2月からフランスに来ている。フランス語を習得するために、芸術文化の都で経験を積むために、社会的な性役割からいかに解放されるかを間近で見るために、個人主義を知るために、自分がこれから生きていく場所を探すために、私はフランスにきた。理由は一つに絞れないけれど、運よくフランスと縁のある環境で育ち、フランスの近代絵画を自分の価値観の軸として生きてきた私にとっては、この土地に来るべくしてやっと辿り着いたと思ってしまう。
今日も、朝から午後まで語学の授業を受けて帰宅した。自分の部屋に戻ると、家を出る前まではポップな赤色だった布団カバーが、白地に羽の模様が施された布団カバーに変わっていた。「おおお」と声を出して驚いた。
私は今、フランス人夫婦の家の一部屋を借りて生活している。布団カバーがサプライズみたく変わっていたのは、夫婦がやってくださったことだった。おそらく、私をイメージして選んでくれた布団カバー。
大好きなフランスでの生活はもちろん楽しく嬉しいものだけど、夫婦の家と学校以外の場所では、言語、文化の面で外国人への理解がいつでもあるわけではないし、ときどき不安がつきまとったりする。ときどき。
フランスに来て一ヶ月ほどしか経っていない私にはまだ安心できる場所は少なく、この布団カバーを見るたび、ここが安心できる場所だと感じる。安心は、周囲にいる人たちの心遣いや尊重する気持ちによって作られるんだと改めて感じた。自分もそういう人間でありたい。
同時に、この土地に来てからは何者でもない自分がいることも知る。日本で表に出続けた私にとっては、何者でもないことは気楽に思えたりするけど、この土地での学びや経験をゼロから作らなければいけない状況では、自信も負担も何もないと思った。
住む場所が変わったとしても他者を尊重する気持ちと、自分がどうしたいかは結局自分にしか決められないという現実は、これからも変わらなそうな唯一のものだと思った。