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Horsegirlが探求する10代からの友達との創造。自信と弱さを抱えて自由になる

友情が先にあって、そのなかに創作活動がある。それくらい私たちの人生は絡み合っている

シカゴの街を駆け抜けるようなパワフルさから、3人暮らしのニューヨークのアパートで日々音を試す軽やかさへ。

10代でインディー・ロック・シーンを沸き立たせた3人組バンドHorsegirl。20代になったHorsegirlの3人は、「弱さ」や「無防備さ」もあるクリアな音で挑戦することへの自信がついてきたと、自身の成長の過程を語ります。20代を迎えるタイミングは、生活環境も、自分自身に対する眼差しも大きく変化します。しかし、変化に伴うたよりなさは、少しずつ不安を手放せるという予兆でもあるのかも。

セカンドアルバム『Phonetics On and On』は、3人がシカゴからニューヨークへと拠点を移してはじめて制作したアルバムです。慣れ親しんだ場所への愛を持ちつつも、そこから離れる自由さを持つこと。それによって生まれたのは、新たな出会いと喜びでした。

バンドを新たなステージへと導いてくれたプロデューサーのケイト・ル・ボンとのフィメール・メンターシップや、ライオット・ガールに対して感じること、女性たちによるクリエイティブなつながりの重要さ、そして、3人の間にあるかけがえのない友情について。初来日ツアーで日本を訪れたHorsegirlのペネロペ・ローウェンスタインさん(Vo, Gt)に聞きました。

「ケイト・ル・ボンのフィメール・メンターシップは、生き方そのものに関わるような経験だった」

―あるインタビューで「昔はガールズバンドでもうるさい音を出せるとアピールしたい気持ちがあった」と話していました。今回のアルバムの曲調はかなりミニマルになっていますが、どのような心境の変化があったのでしょうか?

ペネロペ:昔はノイジーであることがパワフルに感じられたんです。ショーに出ると、3人の女の子(ジジはコロナ禍にノンバイナリーを自認している)がうるさいパフォーマンスをしていることにみんなが驚いてくれて。ただ、21歳になって私たちが本当にやりたい音楽について考えたときに、少ない音でステージに立つことにも自信を感じるようになりました。それはある意味での「弱さ」や「無防備さ」の表れだと思ったんです。空間を音で埋め尽くすのではなく、クリアな音だけで構成することには、ある種のフェミニンな美学もあると感じました。ステージにはたった3人しかいないという、そのナチュラルな余白が聞こえてくると思います。

一方で、10代の女の子として、当時のような音楽を作れたことは本当によかったと思っています。そうやって変化していくことも私たちにとってはエキサイティングな経験でした。

お話を聞いた、Horsegirlのペネロペ・ローウェンスタインさん

―3人は80年代、90年代のインディーロックに大きく影響を受けていると思います。そのような音楽シーンはやはり男性のミュージシャンが多いですが、ペネロペさんの思う「フェミニンな美学」について、もう少し伺えますか?

ペネロペ:おもしろい質問をありがとう。私は単純にノイジーな音楽が好きだったし、それがたまたま男性によって作られていたんですよね。なんて言ったらいいのかわからないけど、私にとってのフェミニニティは、ミニマルなものを作る体験そのものだったように思います。ロックであることに変わりはないけど、男性アーティストたちが作ってきたロックとは違う別の形のロックを作っているというか……自分の音楽を見つけようとしていました。もともと意識していたわけではなくて、作りながら個人的に感じていたことだけれど。

今回のアルバムは「ガールフッド」と結びついている気がしていて、前作が真剣で重たい感じだとしたら、今作はもっと遊び心と喜びが満ちている感じかな? ギターの弾き方も、派手に見せつけるのではなく、自信を持ったクリアな弾き方になりました。

左から、ペネロペ・ローウェンスタインさん、ジジ・リースさん、ノラ・チェンさん

―今回のアルバムは、アーティストでもあるケイト・ル・ボンをプロデューサーとして迎えていますね。その経験はいかがでしたか?

ペネロペ:上の世代の女性アーティストとともに曲を作るのは、多分今回がはじめてで。彼女は私たちのメンターのような存在になってくれたんです。常にインスピレーションを与えてくれて、寄り添ってくれました。安心できる空間で、ただふざけ合ったりして、本当に自由で。何にも制限されていないような感覚だった。こんな空間、そう簡単には生まれないですよね。セッションを通して「これは今までにはなかった感覚だ」と思いました。ケイトにとっても、若いミュージシャンとともに仕事をすることは新しい経験だったように思います。

―10代の頃からずっとケイトと仕事がしたかったと以前お話されていましたね。

ペネロペ:今回の経験はどこか自分の生き方そのものに関わるようなものだったというか……女性として何をするのか、ということを考えるような側面もありました。このようなフィメール・メンターシップは本当にはじめてで、今後の音楽づくりやレコーディングに対する考え方も変わるような体験だったと思います。私たち全員が「本当に楽しかった」と感じていました。

Horsegirl “2468”

キム・ゴードンへの尊敬と、舞台に立っただけで「ライオット・ガールだ!」と言われることへの違和感

―キム・ゴードンの回顧録『GIRL IN A BAND』がとても好きだと聞きましたが、キムのような存在からどのような影響を受けましたか?

ペネロペ:実は、Sonic Youthは子供の頃に聴きすぎたせいで、最近はもう聴かなくなってしまって(笑)。キム・ゴードンはただただかっこいいと思う。エネルギーがあるし、ギターを持つ姿もかっこいいし、本も最高で。あの本を読んだおかげで、いろんな新しい音楽を知ることができたんです。キム・ゴードンが最高にクールな存在として目の前に現れたことは、当時夢中になっていたあらゆるものにさらなる魅力を加えてくれました。

そもそも、Sonic Youthに出会ったこと自体が私たちにとっては刺激的でした。Led ZeppelinやPink Floydのようなクラシックなロックを聴いて育ったので、Sonic Youthを知ったときは「ギターって、こんなに自由でクリエイティブな弾き方もできるんだ!」と思って。

―キム・ゴードンはライオット・ガール・ムーブメントにインスパイアを与えた存在でもありますが、そのような側面はいかがですか?

ペネロペ:うーん、実は私はライオット・ガールにハマったことがなくて。理由はよくわからないけれど、音楽的・美学的に自分とはあんまり合わなかったのかもしれないです。周りの人たちにずっと「これがフェミニスト・ミュージックだ」って言われて、ギターの先生たちもずっと「ライオット・ガールだ!」って言ってたけど、私は「ただ自分の好きなものを好きでいたいだけなのに」って思っていたんですよね。

ライオット・ガールのやってきたことにはもちろん敬意を持っていて、「Girls to the Front」というスローガンもすごくパワフルだと思います。ただ、特に10代の頃は、女の子3人がステージに立っただけで「ライオット・ガールだ!」と言われていました。男だったら何百万通りの表現が許されているのに。そうやってラベルを貼られることに抵抗を感じていたのかもしれない。

本当は、全面的に受け入れて「ライオット・ガールってクールだよね!」って言えたらよかったんだけど、私は女性がバンドで自分を表現する方法がひとつだけじゃない世界であってほしいと思う。だからこそ、ライオット・ガールのことはすごく尊敬しているけど、自分がその流れにいるとは思っていないですね。女性がギターを持ってパフォーマンスするときに、より多くの選択肢があることが大事だと思います。

シカゴからニューヨークへ。「自分のコミュニティから離れて自分自身の声を確立できた」

―3人の地元であるシカゴはDIYシーンが活発だと聞きました。若いアーティストにとって、シカゴはどのような街なのでしょうか?

ペネロペ:私はシカゴを出てもう3年が経っているけど、Lifeguardというバンドをやっている弟は今もシカゴに住んでいます。アメリカの都市を比べたとき、シカゴは芸術全般のインフラが整っている大都市でありながらも、ニューヨークやロサンゼルスほど物価が高くなくて、いまでもアーティストとしての生活がちゃんと成り立つ街。音楽の長い歴史も存在していて、そのような場所で育ったことがラッキーだったと思います。

シカゴの子どもたちは、上の世代の幅広い音楽からインスピレーションを得られるし、ライブハウスもたくさんあって、バンドも始めやすい。若い人たちが活動できるアンダーグラウンドなスペースも自然に存在しているんです。それに、ニューヨークで子育てをするのは難しいけど、シカゴは子育てにも優しいし。本当に特別な要素が揃った街だと思います。

―家族や学校とはまた別のコミュニティがあることで、生活のたよりなさが支えられることも多いのではないかと思います。普段いる場所とは異なるコミュニティを持つことについて、どのように考えますか?

ペネロペ:私は大学進学のタイミングで生まれ育ったシカゴからニューヨークに引っ越して、これまでいたコミュニティから離れる決断をしました。この経験があったことで自分自身の声を確立できた気がします。

私たちはすごく若い頃から「シカゴの音楽シーンから新星が出てきた!」って注目されていたんです。もちろんうれしかったけど、プレッシャーでもあった。それに、もっと探求したいという気持ちが強かったんです。だからこそ、育ってきた場所を離れ、家族とも距離を置いて、「シカゴとか関係なく、自分はなにが作りたいんだっけ?」と問いかけることが必要でした。もしずっとシカゴにいて、一緒に育った友達としか関わっていなかったら、同じようなアルバムをまた作っていたかもしれないし、新しい方向に手を伸ばしたり、違うことを試したりはできなかったかもしれません。

シカゴという場所や、一緒に育ってきた友達には深い愛情がある。でも同時に、最初にいた場所や与えられたイメージから離れて、成長して変化して、新しいことを試していく自由を自分に与えることも大事なことだと思います。

Horsegirl “Switch Over”

10代から続く3人のフレンドシップ。「軽く遊ぶような、深刻ではない関係性も必要」

―Horsegirlの3人は、10代の半ばにシカゴの音楽教育プログラム「スクール・オブ・ロック」で出会ったんですよね。現在は3人とも20代になって、シカゴを離れてニューヨークで暮らしていますが、どのような関係性を築いていますか?

ペネロペ:ニューヨークに移住する人たちは「自分はここで生まれ変わるんだ」と気持ちを新たにすることが多いと思うけど、私は親友たちと一緒に引っ越ししたから、昔からの自分をよく知る人がそばにいてくれることにとても安心しました。「新しい環境にいるからって、無理に自分を変えようとしなくていいよ」と支えてくれて。病気になったら必要なものをすべて買ってきてくれるし、誰かがお金に困っていたら、みんなでその子のためにUber代を出したりして。ニューヨークという大都市で悲しくなったときは、ジジの家で夜中までテレビを見ることもありました。

私たちの間には、無償の愛があると思うんです。バンドという枠を超えて、強い絆でお互いを支え合っていることが、安心感につながっています。もしバンドを続けることで友情を犠牲にするようなことがあれば、迷わずバンドを辞めると思う。それくらい、とても強くお互いを必要としているんです。こんなふうに自分たちのバンドを語る人は多くないと思うけれど……私たちは本当に長い時間を一緒に過ごしてきたから、自然とこうした関係になれたんだと思います。

―3人の友情は、音楽を作る上でどのように作用しているのでしょうか?

ペネロペ:私は二人といるなかで、初めて“曲を書く”ということに出会いました。ノラに出会うまでは、一度も書いたことがなくて。だから、すごく好きなものを見つけたという経験が、二人と友達であることと深く結びついているんです。クリエイティブな自分を見つけると同時に一生の友達に出会えたことは、本当に最高なことだと思っています。

私たちは一緒に住んでいるし、ノラとは学校も一緒に行っています。そのくらい私たちの人生は絡み合っている。その一部として創作活動があるだけで、ずっと深く繋がってきた関係なんです。それがとても楽しいし、楽しみ続けることがとても大事だと思っています。

―これまで生きてきたなかで、他にもさまざまな友人との出会いがあったかと思います。そのなかでもノラさんとジジさんに感じる友情とはどのようなものですか?

ペネロペ:ノラとジジのことは、ほとんど家族のように思っているんです。一緒に暮らしているので、毎朝「おはよう!」って言って、一緒にごはんを作ったりして。でも、もちろん別の観点から私を理解してくれる大切な友人が他にもたくさんいるし、二人だけにすべてを注ぎ込まないことも大切だと思います。ノラとジジが本当に大好きで大切な友達なので、二人以外に関係性を広げることは私にとってチャレンジでもあったけれど、友情にはいろんな形があるし、バランスを取ることが大事ですよね。軽く遊ぶような、深刻ではない関係性も必要だと思います。

―me and you には、若い女性やマイノリティ性のある読者が多くいます。同世代の人々に届けたいメッセージはありますか?

ペネロペ:他の女性たちと一緒に何かを作ることを通じて、自分の人生に大きな目的を見出せたと思っているんです。女性たちとクリエイティブなつながりを持つことって、本当に、ただ満たされる。女友達と好きな音楽について話したり、自分の好奇心を刺激するものについて話したり。10代でそういう経験をできたことが、私の人生に大きな意味をもたらしたと思います。仲間がいたからこそ、私は安心して物事を批判的に見ることもできたし、自分の声を持つことができた。すべての女性に、女性同士のつながりやコミュニティがあってほしいと思います。

Horsegirl

ノラ・チェン(g / vo)、ペネロペ・ローウェンスタイン(g / vo)、ジジ・リース(ds)の3人によるバンド、ホースガール。
米シカゴ発のトリオは、ロックファンを瞬く間に虜にしたシングル「Ballroom Dance Scene」(2020年)で、バンド自らがファンだと公言するヨ・ラ・テンゴも所属する名門レーベル〈Matador Records〉との契約を勝ち取り、2022年のデビューアルバム『Versions Of Modern Performance』がロングヒットを記録。「最初の音から最後の音まで、聴く者を惹きつけてやまない」(NME)と評され、故・スティーヴ・アルビニのスタジオであるElectrical Audioで、ダイナソーJr.やソニック・ユース、カート・ヴァイルを手がけてきたジョン・アグネロを共同プロデューサーに迎えて制作されたデビューアルバムにして傑作と言えるほど各所で大絶賛された。

そんなUSオルタナの輝かしいレガシーを受け継ぐ彼女たちが、ニュー・アルバム『Phonetics On and On』を2月14日(金)にリリース。ウィルコや、ディアハンターなども手掛けるケイト・ル・ボンがプロデュースし、バンドのホームグラウンドであるシカゴのThe Loftでレコーディングされ、ヴァイオリン、シンセサイザー、ガムランなど新しい楽器も導入し、空間とテクスチャーにこだわりをみせる一方、自信に満ちたシンプルさで彼女たちのソングライティング能力が際立つ仕上がりとなっている。『Phonetics On and On』を引っ提げた来日公演は東京(2公演)、大阪、京都を全て完売させ大きな話題となった。

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Horsegirl『Phonetics On and On』

発売日:2025年2月14日(金)
価格:CD国内盤…2,860円(税込) LP国内仕様盤…5,610円(税込)
発売元:BEATINK / Matador Records
収録曲:
 1. Where’d You Go?
 2. Rock City
 3. In Twos
 4. 2468
 5. Well I Know You’re Shy
 6. Julie
 7. Switch Over
 8. Information Content
 9. Frontrunner
 10. Sport Meets Sound
 11. I Can’t Stand To See You
 12. Ramona Song (Bonus Track for Japan)

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