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同じ日の日記

時間軸のない夢と、時間軸のある現実/長田果純

猫に餌、皮膚科、YUKI SHIMANEのルック撮影、宇宙規模の閏年

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年2月は、2月29日(木)の日記を集めました。猫たちと暮らし、写真を撮る長田果純さんの日記です。

今朝、10個くらいの夢を見て、その10個すべてがいい夢ではなかった。最近は気絶するように眠ってしまい、変な時間に目が覚める。悪夢もそのせいなのだろうか。
そういえばわたしが見る夢の中で、時間軸というものは存在したことがない。ただ、物語の内容は毎回超大作で、体感としてはひとつの夢が映画一本分くらいの濃い内容で描かれている。疲れるほど夢を見るときは、自力で夢から抜け出るように目を覚ます。長い時間眠ったのかと思い慌てて時計を見ると、まだ5分しか経っていなかったりする。夢を見ることは大抵好きだが、たまには無のような眠りを体験してみたい。

そんな今朝の超大作の夢を引きずりながら、寝ぼけ眼のまま真っ先に猫に餌をやる。簡単に出かける準備をして、今日は毎月通っている皮膚科へ行ってから撮影の打ち合わせに向かう。わたしは非常に肌が弱い。汗も花粉も猫の毛も水も空気も、この肌だとたちまち全部が刺激になる。乾燥と花粉のダブルパンチを喰らいながら、いつにも増して平らさを失った赤い肌をなんとかしようとしがみついている。汗やわずかな温度差、紫外線で荒れる肌との付き合いは、思春期の頃からだ。もう、この肌にいくらの金と時間を費やしてきたのだろう。日々、人目を気にし、悩み、鏡と睨めっこをする。失っているものばかりなのではないかとたまに落ち込むこともあるが、たまたま同じような経験をしたことがある友人と、肌荒れを知っている人と知らない人では、他人に向ける視線や優しさや理解度が違うのではないかという結論に至り、これはこれで良かったのかもしれないという気持ちにもなる。

皮膚科をあとにして、来月控えているYUKI SHIMANEのルック撮影の打ち合わせへ。デザイナーの島根さんは、2016年に開催した展示に足を運んでくれた際に「ブランドを始めるのでルックを撮ってほしい」と声を掛けてくれた。それからもう何年も一緒に撮影をしてきているが、今年もまたこの時期がきたのかと季節の移ろいに驚きを感じながら、毎回依頼していただけることに心の中で小さくガッツポーズをする。
色合いや素材、モチーフなどのわずかな情報からイメージを膨らませ、モデルや場所選びをする。それぞれ違う分野の人間が、一つのことについて話している。点を線にしていくような些細な作業だが、こうやって関わり合い、少しずつ通わせていく中で生まれるものがあるという事実が、わたしの心を震わせる。この蓄積が、わたしが写真を続けられている理由の一つでもある。

帰り際の電車の中、カレンダーを見ながら今年は閏年だったと気づいた。なぜ今日があったりなかったりするのか手始めに調べてみると、なんと宇宙規模の話だった。365日で元の場所へ戻って来られない、太陽の僅かなズレ(暦)を修正する日。そりゃ宇宙だって少しずつズレていくのだから、時間軸の中で毎日を生きている我々は、随分、十分によくやっている。

花粉が猛威を振っていて、今年は特にやばい。電車の中、至るところから鼻水を啜る音が聞こえる。「わたしもだよ。この春を一緒に乗り越えような」と、花粉症の同志たちへ頭の中で語りかけながら、本当なら今すぐに鼻の中を蛇口の水で洗って、目玉を取り出したい。正月気分を引きずりながらあっという間に2月に入り、もうその2月すら終わろうとしている。「もう春か。まだ何もしてないや」そのようなことをまた、ぼやく季節になった。

長田果純

1991年静岡県生まれ。東京在住の写真家。14歳の頃から写真を撮り始め、現在はポートレート撮影やファッション、アーティスト写真、作品制作など、活動は多岐にわたる。個展に「透明になることは二度とない」(2014年)、「いまは夜のつづき」(2016年)、「漂流する朝」(2020年)、「平凡な夢」(2022年)がある。

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