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同じ日の日記

猫たちの2022年2月22日/近藤聡乃

2022年2月22日(火)の日記

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2022年2月は、2022年2日22日(火)の日記を集めました。『A子さんの恋人』が全7巻で完結し、現在『ニューヨークで考え中』を隔週連載中のマンガ家、アーティストの近藤聡乃さんの日記です。

今日は猫の日だ。昨晩から日本のSNSが猫で盛り上がっていたので、朝起きるなりそれを思い出した。日本はもう夜だけど、時差が14時間ある冬時間のニューヨークでは、これから猫の日である。

うちには猫が2匹いて、クレオとポンズという。どちらも元野良猫である。ブルックリンのサンセットパークというところに仮住まいしていた時、その仮住まい先の裏庭で出会った黒猫がクレオだ。きれいな猫なので夫が「クレオパトラ」の「クレオ」と名前を付けた。しばらくするとクレオが妊娠し子猫を産んで、それがポンズ。これも夫が付けた。こちらは「ポン酢」の「ポンズ」だと思うのだけど、今となってはなぜ「ポンズ」なのか夫にもわからないそうだ。

猫の日の朝、ポンズはベッドの上に丸まって、冷蔵庫のモーターみたいな音で喉を鳴らしていた。クレオは最近お気に入りのソファの上の毛布に埋もれている。私は朝食を食べながら、「今日は猫の日」とアメリカ人の夫に説明し始めたが、猫の鳴き声は英語で「meow(ミャウ)」である。日本語で猫の鳴き声は「ニャン」で、twoは日本語で「ニ」で音が近いから……というまどろっこしい説明をしていると、そんなにおもしろい話題でもなくなってしまうのだった。だから、今日は「2022年」というのも重なって「スーパー猫の日」である、次の機会は「2222年2月22日」で200年後だ!というところまで話が及ばなかった。

我が家の猫たちの「スーパー猫の日」はこんな感じ。

朝食前、居間を走り回り、ベッドに飛び乗り夫を起こす。
朝食
朝食後、眠る。(←私が朝、目撃したのはここ)
昼食前、私の部屋にやって来て圧力をかける。
昼食、
昼食後、ちゅ〜る
ちゅ〜る後、夕食まで眠る。
夕食。

基本的にいつもと同じであるが、この夜私たちは外食の予定があったので、いつもより早めに猫たちに夕食をあげて、雨の中外出した。帰宅するとポンズが出迎えてくれて、クレオはまたソファの毛布に埋もれていて、なんだかホッとする。

前述したように2匹は元野良猫である。裏庭で野良猫生活を満喫する幸せそうな姿を見ていただけに、2匹が今幸せなのかが気に掛かる。仮住まいが終わりに近付いた時、2匹と離れがたくなっていた私たちが勝手に保護して、元の家に一緒に連れて戻ったのだった。猫たちにとったら誘拐されて、幽閉されているようなものだろう。だから今日のような雨の日や、寒い日は、「暖かい」という点では確実に今の方が良いはずだ、とホッとするのである。

ちなみに、この仮住まいというのは、元の家の建物上階でボヤが起きた結果、家が消火の水で水浸しになったことによる、不本意な仮住まいであった。ちょうどその頃、ニューヨーク州はコロナウイルスにより毎日何百人も、多い日には1000人以上の方が亡くなるという大変な状況だった。そんな中、自宅待機する自宅を失ってしまったのである。「まさか」という出来事だった。ゴーストタウンみたいになったソーホーで「今感染したら本当に死んでしまうかもしれない」と怯えつつ家の後始末をして、サンセットパークで仮住まいを始めたのである。

そんな最悪のスタートだった仮住まい生活で、私達がだんだん元気になって、「このままここに住んでしまうのもありかも」と思うようになったのは、大袈裟ではなく本当に猫たち、特にクレオのおかげなのである。クレオが垣根を飛び越えて裏庭にやって来て、昼寝したり遊んだりする姿を見ると幸せな気持ちになった。しかもかわいい子猫まで産んで、今、リノベーションが終わった元の家でみんな一緒に暮らしているなんて、これもまた「まさか」という出来事である。

さて、レストランからの帰宅後。録画しておいた「Jeopardy!」というクイズ番組を観るために私たちがソファに座ったら、クレオは不服そうにどいた。近い距離にいるのは未だに苦手で、触らせてくれるのもちゅ〜るの時だけなのだ。でもクイズを観終わり、シャワーを浴びて居間に出ると、クレオはもうソファに戻って毛布に埋もれていた。寝る前にベッドの中で、今日の記念に撮った猫たちの写真を観ていたら、ポンズがベッドに飛び乗って、夫の足元で丸まった。夫も猫たちも、今日が「スーパー猫の日」だとは知らないままだったけれど、良い日だったと思う。

猫たちの2022年2月22日/近藤聡乃

写真は「スーパー猫の日」に撮影した、昼食はまだかと圧力をかける猫たち。

近藤聡乃
1980年千葉県生まれ。マンガ家、アーティスト。2000年にマンガ家デビュー。アニメーション、ドローイング、エッセイなど多岐に渡る作品を国内外で発表している。主な個展に、2019年「近藤聡乃展 呼ばれたことのない名前」三菱地所アルティアム/福岡。2018 年「MAM SCREEN 008: 近藤聡乃」森美術館/東京。主な著書に、『はこにわ虫』(青林工藝舎)、『A子さんの恋人』全7巻(KADOKAWA)、『ニューヨークで考え中』1~3(以下続刊・亜紀書房)、作品集『近藤聡乃作品集』(ナナロク社)、エッセイ集『不思議というには地味な話』(ナナロク社)など。2008年よりニューヨーク在住。

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亜紀書房のウェブマガジン「あき地」にて「ニューヨークで考え中」を隔週連載中。

『ニューヨークで考え中』 1〜3巻まで発売中
著者:近藤聡乃
発行:亜紀書房
価格:1,000円(税別)
『ニューヨークで考え中』3巻│亜紀書房

『A子さんの恋人』全7巻発売中
著者:近藤聡乃
発行:KADOKAWA
『A子さんの恋人』7巻│KADOKAWA

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