メイ・シモネスがデビューアルバム『Animaru』に込めた「考えすぎずに、自分にとって大切なことをする」
2025/10/3
Dangomushi、Donguri、Sasayaku Sakebu。タイトルや歌詞には英語と日本語が交ざり合い、ピュアに物事と向き合う子どもの頃の感覚を思い出させてくれるような唯一無二の音楽を奏でるメイ・シモネス(Mei Semones)。母親が日本人で、幼い頃から英語と日本語を話してきたという彼女は、アメリカのミシガン州で生まれ育ち、現在はシンガーソングライター/ギタリストとしてニューヨーク・ブルックリンをベースに活動しています。ボストンのバークリー音楽大学で音楽の技術を高めたメイさんは、さまざまなジャンルの音楽を自由に吸収しながらオリジナルの音楽を生み続け、『FUJI ROCK FESTIVAL ’25』でRED MARQUEEに出演するなど、日本でも注目を集めています。
2025年5月にリリースされたデビューアルバム『Animaru』は、人生への愛、家族への愛、音楽への愛、そしてギターへの愛といった、非ロマンティックな愛をテーマにしたアルバム。「今ほど自分を愛せなかった時期があった」というメイさんが、今回のアルバムに込めた「考えすぎずに、自分にとって大切なことをすること」という思いとは? 音楽に打ち込むことで自分を愛せるようになったというニューヨークの街、生まれ育った自然豊かなミシガンや祖母が暮らしていた横須賀など、彼女が生まれ育ったさまざまな場所の風景を思い浮かべながら伺いました。
─メイさんは日本に来たときに、よく訪れる場所はありますか?
メイ:原宿や渋谷によく行きます。時間があるときはおばあちゃんの家がある横須賀に行って、それから鎌倉に遊びに行きます。今回も鎌倉に行きたかったんだけど、時間がなくてちょっと難しいから、次のときに行こうかな。
─鎌倉がお好きなんですね。
メイ:小町通りを歩いて、コロッケを食べるのが好きです。
─今日は「愛も生活も、たよりないから」というテーマに合わせて、「愛」をテーマにお話を伺っていけたらと思います。メイさんのインタビューを読んでいたときに、「今ほど自分を愛せなかった時期があった」というお話をされていたのが印象に残っていて。
メイ:自分のことを愛せなかったのは、高校や中学校の頃かな。みんなそういう時期があると思うけれど、どういう人になりたいかとか、何が好きなのかとか、自分のことがあんまりよくわかってなかったんです。自分を愛すためにトライしてみたことは、私にとっては音楽だったかな。中学校からずっとギターを弾いていたけど、大学に入ってからもっと真剣に音楽を勉強したことがきっかけで、自分が本当にやりたいことや、自分にとって大事なこと、人生の意味がわかった感じがしました。
─人生や家族への愛、音楽やギターへの愛など、「愛」をテーマにした今回のアルバムを出すまでに、ご自身の中にどのような変化があったと思いますか?
メイ:ニューヨークに引っ越したのが2022年の夏で、その頃は日本語の幼稚園で働いていました。とても楽しかったけれど、やっぱり幼稚園の仕事をしながら音楽の仕事をするのは結構大変で。毎日すごく疲れていて、ちょっとつらいときもありました。『Animaru』のアルバムをつくり始めたときは、幼稚園の仕事を辞めて、音楽だけに集中できる時期だったので、音楽だけをできるという幸せがこのアルバムに入っていると思います。
─”I can do what I want”という曲でも、<気にしなくて良いよ そんな事 doesn’t matter 自分が好き ならそれで良い 説明なんか 必要ないから>と歌っていて、シンプルでストレートなメッセージがとても心に響きました。今はソーシャルメディアの影響も大きく、他の人が何をしているのか気になる人も多いと思うのですが、自分が好きなことや大切にしていることをもっと信じようと聴きながら感じました。
メイ:本当に、言ってくれた通りです。自分はやりたいこと、音楽だけをできるようになったから、他の人にも自分がやりたいことをやってほしい、というメッセージを込めています。もちろん「やりたいことをやればいい」といっても簡単にはできないことも多いと思うけれど、みんながもっと自分が好きなことや大事に思っていることにちょっとずつフォーカスして、楽しい生活が送れたらいいなと思っています。
─”Animaru”の<I am not a resource I am not a ribbon I am not a cardboard box Not to be lived in>というフレーズも、自分はリソースではない、という言葉にはっとさせられました。
メイ:日本語でどういうふうに言うかはわからないけれど、「stay true to your soul」(自分の魂に忠実に)というメッセージを込めています。他の人から影響を受けることがいいときももちろんあるけれど、影響を受けすぎると自分を失くしてしまうこともあるから。
─メイさんは、他の人から影響を受けて悩んだりしたこともありましたか?
メイ:うん、ありました。特に高校のときは、たくさんいい友達もいたけれど、悪い人じゃなくても自分にあまりよくない影響を与える人もいて。誰にでもそういうときはありますよね。
─アルバムリリース時のコメントでも「後先考えず、また考えすぎないこと。私が望む生き方は、自分にとって大切なことをすること。そして、誰もがそう生きるべきだと思う」とお話されていましたよね。やりたいことについて考えすぎてしまうと、行動が後回しになってしまうこともあると思います。ときには考えすぎずに、何かを始めてみようと後押ししてくれるような作品だと思いました。
メイ:ありがとうございます。すごく考えすぎて悩んでいる友達がいて、そういう人たちのことを思いながらつくっていたかな。私自身も時々、考えすぎることがあります。でも、考えすぎるより、自分が楽しいと思えることがもっとあったらいいなと思っています。
─メイさんの音楽はいろんなジャンルの音楽が自由に織り混ざりながらも、メイさんにしかないやさしさがつまったオリジナルの音楽になっていて、そこには音楽への純粋な愛を感じます。音楽が好きになったきっかけや、どんな曲を聴いて育ってきたかについてもお伺いしたいです。
メイ:一番初めは、おばあちゃんが私と双子の妹のためにピアノを買ってくれたのがきっかけで、4歳から11歳までピアノのレッスンを受けていました。その後ギターと出会ったきっかけは、映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、主人公のマーティーが部屋でチャック・ベリーの曲を弾いてるシーンがあるんです。それを見て、なぜか「エレキギターってすごくかっこいいな、弾きたいな」と思って、11歳くらいのときにギターを始めました。
もともと父がジャズとかクラシックとかロックとかいろんな音楽をラジオで聴いていて、それを一緒に聴いていたかな。あとは、友達が好きなアメリカのポップスも聴いていました。中学校の頃にNirvanaとかThe Smashing Pumpkinsがすごく好きになって、自分の音楽のテイストができてきて。高校に入ってからは学校のクラスの勉強でジャズを聴くようになりました。
─”Tora Moyo”でも<疲れない、飽きない 指先がぼろぼろでも>と歌われていますね。メイさんにとって音楽は小さい頃から親しんできたものだと思うのですが、11歳のときにギターに出会って、どのように音楽への向き合い方が変わりましたか?
メイ:ピアノを弾いていた頃はずっと、自分が好きな音楽を弾くよりも先生が曲を選んでくれていました。ギターを弾き始めてからは「この曲が好きだから、この曲を学びたい」と言って、自分から好きな音楽を学べるようになったことで向き合い方が変わったんだと思います。
─日本の音楽にも触れてきましたか?
メイ:そんなに聴いていなかったけれど、よく母がテレビでミュージックステーションを見ていて、NHK紅白歌合戦も毎年見ていたから、日本で有名な音楽は知っていました。自分が好きな日本の音楽ができたのは最近です。今は青葉市子や君島大空とか、Lampとかリーガルリリーのような日本のアーティストが好きです。
─お母さんがカバージャケットを描かれているそうですが、こんな曲を作ったよ、とお母さんと話したりしますか?
メイ:曲のことは恥ずかしくてあんまり話してないんです(笑)。けれど、こういう作品をつくってほしいというイメージを伝えると、そこから母が作品にしてくれます。
─素敵な関係ですね。
メイ:そうですね。家族はいつも私のことをサポートしてくれていて、今の私がいるのは家族のおかげだと思います。双子の妹とは今もニューヨークで一緒に住んでいます。父と母はアメリカのミシガン州という私が生まれ育った場所に住んでいます。双子の妹と母は、フジロックを見に一緒に日本に来てくれました。
─”Zarigani”は双子の妹さんへの愛情を歌われていますが、<私たちはいつも一緒にいる/ギターのようにあなたを愛している/誰よりもあなたを愛している>という歌詞がすごく心に残っています。ギターは人ではないけど、それくらいギターの出会いがメイさんにとって大きな存在なんですね。
メイ:そうですね、ギターはいつもいてくれる親友のような存在だと思います。
─先ほど、ニューヨークに引っ越したことがメイさんにとって大きな出来事だったと伺いました。”Dumb Feeling”はニューヨークの一日が伝わってくる曲だと感じます。
メイ:ニューヨークはすごく特別な場所だと思っています。ニューヨークに住んでいる人は何かを目指して引っ越してきた人が多いと思うし、すごく頑張らなきゃ住めない場所。東京もそうだと思うけど、ニューヨークは家賃も高いし、住みたいと思っていなかったら住みにくい場所だと思います。でも、周りに頑張っている人が多いから、自分も頑張れる感じがする。ミシガンに比べると音楽のシーンも豊かだし、クリエイティブな人が多いと思いますね。
─ミシガンはどうですか?
メイ:ミシガンは、ちょっと田舎。自然がたくさんあって動物もたくさんいる、ピースフルな感じの場所です。18歳までミシガンに住んでいて、それからボストンにあるバークリー音楽大学に行って、卒業した後にニューヨークに引っ越しました。
─メイさんの作品の中には、自然や動物がたくさん出てきます。都市で生活をしていると、つい人しかいないように感じてしまうというか、本当は人以外のさまざまな生命と共に生きているのに、そのことを忘れがちになってしまう気がします。人間以外の存在と生きる感覚についてどんなふうに感じていますか?
メイ:人って考えすぎたり、意識しすぎたりすることが多いと思うんだけれど、動物はそんなことない。人間はもうちょっと、動物から学べることもあるかなと思うんです。アルバムは『Animaru』という名前の通り動物のテーマの曲が多くて、曲に出てくる自然や動物は小さい頃の体験を思い出しながらつくっています。
─曲を聴いていると、自分にとっての懐かしい風景、忘れてはいけない風景が自然と思い出される感じがありました。
メイ:“Donguri”は、ミシガンの家の後ろに森があって、そこで遊んでいたときのことが背景にある曲です。”Zarigani”は、その森で双子の妹とザリガニを捕まえていたことを思い出しながらつくりました。”Dangomushi”や、アルバムの前にリリースした”Kabutomushi”は、日本の自然のことを考えていました。横須賀にあるおばあちゃんの家の向かいにある公園とか、そのそばにある海とか、鎌倉のお寺とか、そういう風景が思い浮かぶかな。
─アルバムタイトルの『Animaru』は、「アニマル」という日本語の発音にインスピレーションを受けたと伺いました。メイさんの曲には日本語と英語が両方含まれていますが、それぞれの響きに対して、どんなふうに感じていますか?
メイ:私は生まれたときから日本語と英語を両方話してるので、音楽にも両方とも入れた方が自分らしいと思ってます。だから「Animal」だと英語だけになっちゃうし、「どうぶつ」だと日本語だけになっちゃう。両方の言語が入ってることが表されるかなと思って『Animaru』にしました。音楽的には、日本語と英語はメロディーやリズムへのハマり方が違うと思うけれど、あんまり考えすぎずに「このリズムはこの言葉にしようかな」「このメロディーはこっちの言語の方がいいかな」と適当に合わせてる感じですね。
─言葉がメロディやリズムに心地よく重なっていて、聴いていて気持ちがいいなと感じます。ちなみに、日本語と英語で愛を表現するとき、言葉やカルチャーによる違いはあると思いますか?
メイ:私は日本語が完璧じゃないので、愛を表現するときは、すごくシンプルに「君が好き」とかになっちゃうと思う。でも、英語でもストレートに言うようにしています。日本語でも英語でも、シンプルにストレートに伝えた方がいいかなって思って。
─シンプルでストレート。その方がいいなって思った理由は?
メイ:私が好きなミュージシャンは、みんなシンプルにストレートに愛を表現してるからかな。だから、難しい言葉を使って遠回りして言うよりも、「君が好き」って言ったほうがいいなって。
─音楽は言語がわからなくても届けられるものだと思います。音楽には、どのように愛を届ける力があると思いますか?
メイ:私は好きな音楽を聴くと、落ち着いたり、楽しい気持ちになったり、嬉しい気持ちになります。歌詞が入ってなくても、音楽を聴くだけでそういう気持ちになれる。聴いていていい気持ちになれる、それが音楽に入っている愛だと思います。
メイ・シモネス(Mei Semones)
ミシガン州アナーバー出身で、日本人の母を持つMei Semones(芽衣シモネス)は、4歳でピアノを始め、11歳でエレクトリック・ギターに転向。高校でジャズ・ギターを弾いた後、バークリー音楽大学でジャズを中心にギター演奏を学んだ。数枚のシングルとEPをリリースし、2022年にはニューヨークへ移住。ポスト・ボッサのバラード歌手、John Roseboroとコラボレートし、メロディック・ロックのアウトフィット、Raaviと初のツアーも実施。日本語の幼稚園の先生として働きながら、曲作りも続けた(歌詞は英語と日本語の両方で書かれている)。2024年の春にはEP『Kabutomushi』をリリース。Rolling Stoneの「Artist You Need to Know」や Pasteの「Best of What’s Next」に選ばれ、Red Hot Chili PeppersのFleaが絶賛するなど注目を浴び、弾き語りでの来日公演もおこなった。2025年5月にデビュー・アルバム『Animaru』をリリース。自身のバンドを引き連れてフジロック・フェスティバルにも出演。
プロフィール
Mei Semones『Animaru』
発売日:2025年5月2日(金)
価格:CD…2,750円(税込) LP…6,600円(税込)
品番:BR066JCD[CD]BR066JLP-C1[LP]
CD…世界同時発売、解説/歌詞/対訳付、日本盤ボーナス・トラック収録
LP…世界同時発売、解説/歌詞/対訳付、限定カラー盤
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
収録曲:
1. Dumb Feeling
2. Dangomushi
3. Tora Moyo
4. I Can Do What I Want
5. Animaru
6. Donguri
7. Norwegian Shag
8. Rat With Wings
9. Zarigani
10. Sasayaku Sakebu
11. Itsumo*
*日本盤ボーナス・トラック (CD)
リリース情報
Mei Semones Japan Tour 2026
Jan. 20 Osaka @ Zepp Namba ★
Jan. 21 Nagoya @ Diamond Hall ★
Jan. 22 Tokyo @ Garden Theater ★
Jan. 23 Tokyo @ Duo Music Exchange [SOLD OUT]
Jan. 24 Nagoya @ Live & Lounge Vio [SOLD OUT]
Jan. 25 Osaka @ Shangri-La [SOLD OUT]
Jan. 27 Hiroshima @ Club Quattro ●
Jan. 28 Fukuoka @ Beat Station
Jan. 30 Okinawa @ Sakurazaka Central
Feb. 1 Tokyo @ Duo Music Exchange [SOLD OUT]
★ in support of Men I Trust
● with support from Suzu Toyama
Info: SMASH
イベント情報
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