メイ・カーショウにインタビュー。民主的であること、ときには変化を恐れないこと
2026/1/29
『Forever Howlong』を聴いていると、綻びばかりに目が向きがちの日々のなかで、この世界にはまだまだ希望があるのではないかという気持ちで満ちてくるのはなぜだろう?
2018年にイギリスのケンブリッジ周辺で活動していた友人同士で結成したバンド、Black Country, New Road。2022年にフロントマンのアイザック・ウッドがメンタルヘルスの影響で脱退してからは、彼へのリスペクトのもと「過去の楽曲は演奏しない」という決断をし、6人体制で再始動。最新アルバム『Forever Howlong』では、メイ・カーショウ、タイラー・ハイド、ジョージア・エラリーの3人がソングライティングとメインヴォーカルを担当し、決して大きくはない、非常にパーソナルで小さな日常をそれぞれの視点で描き、その物語をメンバー全員で壮大なアンサンブルへと紡ぎ上げています。
個人が生み出した曲を、音楽を通して全員で支える。不安を感じているメンバーがいたら、全員でサポートする。そして、パレスチナへの支援のためのベネフィットライブを行うこと――東京でのライブの翌日に行なったメイ・カーショウへのインタビューで、彼女が何度も口にしていたのは「support(支える)」という言葉でした。支えること、民主的であること、変化を恐れないこと。長く活動を続けていくうえで大切にしていることについて、話を伺いました。
―Black Country, New Road(以降、BC,NR)は友人同士で始められたバンドですね。友人同士で長く共に活動を続けることについて、今日はお話を伺いたいなと思いました。
メイ:もう10年くらい一緒に演奏しているメンバーがほとんどで。本当に長い時間、人生の多くを共に過ごしてきました。友達と一緒にツアーができて、一緒に演奏できるというのはただただ素晴らしいことで、本当にラッキーだと感じています。バンドにとって、それは当たり前のことではないですよね。
―長く続けるなかで、意見が異なったりすることもありますか?
メイ:音楽的な意見の相違はたくさんあるけれど、そうした創作にまつわる議論をするときに、パーソナルな問題にしない、感情的な対立にしないことが、以前よりもずっとうまくなったんだと思います。たとえ一つのアイディアに対してメンバーが異なる感じ方をしていたとしても、それは音楽を良くするための議論で、意見を交換すること自体はまったく問題ないことだと感じています。
―アルバムを聴いたり、昨日のライブも観ていたりしても、BC,NRは「個人の声」と「その集合」をどちらもすごく尊重しているように感じます。そうしたことについて普段考えることはありますか?
メイ:そうですね、よく考えます。基本的には、その曲を歌う人が歌詞を書いています。その言葉は、メンバーのあいだで事前に話し合うことなく、個人のなかで自然と生まれてくるものです。そして歌詞ができあがったら、その言葉を支えるように音をつくっていきます。そのときには、全員が「その曲のために尽くす(serve the song)」ように努めていて。たとえば、つくった人の意図をどう活かすべきか。その曲が最高の状態になれるようにどうサポートできるか。そうした進め方が、私たちのアレンジにおける鍵なんだと思います。
―制作中は、音楽以外のことも話しますか?
メイ:話します。生活のことだったり、最近どう過ごしているかだったり。意図的ではなくても、そこで話したことが音楽の中に表れているかもしれないですね。
―『Forever Howlong』を聴いていると、とても幸福な気持ちが湧いてきて。楽曲の素晴らしさはもちろんですが、お互いの関係性や音楽へのリスペクト、制作のプロセスなどが随所に滲んでいるからこそ得られる幸せなのかもしれない、と昨日のライブで感じました。過去のインタビューでもバンドとして民主的であることを大事にしていると話していますが、それはなぜでしょうか。
メイ:どんな小さなアイディアに関する決定であっても、私たちは本当にたくさん話し合います。できる限り多くのメンバーが幸せでいられるように努めていて。それからツアーに関しても、もし誰か一人でも居心地の悪さを感じていたり、不安に思っていたりするなら、私たちはその人を全力でサポートします。誰かが不快に感じることや、本当にやりたくないと思っていることを無理にやることがないよう、誰もが徹底しているんです。
―音楽に関しても、それ以外も、両方?
メイ:両方ですね。音楽に関してはより多くの妥協が必要な場面もありますが、それでも対話を重んじる姿勢には変わりないかなと思います。ときには多数決が必要なこともあるけれど、話し合って、よい解決策を見つけようとしています。音楽以外の面に関しては、もし誰か一人が「これはやりたくない」と言えば、「じゃあ、やめよう」となる。それはとてもシンプルです。
―2024年にはロンドンでパレスチナ支援を目的としたベネフィット・コンサートも開催されています。これも、バンド内で話すなかで決めたのでしょうか。
メイ:みんなで話して、やろうと決めました。私たちができるささやかな、ほんの小さなことでしかないと思うのですが、開催できてよかったです。時々、「自分たちがしていることは、本当に助けになるんだろうか?」と自問することもあります。それでも、多くの人がこのライブのために集まり、支援を示し、この状況について共有できたことは、とても良いことだったと感じています。
―今回のアルバムでは、メイさんのほか、ジョージアさんやタイラーさんもソングライティングとリードヴォーカルを担当されています。メイさんから見て二人は自分とどう異なると思いますか?
メイ:私たちのソングライティングの手法はかなり異なっていると思います。ジョージアやタイラーの曲の書き方は本当に素晴らしくて、おもしろい。そして私は彼女たちに対して、ある種の畏敬の念を抱いていて。私自身、彼女たちのソングライティングの一人のファンなのだと思います。彼女たちが持ってきた曲を聴き、それぞれのソングライティングがどこへ向かうのか、その展開を耳にするのはすごくわくわくするし、とてもインスパイアされています。
―一人のファン。素敵ですね。反対に、重なるところは?
メイ:共通点といえば、私たちは仕事を通じて、本当に多くの経験を共有してきました。ヨーロッパのツアー先での食事はどこへ行ってもヘビーなものばかりになりがちで、3、4日おきにみんなでベトナム料理屋に行ってフォーを食べています。私たちはみんな、フォーが大好きなんです。もっといろいろあると思うけど、そのことが一番最初に頭に浮かびました(笑)。
―映画やアートなど、好きな作品の話などもしますか?
メイ:みんなのおすすめを聞くのが大好きです。最近だと、バービカン・センターで上演されていたŁukasz Twarkowskiによる舞台『ROHTKO』がすごくよかったとジョージアから教えてもらって。観たいなと思って調べてみたら、次に上演されるのがラトビアのリガだけだったんです。ちょうど、学生時代の古い友人たちと一緒に旅行に行く計画があったので、その舞台を観るために行き先をリガに変更しました(笑)。
―メイさんのInstagramを見ると友人たちと撮った写真が載っていて、身近な友人のアカウントのようでとても親近感を抱きます。ツアーやライブで忙しい生活の中でも、昔からの友人との時間を大切にされているんですね。
メイ:5歳の頃からの親友がいるんです。一緒に学校に通った仲間たちは今ではそれぞれまったく違う世界で生きていて、すごく素敵なことだなと思っていて。私は生まれ育ったケンブリッジで暮らしていて、友達のほとんどはロンドンにいるので、ときどき会いに行っています。私はツアーに出ていないときは本当に静かな生活を送っていて特別なことは何もしていないけれど、友人たちと過ごす時間を本当に大切にしています。
―アルバムのタイトル曲でもある“Forever Howlong”はメイさんがソングライティングとリードヴォーカルを務める曲です。歌を歌うメイさん以外のメンバーが全員でリコーダーを吹きますよね。ライブでその姿を目にして、心に迫るものがありました。一人ひとりが新しい楽器に取り組んだというプロセスも素敵だと思うのですが、この曲が生まれた背景についても伺いたいです。
メイ:この曲を書いたのは、冬が来た時期で。イギリスの冬はただひたすら長く感じられるのですが、「ああ、また冬が来て、それがしばらく続くんだな」という感じが込められていると思います。その暗さのなかで自分なりの光を見つけ出そうとしていたけれど、どこか重苦しさもあって。午後5時には、もう真っ暗になってしまうし。
それに、この曲を書いていたとき、私はケンブリッジにいて、誰ともほとんど話をしていませんでした。数週間のあいだ、母とドライビングスクールの教官以外にしか会っていなくて。この曲を書き上げた直後に車の教習があったんですが、「いい曲ができた!」と確信して頭がそのことでいっぱいになってしまって、教習に全然集中できなかったんです(笑)。教官に「どうしたんですか?」と言われてしまい、「今、すごく気に入った曲を書けたところなんです!」と答えました。それがこの曲が生まれた瞬間でした。
―一人で少し寂しい気持ちを抱えながら歩いてるときに、どこか遠くに知らない人の生活があることを見て、心に何かが灯るときの感覚を思い出しました。
メイ:少し孤独を感じていたので、街をよく歩き回って人間観察をしていたんです。暗い季節に、一筋の希望を込められたらと思いました。
―『Forever Howlong』というタイトルからは、変化を受け入れながら長く長く続いていくような感覚を受け取ります。変わるということに対して、どのように感じていますか?
メイ:変化することは本当に大切だと思います。音楽の好みも、曲の書き方も、みんな変わっていきますよね。この10年で、本当に重要なアーティストやミュージシャンたちに出会えて、それが本当にうれしくて。「これから先、他にどんな出会いがあるんだろう?」って。直接顔を合わせることだけではなくて、新しい音楽を聴くという体験も含めて、そう思うんです。だからこそ、ときには変化しながら、自分たちが本当に「おもしろい」と感じることをやり続けることが大事だと思います。
―メイさん自身が、活動を始めてから今までで変わったなと感じるところは?
メイ:実は最近、マネージャーに言われて思い出したことがあって。1stアルバム(『For the first time』)に“Track X”という曲があって、コーラスを歌っているんですけど、その頃の私は歌うことに対して本当にシャイだったんです。なんというか、本当に無理で……。ジョージアとタイラーがもうレコーディングしていたのは知っていたけど、私は「みんなの前でなんて歌えない!」という感じで。自分自身をさらけ出すようで、難しく感じていました。そう考えると、私はずいぶん遠いところまで来たんだと感じます。当時は自分がこれほどたくさん歌うことになるなんて、想像もできなかったから。
―昨日のライブでも、ピアノを弾きながら歌うメイさんのまっすぐな歌声が心に響きました。シャイだった状況をどうやって乗り越えたんでしょうか?
メイ:あるときから、こう考えるようにしたんです。「今は準備ができていなくても、未来のいつか、きっとできるようになる」って。「自分にはそれを成し遂げる力があるし、成し遂げられる可能性がある」という信念を持つようにしています。
メイ・カーショウ
英国のケンブリッジを拠点とするミュージシャン。
ブラック・カントリー・ニュー・ロードのメンバーで、キーボード、アコーディオン、そしてボーカルも務めている。
写真:Eddie Whelan
Instagram (May Kershaw)
Instagram (Black Country, New Road)
Website
プロフィール
Black Country, New Road『Forever Howlong』
発売日:2025年4月4日(金)
価格:CD国内盤…2,860円(税込)
発売元:BEATINK / Ninja Tune
収録曲:
1. Besties
2. The Big Spin
3. Socks
4. Salem Sisters
5. Two Horses
6. Mary
7. Happy Birthday
8. For the Cold Country
9. Nancy Tries to Take the Night
10. Forever Howlong
11. Goodbye (Don’t Tell Me)
リリース情報
me and you little magazineは、今後も継続してコンテンツをお届けしていくために、読者のみなさまからサポートをいただきながら運営していきます。いただいたお金は、新しい記事をつくるために大切に使ってまいります。雑誌を購入するような感覚で、サポートしていただけたらうれしいです。詳しくはこちら
*「任意の金額」でサポートしていただける方は、遷移先で金額を指定していただくことができます。
あわせて読みたい
どれだけ違う人間性でも、音楽という駅に入れば、混じり合うことができる
2025/07/30
2025/07/30
友情が先にあって、そのなかに創作活動がある。それくらい私たちの人生は絡み合っている
2025/11/07
2025/11/07
メイ・シモネスがデビューアルバム『Animaru』に込めた「考えすぎずに、自分にとって大切なことをする」
2025/10/03
2025/10/03
連載
連載:OTHER WATER/Ayu Megumi
2024/02/14
2024/02/14
連載
連載:OTHER WATER/Ayu Megumi
2025/01/31
2025/01/31
連載
連載:OTHER WATER/Ayu Megumi
2026/01/20
2026/01/20
自分ではもう語ることができなくなったパレスチナの人々の物語を
2025/02/20
2025/02/20
newsletter
me and youの竹中万季と野村由芽が、日々の対話や記録と記憶、課題に思っていること、新しい場所の構想などをみなさまと共有していくお便り「me and youからのmessage in a bottle」を隔週金曜日に配信しています。
me and you shop
me and youが発行している小さな本や、トートバッグやステッカーなどの小物を販売しています。
売上の一部は、パレスチナと能登半島地震の被災地に寄付します。
※寄付先は予告なく変更になる可能性がございますので、ご了承ください。