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同じ日の日記

『ボクらのホームパーティー』と「集まる」ことの大切さ/カナイフユキ

同じ/近いセクシュアリティを持つ人々と集まってただおしゃべりをする大切さ

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2022年7月は、2022年7月18日(月・祝)の日記を集めました。個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを掬いあげて提示することをモットーに、イラストレーターやコミック作家として活動するカナイフユキさんの日記です。

7月18日(月・祝)

この日は『レインボーリール(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)』で上映される映画を観るために、青山のスパイラルホールに出かけた。
前日も夜遅くまで外食をしていたので、起きるのが遅くなり、かなり適当に着る服を選んで、急いで家を出た。汗がすぐ乾くポリエステル製のTシャツと、似たような素材のスラックスを合わせて、髪型のことを考える時間がなかったので帽子をかぶった。

寝不足のせいもあるけれど、この頃はずっと頭がぼんやりしていた。
7月10日にあった参院選にまつわる色々なこと、その直前に起きた安倍晋三元総理の狙撃事件、そしてそこから明らかになった政界とカルト宗教との関わり……。ひとつひとつの出来事がただでさえとても衝撃的だったし、それが自分が感じてきた生きづらさとも深く関係しているのだとわかったことにもショックを受けた。
政治家によって性的少数者への差別的発言が繰り返され、同性婚も夫婦別姓も認められず、現実にそぐわない「伝統的家族観」の価値だけが強調される虚しさ……。それが本来政治とは結びついてはいけないはずの宗教(しかもカルト)の教えに支えられていたなんて。

何をどうしたら良いのか、自分はこの状況に対して何ができるのか。何もわからなくなってしまい、それで頭がぼんやりしていたのだった。

あの事件の直後のSNS(とくにTwitter)は、みんな何かに熱狂しているような調子で、見るのが辛かった。
自分も何かを求めて見ていたはずだけれど、なんだかほとんどの言葉がどこかの誰かの「熱狂」のために「燃料」として消費されているように感じて、何も頭に入ってこなかった。
5、6月と体調を崩して、7月は病み上がりという感じだったので、SNSとの距離自体がうまく掴めず、参院選に向けた有志の『投票ポスター2022』プロジェクトにも参加できなかったのが悔しかった。
 

スパイラルホールで観たのは『ボクらのホームパーティー』という映画だった。ポスターのイラストとデザインを担当した縁で招待してもらったのだ。
東京に暮らす7人のゲイ男性が集まってホームパーティーをするという内容で、彼らの不甲斐なさや生きづらさがどんどん露呈していく展開はおかしくもあり、切なくもある。監督はこの映画の制作をきっかけにゲイであることをカミングアウトしていて、当事者だからこそ描ける描写がたくさんあったように感じた。

ポスター制作のために何度か観たものの、大勢の観客と一緒に観るのは初めてで、笑い声やすすり泣く声などの反応があると、一人で観たときよりも楽しく、何倍もおもしろい作品に感じられた。
上映後にロビーでばったり会った友人も「おもしろかった。7人全員が自分に見える!」と楽しそうに言っていて、ポスターデザインとはいえ自分の関わった作品がいい反応をもらえたのが嬉しかった。

会場には出演者の方々もいて、少しお話をすることもできた。
その中のお一人が「役作りのために、新宿2丁目に飲みに行って人を観察したんですよ!」と話してくれたのだけれど、その方はかなりリアリティのある(つまり「こういうゲイの人いるなぁ」と思わせる)演技をしていたので、「あっ、実物はゲイじゃないんだ!」と驚くと同時に「俳優さんってすごいな」と改めて思わされた。

ゲイ役を演じた俳優のみなさんはゲイ当事者ではないと聞いて、色々と思うところはあった(できれば当事者に演じて欲しい、など……)けれど、今の日本でゲイ役を演じられるゲイ当事者を7人集めるのは難しいのだろうとも思った。いまだに偏見が根強い社会では、カミングアウトした上で俳優として活動することすら相当な覚悟がないとできないことだろう。世間の風潮や制度の変化を望みつつ、自分には何かできないかな……とここでもまた考えてしまった。
 

上映後、ロビーではちあわせた友人Aさんと、Aさんと僕の共通の友人であるBさんと、Bさんのパートナーと、4人でお茶をした。
暑かったので、すぐ近くにある青山ブックセンターの隣のビルのマクドナルドに入った。

Aさんはユニークな人で「やっぱりホームパーティー、しなきゃダメだね!」などと冗談めかして言っていたけれど、僕も似たようなことを考えていた。同じ/近いセクシュアリティを持つ人々と集まってただおしゃべりをするだけでも、励まし合えたり、普段人に言えないことを言えたりしてスッキリする。そのことは普段からゲイの友人と遊ぶ中で実感しているし、彼らの存在には本当に感謝している。コロナ禍でなかなか集まれないからこそ、「集まる」ことの大切さも身にしみる(そういう意味では、このお茶の席も十分にエンパワリングなのであった)。

話は盛り上がり、ゲイの男性として、いわゆる「有害な男性性」と距離を置きつつ、どうやって年を重ねていくべきかという話題になった。お手本が少ないから、どうしてもステレオタイプに寄って行ってしまう。でもそれで良いのかという話になり、明確な答えは出なかった。
 

加齢の話の流れで、僕が5、6月に体調を崩す原因となった過労の話と絡めて、この先イラストレーターやアーティストとしての活動を続けていくこと自体に不安を感じる、やめたいと思うときもあると話したところ、Aさんにこんなことを言われて、うっかり泣きそうになってしまった。

「カナイくんがたとえば、5年間活動を休んだとしても、待つよ。
5年後に『あ、戻ってきてくれたんだ』って思ってくれる人は、たくさんいると思うよ。
いままで積み上げてきたものがあるから」

そうか、自分は今まで「自分なんか、休んだら忘れられてしまうんじゃないか」という怖れを感じていて、稼働し続けることを最優先にして、休むことや、良い意味で力を抜くことがどうしてもできなかったのだと改めてわかった。休みたいときは休んでいいし、本当にやめたいときはやめてもいいのだと思えて、少し気が楽になった。

最近気がついたのだけれど、僕はこれまで生きてきた中で、自信や自尊心をへし折られる機会があまりに多く、「自信や自尊心を持たない方が楽」という考え方がいつの間にか身についてしまった節がある。そのせいで、不幸な状況に自分を追い込んで、つらいつらいと言いながら、つらい状況にいることに安心しているところがある。まるでマゾヒストのように、傷ついた方が安心するという思考回路なのだ。
Aさんとの会話を通して、自分を卑下していじめるのは、応援してくれる人に対して失礼かもしれないと思うに至った。健康的に、自分を大切にして、活動を長続きさせたい。
 

Aさんは、仕事の関係で政治家や政治団体と関わる機会が時々あるらしい。
最近明らかになった政界とカルト宗教との関係の話になると、「たぶん、付き合いとか慣例とかで、なし崩し的に宗教が入り込んでくることが多いんだと思う。だから、日本のあちこちに女性蔑視や同性愛嫌悪が満ちているというわけじゃないから、その点は心配しすぎない方がいい」と話してくれた。

その場ではなるほどと納得したけれど、今思い出すと、それは悪意のない差別がはびこっていて、それを問題視する人がいなくて、いたとしても煙たがられてしまう状況なんじゃないか……とも思ってしまう。
いずれにせよ、道は険しい。
 

この日、マクドナルドでは、レジの列に2,3年ぶりに会う知人がいて、立ち話をした。遠くの席に知り合いの編集者さんを見かけたけれど、急いでいる様子だったので声はかけなかった。
Bさんのパートナーのブレスレットとシンプルな革のトートバッグがかっこよかった。AさんのTシャツには「NO OLYMPICS」の文字があり、Bさんのシャツはパイナップルか何かの夏らしい柄だった。

自分にできること、できないこと、すぐには変えられないけれどどうにかしたいこと……色々なことを考えた一日だった。

カナイフユキ

1988年長野県生まれ。
イラストレーター・コミック作家として雑誌や書籍に作品を提供する傍ら、
自身の経験を基にしたテキスト作品やコミックなどをまとめたzineの創作を行う。
作品集『LONG WAY HOME』『ゆっくりと届く祈り』が発売中。

『ゼペット』

著者:レベッカ・ブラウン
翻訳:柴田元幸
絵:カナイフユキ
発行:ignition gallery
価格:1,760円(税込)

『ゼペット』レベッカ・ブラウン作、カナイフユキ絵、柴田元幸訳 ※特典付き | twililight

カナイさんが絵を手がけた絵本「ゼペット」(レベッカ・ブラウン作/柴田元幸訳)の刊行記念原画展が全国の書店を巡回中で、東京では2023年2月、三軒茶屋のtwililightで開催予定。

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