Wet LegからUKの音楽やファッションを大平かりんさんと語る。つめをぬるひとさんの爪塗りも
2026/1/16
東京とUKに拠点を持つ音楽レーベル / プロモーターのBEATINKが、東京・原宿にて期間限定でオープンした「BEATINK Listening Space」。11月16日には、me and youとのスペシャルイベント「MUSIC and you」を開催しました。
BEATINKが取り扱う20を超えるレーベルのレコードが集まる空間で、最高音質のスピーカーシステムとともにme and youセレクトの音楽をお届け。さらに、来日を控えているWet Legの新作を踏まえながら、UKの音楽、ファッション、アートについて語る大平かりんさんのトーク、つめをぬるひとさんによるレコードジャケットの配色を用いたつめぬりなどを行いました。
それぞれの音楽遍歴や、Wet Legのかわいさと力強さが共存する魅力について語り合ったトークの様子を中心に、イベントレポをお届けします。
BEATINKは東京とUKに拠点を持つ音楽レーベル / プロモーター。「BEATINK Listening Space」は、2025年11月1日(土)〜11月30日(日)に開催された、BEATINKが取り扱う全てのレーベルの最新の音楽作品から歴史的名盤まで大量のレコードを取り揃えた期間限定スペースです。
〈Warp〉や〈Ninja Tune〉、〈Domino〉をはじめ、〈4AD〉、〈Matador Records〉、〈Rough Trade Records〉、〈XL Recordings〉、〈Young〉を傘下に収めるBeggars Groupといった世界の音楽シーンを牽引するインディーレーベルから、エイドリアン・シャーウッドの〈On-U Sound〉、Flying Lotusの〈Brainfeeder〉、デヴィッド・バーンが創設した〈Luaka Bop〉といったアーティストレーベル、さらにコンピレーションレーベルの〈Late Night Tales〉やレゲエの再発レーベルである〈Pressure Sounds〉など、20を超えるレーベルが集います。
会場内には「曇りなき正確な音」を追求するスピーカーブランド「BWV」による最高音質のスピーカーシステムが設置されています。厳選された上質な音楽に包まれて、とっておきのレコードを発掘できる贅沢な空間です。
11月16日(日)には、me and youとのスペシャルイベント「MUSIC and you」を開催。10代の頃からBEATINKで扱うレーベルの音楽を愛してきたme and youの竹中万季がセレクトした、時代やジャンルを横断したプレイリストで来場者を迎えます。
10代の頃からUKロックを聴いて育ち、『GINZA』や『BRUTUS』などの雑誌とWebの仕事を経て現在はIT企業に努める大平かりんさん。音楽や映画、アート、ファッションなど幅広く関心を持つ大平さんにUKカルチャーにまつわるお話を聞きました。
My Bloody ValentineやRadiohead、The Prodigy、Aphex Twinなど、90年代のエレクトロニカやインディー・ロックを聴いてきたという大平さん。洋楽を聴きはじめたきっかけは、いとこや友達の家で見た「MTV」だといいます。来日公演に足を運べる年齢になるまでは、ミュージックビデオを通して音楽を楽しみ、学んでいたとか。そこから、「MTV Japan」に入社したそう。
「当時は、ミュージックビデオにとても勢いがあったんです。ミシェル・ゴンドリーとかスパイク・ジョーンズが好きだったんですけど、実験的で芸術性のあるMVがたくさんありました。イギリスはアメリカよりも低予算で作らなければいけない背景があったり、社会風刺や皮肉を入れていたりと、MVそのものをとても楽しんでいました」
「どうなるのか分からない」スリルがあり印象的だったMVとして、Aphex Twinの“Come To Daddy”、Radioheadの“Karma Police”を挙げます。“Karma Police”の監督は、映画『関心領域』で記憶に新しいジョナサン・グレイザーです。
竹中もMTVを通して世界のカルチャーを学んでいったといいます。特に、グラスゴー出身のBelle and SebastianやTeenage Fanclub、The Pastelsなどや、ブリストル出身のPortishead、マンチェスター出身のThe Stone RosesやThe Smithsなどを通じて、都市ごとの空気を感じることが多かったとか。
「音楽を都市と紐づけて聴くなかで、背景に労働者階級の暮らしや政治的な風刺が込められていることや、シーンの存在を知ったりするのがおもしろくて。背景にある社会や文化を知れることも、洋楽を聴くおもしろさだと思います」
10代後半から20代前半は、友達が開いていたUKロックナイトに通っていたという大平さん。パーティーやDJの情報は、mixiのUKロック好きコミュニティから見つけたこともあったとか。パーティーではFranz FerdinandやBloc Party、The Musicなどがかかり、みんな同じ空間で歌っていたといいます。
「Justiceの“D.A.N.C.E.”が流行ると、ロックは少し下火になってポップスが人気になったんです。だけど、The xxが出てきたことで、地下に潜っていたロック勢がまたみんなでノって。そういうことを一緒に経験してきたコミュニティです」
一方で、パーティーではなくインターネットで音楽好きとつながっていた竹中は、音楽情報サイト「Listen Japan」で好きなアーティストが影響を受けたバンドや音楽の系譜について調べることに夢中になっていたといいます。大平さんも、「新しい音楽にも古い音楽からの影響があるからこそ、自分なりに分析したり友達と話したりするのが楽しい」と同意。今でもライブ後には、居酒屋や中華料理屋で何が良かったのか語り明かしているといいます。
常に新しい音楽や潮流を追っている大平さんですが、新しい音楽との出会いは、Spotifyの世界中の最新曲をまとめた「New Music Friday」というプレイリストだといいます。
「今のアーティストはキャリアがとても長いので、急に懐かしいアーティストが流れてくることもあるんです。『8年ぶりの新曲』のようなものと新しいアーティストが混在していて。たくさんの音楽をザッピングをしながら聴いて、自分のプレイリストに毎週8曲〜10曲のお気に入りを追加しています」
感覚的に音楽を聴きながらも、あとで考える時間を作るのが大平さん流の楽しみ方。琴線に触れたアーティストの背景を後々調べることで、なぜ自分が好きになったのか考えるといいます。「美味しかった居酒屋を調べたら、〇〇系列だと分かったときの納得感と似ている」そう。
一方で、アルゴリズムに勧められるだけではなく偶発的な出会いも楽しみたい竹中は、レコード屋さんに足を運んだり、イギリスのインターネットラジオ「NTS Radio」を聴いたりするようになったといいます。自宅の和室にレコードのリスニングスペースも作ったことで、よりレコードを集めていきたい気持ちが増しているとか。
大平さんも「時間やスペースなど、ある程度のリソースをかけないと、いい音楽にはなかなか出会えない」と応答し、ウイスキーにハマったことからレコードを自宅で聴くようになったと話します。
「ウイスキーは口の中でいろいろな宇宙が広がるので、ゴクゴク飲むのではなく、じっくり味わうんです。ウイスキーを飲んで豊かな時間を過ごしていると、耳に入る音が気になってくるんですよね。今まで音源で聴いていていいと思っていたものが、『この音圧だと、ウイスキーがもったいない!』って思うようになって。そこでレコードプレーヤーも設置しました」
2026年2月に来日を控えているWet Leg。リアン・ティーズデールとヘスター・チャンバースを中心に結成された、イギリス・ワイト島出身の5人組バンドです。今年7月に2ndアルバム『moisturizer』をリリースしました。大平さんは2022年の1stアルバムからWet Legを聴いていたといいます。
「最初に聴いたきっかけは、Spotifyのプレイリストだったと思います。メロディーのキャッチーさや歌詞のシニカルさなどに、OasisやBlurなど私の好きなインディーロックやガレージロックの系譜を感じて、無視できなかったんです。肩肘を張らない軽さも今っぽいなと思います」
一方の竹中は、“Chaise Longue”のMVが「コテージコア」の文脈で語られているのを見たといいます。「ポストパンク的なサウンドにコテージコアが混在する表現が面白く感じた」とリアン自体も話していたそう。コテージコアとは、田舎暮らしを思わせる「コテージ」と、トレンドやスタイルを表す接尾辞「コア」を組み合わせた言葉。花柄のワンピースを着てベリーや花を摘み、ピクニックをしたりお菓子を焼いたりするようなノスタルジックな美学です。
「1stアルバムのジャケットが女子高生二人なのに対して、2ndアルバムはだいぶアグレッシブになっていたので驚いた」と話す大平さん。竹中も「2nd以降、ポップな路線になるアーティストが多い印象がありますが、Wet Legは自分のやりたい道を突き進んでいる」と加えます。
大きなラジカセを掲げるボーカルのリアンが印象的な2ndアルバムの楽曲“catch these fists”のMV。筋肉が印象的だと言う竹中に、大平さんも「ライブでもタンクトップを着て、力こぶを見せている写真が多く撮られている」と話し、Wet Legの魅力について語ります。
「Wet Legはかわいさと力強さが同居しているんです。ファッション的には、70年代から90年代の古着を好んでいて、花柄のワンピースや肩に大きなパフがついたガーリーな服に、ゴツめなブーツやレザージャケットなど無骨なものを合わせている。セカンドからは筋肉をアピールしたり、ジャケットでは能の面のような顔をしていたり。その絶妙なセンスがかっこいいなと思います」
この曲は、リアンがチャペル・ローンのコンサート帰りのバーでの経験を元に作られているそう。普段は安心して踊れる空間だったところ、ある男の介入によって雰囲気が壊れてしまったといいます。
そして、セカンド・アルバム『moisturizer』は愛についてのアルバムとのこと。ボーカルのリアンは、現在のノンバイナリーのパートナーを通して、はじめてクィアな関係性を経験しているそう。そのクィアな経験こそが、自身をストレートだと認識していた頃には書こうと思えなかったラブソングを書きたいと思ったきっかけであるとも話しています。
「ラブソングをまっすぐ届けるのではなく、皮肉を込めたり、軽やかさがあったりする点もUK音楽っぽさを感じる」と竹中は話します。
海外では雑誌の表紙を飾ることも多いというWet Leg。そのアイコン的な魅力は、「自分らしく楽しむことにまっすぐなパフォーマンス力」にあるのではないかと大平さんは言います。
「自分らしくあるためには、自分の弱さや複雑性にも目を向ける必要があるから、不安になることもあると思うんです。そんな現代を生きる人々に、解放的なメッセージやポジティブなエネルギーを、曲やビジュアルすべてで伝えてくれていると思います。女性のDIVAは生きる姿勢のお手本になるような面があると思いますが、アリアナ・グランデのようなお手本もあれば、チャーリー・XCXのようなお手本もある。そのなかで、Wet LegはインディペンデントなDIVA的存在のようにも思います」
竹中も、「ロックというジャンルでWet Legのような存在が出てくるのはうれしいですよね。キム・ゴードンもそうですが、時代を更新するような女性たちにはいつも力をもらう」と話します。
キム・ゴードンはX-girlを立ち上げましたが、音楽とファッションは深く結びついています。大平さんは、90年代のアンチ・マスなカルチャーから影響を受けたといいます。
「Nirvanaのカート・コバーン、The Prodigyのキース・フリント、Red Hot Chili Peppersのフリーのファッションがすごく好きでした。ジャンルは少しずつ違うものの、自由奔放でエネルギッシュ、反体制的な自分らしさがファッションに詰まっている気がするんです。音楽を通してファッションを知ったからこそ、ブランドで選ぶのではなく、ネルシャツやスウェットを着るなど、自分のアイデンティティを証明するものとしての装いを学んだ気がします」
そんな大平さんが、今紹介したいアーティストはLittle Simz。今年のフジロックにも出演した、ナイジェリア系のイギリス人ラッパーであるLittle Simzは、ディッキーズのパンツを履くような女の子に真似してほしいファッションだといいます。
「フジロックでも、Y-3のサッカー日本代表ユニフォームを着ていたんです。あと、私の個人的なポイントはキャップ使いです」
そして、Wet Legが好きな人にぜひおすすめしたいと話すのが、Amyl and The Sniffers。オーストラリア出身で、70年代を感じさせる力強いロックバンドです。
「Fred again..がAmyl and The Sniffersとコラボした曲が10月に出ていて、それもとてもいいんです」
竹中が紹介するのは、bar italia。最初はあまり顔も出さずアンダーグラウンドな空気を纏ったバンドだったものの、〈Matador Records〉から新しいアルバムを出してからは雰囲気がまた変わったそう。全員がアートやデザインのバックグラウンドがあり、ボーカルのニナは絵を描くアーティストでもあります。
「bar italiaの曲からは、どこか都市の寂しさや無機質さを感じて。今のロンドンのムードが詰まっている感じがします」
続いて紹介するHorsegirlは、アメリカ・シカゴ出身のバンド。新しいアルバムは大学進学とともにニューヨークに拠点を移してから、はじめての制作です。
「3人とも20代前半で、友達であることが創作の手前にあると話しています。昔ながらのインディー・ロックが好きな人にもおすすめしたいです」
会場では、「つめをぬるひとの音楽を纏うつめぬり」も開催。さまざまな音楽イベントで爪塗りを多数行うなど、自身も大の音楽好きだというつめをぬるひとさん。「BEATINK Listening Space」内のレコードジャケットをモチーフとしたデザインで爪塗りが行われました。とっておきの一枚が、自分だけのデザインとなって爪に宿ります。
「音楽をストリーミングサービスで聴くようになってから、ライナーノーツを読まなくなってしまった」と話す大平さん。アルバムの解説やアーティスト自身によるコメントが収録されるなど、感性と情報の両面で音楽を楽しめるのが、アナログの良さでもあります。「BEATINK Listening Space」では、高音質のスピーカーと時代を超えたレコードに囲まれ、まさに心を豊かにする音楽体験を楽しめました。
Wet Legの来日公演は2月。大平さんが魅力的だと語る「自分らしく楽しむことにまっすぐなパフォーマンス」が今からとても楽しみです。
Wet Leg『moisturizer』
発売日:2025年7月11日(金)
価格:CD国内盤…2,860円(税込) LP国内仕様盤…5,500円(税込)
発売元:BEATINK / Domino
収録曲:
1. CPR
2. Liquidize
3. catch these fists
4. davina mccall
5. jennifer’s body
6. mangetout
7. pond song
8. pokemon
9. pillow talk
10. don’t speak
11. 11:21
12. u and me at home
13. hi from me *BONUS TRACK
リリース情報
WET LEG japan moistourizer 2026
2026年2月18日(水)東京・豊洲PIT
2026年2月19日(木)大阪・GORILLA HALL OSAKA
2026年2月20日(金)名古屋・DIAMOND HALL
Open 18:00 / Start 19:00
チケット:前売:8,800円(税込)
ツアー情報
大平かりん
東京生まれ。出版社でファッションエディターとして活躍後、2022年よりIT企業のパートナーシップチームに所属。「365日同じコーディネートはしません」と公言するほどのファッション好き。発信する唯一無二なスタイルにはファンも多い。
プロフィール
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