どうしても家から出られない日はいつだってどのタイミングでだって訪れる。
私の7月18日は、セルフ・ロック・ダウン。
日本で起きてしまったできごとを、今は何も見たくなかった。
苦しい気持ちになるにはキャパシティが足りなかった。だから、自分で扉を閉めた。
私は今、きっと外を歩いていればおもしろいことを書けるであろう街並みに住んでいる。
ウィーンという街は大声で誰かがわめいても元々半径50mにそれを気にするような人はいないような都市で、夏になれば住む人間のほぼほぼ全員が旅行に行ってしまうから、もっともっと空っぽになってしまうオーストリア帝国(とは、随分昔に言われなくなった。知る人によれば、それは正しい戦争の負け方だったと言われたりする)の首都だ。
日本はきっと暑いのだろうか。残念ながらウィーンの夏は気まぐれだ。昼間にあがりにあがった30度も、夜には凍える10度まで下がってしまう。7月18日はそういう天気だ。
暑い日差しが耐えられず、部屋にこもってしまった。今住んでいる部屋は友人から夏の間だけ借りた部屋で、べルヴェデーレ宮殿のそばにある陽の入りがイマイチなありがたいひとへやだ。
ここにさえこもっていれば三種の神器のひとつ、エアコンってやつは必要ない。そもそもウィーンの古い建物たちにそんなものがついていたためしがない。湿気のないこの国は、遮光カーテンをしっかりしめ、おとなしく部屋の中にこもっていれば、熱なんぞついぞ感じず快適に過ごせるものなので。
そんな冷たい白い石の部屋に引きこもって考える。隣人が掃除機をかける音が聞こえてくること以外、私がこの部屋から出る理由はいまのところない。
少し足を伸ばせば美術館に行けるし、少し贅沢をすればドナウ川のほとりでカクテルだって飲める。だけど、そうはしたくない日が今日だった。気晴らしが必要、ではなくて。自分を守ることに特化しなくてはいけない日ということだけが、思考レベルをあえて落とした頭でぼんやりと考えたことだった。