ブログから始まったおしゃべり、DIYでやっていくこと、自由について
2022/12/6
「破壊」と「創造」、「YES」と「NO」。
今年発売された、あっこゴリラさんのEP『マグマⅠ』に収録されている“FxxK GREEN feat.永原真夏”は、一人の人間の中に存在する矛盾やその間にあるグラデーション、生きていく過程で生じる変化を丸ごと肯定するような力強さを持つ楽曲です。あっこさん自身が「生命讃歌」と語るこの楽曲で、あっこゴリラさんと永原真夏さんは2017年に発表された“ウルトラジェンダー×永原真夏”以来、およそ5年ぶりのコラボレーションを果たしました。
互いをリスペクトし合う二人はどのように出会い、二度にわたるコラボレーションを行うに至ったのでしょうか。楽曲が生まれるきっかけにもなった、ジェンダーや年齢などで一括にされることへの違和感を書いた真夏さんのブログについての話や、DIYな感覚を持って自らの活動の場を切り拓き続けるお二人の考える「自由」や「選ぶこと」についての考え、愛し続けている音楽への想いについてもお話を伺いました。
─もともとお二人はどういうきっかけで親しくなったんですか?
あっこ:SEBASTIAN Xのボーカルとして活動をしていた頃から真夏さんのファンで。真夏さんは自分にとってルーツと言えるアーティストの一人なんです。自分の中にいる小さな頃の自分に響く感じというか、「こうなりたい」というよりは「これでいいんだ」と思えるような存在です。
─どんな部分が特に響いたと感じていますか?
あっこ:「陽のパワー」と言うとすごく雑な言い方になってしまうけど、シリアスなことに蓋をしてハッピーでいるんじゃなくて、シリアスなことを直視しながらも陽のエネルギーを爆発させているところが刺さりました。今あらためて考えると、それって自分がこれまで影響を受けてきたものの共通点かもしれない。自分も迷ったときはそっちを選べるようでいたいなと思っています。
永原:シリアスなことをシリアスなまま話し続けることが、普段のコミュニケーションにおいてもよほど落胆したとき以外はなくて。グラデーションはあるけれど、人に自己開示をするときにも「ちょっと聞いて、マジでひどかったんだけど!」っていう喋り方がやっぱり自分の中で一番リアリティがあるから、音楽もそうなるんだと思います。
出会った頃のあっこちゃんはドラマーだったけど、ドラマーとボーカルってバンドの中でシンパシーを感じやすいと思ってて。ドラムもボーカルもマイクで録るとはいえ、他のパートと違って生身で音量調整をしていかないといけないところが共通しているんです。そこで最大レンジと最小レンジを決めていくから、協力し合わないとグルーヴが出ない。あっこちゃんは音楽的に出したいパワー感が自分と近かったのかもしれないなあと思います。わたしにはそれがすごく魅力的です。
あっこ:なるほどね! そのせいか一緒にやってみて違和感がない。ばらばらなんだけど、ずっと一緒にやってきたような自然さがありました。
─お二人はまず2017年に“ウルトラジェンダー”でコラボレーションしていますが、そのときはどういう経緯だったんですか?
あっこ:わたしが誘って一緒に曲をつくることになって。わたし、SEBASTIAN X時代の真夏さんのブログを全部読んでいたんですけど、真夏さんがそのブログに「わたしはモテたいとか、男とか女とか大人とか子どもとか、そういうのじゃないところで歌いたいんだ」みたいなことを書いていたんですよ。女の子としてミュージシャンをやっていると、「かわいい」とか「若い」みたいなところで評価されることってみんながぶち当たる壁なんじゃないかと思うんです。だから真夏さんのブログを読んで、真夏さんもそうなんだ! わかる! と思って。渋谷のカフェでその話を真夏さんにしたんですよね。
永原:うん、したした。最初話を聞いたときに、あっこちゃんが自分の中で全然咀嚼できてない感じだったから、うんうん聞きながらも「何が言いたいんだろう?」ってわかんなかったんですよ(笑)。それで一番言いたいことはなんなのか、どんなものをつくりたいのか一生懸命考えて。
あっこ:ああ、ごめんなさい……(笑)。
永原:でもお茶をしながら話すなかで、たくさんのヒントがあったんだよね。
─当時、永原さんがジェンダーや年齢などで一括にされることへの違和感をブログに書いたのはどうしてだったんですか?
永原:母の影響もあるし、わたし自身バンドをやっているなかで思うところがあって。恐らくミュージシャンじゃなくても、いろんな人がいろんなパターンで感じている違和感なんだと思います。ブログを書いた頃にSEBASTIAN Xで『POWER OF NOISE』というアルバムを出したんですけど、そこでもそういったメッセージを打ち出していました。
あっこ:『POWER OF NOISE』大好き!
永原:ありがとう! その頃は「ジェンダー」という言葉にもあまり触れていなかったから、自分の言いたいことにしっくりくる言葉として見当たるものが「ウーマンリブ」しかなくて。「わたしが常々目指しているのはウーマンリブなんです」って言うと「懐かしい昔のアメリカのカルチャー」みたいな言い方をされていました。でも実際に、例えば男性のバンドを集めたイベントを「メンズバンドライブ」とは言わないけど、女性だと「ガールズバンドライブ」って言われるようなことがありますよね。一方で、女性の歌声が好きだという方が新しいアーティストを見つけやすくなることもあるので、悪い作用だけじゃないとも思うんですけど……すごく難しいです。
あっこ:バンドをやっている女の子たちから「男女差別なんてなくない? 男女平等じゃないですか?」っていまだに言われることがあって。わたしみたいな考え方をしている方が「ちょっと神経質」みたいに言われてしまう世の中だと思うんです。自分の場合はドラマーからヒップホップという女性が少ないジャンルに行って、MCバトルで女というだけで下ネタや容姿を大人数の前で責められる経験をしたことが大きかったんだろうな。
─今年リリースされた“FxxK GREEN”についてはどんなふうにつくりあげていったんですか?
あっこ:今回にかんしては、トラックもできていて真夏さんが歌う部分も仮歌詞で埋めた状態で渡したうえで、そこから一緒に相談しながらつくりあげていきました。
─二人で相談するなかで変わっていったのはどういうところですか?
あっこ:タイトルが変わりました。もともとは「ダイビングダンス」というタイトルだったんです。今回の作品には、矛盾を全部出そうという気持ちや、その渦のなかに自分を投じてダンスするような感覚があって。それが自分なりの生命賛歌かなと思ったんです。でも、もうちょっとキャッチーなタイトルがいいよねという話をしていたら真夏さんが「ファックグリーンぐらい言っちゃっていいんじゃない?」って。
─あっこちゃんにとって象徴的なカラーであるグリーンに対して「ファック」を突きつけているこのタイトルはすごくインパクトがありました。
あっこ:自分を一度否定するというか、壊してつくってみたいと思ったんです。それが生きているということだから。
me and you竹中:歌詞でも<破壊の合図><手を繋いで壊すよ>という言葉が出てきますけど、壊したり壊れることに怖さを感じたり、「現状維持でいいや」と思うこともあったりします。「壊す」ことに対するパワーって、どういうところから湧いてくるものなんでしょうか。
あっこ:別に無理して壊さなくてもいいと思うんです。この曲で言いたいこととしても「壊していこうよ」というよりは、人間ってシンプルにそのままだと飽きることがあると思うという話なのかなって。
永原:うん、そう思います。「無理に破壊するのがわたしだ」ということじゃなくて、進化の過程で海から陸に適応したように、人間でも植物でも動物でもいろんなものに古くから備わっているパワーとして、自然に今の状態に飽きることもあるし、壊すことも選べるよっていうのがこの楽曲で言いたいことなんじゃないかなと思う。わたしもそれに共感しています。
あっこ:ありがとう! この曲の<ひとつ自由をみつけるたび ひとつ自由を忘れてくだけ>というリリックは、まさに今、真夏さんが言ってくれたようなことで。“FxxK GREEN”は歌詞が難解だとバンドメンバーに言われてショックで、なんで伝わらないんだろうと思っていたけど真夏さんみたいに話せばいいのか。「超辛いんですけど、わかってもらえない」って真夏さんにLINEしましたもん。
永原:夜中にぽんってLINEがきたから、「え、あっこちゃん悩んでる?」と思って見たら、「もっと見る」って表示が出るぐらいの長文で(笑)。
─(笑)。今のお話に出てきた<ひとつ自由をみつけるたび ひとつ自由を忘れてくだけ>というリリックについてもお話したかったんですけど、お二人はどのようなときに自由を感じるか伺ってみたくて。
永原:あそこは印象的な歌詞ですよね。
あっこ:「選べる」という自覚がちゃんとある状態が自由だと思います。「わたしはこれをやってもやらなくてもいいんだ」という気持ちをちゃんと持てている状態が自由なんじゃないかな。
─「やってもやらなくてもいい」という状態について詳しく聞けますか?
あっこ:例えば、夜中にカップラーメンを食べるか、納豆ご飯を食べるか、それとも何も食べないのか、それは自分で選ぶことができるという話で。頭を使って自分の人生を自分で選ぶということを意識してないと、人から選ばされちゃうんです。そういう感覚をわたしはこの曲で描きたかった。
永原:わたしの場合は、自分が自分の人生をコントロールできるということに自由を感じますね。それって結局「選ぶ」ことについての話になるので、あっこちゃんと同じところに行き着くんですけど、例えばお洋服とかメイクとか、友達とか仕事とかプライベートとか、いろんなことの調和が取れていて、そういう状態を自分がつくれていると感じられるなかで生きていると自由を感じますね。
─She isが運営停止するときに永原さんが「自由という言葉は、『自らを由(よし)とする』という意味だとShe isは教えてくれたの」とツイートされていました。「自らを由とする」というのは、今言われていた「調和がとれている」「コントロールできている」という感覚ともつながりますか?
永原:「コントロール」という言い方をしたけれど、自分をよしとする、自分を慰める、他人を受け入れる……いろんな表現があると思うんです。自らをよしとする自由というのは、わたしのなかで車の運転に近いです。みんなのルールはあるけれど、そのなかに自分が好きな車や好きな運転の方法がある。
─ああ、車の運転の例えとってもわかりやすいです。あっこちゃんは今年会社(合同会社ゴリちゃんカンパニー)を、永原さんは去年レーベル(G.O.D.Records)を立ち上げて、自分で自分の活動する場所をつくることをされていて、これも自由でいるために「選ぶ」ことや「コントロール」することの一つなのではないかと思うのですが、自分で自分の活動するフィールドをつくってみて、今お二人はどんな実感がありますか。
あっこ:「選べることが自由」という話はすごくポジティブに聞こえるけれど、血みどろの作業でもあって。選んだからこそ問われることがいっぱいあるし、そこを引き受けることでもあるから。独立するとそれがダイレクトに来ますよね。
(一同頷く)
あっこ:みんなそうだよね? でもそれ全部込みでIt’s my lifeって感じ。自分が選んだことだから後悔もないし。
me and you 竹中:me and youも独立したばかりなのですごく共感しながら話を聞いているのですが、あっこさんはどういう気概で会社をやろうと決めたんですか?
あっこ:会社をやることはわたしにとって大きな決断みたいな感覚ではなくて、すごく自然な流れでした。ラップを始めたことや、音楽を始めたことが一番の衝撃というか、人生が変わっちゃった閃きで。アーティスト業って結局、自分の柱を太くしていく作業じゃないですか。わたしの場合は、あっこゴリラのヒップホップを追求していく作業のなかで会社が必要だったから会社にした感じで、「やるぜ!」みたいな感覚はあんまりなかったんです。
─現実的な判断という感じ?
あっこ:そうそう。いろんな仕事のオファーを受けるにあたっての判断って、自分のヒップホップに合うか合わないかだけで。やってみてもしも合わなかったら、調整していく。だから会社についても、「これだったら会社にした方が合うな」というだけでした。
─永原さんはいかがですか?
永原:わたしもあっこちゃんと一緒で、意識してレーベルを立ち上げたというよりは、必要装備をどんどんキャッチしていく感じに近いかなと思います。しばらくやってみて思うのは、「自分らしさ」みたいなものはもちろん大前提としてありながらも、あまり一元的に物事をとらえない方がいいなということで。ミュージシャンの場合、出るイベントによってまったく異なるから、その都度「いい演奏、いいライブってなんだろう」という問いが浮かぶ感覚があると思うんですよね。最小単位のパーティーで奇跡が起こることもあれば、すごく大きなステージでたくさんの人が見てくれているのに何をキャッチすればいいかわからなくなることがあったり。もちろん逆も然りです。
ライブはテンプレートやフォーマットがなく野に放り投げられるような状態だから、いいってなんだろう、技術ってなんだろう、自分がやっている表現ってなんだろうということを常にその時々で見極めていかないといけない。そうした一個一個に自分で向き合っていくのが独立してやっていくことかなと思っていて。視野を広く持って、素晴らしいと感じられることのバリエーションをたくさんキャッチできる余剰みたいなものを心に持っておこうと最近は心がけています。
me and you 竹中:何度もお話しされていることではあると思いつつ、お二人が音楽という表現をずっとやっていらっしゃるなかで、現時点で自分自身にとって音楽という表現やミュージシャンであるということについてどう考えていらっしゃいますか?
あっこ:「あなたにとって音楽とはなんですか」ってことですよね? 人生です。It’s my life!
永原:やっぱり本当にいい文化だなって思います。それにこうして関われることが本当にうれしいですねえ。あとは見えないところがいいなと思います。もともと絵を描いていたし、お洋服も好きだったんですけど、視覚表現というものがわたしにとってはすごく重くて、どうしてもできなかったんですよね。音楽はやろうと思えば道具がなくてもできるし、なおかつアンダーグラウンドからメジャーまで裾野が本当に広くて、そういうものって他にあんまりないと思うんです。だから年々好きになりますね。
あっこ:たしかに存在がすごくキャッチーだもんね。みんなが手に取りやすいし。でも「所詮音楽だしな」とも思いません?
永原:あんまり思わない。
あっこ:わたしは「音楽超好き、It’s my life!」って感覚と同時に、無駄なものではあると思っていて。衣食住ではないし、音楽で人は救えない。例えば災害が起きたときに、歌を歌ってその被害を抑えられるわけじゃない。でも、「無駄最高!」って思う。無駄こそ最高じゃないかっていう感覚も、全部音楽に教えてもらったし。
永原:『ショーシャンクの空に』のなかで刑務所に入っている主人公が言う「音楽は決して人から奪えない」という台詞がすごく好きなんです。例えば、今そんなことしないけど、こうやって取材中にあっこちゃんがたくさん喋ってくれているときに、わたしは心のなかで「ラララ~」って歌うこともできるんですよ。
あっこ:(笑)。でもたしかに、嫌な人が何か言ってきたら、心のなかで全部をリズムに乗せてみることもできちゃうな。
永原:音楽って目の前にものとして存在しているわけじゃないから奪いにくいんです。そこがすごく素敵だなって思っています。
あっこ:同時に、脳をハックできちゃうようなパワーも秘めている怖い存在でもあるよね。そういう意味で、音楽ってやばいと思う。よくも悪くも。わたしは昔から自分の曲を聴いてくれている人の意識を改革するような気持ちがあって。自分の人生を生きられるような人間を増やしたいとおこがましながら思っているし、ヒップホップにはそのパワーがあると思ってやっているから、使いかたを間違えないようにしないといけないとものすごく思います。
関連記事(『MEGLY&CO』に掲載)
「あっこゴリラ✕永原真夏。タイプが異なる二人のそれぞれの「セルフケア」」
あっこゴリラ
ドラマーとしてキャリアスタートし、バンド解散後、2015年よりラッパーに転身。2017年CINDERELLA MC BATTLEで優勝。2018年、美や性や生の多様性をテーマにした1stアルバム『GRRRLISM』発表。2019年よりJ-WAVE『SONAR MUSIC』メインナビゲーター就任。独立し、2022年合同会社ゴリちゃんカンパニー設立。人気アニメ『かぐや様は告らせたい』第5話EDに楽曲提供するなど精力的に活動中。2022年「マグマシリーズ」始動。ゴリラの由来はノリ。
永原真夏
7月23日生まれ、東京都出身。 好きなことは食べることと寝ること。好きな食べ物はスイカとセロリ。 天真爛漫なキャラクターとパワフルなライブパフォーマンスが魅力の、 ファンシー界のロックスター!2015年7月よりソロ活動を始動し、 2021年10月には自主音楽レーベル「G.O.D.Records」を設立。2022年11月2日には2nd Full Album「imagination」を発売。
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