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「いつの間にか日記について話す人をみるとうれしくなる人間になっていた」(日記:柴沼千晴、返事:石川ナヲ)

普段の生活も長い目で見ればきっと長い長い旅路

“まず日記をつけるリズムをつくること。そして個人的な日記を共有してみること”。そんなひそやかな試みを形にするべく、「日記をつける三ヶ月」というワークショップを「日記屋 月日」とme and youが開催しました(2022年9〜11月の全5回にわたり実施)。me and you little magazineでは、最終回でおこなった「ある人の日記を読み、別の誰かがお手紙を寄せる」という企画に参加いただいた方々の「日記文通」をお届けします。

日記をつけることは個人的な行為であるにもかかわらず、誰かの日記を読んでみると、他者であるはずのその人の感情や思考と、自分のそれが交差する驚きが生まれることもあります。わかりやすさを重視してならされた言葉ではないからこそ、そのときを生きる人たちの営みや世界のありようをより一層くっきりと映し出すこともあるかもしれません。今回は、ワークショップ参加者である柴沼千晴さんの日記に、石川ナヲさんがお返事を書いた日記文通をご紹介します。

※今回の「日記文通」は、me and youが隔週金曜日にお届けしているニュースレター「message in a bottle」(登録はこちらから)内で実施している企画をもとにしています。
※この記事は、「日記屋 月日」とme and youの「日記をつける三ヶ月」のワークショップで書かれた日記とお返事をほぼ原文ママで掲載したものとなります。

2022年9月11日(日)の日記/柴沼千晴

やっぱり緊張して早く起きてしまった。ベッドの横のカーテンを寄せて少しの時間窓を開けると、知らない鳥が鳴いていた。「知らない人たちばかりの、でも絶対に心理的に安全だとわかる場所に行く朝」と電車の中でツイートし、大荷物を持って下北沢へ、風が吹くたびに緑が揺れて、屈強そうな犬の吠える声が聞こえる。ワークショップのはじめての集まりの日、うそは話していないけれど、ほんとうのことはあまり話せていないような気持ちになった(これは、そもそもわたしの人見知りが多分に影響しているのだけれど)。みなさんの日記との関わり方や書くことを通じて探していることを聞きながら、日記もきっと同じことなのだろう、と思う。言葉にしたことがその人のすべてでは決してないこと、書かないと決めたことに宿る何かのこと。それはそうと、いつの間にか日記について話す人をみるとうれしくなる人間になっていた。季節の変わり目に何を着ていくかさんざん迷ったからか、みなさんの服装にも注目してしまう。まだよく知らないらしさが表れているかもしれないと思うとうれしかった。
そのままラウンジを飛び出して12時13分発の小田急線へ、東京駅の新幹線のホームへ行く階段の前で待ち合わせ。行きの新幹線で日記のことを聞いてくれた。名古屋に行く日の午前中に用事が入ってしまった、と謝ったとき、ワークショップに参加できることを一緒に喜んでくれた人。あっという間に到着した名古屋は、夏が戻ってきたみたいな暑さだった。フルーツパーラーで桃のスペシャルパフェを食べて(みずみずしくて甘くて、その味を思い出してはパフェの舞をたびたび踊ってしまうほどだった)、焼き菓子屋さんを回って、友人のカヌレのお店で夜おやつに新作を買う。夜はおすすめしてもらったビストロへ、無花果と地鶏レバーの何とかサラダ、自分では絶対につくれない、甘くて酸っぱくて苦くて、まったりしているのにさっぱりしている複雑な味に驚愕する。こんなに無花果が完熟していることってある? と話した。お互いまったく酔っていないのに、ホテルに戻る道を何度も間違えて右往左往して、足のむくみを解消するヨガをベッドの上で滑りながらやって、順番にお風呂に入っている間に、昨日もらった手紙の返事を書いた。
普段の生活ではあまりどこにも行かず何かを思ってばかりいるので、旅の日記は、行った場所や起きたことを喜び勇んで並べたくなってしまう。けれど、何が面白くて笑っていたのか思い出せない時間やわけのわからないところで泣いてしまった時間のこと、わたしだけが大切にしていられればそれ以上は何もいらないのかもね、と思ったり、でもそれだけではいられないのだ、と思ったりする。

お返事/石川ナヲ

柴沼千晴さま 9/11の日記を読んで

柴沼さんの日記はリズムが良くて、取り上げる事柄にセンスを感じます。短かめの日記でもいろいろ書けるんだ!!と発見の連続です。
「言葉にしたことがその人のすべてでは決してないこと、書かないと決めたことに宿る何かのこと」と柴沼さんはこの日書かれています。
柴沼さんの日記からは余白の美を感じます。言葉のもつ力を信頼して読み手にゆだねるという印象を持ちました。言葉ではすべてのことはあらわせない、「書かないと決めたこと」のいさぎよさ。そこに宿る何か。とても余韻を感じます。ある人とご飯を食べたこと、みんなで集まったことを記すだけで伝わってくるものがありました。それはもしかすると「知らない鳥」「屈強そうな犬の吠える声」という言葉に起因するのかも、と思ったり。
旅の日記についての想いもとても共感しました。これから、私も旅日記書いていこうと思ってます。
普段の生活も長い目で見ればきっと長い長い旅路なんですよね。素敵な文章ありがとうございます。

二◯二二.十二.十二 石川ナヲ

柴沼千晴

日記や文章を書きます。2022年に、日記本のリトルプレス『犬まみれは春の季語』『頬は無花果、たましいは桃』をつくりました。
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石川ナヲ

会社員の傍ら、文学フリマ東京で「フラクタル山羊座ロンド」というサークル名で活動している。昨年より日記屋月日のワークショップ等がきっかけで日記をつけ始めた。第三回日記祭や文学フリマ等で日記本(三冊)を販売する。
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第三回日記祭や文学フリマ東京で日記本(三冊)の販売を致します。是非来てください。

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me and youの竹中万季と野村由芽が、日々の対話や記録と記憶、課題に思っていること、新しい場所の構想などをみなさまと共有していくお便り「me and youからのmessage in a bottle」を隔週金曜日に配信しています。

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