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同じ日の日記

未来に向けた過去の記録/小川紗良

会社の代表1年生として講習を受け、『母の友』『AERA』の取材へ

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2023年4月は、2023年4月14日(金)の日記を集めました。文筆家・映像作家として活動し、今年創作の拠点として「とおまわり」を立ち上げた小川紗良さんの日記です。

何度か日記を書こうとしたことはあるけれど、続いたことはない。1ページでも、1行でも、特別な日でも、平凡な日でも。日々の詳細を書き記し、残し、振り返るということが、きっとあまり得意ではない。「紗良は未来志向だね」と、友達から言われたことがある。もし本当にそうだとしたら、日記を書けないのはそのせいなのかもしれない。確かに私の頭の中は、これから「やりたいこと」と「やるべきこと」でいっぱいで、すでに「やり遂げた」ことや「やってしまった」ことへの関心はそれほど強くない。私が過去に関心を持つとしたら、それを踏まえて未来を考えることと必ずセットだ。

言い訳が長くなったが、そんなこんなで「4月14日の日記」を依頼されてから、ちょっとだけ意識的に4月14日を過ごし、そのままふわふわと時が過ぎて、5月14日を迎えている。これは、過去にあまりとらわれない私が、思考を巡らせ1ヶ月前のことを思い出し、せっかくならばそれを踏まえてこれからのことを考える、そんな日記だ。あのとき私、何してたっけ?

そうそう、4月14日は大学で一番仲の良かった女の子の誕生日だ。午前0時をまわってすぐに、サークルのグループLINEが動く。おめでとう!……といっても彼女は今フランスにいて、まだ向こうは前日の夕方5時である。向こうでは26歳、こちらでは27歳の彼女に、祝福の言葉が飛び交う。同じ時に存在しながら、違う時を生きている不思議。彼女がフランスへ留学に行って、もう3年になる。つまりこのコロナ禍とぴったり重なるわけだが、そんな中でもたくましく異国で暮らしている姿に、いつも感心してしまう。去年までは、誕生日に日本から贈り物をしていた。海を超えてプレゼントを贈るというロマンに駆られているところもあったのだが、やはり時間と送料がとてもかかること、そして向こうの配達システムは日本ほど整っておらず、相手が受け取るのも一苦労ということを学んだ。幸い、今年は久しぶりに彼女が日本に帰ってくる予定だ。その時に何を渡そうか、今からわくわくしている。

友達を祝って、眠りについて、起きて。この日の午前はとある講習を受けていた。というのも、私はこの3月に創作の新たな拠点として会社を立ち上げたばかりなのだ。あんまり大きな声で言っていないけど、26歳、会社の代表1年生。1年生が色々手続きをするために、受けることを推奨されている講座がいくつかある。この日のテーマは「販路開拓」。マーケティングやらプロモーションやら、ビジネスの基本が右から左へ流れていく。これは会社を立ち上げて改めて痛感したことだが、この世は経済成長を前提に、様々な競争のもと成り立っている。「あなたの会社が他社より優っているところはどこですか?」「物事をどれだけ効率的にできますか?」「それは早くて安くて簡単ですか?」そんな問いかけを浴び続けるうちにうんざりして、ぼんやり空とか眺めたくなる。成長より成熟を、競争より共生を目指して、「とおまわり」なんて名前を掲げている場合ではないのか。これが資本主義かぁ……と思わず肩を落としたくなるけれど、この社会の歯車でどうにか「ときめき」を見出し、生き延びる術を考えたい。そのための会社ではないか、と再び奮い立つ。私は未来志向かもしれないけれど、ビジネス的な観点での計画性はめっぽう弱い。いつかもう少し余裕ができたら、私の代わりにその辺を考えてくれる人を隣に置くべきかもしれない。

ランチに野菜がたっぷり添えられた、大豆ミートのそぼろごはんを食べた。この日唯一撮った写真なので貼っておく。見た目からして、心と体に優しい。私はビーガンではないけれど、時々ビーガンのお店で食事をする。ビーガン料理は食材や調理法にこだわり、食を大切にする気持ちが細やかなところまで行き届いていると感じることが多いからだ。美味しさとは、心遣いである。

午後、取材がふたつ控えていた。ひとつは福音館書店の『母の友』、もうひとつが朝日新聞出版の『AERA』。なんとどちらも好きな本を3冊紹介するという内容で、重みのある鞄を抱えながらまずは巣鴨を訪れる。

福音館書店、私は一方的にとてもお世話になった出版社だ。なんてったって『こどものとも』である。幼いころに実家で定期購読していて、私の情緒は『こどものとも』の絵本によって作られたと言っても過言ではない。今回の取材を受けたのは『母の友』だったが、私の思いを伝えたところ、編集部の人が『こどものとも』の会議室へ案内してくれた。いかにも老舗出版社という風格のあるデスクや書庫を横目に、ドキドキしながら扉をたたく。会議中にもかかわらず、にこやかに迎えてくれた編集長の柔らかな人格が、ひと目見た瞬間に伝わってくる。それを囲む編集者の方々も、ひとりひとり前向きなエネルギーを放っている。ああ、こんなに愛のある人たちが、ここであの素晴らしい月刊絵本を生み出しているのかと思うと、ちょっと泣きそうになった。『こどものとも』の中でも、特に強烈に私の記憶に刻まれている『つちのひと』という作品を挙げると、「あー、つちのひとね!」と感嘆の声があがる。『つちのひと』の話で盛り上がれたことなんて初めてだ。しかも、その編集部の人たちと。こんなに嬉しいことはない。ぜひ今度は私の方から、『こどものとも』の編集部を取材させて欲しいと申し出る。ちゃんと実現できるように、動かねば。本題の『母の友』の方は初めて読んだのだが、これも血の通った素晴らしい雑誌だった。この時代にあえて「母」というタイトルを掲げ続ける訳から始まる、わたしたちのための1冊。取材内容はそのうち紙面に載るので、ぜひ「母」たちはもちろんそうでない人にも手に取っていただきたい。

福音館書店でさらにお土産の本をいただき、より重みを増した鞄を抱えて今度は築地へ。『AERA』本誌への掲載は初めてだったが、ウェブマガジンや、その他週刊誌では度々取材を受けており、朝日新聞出版は私の中で親しみのある出版社だ。久しぶりに訪れるとフロアが改装されていて、案内された会議室はモノトーンで統一されたスタイリッシュな空間だった。好きな本と映画の話をして、写真を撮って、帰り際にさりげなく「このインタビュー企画、他にどんな方が受けてるんですか?」と聞いてみる。するとまずは劇団ひとりさん、そしてサカナクションの山口一郎さんだという。その並びに私?! と急に恐縮してしまったが、何かの琴線に触れて私を選び、親身に話を聞いてくださった編集部の方に感謝だ。後日、掲載された『AERA』が事務所に送られてきて、そこには編集者さんから手書きのメッセージが添えられていた。週刊誌の編集なんてめちゃくちゃ忙しいだろうに……その心遣いに感激した。誌面を開くと、本当に劇団ひとりさんと、山口一郎さんと、私が並んでいて、不思議な光景だった。

そんなふうに私は4月14日のやるべきことをやり遂げ、家に帰って、思い出せないけれど何かしらご飯を作って食べたと思う。講習は疲れたが、その後の取材では良い人たちとめぐり逢い、重い鞄を吊るし続けた右肩にも充実感があった。大して特別なことはない1日だと感じていたが、こうして振り返ってみると、それなりに思いをめぐらせていたなぁ、と思う。そんな過去を踏まえて、これからやりたいことが見えてきた。友達が帰国するまでにプレゼントを選ぶこと。私とは違う視点で、未来を見据えてくれる仲間をいつか見つけること。大好きな『こどものとも』の取材を実現させること。忙しい時でも、心遣いを忘れないこと。肩こりをどうにかすること。美味しいご飯を食べること。

小川紗良

文筆家・映像作家。1996年東京生まれ。
文筆家としては小説『海辺の金魚』(2021)、フォトエッセイ『猫にまたたび』(2021)を手がけるほか、雑誌やウェブメディアに多数寄稿している。映像作家として初の長編監督作である『海辺の金魚』(2021)が韓国・全州国際映画祭にノミネートされ、その後全国の劇場で公開した。2023年からはJ-WAVE「ACROSS THE SKY」にてラジオパーソナリティを務めている。

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