猫が必要だ。青白く光る画面を指でなぞるたび、めくるめく猫たちが目の前を通り過ぎ、心を揺らす。朝から寝ぼけ眼で猫の里親募集サイトを彷徨っている。ロンドンでの生活が落ち着き始め、今後もこの街に住み続けることが決まったため、猫との時間をようやく検討できるようになった。ここまで二年かかった。月のかけらでできた目、やわらかくほとんど餅のように伸びていきそうな肢体。肌寒い日には横たわる人間の足のあいだに丸まり、憂いをそっと溶かし、ときに思いもよらないユーモアで笑わせてくれる存在が、ただそこにいる日々が恋しい。
あるサイトでは10ポンドから1500ポンドまで値がつけられていた。その終わりのないページを眺めていると、これだけの猫が新しい家族を求めている現実と、血統や見た目で決められる「価値」なるものについて思いが及び、気持ちに影が差してブラウザを閉じた。
眠る直前に投稿した動画の通知を見ると、アーティスト本人にリポストされていた。Spotifyで偶然知って気になっていたベルリンのコンポーザーがロンドンに来ていたので、昨夜ひとりで踊りに行ったのだ。到着した頃には既に音が鳴り始めていて、カウンターでビールを頼みたい喉の渇きよりも好きな音楽を一秒も逃したくない気持ちが勝り、誰の目も気にせず、ただただ自分と踊った。
「いつもひとりでどこへでも行ってしまうね」と友人に指摘されたことがある。確かにそうかもしれない。だけど時々、こうして誰でもない自分と出掛けることがやめられない。音楽の好みはかなり偏っているほうだと思うし、気に入らない曲を聴くのは耐えられずすぐにその場を離れたくなってしまうけれど、この日は最初の数秒で身体が反応する音楽に出会えたからか、酒の一滴も飲んでいないのに心と身体がどんどん軽く、不思議なほどなめらかに動き、指先ひとつひとつまで自分だけのものだと疑いなく確信できた。そうしてひとしきり汗をかき、音が止み、乾き切った喉にようやくビールを流し込むと、自然に足が家へと向かう。とても軽く軽く。胸のあたりが温かく満ち、生きることそのものの証明のように感じられた。自分の思うままに歩き、踊り、帰る。完璧な夜。
そんな記憶の中にしばらく引き戻されたあと、ぐいと起き上がって、平日のあいだ置き去りにした色々を一気に片付けた。午後の予定まで時間があったのでアラームもかけずにうたた寝をしたら、気づけば15時。慌てて支度をして家を出る。ロンドンで最も美しい季節は完全に去ってしまったけれど、地面に積もる落ち葉を踏みしめるたびに立ちのぼる、甘く湿ったにおいが心地よく、こんな秋晴れの日は悪くない。


