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宮沢和史さん・前田エマさんと選ぶ。日本で暮らしながら沖縄を考えるための本、映画、音楽

観光以外の沖縄を教えてくれる本、島唄の神様と呼ばれる歌い手の作品

me and you、前田エマさん、クラブヒルサイドがお送りする勉強会「わたしのために、世界を学びはじめる勉強会 ――本、映画、音楽を出発点に」は、本や映画、音楽といった身近な「好き」や興味を出発点に、日々の発見や違和感を掘り下げ、世界の歴史や社会問題について学び考えていくシリーズです。

音楽家の宮沢和史さんをお招きして、2022年7月に行われた「日本で暮らしながら考える、沖縄のこと」。宮沢さん自身の沖縄との出会いや、「好き」という気持ちを出発点に沖縄の過去や今を知り、未来について話してきた前編後編に続いて、この記事では沖縄の人たちの土地や歴史、営みを知って考えるための本や映画を、宮沢和史さん、前田エマさん、me and youがご紹介します。

宮沢和史さんおすすめ作品1

『観光コースでない沖縄―戦跡・基地・産業・自然・先島』(著:新崎盛暉、謝花直美、松元剛、前泊博盛、亀山統一、仲宗根將二、大田静男)

沖縄戦跡や碑石、広大な軍事基地を巡り、産業や自然など、揺れ動く今日の沖縄の姿を伝える。第4版は執筆者、内容構成を大きく変更し、第一線の記者と研究者が現場に案内する。

「観光のガイドには載ってない場所に行くための道しるべのような本です。僕はこれでチビチリガマを知りました」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品2

『つながる沖縄近現代史』(編:前田勇樹・古波藏契・秋山道宏)

現代の沖縄社会に向き合う上で重要なテーマに関して、最新の研究成果を盛り込んだ沖縄近現代史の「入門書」。さまざまなバックグラウンドを持つ研究者たちが、世界史や日本史とのつながりを意識しながら、幅広い読者へむけてまとめた。

「最近出た本も紹介したいなと思って。沖縄に限らずあらゆる本に書かれている内容は、当時は正しかったかもしれないけど、その後の研究で変わっていくということがあって。沖縄のことをもう一度じっくり考えようというこのチームは、僕の『沖縄のことを聞かせてください』という本の監修に関わってくれました。今読んでいるところですが、面白いですね」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品3

『南米レストランの料理人』(著:漢那朝子)

アルゼンチン・ペルー・ブラジルなど、かつて沖縄から南米へと渡った人たちの子孫が沖縄に帰ってきて暮らしを営む。南米日系人の取材を続けてきた著者が記す、沖縄でレストランを開いた日系人のファミリー・ヒストリー。

「最近出会った本です。南米はウチナーンチュが多いのですが、ブラジルやアルゼンチンから沖縄に戻ってきてレストランを開いた人たちの苦労話や楽しい話など、実際のさまざまなストーリーが書かれています。僕もよく行く名護の『ブラジル食堂』や、浦添にあるエンパナーダやチョリパンを出す『カミニート』のお話も載っていますし、最近読谷村にできた『ヴィヴァラカフェ(VIVA LA COFFEE)』と『ベイジャフロー(Café Beija-flor)』という二つのブラジルゆかりのカフェの物語も入っています。彼らの人生を知ることで、沖縄と世界の関係や、移民とはなんぞや、ということを知ることができます」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品4

『沖縄の衛生害虫』(著:岸本高男・比嘉ヨシ子)

1986年刊行。沖縄に生息する人間に害を及ぼす虫についての知識が学べる。害虫駆除における啓蒙的な本。

「僕も沖縄に通い始めた頃、いわゆる“沖縄病”というものに昔なりましてね。東京で何を見ても、沖縄を考えてしまう。沖縄のいろいろなことを知りたいと思って手が伸びた本なんですけど。これを買ったときにレジで『あ、俺は病気なんだ』と思いました(笑)。害虫の本ですね。我に返って少し冷静になろうと思うきっかけになった、戒めの本です」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品5

『モモト』

「モモト」という名前は琉球王国時代の実在の人物、百度踏揚(ももとふみあがり)から着想を得ている。民謡歌手の故・大城美佐子をスーパーバイザーとして2009年に創刊した雑誌。自らの足で見つけた琉球・沖縄の魅力を発信することで時代や世代をつなぎ、記録と記憶を残すことを目的としている。

「ジャズや紅型など、沖縄のさまざまな文化や芸能を特集している、毎号すごく深い内容の雑誌です。僕の連載も載っているので、ぜひチェックしてみてください」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品6

『ウンタマギルー』(監督:高嶺剛)

舞台は1969年の米軍統治下の沖縄。豚の化身の美女と関係を持った工場労働者の青年ギルーは森の中に追放されてしまうが、超能力を手に入れ義賊として沖縄独立派のなかで活躍していく。沖縄の風土を伝える神話的イメージがふんだんに織り込まれている。

「ビジュアルとして沖縄にはこういう空気が流れているのかということを教えてくれたのが、この映画です。小林薫さん主演、戸川純さんも出ていますね。ウンタマギルーという昔話があって、それを現代的に解釈した作品です」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品7

『パラダイスビュー』(監督:高嶺剛)

日本復帰前の沖縄を舞台にしたファンタジー映画。かつて人気ミュージシャンだった青年レイシューと東京からやってきて村の女性と結婚することが決まっているイトーなど、村人たちを描く群像劇。沖縄民謡の歌い手である嘉手苅林昌も登場する。

「これも高嶺剛さんが監督した作品です。『パラダイスビュー』(1985年)のほうが『ウンタマギルー』(1989年)よりも年先ですね。DVDになってないので、ビデオで持ってきました。こちらも小林薫さん、戸川純さんが出演していて、音楽を担当した細野晴臣さんも役者として出られています」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品8

知名定男『島唄百景』

民謡歌手、作詞作曲家、音楽プロデューサーである知名定男。登川誠仁を師匠にもつ。2009年に発売した『島唄百景』は101曲を新しく録音した。

「僕が録音・記録に取り組んでいる『唄方プロジェクト』では、沖縄・宮古・八重山の民謡文化の保存、継承、普及のために245曲をさまざまな方が歌っていますが、『島唄百景』は知名定男さんがお一人で100曲以上の沖縄本島の民謡を歌っています。情け歌から舞踊曲、これを聞けば沖縄民謡はほぼ把握できると思います」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品9

大工哲弘『八重山歌謡全集』

八重山郡出身の大工哲弘は、八重山地方に伝承されるさまざまな島唄をうたい、八重山民謡の第一人者と呼ばれている。1999年には沖縄県無形文化財保持者に指定された。『八重山歌謡全集』は島々に伝わる謡を網羅した決定版であり、全177曲収録されている。

「『ちむどんどん』にも出ていた大工哲弘さん。大工さんも同じように、八重山民謡をお一人で歌ったものをCD5枚組におさめた『八重山民謡』を発表されています」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品10

嘉手苅林昌『ジルー』

島唄の神様と呼ばれる嘉手苅林昌。1999年10月に亡くなるが、追悼アルバムとして出たのが『ジルー』である。登川誠仁、知名定男、大工哲弘らとの共演曲を含む計20曲が収録されている。

「ジルーというのは、本土的に言えば『ジロウ』という、嘉手苅林昌さんの童名ですね。1999年に嘉手苅さんは亡くなってしまいましたが、たくさんの音源を私たちに残してくれました。この作品はその中でも絶品です(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品11

大城美佐子『絹糸声』

知名定男の父、知名定繁に弟子入りして民謡の道に進んだ大城美佐子。伸びやかな高音が「絹糸の声」だと評された。『絹糸声(いーちゅぐい)』は18曲が収録されている。知名定男、大工哲弘らとの共演曲を含む計20曲が収録されている。

「大城美佐子さんのことが、僕は大好きです。2022年の1月に亡くなってしまったのですが、この人と出会ったことで沖縄民謡に引きずり込まれたと思っています。『絹糸声(いーちゅぐい)』と読むのですが、絹のような声、絹の糸のような声という意味のアルバムですね」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品12

仲宗根創『歌ぬ糸』

1988年生まれ、現在の沖縄民謡を牽引する唄者である仲宗根創の最新アルバム。民謡を新たな時代へと繋ぐため電子音楽やレゲエを取り入れた別名義「R∞2(ルーツ)」や、コントなどにも活動の幅を広げるが、本作では本流である民謡歌手として、島々の名曲を堂々と歌い上げる。

「最近の作品だと、仲宗根創くんのアルバムを紹介したいです。沖縄民謡のトップランナーだった登川誠仁の、最後の若きお弟子さんです。登川さんもお亡くなりになられました」(宮沢和史さん)

宮沢和史さんおすすめ作品13

宮沢和史、夏川りみ、大城クラウディア『沖縄からの風』

2022年沖縄本土復帰50年を迎えるにあたって、宮沢和史、夏川りみ、大城クラウディアのプロジェクトとして音源化。沖縄の名曲、沖縄民謡、それぞれのオリジナル曲など計14曲を収録している。

「夏川りみ、大城クラウディア、宮沢で、沖縄から生まれた名曲の数々を歌っています」(宮沢和史さん)

第2回「日本で暮らすなかで自分ごととして考える、難民・移民のこと」
東南アジアや中東・アフリカ・日本国内で難民や貧困、災害の取材を続けていらっしゃる、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんをゲストにお迎え。「日本で暮らすなかで自分ごととして考える、難民・移民のこと」をテーマに、日本における難民受け入れや入管問題、人種・民族差別の問題などについて、食や本・映画などのカルチャーの話も交えてお話を伺いながら、異なるルーツの人々とどう「共に生きる」ことができるのか、そして一人ひとりが「自分ごと」として捉え考えていくためのヒントをじっくりと教えていただきました。

安田菜津紀さんに聞く、“遠くの国のこと”ではない、すぐ隣にある難民・移民のこと
安田菜津紀さん・前田エマさんと選ぶ。難民・移民のことを知り始めるための本・映画

第3回「日本で暮らしながら考える、沖縄のこと」
2022年は沖縄が1972年に日本に復帰してから50年となる年ですが、日本に暮らすわたしたちは、どれぐらい沖縄の土地や人々の歴史について知っているでしょうか。THE BOOMの代表曲の一つである“島唄”の発表以来、音楽を立脚点に沖縄の人や土地、歴史と30年にわたって関わり続けてこられた、音楽家の宮沢和史さんをゲストにお迎し、沖縄という場所の過去や今について学びながら、未来に向けて自分たちがどう向き合い関わっていくことができるのかということについて、一緒に考えていきました。

宮沢和史さんに聞く。沖縄の人々の歴史を自分ごととして知り、考えるために
宮沢和史さんと話した沖縄のこと。自分なりの目線でいいから、もっと知る

宮沢和史

1966年山梨県甲府市生まれ。THE BOOMのボーカリストとして1989年にデビュー。1992年、沖縄戦の生存者の話を聞いて作った代表曲「島唄」を発表。全国で200万枚以上のヒットとなる。
2014年のTHE BOOM解散以降、表舞台での活動を一時休止。歌唱を再開した現在も自身の転機となった沖縄の音楽を後世に橋渡しする活動に力を入れており、三線の材料となるくるちの木の植樹、沖縄民謡のアーカイブ制作、新作琉球舞踊・様々な形態の歌会のプロデュースなど独自の方法で沖縄と関わり続けている。

前田エマ

1992年神奈川県生まれ。東京造形大学卒業。モデル、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティ、キュレーションや勉強会の企画など、活動は多岐にわたり、エッセイやコラムの執筆も行っている。連載中のものに、オズマガジン「とりとめのない日々のこと」、みんなのミシマガジン「過去の学生」がある。声のブログ〈Voicy〉にて「エマらじお」を配信中。著書に小説集『動物になる日』(ちいさいミシマ社)がある。

『わたしのために、世界を学びはじめる勉強会――本、映画、音楽を出発点に』

「社会に出て幾年月。今だからこそ、学びたい!」
すこし前まではどこか遠くに感じていた世界のできごとや政治が、映画や本、音楽を通して自分たちの日常とつながっていることがわかってきた、そんな体験はありませんか。me and youと前田エマさんが企画する「わたしのために、世界を学びはじめる勉強会」では、日々の発見や違和感を掘り下げ、国とテーマを変えながら、世界の歴史や社会問題を学びます。 わからなくても、詳しくなくても大丈夫。興味を持ち寄り、世界を知り、自分を知るための扉を一緒にひらくことができたら嬉しいです。年齢性別問わず、さまざまな方にご参加いただければと思います。

第1回:「BTSの音楽から、韓国を知りたい~なぜ、韓国の人は声をあげるのか」 ゲスト:権容奭(一橋大学大学院准教授)
第2回:「日本で暮らすなかで自分ごととして考える、難民・移民のこと」 ゲスト:安田菜津紀(フォトジャーナリスト)
第3回:「日本で暮らしながら考える、沖縄のこと」ゲスト:宮沢和史(音楽家)
第4回:「ロシアのウクライナ侵攻から1年。日本に暮らす私たちにもつながっているこの戦争を、もう一度知りたい」 ゲスト:藤原辰史(歴史学者)

『沖縄のことを聞かせてください』

著者:宮沢和史
発行:双葉社
発売日:2022年4月28日(木)
価格:2,420円(税込)

沖縄のことを聞かせてください│双葉社

『動物になる日』

著者:前田エマ
発行:ミシマ社
発売日:2022年6月10日
価格:2,420円(税込)

動物になる日 | 書籍 | ミシマ社

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