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同じ日の日記

なんーも特別な人間じゃないわたしの、ちょっとだけ特別な一日の日記/中島梓織

自動ドアは、俳優のことも、商店街を歩く人たちのことも、平等に認識する

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。
2025年6月は、6月18日(水)の日記を集めました。劇作家、演出家、俳優、そしてワークショップファシリテーターとして活動し、8月29日から新作公演『われわれなりのロマンティック』を上演する劇団いいへんじの主宰でもある、中島梓織さんの日記です。

「別に僕、なんーも特別な人間じゃないんですよ、チャリでここ来て働いて、チャリで帰ってお風呂入って寝て、明日の朝、このパン焼いて食べるんです、たまには恋愛だってするし」
「その相手がたまたま男性なだけなんです、ただ」

2025年6月18日に初日を迎えた、演劇ユニット「宝宝」の公演『みどりの栞、挟んでおく』の台詞です。わたしはこの公演で脚本と演出を担当しました。
ゲイである宝良が、立場の異なる相手に対して、勇気を出して自分を差し出す。それまで逃げてばかりだった彼にとっては、ちょっとだけ特別なワンシーン。
(逃げることは必ずしも悪いことではないけどね)

おなじく、なんーも特別な人間じゃないわたしの、ちょっとだけ特別な一日の日記をここに記します。

梅雨とは思えない晴天が続いていた。
この日も朝から気温が高く、すっかり生ぬるくなった冷却ジェル枕の上で、何度寝かしてから起きた。

昨日の一言日記を書く。天気のスタンプと気分のスタンプと一言。6月17日は、晴れ、笑顔、「場当たりもゲネもFB(フィードバック)もがんばった! わたしの仕事はほぼ終わり!」
そして、ノート1ページ分のジャーナリング。こちらには、ここには書けないようなことを。

レトルトのハヤシライスと冷凍ごはんを温めて食べる。
最近の朝ごはんは、ハヤシライスか、カレーか、お茶漬けのローテーション。
食後に気分安定剤と抗不安薬と漢方を飲んだ。

洗濯をして、メイクをする。
伸びかけの髪がうっとうしかったので、久しぶりにハーフアップにした。

二時間だけリモートで働く。
一週間ぶりの稼働なので、確認事項がだいぶ溜まっていた。
いまの職場は、基本的にはシフト制なのだが、演劇や映像の仕事をしている人も多く理解があり、急に休ませてもらったり逆に働かせてもらったりしている。ありがたい。

日傘とサングラスとネッククーラーの万全の態勢で家を出た。

都議会議員選挙の期日前投票に行く。
いつも行く期日前投票所は坂の上にある。自販機で買った麦茶がしみる。
「生きづらさを抱えるための人の政治」を掲げ、ただ掲げるだけではなく、きちんと実績を残している候補に投票した。
そういう候補がいることは救いである。

その足で中野に向かい、水性に小屋入り。
宝宝2かいめ『みどりの栞、挟んでおく』の公演初日。

今回は、出演者の大島萌さんのお子さんである双子たちと一緒に小屋入りをしている。
マチソワ間に一緒にごはんを食べたり、終演後は「声の出演」のご本人として登場してくれたりしている。
開演の準備中、しゃりもにグミをもらった。
二人には、けっこう前から、わたしがよくしゃりもにグミを食べていることがバレている。

無事に初日が開けた。あたたかい拍手をいただいて安堵する。
わたしは、客席の一番後ろの一番端、ガラス張りのすぐそばの、街に一番近いところで上演を見守っていた。
ここで起こっていることを、気にしているのかしていないのかわからない、それでもたしかにこの街に存在している人々を眺めながら。
今回は、会場の自動ドアを劇中の演出でも使っている。自動ドアは、俳優のことも、商店街を歩く人たちのことも、平等に認識する。

なんーも特別な人間じゃないわたしの、ちょっとだけ特別な一日の日記/中島梓織

座組のみんなで持ち寄った本を舞台美術として使っていた

帰宅して、ファミリーマートで買ったビャンビャン麺を食べる。
漢字がすごいやつ。

オンラインで、主宰している劇団・いいへんじの次回公演『われわれなりのロマンティック』の舞台美術の打ち合わせ。
前回の打ち合わせからよりパワーアップしたアイデアにわくわくした。

お風呂に入って、アイスを食べる。
すべてから解放されていい気分だったので、HANAの曲をノリノリで歌っていたら、同居人にちょっと怒られた。

キンキンの冷却ジェル枕を携え、布団に入って、だらだらスマホを見る。
選択的夫婦別姓は今国会でも見送りになった。

いつのまにか2:30になっていた。
ドコムスの雑談配信を垂れ流しにして、ちいかわのうさぎのぬいぐるみを抱いて寝た。

演劇を始めて12年、劇団を始めて9年になります。
ありがたいことに、いまも演劇を続けられていて、賞をいただいたり、劇場の企画に選出していただいたり、(身に余る言葉ですが)「新進気鋭の劇作家」などと紹介していただくこともあります。
一方で、女性であることや、双極性障害を公表していることで、いわゆるマイノリティの代弁者として期待されることもあります。

もちろん、いい作品を作り続けたいし、自分なりの方法で、この生きづらい社会に抵抗したいという気持ちはあるのですが、ときどき、ふつうに嫌になっちゃうときもあります。
属性や肩書きに縛られて、なんでもない中島梓織ではいられない感覚。別にわたし、なんーも特別な人間じゃないんですよ。

かくいうわたしも、誰かを属性で判断したり、その人自身ではなく肩書きを評価したり、その人の生活を無視して役割を期待してしまうときがある。かもしれない、とかではなく、ある。
あるからしょうがないよね、とかではなく、それでもやっぱり、その人自身を尊重し、関わりを持てる人間でありたい。
毎朝、なんでもない自分で日記を書くたびに、思います。

『われわれなりのロマンティック』の宣伝になったらいいね、と、スタッフからそれこそ期待されていたのですが、めちゃくちゃ自分のことばかり書いてしまいました。

あわててそれらしいことを付け加えるならば、われロマに登場する人々も、なんーも特別な人間じゃないです。あなたとは異なる立場にあるかもしれない。でも、たしかにこの社会に存在しています。

中島梓織

劇作家・演出家・俳優・ワークショップファシリテーター。いいへんじ主宰。個人的な感覚や感情を問いの出発点とし言語化にこだわり続ける劇作と、くよくよ考えすぎてしまう人々の可笑しさと愛らしさを引き出す演出が特徴。創作過程における対話に重きを置いて活動している。

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MITAKA “Next” Selection 26th
いいへんじ『われわれなりのロマンティック』

作・演出:中島梓織

出演:小澤南穂子(いいへんじ)、小見朋生(譜面絵画)、川村瑞樹(果てとチーク)、藤家矢麻刀、百瀬葉、冨岡英香(もちもち/マチルダアパルトマン)、谷川清夏、奥山樹生、飯尾朋花(いいへんじ)

日程:2025年8月29日~2025年9月7日

会場:三鷹市芸術文化センター 星のホール

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