💐このページをシェア

同じ日の日記

旅先の夜に身体をこちらへ引っ張ってくる/Hana Yamamoto

旅行で身体感覚を狂わせる。ハノイの街歩きの手法とフィットネスセンター

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2022年8月は、2022年8月15日(月)の日記を集めました。この日、ベトナム・ハノイを訪れていた写真家のHana Yamamotoさんの日記です。

朝に成田空港に到着して、入国審査を通過し帰路に着いた。最寄駅について、スーツケースを引っ張りながら歩いていたら、ふと先ほどまでいたベトナムでの身体の動きが思い出された。ハノイの車はあまりウィンカーを出さない。従う基準の車線自体がなかったりするので、車は互いにクラクションを頻繁に鳴らして各々の存在を主張する。歩道の中に路上駐車するエリアがあったりするのを思い出す。誰もがそんな運転をしていたし、けれども問題がないから一般的になっていたのだろう。私が感じた限りにおいては、単にその場の事故を回避しているように見えて少し滑稽でもあった。

このように文章を認める(したためる)と、ハノイの交通は観察対象にならざるを得なかったな、と感じる。歩行者として街を使うとき、この交通状況に適応する形で徘徊することを強いられるからだ。滞在中に知って最も有益だったことの一つが、ハノイ市街地の大通りを横断する方法であるように。私はハノイに訪れたすべての旅行者の多くが、このような街歩きの手法を身につけていたのだと思うと、いまだに信じられない気持ちになる。バイクや車の通行が絶えない大通りでも歩行者はゆっくり堂々と歩くことで、車やバイクが停車しやすい環境作りが可能になるというのが、その手法である。実際に試してみるとその通りだった。自分の存在を知らせるために、スピードを下げ、一定の速度を保ちながら横断する。

《自分が旅行で適応できたこと/できなかったこと》、自分の身体を、日常とは違った環境に放り込む(放り込まれる)。そして適応を強要すること、それが旅行だ。知らない言語は音楽に聞こえる。購入したいものが日本のレートでいくらになるのか、頭の中でいちいちシミュレーションする。時間を忘れられる作業、けれどおそらく、地味に体力を食っている。

帰国用のPCR検査を【108軍事中央病院】で受けて、無事に書類を大切に鞄へ仕舞った。タクシーに乗って一息ついたところで、どんどん体温が上がっていく。こうやって、ふとしたときにぐっと疲れが押し寄せて汗が出てくるのを、これまではあまり感じたことがなかったのに。もう今日は予定を入れるのをやめよう。

2018年の夏に屋久島に行った。2022年の夏はハノイ市街を歩いていた。コンクリートのタイルが剥がれ、土が露わになった段差の激しい歩道を雨の中歩かねばいけない時には、いい着地点を常に探しながら足をすすめた。転ばないように、滑らないように足の先に気を配りながら歩くのだ。屋久島の山奥・【白川山(しらこやま)】で一切舗装されていない山道を歩いて拠点にする小屋に向かったとき、そういえば自分に対して「足裏を手のひらのように使え」と指示したような(そして歩き方を教わる気持ちは、プライド的に少々困難なものがあった)。

旅行で身体感覚を狂わせる。テキトーにやり過ごす力、無視する力、関与しすぎない力が私には必要だということを知る。私はあまりうまくいかない。すべてに力を入れてしまうし関与しすぎてしまうし全力で対応したくなる。道を歩くことすら体に力が入って仕方ない。

ホテルに戻って併設されたフィットネスセンターを利用した。ランニングマシン約十台が目の前に一列に並んでいる。ちらほらと使用している人が見えた。普段のジムでは使わないけれど、何故かそこへ足を向けた。時速7kmの速さで動くランニングマシーンで走ってみる。

《気づき》。、、旅行のような特別な環境下にいて、身体をうまくコントロールできない状況や、身体を取り巻く環境に適応ができない生活においてフィットネスセンターは、日常的な身体の動きを取り戻すことができる唯一の場所だと言っていい。メタ的に身体を動かす。自分がコントロールできるようにその場に身体を書き起こす。身体感覚は意図的に引っ張ってくることができる。

部屋に戻って欧米人仕様と思われる、私でも足の伸ばせるお風呂に入る。調子に乗って、二日酔いするほどお酒を飲む。この対処法はいかに?この文章を執筆している2022年8月15日に限らず、昨今の私を取り巻くホットな話題が「体調」であることには変わりがない。鬱、筋肉、入眠、歯列矯正、異国での徘徊。私にとって完全に地続きなものたち。

Hana Yamamoto

写真家、リサーチャー。千葉県市川市出身。ニューヨークでの滞在を経て2022年多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース卒業。郊外での暮らしを背景に、アメリカ文化・アメリカ政治、日本におけるアメリカについて研究・制作を行う。2019年、IMA next #3ショートリスト入選(審査員:レスリー・A・マーティン)。主な展覧会に『INSIGHT / ONSITE: Studio TPR』(YAU studio, 2022)、『2022Encounters in Parallel』(ANB Tokyo, 2021)など。そのほかアーティストインレジデンスなど過去に参加多数。

11月12日より、無人島・猿島(横須賀市)で金土日の夜に開かれる展覧会『SENSE ISLAND』にTOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH プロジェクトメンバーとして参加予定。

Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島 2022
2022年11月12日(土)~12月25日(日)

Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島 2022

newsletter

me and youの竹中万季と野村由芽が、日々の対話や記録と記憶、課題に思っていること、新しい場所の構想などをみなさまと共有していくお便り「me and youからのmessage in a bottle」を隔週金曜日に配信しています。

me and you shop

me and youが発行している小さな本や、トートバッグやステッカーなどの小物を販売しています。
売上の一部は、パレスチナと能登半島地震の被災地に寄付します。

※寄付先は予告なく変更になる可能性がございますので、ご了承ください。

me and you shop