💐このページをシェア

同じ日の日記

毎日同じ時間、同じところへ通うのは/石山蓮華

「私はまだまだ、変化している。この先も、きっとずっとこういうことだらけなのだろう

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2025年8月は、8月31日(日)の日記を集めました。電線愛好家で、TBSラジオ「こねくと」パーソナリティを務める石山蓮華さんの日記です。

毎週木曜日の夕方に仕事が終わって赤坂駅の地下鉄ホームで突風に顔をはたかれると、私は「ざばっ」と水から上がった、あるいは夢から醒めたような感覚をおぼえる。
月曜から木曜の週4日、午後2時から4時50分まで生放送のラジオ番組「こねくと」でパーソナリティをやっている。
子どもの頃に父から「曜日というのはサラリーマンとキリスト教徒のためのものだ」と聞いてから、できれば曜日感覚のない仕事がしたいと、いつもどこかで思っていた。それが体感的にどこかというと、脳みその裏、首と後頭部の境目である。私は目や耳といった顔の前側で得た情報を取捨選択し、しゃべり言葉にしている。その中でも、忘れそうで覚えている記憶の数々は、脳内の机の中にあるお道具箱の、さらに奥でくしゃくしゃになっていて、文章を書くときになって「あ、このプリントここにあったんだ」と見つけ、広げてまた押し込む。
そのプリントが溜まっている部分が、首と後頭部の境目なのだ。ここには自分でも本当に忘れているメモ書きや、カビの生えたみかんなどが詰め込まれている。もう期限の切れたものや、間違いが正されることなく提出もされていなかったさまざまが変な形で固められている。だからなのか、私はいつも首と肩が凝っている。

「毎日同じ時間、同じところへ通うのは私の人生ではない」と信じ込んでいたし、周りの大人たちからも「あなたは通いに向いていない」と言われていたので、2年前の春から毎日今のところ遅刻もせず通っていることが不思議だ。奇跡であるし、これまで思い込んでいただけでもあったのか。33歳になってからやっと知ることが沢山ある。

月火水木とざぶざぶクロールするように働いてみれば、週末は水面のように輝く。
週末のうち1日を家事に充てられると、次の週も調子がよくなる。掃除洗濯料理をはじめとする生活全般にほとんど興味がなかったが、日曜日にポッドキャストを聴きながら皿を洗ってみたり、部屋を片付けたり、なんとなく料理をしてみたりするのは案外気持ちが落ち着くのだと、やっと分かってきた。

8月31日、この日曜日は10時ごろに起き、寝具の洗濯などをして、ずっとソファの上でネットショッピングばかりしていた。この体勢でいるとより肩が凝る。
Qoo10のメガ割で焦りながらも商品をカートに入れる。化粧水がもうなくなりそうなので、韓国コスメに詳しいインフルエンサーがいいと言っているシャバシャバ系のものを一本、落ちない口紅の小さいサイズ2本セットを思い切って2セット、寝ている間に使うリップクリーム、一枚59円のフェイスマスクを30枚。

私はいつもインスタグラムの細長い画面に写った誰かに憧れ続けている。心からほかの誰かになりたい訳ではないのだが、同時にいつもこの私ではない私になれないかと思ってばかりいる。なので、私以外の誰かが力強く「良い」と言っているものをころりと信じてしまう。誰かに「良い」と言われたい。これは承認欲求に間違いないのだけれど、良いと言われたさで動いてみて初めて腑に落ちる生活の実感もあるのだ。私はまだまだ、変化している。この先も、きっとずっとこういうことだらけなのだろう。
メガ割のクーポンを3枚使い切ったら、なんだか満足した。同じ時間に電車に乗って、同じ場所に通って、フィルター越しの顔しか知らないインフルエンサーのおすすめ通りに買った化粧品を顔に塗る。明日はもっと、憧れられる私に近づけるのかもしれない。

石山蓮華

電線愛好家。日本電線工業会公認・電線アンバサダー。TBSラジオ「こねくと」メインパーソナリティ。 テレビ番組「タモリ倶楽部」や、俳優として舞台「神谷圭介と石山蓮華<偏愛>」、ドラマ「日常の絶景」などに出演。文筆家としての著書に『犬もどき読書日記』(晶文社)、『電線の恋人』(平凡社)がある。

TBSラジオ「こねくと」
毎週月曜から木曜 14:00 – 16:50 生放送中

Website

関連する人物

Support us

me and you little magazineは、今後も継続してコンテンツをお届けしていくために、読者のみなさまからサポートをいただきながら運営していきます。いただいたお金は、新しい記事をつくるために大切に使ってまいります。雑誌を購入するような感覚で、サポートしていただけたらうれしいです。詳しくはこちら

*「任意の金額」でサポートしていただける方は、遷移先で金額を指定していただくことができます。

newsletter

me and youの竹中万季と野村由芽が、日々の対話や記録と記憶、課題に思っていること、新しい場所の構想などをみなさまと共有していくお便り「me and youからのmessage in a bottle」を隔週金曜日に配信しています。

me and you shop

me and youが発行している小さな本や、トートバッグやステッカーなどの小物を販売しています。
売上の一部は、パレスチナと能登半島地震の被災地に寄付します。

※寄付先は予告なく変更になる可能性がございますので、ご了承ください。

shopを見る