでもないけれど、少しだけ爽やかな気持ちになったり、小さな違和感を抱えたりして、帰り道の坂を下りながら、ふと思い返す程度。

ホン・サンスの映画に登場する人たちは、共感や感情移入の対象というより、ただそこにいる「彼」や「彼女」たちのように見えます。街の風景や建物も、誰に対しても親しげな顔を見せることなく、ただそこにある。けれど、ふとした瞬間に、「彼」や「彼女」が、「わたし」や「あなた」として立ち上がります。店先で、路地で、窓辺で、小川のほとりで。そのとき、はじめてこの映画の出来事に気づき、わたしたち自身の時間に気がつくのかもしれません。

今回の特集のなかでおすすめする一本は『小川のほとりで』です。戸惑いが、少し残るかもしれません。

📽️「ホン・サンスの5年/10作品」特集上映

特集期間:
2026年4月29日(水・祝)から5月17日(日)まで

上映作品:
『逃げた女』
『イントロダクション』
『あなたの顔の前に』
『小説家の映画』
『WALK UP』
『水の中で』
『私たちの一日』
『旅人の必需品』
『小川のほとりで』
『自然は君に何を語るのか』

特集ページ

📍映画館情報
jig theater
住所:鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎619 3F
営業時間・休館日:上映スケジュールに準ずる
URL:
Website
X(Twitter)
Instagram

🚶‍♀️映画館を訪れてみよう
me and youがご紹介したい映画館を地図にまとめました。
OttOさんのほか、全国の映画館を都度更新していきますので、おでかけのお供にチェックしてみてくださいね。

me and youの「あの映画館に行こう」マップ

柴田修兵
映画・音楽・美術など幅広い芸術に関心を持つ。音楽イベントの主宰を行うほか、濱口竜介『ハッピーアワー』(2016)に出演。

三宅優子
デザインを学び、創作を行う福祉施設でデザインとアートマネジメントに携わり、移住を期に退社。

2021年、鳥取県・松崎に移住。同年、ジグシアターを開館。

「ロベール・ブレッソン傑作選」

特集期間:
2026年5月30日(金)から6月14日(日)まで

上映作品:
『ラルジャン』
『スリ』
『バルタザールどこへ行く』
『少女ムシェット』
『白夜』

特集ページ

「Dos Monos × poketto jig theater 5th Anniversary」

日時:
2026年6月20日(土) open17:30/start19:00

FOOD:
朝の外食(ビュッフェ)
talaat(パン)
et-to(おかしと珈琲)
SHOP:
がふ(古道具)
DJ & VJ:
じっけん音楽クラブ

特集ページ

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