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「ちゃんと朝は来る」(日記:岸あいり、返事:川越祐子)

傷痕まで自分の星座にできるひと

“まず日記をつけるリズムをつくること。そして個人的な日記を共有してみること”。そんなひそやかな試みを形にするべく、「日記をつける三ヶ月」というワークショップを「日記屋 月日」とme and youが開催しました(2022年9〜11月の全5回にわたり実施)。me and you little magazineでは、最終回でおこなった「ある人の日記を読み、別の誰かがお手紙を寄せる」という企画に参加いただいた方々の「日記文通」をお届けします。

日記をつけることは個人的な行為であるにもかかわらず、誰かの日記を読んでみると、他者であるはずのその人の感情や思考と、自分のそれが交差する驚きが生まれることもあります。わかりやすさを重視してならされた言葉ではないからこそ、そのときを生きる人たちの営みや世界のありようをより一層くっきりと映し出すこともあるかもしれません。今回は、ワークショップ参加者である岸あいりさんの日記に、川越祐子さんがお返事を書いた日記文通をご紹介します。

※今回の「日記文通」は、me and youが隔週金曜日にお届けしているニュースレター「message in a bottle」(登録はこちらから)内で実施している企画をもとにしています。
※この記事は、「日記屋 月日」とme and youの「日記をつける三ヶ月」のワークショップで書かれた日記とお返事をほぼ原文ママで掲載したものとなります。

2022年9月11日(日)の日記/岸あいり

ワークショップの初日。6:30頃起床。平日よりも早い。支度をして電車に乗る。あっという間に下北沢に着いて時計をみたとき、1時間早く来ていたことに気付く。時間に余裕ができたので、ゆっくり朝ご飯でも食べようと、月日さんへ向かう途中の「料理と暮らし 適温」に入った。

モーニングのBセット。スープとサラダと胡桃入りのパンにスモークサーモンが乗った素敵な盛り付け。ドリンクは、わざわざ+220円でほうじ茶チャイラテを頼んだ。ご機嫌なのがバレてしまいそう。丸いお皿に乗った鮮やかな食事、口へ運んで、ゆっくり咀嚼するたび、贅沢な朝を噛みしめた。店員さんから可愛いコースターをもらう。9/10分の日記を更新していたらあっという間にワークショップの時間になった。

大きな窓の外で木々が揺れて、心地よい風が部屋を抜ける。はじめましてと挨拶をして、待ちわびていた時間を迎えた。あの時間の間ずっと“守られている”と思った。ここは安全で安心していい場所だと。会話と会話の間の仕草や選ぶ言葉、向ける視線。この日記との関わり方はまだわからないことばかりだけど、これから始まる3ヵ月があるだけで、毎日朝を迎える覚悟ができた。そして、ちゃんと朝は来るとも思った。

そのまま、本屋B&Bへ行って本を眺める。今月はお給料日を過ぎてからも繁忙期が続き、今月の買いたい本を買えていないままだった。数冊買ってお店を後にする。また読みたいリストが増える。

今日の過ごし方を明確に決めていなかったので、下北沢をふらふら歩いてから新宿の紀伊國屋書店を覗いて、最寄駅へ戻った。外が明るいうちに乗る下り電車が好きだ。

最寄駅のカフェに入り、ホットチョコレートを頼む。今日買った「フェミサイドは、ある」を早速読んだ。マスクを最大限に大きく広げて、髪の毛で顔を隠して読んだ。涙が止まらなかった。声を上げることをやめずに生きていきたい。声を上げる必要がなくなることを望みながら。

日曜日の夜は、いつもより何倍も早く時間が過ぎる。これもやってみたいし、あれも勉強しなきゃ、ここにも行きたいけど、全部叶えるにはお金が足りない、宝くじは当たらないもんな、もう20代後半だ、30歳まであと何日だろう、わたしはずっとこのままなのかな、何か残せる日が来るのかな、そんなこと言うならもっと頑張らなきゃ、みんなすごいな、みんなすごい、そんなことばかり頭のなかで繰り返して、最近眠れないでいた。こんなことまで書いて大丈夫なのか、少し不安になるけど。
今日のワークショップでの時間を忘れずにいたい、朝はちゃんと来る。

日付を超えて、9/12。BTSのリーダーの誕生日になっていた。「Love myself」を伝えるメッセージを今日も読む。暗闇のなか手の甲で瞼を拭う。

最近知ったばかりのわたしが何かを伝えるなんてできない。おこがましい以外の何ものでもない。けれど、どうかずっと、望むものだけを見つめて、大切なものに囲まれて、健やかに生きていてほしいと思った。

世界中のARMYの、どこまでも突き抜けた、紛れもない愛の数々。みんなが花道だけを歩いてほしいと思う。

お返事/川越祐子

キム・ナムジュンが28歳になる前日から始まった私たちの3ヶ月。
ワークショップの初日(もしかしたら2日めかも)、下北沢の風がよく抜ける、大きな窓のすぐそば、部屋のいちばん奥のはしっこの席で、背すじをぴん! として座っていた岸さんのことをよく思い出します。
私たちの朝、ちゃんと来たね。
ちゃんと来たよ。最近は、眠れていますか? 大丈夫。
岸さんの美しい瞬間は、この場所で偶然出会った私たちがおすそわけしてもらえています。いっしょにいなかった時間も、残っている。岸さんの一部。
たった一部ですら、ぴかぴかであたたかくて、生きている。
傷痕まで自分の星座にできるひと。
花道の途中に会えたことに感謝しています。また、どこかで。

岸あいり

日記、詩、写真が好きです。日記本「ぬけがらの月」、ZINE「食べ残した退屈」「下手くそなビブラートが愛おしい」などを制作。
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川越祐子

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