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安田菜津紀さん・前田エマさんと選ぶ。難民・移民のことを知り始めるための本・映画

『バクちゃん』『やさしい猫』『Bawka(パパ)』『ぼくは挑戦人』など

フォトジャーナリストの安田菜津紀さんをゲストにお迎えし、「日本で暮らすなかで考える、難民・移民のこと」をテーマに、日本における難民や入管、民族差別の問題について学んできた「わたしのために、世界を学びはじめる勉強会 ――本、映画、音楽を出発点に」の第二回。

勉強会の最後には、この会の主旨でもある本・映画・音楽を出発点に、わたしたちが「難民・移民」というテーマについて日常のなかから学び考えていくためのおすすめの作品を、安田さん・エマさん・me and you野村・竹中からそれぞれご紹介しました。この記事では、当日紹介された作品を4人の思いのこもったコメントとともにお届けしますので、これを読んでくださった方の「知りたい」という間口を広げることのできる作品たちとの出会うきっかけとなりましたら幸いです。

安田菜津紀さんおすすめ作品①

漫画『バクちゃん』(著:増村十七)

安田菜津紀さん・前田エマさんと選ぶ。難民・移民のことを知り始めるための本・映画

『バクちゃん』(著:増村十七/KADOKAWA、2020年)

バクの星から「地球」にやってきたバクちゃんが、「違う星から来た人はどうやって住民登録するんだっけ?」「携帯電話を買うときは?」「永住権を取るためには?」といろんな壁に突き当たっていく様子を見ていくなかで、移民として日本で生きようとしている人の話なんだということがだんだんわかっていきます。他の星出身の登場人物たちのエピソードには、難民や移民二世の子どもの話などもあるのですが、それらがすごくやわらかいタッチで描かれていて、漫画なので「ちょっとこれ読んでみて」と人にもすごく薦めやすい作品です。(安田菜津紀さん)

安田菜津紀さんおすすめ作品②

小説『やさしい猫』(著:中島京子)

安田菜津紀さん・前田エマさんと選ぶ。難民・移民のことを知り始めるための本・映画

『やさしい猫』(著:中島京子/中央公論新社、2021年)

入管や収容の問題を、こんなに平易でやさしい言葉で、ちゃんと本質を伝えることができるんだ、とものすごく感動した傑作です。日本人のシングルマザーとスリランカ出身の男性との恋愛を、10代の娘さんのモノローグ形式で語っている物語で、「入管」「収容」「難民問題」といった一見難しそうな内容が、会話形式なのですごく噛み砕かれていて、すっと心に届きます。これを読むと、今までわからなかった入管問題のワードなどもわかるようになりますし、小説としてもとてもクオリティが高いです。(安田菜津紀さん)

安田菜津紀さんおすすめ作品③

ショートムービー『Bawka(パパ)』(監督:ヒシャーム・ザマーン)

『Bawka(パパ)』(ヒシャーム・ザマーン監督 /2005年)

ヨーロッパに逃避行を続けているクルド人親子の話を描いた、15分ほどのショートムービー。「Bawka」はクルドの言葉で「お父さん」という意味。最後にはお父さんが自分を犠牲にして子どもを守るという話になっていくのですが、何度観ても毎回つらくて、初めて観たかのように心が揺れる作品です。クルド人は各国で少数民族扱いをされているがゆえにさまざまな迫害を受けてきた人たちで、2005年にこの作品が作られてから17年経ったものの、昨年秋にベラルーシとポーランドの国境で多くの移民・難民の人たちが殺到して、寒さのなかで凍死する人たちもいたという出来事があったときも、その多くがクルド人でした。17年経っても状況が変わらないということに愕然としつつ、ここに込められた願いが、映像を通して多くの人たちに伝わっていくといいなと思っています。(安田菜津紀さん)

前田エマさんおすすめ作品①:

映画『風の電話』(監督:諏訪敦彦)

『風の電話』(諏訪敦彦監督/2020年)

東日本大震災で家族を亡くした高校生が、岩手にある亡くなった方と話せるという電話ボックスを目指して道中で出会ったおじさんと旅していくロードムービーなのですが、そのなかにクルド人の方々との交流のシーンが出てきます。諏訪敦彦監督は、ドキュメンタリーとフィクションの中間みたいなものをずっと考え続けていらっしゃる方で、この物語はフィクションですが、そのクルド人の方々との交流の場面だけは、仮放免中で入管施設の外で暮らすことが認められている実際のクルド人の方たちが出ている、ノンフィクションのような手段をとって描かれています。(前田エマさん)

前田エマさんおすすめ作品②:

映画『その手に触れるまで』(監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ)

『その手に触れるまで』(監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 2019年/ベルギー=フランス/85分/Website

兄弟で作っているおじいちゃんの監督なのですが、彼らの作品はいつも、「社会でいろいろなことが起きるなかで、一番大変な思いをするのはいつも子どもだ」ということを描き続けています。この作品は、ベルギーで移民の家庭で育った子どもたちが、過激なイスラム教を自分の拠りどころにしていって、それが自分にとっての正義になっていき、どんどん狂信していく姿を描いています。(前田エマさん)

安田菜津紀さん・前田エマさんおすすめ作品:

エッセイ『ぼくは挑戦人』(著:ちゃんへん.)

安田菜津紀さん・前田エマさんと選ぶ。難民・移民のことを知り始めるための本・映画

『ぼくは挑戦人』(著:ちゃんへん.、構成:木村元彦/ホーム社、2020年)

世界でプロパフォーマーとして活躍するちゃんへん.さんによるエッセイ。朝鮮人としていじめられた過去なども綴られているのですが、「かわいそう」「気の毒だな」という感じというよりも、本当にパワフルな元気がもらえて、世界がパッと広がるような感覚をくれる、泣けて笑える一冊です。そのなかで私が一番びっくりしたのは、ちゃんへん.さんがパフォーマーとして世界に行くことになってパスポートを取るときに、自分で北朝鮮籍か韓国籍かを選ぶというシーン。「国籍を自分で選ばなきゃいけない人たちがこの世界にいる」ということを今まで考えたこともなかったので、そのことにもすごく衝撃を受けました。(前田エマさん)

お母さんが強烈で、ちゃんへん.さんがいじめを受けていじめっ子と一緒に校長室に呼ばれたときに、バーン!と部屋に入ってきて、校長先生に対して「あんた、ほんまにいじめなくなると思ってんの? 子どもにとってあんなおもろいもん、なくなるわけないやろ! お前、学校のトップやったら子どもたちにいじめよりおもろいもん教えたれ!」と言って帰るみたいな感じの方なのですが、要所要所で本質を突いていくようなお母さんの言葉もすごく魅力的です。(安田菜津紀さん)

me and you野村由芽おすすめ作品:

映画『希望のかなた』『ル・アーヴルの靴みがき』(監督:アキ・カウリスマキ)

『希望のかなた』(アキ・カウリスマキ監督/2017年)

アキ・カウリスマキ監督は、色彩や独特の間合いといったところを楽しめる作風でありながら、難民や移民の方たちが直面する問題を捉える作品を近年作られています。『希望のかなた』は、内戦が激化するシリア難民の青年が、生き別れた妹を探す道中でフィンランドで飲食店を営むおじさんのところで働くことになり、カウリスマキらしいユーモアやあたたかさ、少しシュールな展開がありつつも、入国管理局の厳しい現状を描いているという対比がすごく印象的な作品でした。(野村由芽)

me and you竹中万季おすすめ作品:

小説『僕の名はアラム』(著:ウィリアム・サローヤン)

安田菜津紀さん・前田エマさんと選ぶ。難民・移民のことを知り始めるための本・映画

『僕の名はアラム』(著:ウィリアム・サローヤン、訳:柴田元幸/新潮社、2016年)

アルメニア移民の子どもとして生まれたサローヤンが、故郷の街を舞台に描いた作品。9歳のアラムの目に映る風景や、個性的な周りの人たちとの関わり合いにすごく魅了されます。直接的にこの作品で移民問題について描いているわけではないですが、サローヤンの親の世代が、トルコによるアルメニア弾圧から逃げてきた移民第一世代ということで、そういったことを知って読むと、また見え方が変わる作品です。(竹中万季)

第2回「日本で暮らすなかで自分ごととして考える、難民・移民のこと」
安田菜津紀さんに聞く、“遠くの国のこと”ではない、すぐ隣にある難民・移民のこと

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

前田エマ

1992年生まれ。東京造形大学在学中からモデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど、分野にとらわれない活動が注目を集める。2020年にはウェブマガジン「SPINNER」の編集長を務め、企画展のキュレーションも行った。2022年6月、初の小説『動物になる日』がミシマ社より刊行。

『わたしのために、世界を学びはじめる勉強会――本、映画、音楽を出発点に』

「社会に出て幾年月。今だからこそ、学びたい!」
すこし前まではどこか遠くに感じていた世界のできごとや政治が、映画や本、音楽を通して自分たちの日常とつながっていることがわかってきた、そんな体験はありませんか。me and youと前田エマさんが企画する「わたしのために、世界を学びはじめる勉強会」では、日々の発見や違和感を掘り下げ、国とテーマを変えながら、世界の歴史や社会問題を学びます。 わからなくても、詳しくなくても大丈夫。興味を持ち寄り、世界を知り、自分を知るための扉を一緒にひらくことができたら嬉しいです。年齢性別問わず、さまざまな方にご参加いただければと思います。

第1回:「BTSの音楽から、韓国を知りたい~なぜ、韓国の人は声をあげるのか」 ゲスト:権容奭(一橋大学大学院准教授)
第2回:「日本で暮らすなかで自分ごととして考える、難民・移民のこと」 ゲスト:安田菜津紀(フォトジャーナリスト)
第3回:「日本で暮らしながら考える、沖縄のこと」ゲスト:宮沢和史(音楽家)
第4回:「ロシアのウクライナ侵攻から1年。日本に暮らす私たちにもつながっているこの戦争を、もう一度知りたい」ゲスト:藤原辰史(歴史学者)

Dialogue for People

安田菜津紀さんが副代表を務めている認定NPO法人Dialogue for People。困難や危機に直面する人々、社会的課題の渦中にある地域に飛び込み、語り合い、写真や文章、動画、音楽など様々な表現を通じて、ともに同時代を生きる全ての人々に「伝える」ことを活動の主軸としていらっしゃいます。現在、マンスリーサポーターを募集中だそうです。

Dialogue for People

『あなたのルーツを教えて下さい』

発行:左右社
発売日:2022年2月5日
価格:1,980円(税込)

あなたのルーツを教えて下さい | 左右社 SAYUSHA

『動物になる日』

発行:ミシマ社
発売日:2022年6月10日
価格:2,420円(税込)

動物になる日 | 書籍 | ミシマ社

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me and youの竹中万季と野村由芽が、日々の対話や記録と記憶、課題に思っていること、新しい場所の構想などをみなさまと共有していくお便り「me and youからのmessage in a bottle」を隔週金曜日に配信しています。

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