連載
「自分のことについて書いてあると思える」本と出会えるように
2025/1/30
一冊の本に出会うことは、新しい扉をひらくこと。たとえば頭や心にもやもやと霧がかかっているようなとき、世界の未知の側面に手を伸ばしたいとき、旅に出たとき、いつもは歩かない街に行ってみたいなとふと思ったとき……。そんなとき、本屋を訪れてみるのはいかがでしょう?
この記事では、me and youがおすすめしたい本屋さんをご紹介します。me and youが出版している小さな本を取り扱ってくださっている独立系の書店を中心に、自分の意思でお店を立ち上げたり、心地よい方法を日々工夫しながら、その土地に根づいた場所づくりを行っているお店たち。つくり手の表情が見える本屋は、そこに集まった人たちが想いや考えを交換したり、学びあうような場になったりしていることも。訪れればきっと、さまざまな形の居心地のよさに出会えるような本屋たちです。
今回は、岐阜県を拠点に活動する本屋メガホンの和田拓海さんに言葉を寄せていただきました。2025年4月に実店舗での営業を終了する予定ですが、公園や河川敷など公共空間にはみ出して本を広げてみるなど、今後の展開も模索中とのこと。記事の最後には、『あの本屋に行こう』のGoogle Mapも埋め込んでいるので、お散歩や旅のおともにぜひご活用くださいね。
1.どんなことを大切にしている本屋ですか?
フェミニズムやジェンダー、障害福祉、移民難民に関する本など社会的マイノリティについて書かれた本をメインに取り扱い、「小さな声を大きく届ける」ことをコンセプトに、新刊書籍の販売やオリジナルのZINEの制作販売を行っています。
2.選書のこだわりは?
自分自身もセクシュアルマイノリティであり、言語化できないモヤモヤや違和感を感じていた時に「自分のことについて書いてあると思える」本にたまたま出会えたことが、本屋を始める / ZINEを制作するきっかけの一つになったので、そういう出会いを提供したり、モヤモヤを言語化するきっかけを得たり、抵抗や実践のための具体的な足掛かりを掴んだりできるような場でありたいと思っています。また、本屋を続けるほど「社会的マイノリティ」と一言で片付けられないくらい、多様な背景や生きづらさがあることを痛感させられるばかりなので、できるだけ偏りがないような選書を心がけています。
3.お店の空間のこだわりは?
シェアスペースでの間借りのような営業形態で、開店前に本を並べて閉店後はそれらを全て片付ける必要があるため、置いてある本がガラッと変わることはありませんが本の配置やゾーニングは営業ごとに毎回微妙に変わっています。「障害福祉」「フェミニズム」など場所ごとになんとなくテーマは共通させつつ、それぞれの本が隣り合うことで、テーマを深めたり / 広げたり、思いがけない発見があったりするような文脈を編むことができればと思って本を並べています。
4.「わたしとあなた」というテーマで、おすすめしたい本を1冊教えてください。
『あなたとケーキをシェアするためのいくつかの方法』(著:Moche Le Cendrillon、発行:本屋メガホン)
「他者に性的 / 恋愛的な惹かれを感じない」アロマンティック / アセクシャル(Aro / Ace)で、ドラァグ・パフォーマーのMoche Le Cendrillonによるエッセイや当事者同士の対談、Aro / Ace的コンテンツ紹介などを収録したZINEです。本書の大きなテーマの一つは「互いの分かり合えなさの痛みを抱えたまま連帯すること」だと思っていて、例えば以下のような記述があります。
“だから私と何らかのコミュニティに、私と Aro / Ace の人々の間に、私とクィアやフェミニズムの文化や運動との間に、溶け合うような共感や同一視がなくても、理解しがたさの痛みが常に存在していたとしても、それは当たり前のことだ。 同じアイデンティティや文化を共有した、楽しくて熱心な友達になれなくても、共通の問題に対して抵抗したり、学んだり、身を寄せ合うための連帯は必要で、また可能だ。自分の境界を認識することや、それを守ってただ連帯の選択肢を持つことは、その場で誰かと共感しあうことが難しい Aro/Ace の自分にとっての救いでもある。”(「境界と共感について」より)
互いに言葉を尽くしあっても、当事者による語りを読んだとしても、あるいは当事者同士であっても「理解しがたさの痛み」はどうしてもあって、でもそれは必ずしもネガティブなことだけではなく、その「痛み」があるからこそ、連帯も抵抗も可能であるということを意識させてくれる一冊です。
🚶♀️本屋を訪れてみよう
me and youがご紹介したい本屋を地図にまとめました。
本屋メガホンさんのほか、全国の本屋を都度更新していきますので、おでかけのお供にチェックしてみてくださいね。
プロフィール
『本屋メガホンの営業日誌1』
当店のメールマガジンにて配信している営業日誌を一冊にまとめたZINE『本屋メガホンの営業日誌1』を2024年末に刊行しました。お店を運営する中で考えたことや、小さな社会運動として本屋を運営すること、それにまつわるモヤモヤなどについて書いています。詳細・購入は下記リンクより。
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