7時15分、目が覚める。エアコンとサーキュレーターに当てられた皮膚がひんやりと冷めて痛い。28℃最低風量でも病み上がりの体には響くが、エアコンを切って眠るにも、まだまだ熱帯夜が続いていて、夜が明けないうちに半醒半睡のなかリモコンの電源ボタンを押してしまうので結局ちょっと肌寒い。
うとうとしながらアレクサにラジオ体操を注文し、小気味いいピアノと元気なおじさんの掛け声に合わせて体を揺らす。生まれてこのかた朝にはめっぽう弱い。当然、小学生だったときも朝のラジオ体操に参加できたことは一度もなかった。体操を終えて麦茶を飲み、グレープ味のメントスを一粒放り込む。3週間前にコロナに罹患してから体の調子はめちゃくちゃになってしまった。職業柄、嗅覚の良さは保ち続けなくてはならなかったから、コロナ禍に入ってからは健康管理と感染対策にはずっと腐心してきた。おかげで体の不調といえばワクチンの副作用が出たときくらいだったものの、3年目のこの夏、急激な感染拡大の波に私の体はまったく敵わなかった。今までの感染対策が功を奏して思い上がった自信も持ち合わせていたからだろう。気の緩みで罹患した。
症状はしっかり出た。ファイザーを打ち続けた3回ともそれなりに強い副反応が出続けていたので、なんとなくコロナに罹患したら無症状では済まないだろうなと推測していたが、高熱と不正出血とひどい倦怠感で10日間できっちり5kg痩せた。万年ダイエッターだけどこんな痩せかたはもう二度としたくない。8月5日に自宅療養が明けてから咳が出始めた。それから10日。強い咳が治まらず喀血や嘔吐を繰り返してしまう。熱が引いたぶん気は楽だが、むちゃくちゃである。ただでさえお盆のなか、忙しいであろう病院にかかる勇気が出ないままやり過ごす。肝心の嗅覚も味覚も調子は芳しくないが、こちらは少しづつ感覚が戻りつつある。味覚の感度は苦味が一番敏感に伝わりやすく、逆に甘味は一番弱いそうだ。口に放り込んだ一粒のメントスは、要は自分なりの味覚の定点観測だった。今日のメントスは昨日よりもすこし甘くて、体は本調子ではなくとも、それは希望を持たせてくれるささやかな甘さだった。