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「自分はそっち側の星の下に生まれていない」(日記:かまりえ、返事:ハラリエコ)

世界のその日のバランスの偏りみたいなものを感じます

“まず日記をつけるリズムをつくること。そして個人的な日記を共有してみること”。そんなひそやかな試みを形にするべく、「日記をつける三ヶ月」というワークショップを「日記屋 月日」とme and youが開催しました(2022年9〜11月の全5回にわたり実施)。me and you little magazineでは、最終回でおこなった「ある人の日記を読み、別の誰かがお手紙を寄せる」という企画に参加いただいた方々の「日記文通」をお届けします。

日記をつけることは個人的な行為であるにもかかわらず、誰かの日記を読んでみると、他者であるはずのその人の感情や思考と、自分のそれが交差する驚きが生まれることもあります。わかりやすさを重視してならされた言葉ではないからこそ、そのときを生きる人たちの営みや世界のありようをより一層くっきりと映し出すこともあるかもしれません。今回は、ワークショップ参加者であるかまりえさんの日記に、ハラリエコさんがお返事を書いた日記文通をご紹介します。

※今回の「日記文通」は、me and youが隔週金曜日にお届けしているニュースレター「message in a bottle」(登録はこちらから)内で実施している企画をもとにしています。
※この記事は、「日記屋 月日」とme and youの「日記をつける三ヶ月」のワークショップで書かれた日記とお返事をほぼ原文ママで掲載したものとなります。

2022年10月31日(金)の日記/かまりえ

子猫を拾うことに漠然とした憧れがある。子猫を拾う人って何度もそのシチュエーションに遭遇するイメージがある。年齢や性別など一切関係なく誰でもそれに遭遇する可能性があるはずなのに、なぜか同じ人ばかりが遭遇する、みたいな出来事があるような気がする。日々どこかで起きているのに万人の元には訪れない、そういったものたち。誰かの財布を拾うとか、目の前で人が倒れたから助けるとか、行く先々で殺人事件が起こるとか。子猫を拾うのはそういった、どこかで誰かが何度も遭遇しているらしい出来事の象徴的なひとつだ。私に子猫を拾うシチュエーションが訪れない気がずっとしている。自分はそっち側の星の下に生まれていないような、子猫を拾うのとは別の、こういった出来事に遭遇しながら生きていくような気がしている。自分には縁遠いと思っているからこそ憧れているんだろう。子猫を拾うことに。

こういう経験って何かあるかと人に聞いて返ってくる答えは、ふだんの会話以上にごく個人的な話のようで好きだ。いいこともあれば悪いこともあるし、ニュートラルなものもある。いろんな人の身にいろんなことが起こっていることがわかる。

夫はよくハクビシンに遭遇するらしい。引っ越し前も、今の家でも、職場でも見かけているという。対して私はどこに行こうと一度も遭遇していない。私にとってハクビシンは非実在生命体だ。同じ家に暮らしていながらこうも違うのだから、世界規模となるともう収拾がつかないくらい違うのだろう。私は子猫を拾わず、ハクビシンにも遭遇しない星の下に生まれている。

たまに通る道にあるそば屋が休業していた。思えば前回のワークショップ帰りに見たときにはすでに休業していたような気がする。「都合によりしばらく休業します」と張り紙があった。いつからなのか、いつまでなのか、何があったのか。何もわからないと気になってしまう。年越しそばの頃には戻ってくるのだろうか。

無難に仕事を終える。先月の忙しさはやっぱり謎だった。無印良品のアップルシナモンラテを飲む。こういう粉末飲料は粉もお湯も量をなんとなくで適当に入れてしまう。基準量はしっかり書いてあるのだから一度ちゃんと計って本来想定されている味を確かめてみればいいのに、ちゃんとやった例しがない。粉末飲料に対して扱いが雑である。だいたいの調理の類は計量するのにどうして粉末飲料に対してだけこんなに意識が低いのだろう。意識を改める必要がある、とも特に思わないので、ずっとこんな感じかもしれない。メーカーを泣かせてしまう。

夫が斉藤倫さんから『ポエトリー・ドッグス』を恵贈いただく。ハロウィンなのでグラタンを食べる。寒いし月末なので秋っぽい停滞感がある。冷蔵庫の整理をする。来月はもっと活力をもって生きようと思う。

お返事/ハラリエコ

子猫を拾うことに憧れがあるという気持ち、わかります。
私も猫を拾ったことがないし、猫を拾ったことがある知り合いもいないような気がします。
古典的刷り込みで、子猫を拾う不良に出会いたいという気持ちがいまだどこかにありますが、やはり会ったことはないですね。
スッと今出てこないのですが、反対に人よりも多く遭遇するものも、確かにありますね。
私の知り合いで拾い癖のある人がいて、拾ったものをLINEでたまに送ってくれてとても面白いんですが、相対的に自分は世界をちゃんと見られていないんだなあと感じます。
落とし物を見落としている側の人間なんだと思います。
若干話がズレますが、たまに、妊婦さんばかりを見かける日とか、すごく体の大きな人に一日に何日も出会う日とか、そういうのはある気がして、世界のその日のバランスの偏りみたいなものを感じます。(完全に忘れていましたが、今書いていて、高校生の時に段ボールに入って捨てられていた目の潰れた猫を見つけたことがあることを思い出しました。拾ってはいないけど、泣きながら母親に電話して迎えに来てもらい、保健所に連れて行った記憶が蘇りました)

かまりえ

ゆるい文章書き。文芸ユニット「エクセレント此岸」主宰。春夏は植物の世話をして、秋にはエッセイを書いて売り、冬はゲームをして暮らしている。

ハラリエコ

1993年生まれ。徳島県出身。四人兄妹の末っ子。
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me and youの竹中万季と野村由芽が、日々の対話や記録と記憶、課題に思っていること、新しい場所の構想などをみなさまと共有していくお便り「me and youからのmessage in a bottle」を隔週金曜日に配信しています。

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