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山崎まどか&はらだ有彩が選ぶ、ネリー・カプランと一緒に楽しみたい本・漫画・音楽

「おもしろかった」も「つまらなかった」も自分の経験として受け入れる作品との向き合い方

1931年ブエノスアイレス生まれの映画監督・ネリー・カプラン。日本初公開の4作品が集められた特集上映「ネリーに気をつけろ!ネリー・カプラン レトロスペクティヴ」が2025年末に開幕しました。保守的な社会で除け者にされる女性の予想外の復讐を描く『海賊のフィアンセ』をはじめ、これまでの映画史で見落とされてきた作品世界の魅力を再評価するべく、前編では山崎まどかさんとはらだ有彩さんの対談を実施しました。

この後編の記事では、ネリー作品に出会う人が今後ますます増えることを願って、彼女の作品とあわせて楽しみたい作家の本や漫画を二人が紹介していきます。最後には、ネリー・カプランのように、まだ評価の行き渡っていない作品と出会うときの心がまえについても話しました。誰かの評価だけを頼るのではなく、「おもしろかった」ことも「つまらなかった」ことも自分の経験として受け入れるような、作品との向き合い方とは。

ジャック・リヴェット『ノロワ』:ベルナデッド・ラフォンの魔術的なかっこよさを味わう

まずは、山崎まどかさんが選んだ作品について。代表作『海賊のフィアンセ』から連想した2作品を紹介していただきました。

山崎:ネリー・カプランは誰にも似ていないという話をしたばかりだったので、なかなか無茶なお題だなと思ったんですけれど……(笑)。『海賊のフィアンセ』の主演であるベルナデット・ラフォンが、まさに海賊のリーダーを演じている別の作品があるんです。ジャック・リヴェット『ノロワ』(1976年)という映画なのですが、彼女がショッキングピンクのレザーの上下なんかを着ていて、もう見た目からかっこいい。部下が裏切りを働いたときに、「お前は月をほしがった。代わりに太陽をやろう」というようなことを言って、魔術でその部下を殺してしまうシーンなんかもあって、ベルナデット・ラフォンという女優のかっこよさを味わえる作品です。

2022年に開催された「ジャック・リヴェット映画祭」予告編より

ジャン・ルノワール『黄金の馬車』:ほしかったものを捨て去る女性たち

山崎:続いて、ジャン・ルノワールの『黄金の馬車』(1953年)という作品もおすすめしたいです。アンナ・マニャーニという女優が、仮面劇の巡業一座の貧しい役者を演じているのですが、ほしかったものの象徴だった「黄金の馬車」を献上してしまうというラストシーンがあるんですね。『海賊のフィアンセ』のマリーが、ほしいものを手に入れた後、最後に村をめちゃくちゃにして去っていきますが、そのときに金色のハイヒールを履いていた。マリーは最終的に、そのハイヒールを脱ぎ捨てていきます。ほしいものの象徴を捨て去ってしまうという二人の女性が、どこか重なって見えるんです。『黄金の馬車』はすごくいい作品だし、ネリー・カプランをおもしろいと思った人に観てもらいたい気持ちがありますね。

ネリー・カプラン『海賊のフィアンセ』©1969 Cythère films – Paris

美内すずえ『ダイナマイト・みるく・パイ』:かつての日本の少女漫画にも通じる「トゥーマッチ」な魅力

前編のインタビューでも話が盛り上がった、ネリー・カプランの『パパ・プティ・バトー』。富豪の娘が誘拐犯にコミカルかつ聡明に立ち回る姿は、日本のかつての少女漫画のヒロインを彷彿させると話します。

山崎:『パパ・プティ・バトー』から連想したのは、美内すずえさんの漫画『ダイナマイト・みるく・パイ』(1982年)。剣道の達人かつ、ケーキが大好きみたいな女の子が主人公。お金持ちの少女に顔が似てることから誘拐の身代わりになってしまうのですが、その誘拐団に対して大立ち回りをするギャグマンガです。『パパ・プティ・バトー』の「トゥーマッチさ」のようなものは、70〜80年代頃の少女マンガにすごく合っていると思っていて、日本のその時代のマンガ文化に触れている人にとってはむしろ馴染みがいいんじゃないかなと思います。

『パパ・プティ・バトー』©1971 Cythère films – Paris

ルイーザ・メイ・オルコット『仮面の陰に あるいは女の力』:『若草物語』著者の別名義作品

小説からも一冊。『若草物語』で有名なルイーザ・メイ・オルコットが、別名義で書いていた作品との、ネリー・カプラン作品との親和性について語ります。

山崎:『若草物語』で有名なルイーザ・メイ・オルコットは、家族の生活を支えるために、扇情的な作品を別名義でたくさん書いていたんですよね。それが近年、掘り起こされています。『ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱』というドラマシリーズでは、ゾーシャ・マメットという俳優がオルコット役で出演していて、「怪奇は金になるよ!」「あれはめっちゃうけるから!」などとしか言わないオルコット像が出てきてすごく新鮮だったのですが(笑)。

そんなオルコットの別名義の作品で、日本で唯一翻訳されているのが『仮面の陰に あるいは女の力』(訳:大串尚代、発行:幻戯書房/2021年)。これはもう、オルコットがノリノリで書いているのが伝わる作品です。おそらく、シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』(1847年)が当時流行したことを踏まえて書かれた作品なんですよ。貧しい家庭教師がある家庭に入るところまでは『ジェーン・エア』と同じなのですが、『仮面の陰に あるいは女の力』では、その家庭教師が家の人たちを全員たらしこんで、ほしいものを奪っていく。最後の最後までケレン味たっぷりで、でも妙にパワフル。その様子が、ネリー・カプランっぽいかなと思いました。

イヴ・バビッツ『ブラック・スワンズ』:イットガールの自由で文学的な短編集

最後にセレクトしたのは、「ハリウッドのイットガール」とも名高い、イヴ・バビッツによる短編集。

山崎:自画自賛になってしまうのですが……2025年に翻訳を担当したイヴ・バビッツ『ブラック・スワンズ』(訳:山崎まどか、発行:左右社/2025年)という本を最後に。イヴは 70年代から90年代にかけて、ロサンゼルスのパーティーガールとして知られているんですよね。たとえばドアーズのジム・モリソンの彼女だったとか、無名時代のハリソン・フォードの恋人だったというような言われ方をしたり、ポップカルチャー誌に登場していたりする存在。

彼女の書いたものがめちゃくちゃおもしろくて、それが2000年代、2010年代に再評価されたんです。『ブラック・スワンズ』は彼女の経験から紡ぎ出した短編小説で、ロサンゼルスの不良っぽい男女が出てくるのですが、実際にあったことだとしか思えないような筆致なんです。ざっくばらんな文章なんだけど、本当に独特で美しい。文学的にも驚くようなフレーズがあります。

恋愛至上主義で、美しい男女が大好きで、両性愛者だった彼女は、ロマンティックなところと冷めた気持ち、辛辣な感覚の両方を持っていた人だと思います。彼女もネリー・カプラン同様、第二波フェミニズム時代にはあまり受け入れられなかった人でもあります。すごく自由な感じがするという点や、今改めて見出された女性の作家という意味でも、通じ合うものがあるように感じています。

『ブラック・スワンズ』(著:イヴ・バビッツ、訳:山崎まどか、発行:左右社/2025年)

ジャッキー・フレミング『問題だらけの女性たち』ほか:女性の怒りの理由がわかる作品

ここからは、はらだ有彩さんによるおすすめ作品の紹介です。はらださんは、「ある基準」をもうけて作品を選んだといいます。

(※この会話では性暴力について話しています。また、このあと紹介する『“女は自衛しろ”というならば――女性による反撃は正当か?』『女盗賊プーラン』にも性暴力の描写があります。)

はらだ:わたしはネリー・カプランとあわせて紹介したい作品を選ぶにあたって、「怒りの理由がわかるもの」と、「怒りの理由がわからないもの」の二本立てで持ってきました。

まず、怒りの理由がわかるほうから。松田青子さんが訳されているジャッキー・フレミングの『問題だらけの女性たち』(発行:河出書房新社/2018年)は、女性差別の歴史をあえて過度にコミカルに紹介しています。『海賊のフィアンセ』のマリーの村の状況を再確認する手助けにもなるし、怒りとユーモアが同居しているところもマリーに通じると思いました。

あとは、エリザベス・フロックの『“女は自衛しろ”というならば――女性による反撃は正当か?』(訳:西川美樹、解説:吉田恵里香、 発行:明石書店/2025年)。これは、アメリカで自分をレイプした男性を銃殺した女性、女性メンバーのみで構成された自警団をつくったインドの女性、シリアで戦闘員として戦っていた女性といった人々のルポルタージュです。「自分の身を自分で守れ」と言うけれども、いざ女性が反撃したときに周りがどう反応するのか? ということも含めて、ネリー・カプランの作品を観た人と一緒に考えたい。

インドつながりで『女盗賊プーラン』(著:プーラン・デヴィ、訳:武者圭子、発行:草思社/1997年)と、『今昔物語集』巻第二十三に収録されている「尾張国女取返細畳語」も挙げたいです。どちらも、一度は社会構造上軽んじられることを受け入れるしかない立場に立たされたのちに、自らの「暴力性」を使って反撃した女性です。尾張国女の台詞に「何の故に諸の人、我を掕じ蔑るぞ」つまり「なんでどいつもこいつも私のことを軽んじてくるの?」という言葉があります。なぜ彼女たちが怒る羽目になっているのかという因果関係について考えるきっかけになると思います。

わたしは女性の怒りについて書くときにすごく葛藤があるんです。その葛藤というのは、まず、好きで怒っているわけではなくて、怒らされているという話をしなくてはならないこと。それと同時に、怒っている彼女の人生が、怒ることしかできなかった不幸な人生かというと、そうではないはずだということ。たとえば、17世紀のイタリアの画家アルテミジア・ジェンティレスキは、〈ホロフェルネスの首を斬るユディト〉など、怒りに満ちた女性が男性を殺す題材を描いています。この画家の話をする際に、アルテミジアが絵の師匠であった男性から強姦され、訴訟するも周囲からセカンドレイプを受けたという出来事を無視することはできません。同時に、作品と被害が必ずセットで語られざるを得ない葛藤もある。その話をしないわけにはいかないけれど、ずっとセットでしか語られないことも嫌だなと思っているんです。

シルビナ・オカンポ『蛇口 オカンポ短編選』ほか:女性の怒りの理由がわからない作品

「怒りの理由がわかるもの」の次は、「怒りの理由がわからないもの」という視点で、作品を紹介していきます。

はらだ:アルゼンチン生まれの作家、シルビナ・オカンポの『蛇口 オカンポ短編選』(訳:松本健二、発行:東宣出版/2021年)。ネリーよりは数十歳年上だと思いますが(1903年生まれ)、ジェンダーやセックスについての社会規範の理が、シルビナの作った法則によって書き換えられて、めちゃくちゃになる感覚に、ネリーと近いものを感じます。同じくアルゼンチン出身の作家で、レオノール・フィニ(1907年生まれ)という画家がいるのですが、彼女はエキセントリックで残虐で、セックスにもオープンでイニシアチブを持つ女性像をたくさん描いています。フィニも作品世界のなかに自分の操作する世界の法則を持たせていて、その確からしさで現実世界の社会規範を覆しているように思います。

山崎:確かにネリー・カプランの作品は、南米の女性作家たちのどこか変な小説に似ていますね。はらださんに言われてそう思いました。

はらだ:うん、前回話していた「既存の世界線Aを破壊して、奇妙な世界線Bをつくっちゃう」ようなところが似ていると感じます。

山崎:たとえばアルゼンチンの小説家のマリアーナ・エンリケスや、ブラジルのクラリッセ・リスペクトールとも通じるものがある。どこか奇妙でシュールな作品を書く南米の女性作家たちとネリー・カプランで、あわせて書店でフェアをしてほしいぐらい……。わたしも(シルビナ・)オカンポ、大好きです。

はらだ:フェア、してほしすぎる! あとは、さきほどまどかさんが挙げた美内すずえと少し重なるのですが、坂東江利子さんの『あーらもったいない!』(1981年)という漫画も一緒に挙げたいです。この作品は、異常なまでにケチな女子高校生が主人公で、もったいない状況を見ると卒倒するという設定なんですよ。その主人公が、親やクラスメート、好きな人に、めちゃくちゃ節約を強いるというラブコメ……。これらの作品はすべて、主人公の怒りの理由は親切丁寧に描かれてはいないんだけど、明らかに既存の社会規範をよしとはしていなくて、結果的には世界を書き換えているというシリーズとして紹介しました。最後に『パパ・プティ・バトー』の主人公・クッキー嬢のテーマソングとして、ジューシィ・フルーツ『ジェニーはご機嫌ななめ』を挙げて終わりにします。

新しい作品に出会うときに、おもしろさの入り口のようなものがたくさんあるといい

今回の「ネリーに気をつけろ! ネリー・カプラン レトロスペクティヴ」は、4作品すべてが日本初公開。これまで知られていなかった作家や作品を届けたり、出会ったりするときの難しさと喜びについて、最後に語り合いました。

山崎:まず作品の宣伝は、間口が広いほうがいいと思います。ミランダ・ジュライが昔、インタビューで答えてくれたことをよく思い出すんです。ミランダは自分が本を出すときに、プロモーションのためにすごくかわいいビデオやサイトをつくるんですよね。それがすごくよかったと伝えたら、「知らない人のパーティーに行くときは、強く誘ってほしい」という言われ方をしたんですよ。ちょっと強引なぐらいまでに、「ぜひとも来てほしい」「来てくれないと嫌だ」ぐらいの気持ちがあるって。そんなこともあって、わたし自身にも映画や小説に出会うときには、ただ間口を広げるだけじゃなくて、ちょっと騙すぐらいの気持ちで誘惑してほしいという思いがあります。

はらだ:手前味噌ですが、最近わたしが出した『帰りに牛乳買ってきて』も一見、女ふたりののんびり二人暮らしをゆるゆる描いた気軽なマンガとして手に取ってもらいつつ、最終的には「普通」や社会規範について一緒に考えてもらおうというコンセプトなんです。

今回の特集上映では、宣伝で「ネリーに気をつけろ!」って言われて観に行って、観終わった後に「ふっ……騙されたな……気をつけても無駄だ!」って言われたいですね(笑)。

『帰りに牛乳買ってきて』(著:はらだ有彩、発行:柏書房、2025年)

山崎:言葉は悪いけど、宣伝で少し騙されて、「え、何……?」って一回怒りつつも、「でもおもしろかった」とか、「おもしろくなかったけど、新しいものに出会った」というふうになることも大事ですよね。評判のよい作品がすべて、必ずしもすべて自分と合うわけでもない。合わなくても、合わなかったなっていう体験を楽しんでもらいたいとも思うし。作家の武田百合子が、つまらなかった映画を観た経験をおもしろいエッセイにしますよね。

今の時代は、失敗しちゃいけないっていう気持ちがすごくあると思います。名作じゃないからダメだったというふうに思うかもしれないけれど、けしてそんなことはなくて。おもしろさの入り口のようなものが、たくさんあるといいなというふうに思っています。

山崎まどか

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。

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はらだ有彩

テキスト、テキスタイル、イラストを作るテキストレーター。著書に『日本のヤバい女の子』(柏書房/角川文庫)、『百女百様』(内外出版社)、『女ともだち』(大和書房)、『ダメじゃないんじゃないんじゃない』(角川書店)、『「烈女」の一生』(小学館)、『帰りに牛乳買ってきて』(柏書房)。

and you

「ネリーに気をつけろ! ネリー・カプラン レトロスペクティヴ」

Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下では、好評につき1月23日(金)よりアンコール上映予定!
その他、全国順次公開中。
詳細は各劇場の公式サイトをご確認ください。

〈上映作品〉
『海賊のフィアンセ』 
『パパ・プティ・バトー』 
『シャルルとリュシー』 
『愛の喜びは』 
※すべて国内劇場初公開

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