みんなで哲学対話をしてからライブをきく。「つながり」ってなんだろう?
2024/7/22
生活に密接に寄り添う「音楽」を介し「社会性・政治性」を新たに見出すイベントプロジェクト『Candlelight』。昨年11月にHomecomingsやさらさが手話パフォーマーと共にライブを行うイベントで話題を呼びましたが、そのプロジェクトの新たな試みとして、哲学対話と弾き語りライブのイベントが2024年5月6日に行われました。
哲学対話の進行は永井玲衣さん、そして弾き語りライブはBROTHER SUN SISTER MOONの惠翔兵さんと惠愛由さんによるもの。入谷にあるヴィーガンカフェ・PQ’sで行われたこのイベントのタイトルは『Candlelight -Where shall we go by weaving our voices together?-』。それぞれ異なるわたしたちが互いの言葉を聞き合い、考えを声にして紡いだのちに音楽を共有する時間は新鮮で、対話や音楽の大切さを実感できるような時間となりました。この記事では、2部に分けて行われたイベントの第1部の様子をお伝えします。
Candlelight初のイベントでme and youが行ったインタビューでも、手話パフォーマーを迎えたライブや会場の工夫によって、誰もが心地よく参加できる空間を目指していたと話してくれたCandlelight主催のアリサさんと廣松直人さん。今回の開催でも事前にSNSでアクセシビリティに関するアナウンスがなされ、当日も筆談器具やUDトークなどの用意がされていました。
今年4月には、三軒茶屋の書店・twililightと共同で、あないすみーやそこ、saki・sohee、とれたてクラブの3人展『ぼくの言葉を誰かがきいてくれて 人の上に落ちる薬莢が 1g減るかもしれない…』を開催したCandlelight。ゆるやかなつながりや日常を照らす光を感じられるような場をつくる試みは、さまざまな人と手を取り合いながら続いていきます。
今回、哲学対話と弾き語りライブのイベントが企画された背景として、Candlelightのステートメントには、「わからないけどわかりたい、と切に願い、感覚が研ぎ澄まされたその場所にはどんな音楽が響くだろうか」とありました。顔の見えないコミュニケーションやわかりやすい言葉で話すことを求められる場面も多いなかで、もちろん簡単にはわかり合えないということを前提にしながら、それでも互いの声をきくこと。耳を澄ませて他者の言葉をきいた後に、その場を共有したみんなで音楽ライブをきくこと。そんなこの企画に興味を持った人々が集まること自体にも光を感じます。
会場となったPQ’sは、以前のイベントでも出店をしていたマフィンがおいしいカフェ。高い天井と大中小さまざまな鉢植えのグリーンによってリラックスできる雰囲気の空間です。
お店の片隅には、常時置かれているという書籍に加え、今回のCandlelightのイベントに合わせた読み物が置かれ、小さな展示も行われていました。
そんな空間で、まずは哲学対話がスタート。15名ほどの参加者とともに、この後ライブを行う惠翔兵さんと惠愛由さんも対話に参加します。参加者の皆さんは、年齢もさまざま。お一人で来られた方もいれば、友人同士で来られた方もいました。
初めに、今日のこの場で使う自分の名前とその名前の由来を1人ずつ話します。話すときには、永井さんが哲学対話を開くときにいつも一緒にいるという茶色の鳥のぬいぐるみを手にするのがルール。話すのに緊張してしまっても、ふわふわのぬいぐるみを手にしたら気持ちが和らぎそうです。円になるように置かれた椅子に腰掛けた参加者の皆さんが順番に話し、隣の人に鳥を手渡していきます。
次に、進行役の永井玲衣さんによる哲学対話の約束のお話がありました。
♡永井玲衣さんによる哲学対話の約束
1.よくきく
「いいことを言おう」「発言をしよう」と思うのではなく、よくきくことがまず大切だと言います。
2.自分の言葉で話す
偉人や有名人の言葉ではなく、自分の言葉で話すこと。「下手っぴでも、つんのめってしまっても、途中でわけわかんなくなっても大丈夫」と永井さん。
3.「人それぞれ」で終わらせない
「人それぞれ」で話を終わらせてしまうのではなく、「どうそれぞれなのか」「どんな部分は同じなのか」まで手を伸ばしてみることが大切とのこと。
今回の哲学対話の大テーマは「つながり」。約束とテーマを共有した後は、みんなで「つながり」にまつわる問いを出していきます。永井さんは一例として、イベント前に立ち寄ったお店で、常連さんたちのなかで一人でお昼ご飯を食べながら感じたという、「人々のつながりのなかにあとからジョインすると居心地が悪いのはなぜ?」という問いを出しました。
それから、問いを思いついた人から手を挙げて、鳥のぬいぐるみを受け取って話します。問いの紡ぎ方も一人ひとりさまざま。ご自身の職場での体験、友人との関係性、日々の暮らしのなかの気づきなどを切り口に、いくつもの問いが出てきました。
♡参加者の皆さんから出た「つながり」にまつわる問い
・そもそも人とつながってるってなんなの?
・アットホームな職場ってどういうこと?
・つながりって、一回できてもすぐぷつりと切れちゃうのはなぜ?
・なぜ人はつながりたいと思うんだろう
・つながらせようとする人がいるのはなぜ?
・なぜみんなはLINEグループが好きなの?
・相手と自分のつながり合う気持ちに差があったときどうしたらいい?
・他の人と他の人のつながりを気にするのってなんでだろう?
・人間以外のものにもつながりは生まれるの?
続いて、今回の哲学対話のスタート地点にする問いを選びます。決め方は多数決。その決め方には逡巡があると永井さんは言いますが、みんなで場をつくる方法の1つとして、考えてみたいと思う問いに1人1票で投票をします。そうして今回みんなで話すことになった問いは「相手と自分のつながり合う気持ちに差があったときどうしたらいい?」。
その問いを出した参加者の方が、自身の友人との関係を参照しながら問いに込めた思いを話してくれました。その方は、「自分が大切に思っている相手であればあるほど、同じように大切にしてほしい、とまでは言わなくとも、明らかに雑に扱われると苦しい」と言います。そこから全員で対話を重ねるなかで、「自分のことを大切にしてくれない人のことを大切にしても意味ない、というような言説もあるけれど、その考え方ではつながりが途切れてしまうのでは」と、問いに付随した新たな問いも生まれました。
そんなお話をスタート地点として、話したいことがある人から手を挙げて対話が進みます。
「とある相手とのつながりを断ちたいわけではないけれど、このままだと自分の負担が大きいと感じて距離を置こうと思った。だけど、一時的に距離を置きたいと伝えるのって難しい」
「仲がよかった友人と疎遠になっていくなかで、雑に扱われているというわけではなくても、その人の他の友人と差をつけられていると感じて悲しかったことがある」
「つながりにはグラデーションがある。昔は親友だった人のことを今は親友とは言えないけれど、つながりが切れたとは思っていない」
「お互い思い合っているのもつながりだけど、自分だけが思ってしまっている、という状態もつながりと言えるかもしれない」
ある方は、つながりのイメージを小島と橋に例えて話していました。つながっている状態とは、互いの小島を行き来するために双方から橋をかけるようなこと。橋の建設においてどちらかばかりががんばっていると当然無理が出てくる。一方で、昔は仲がよくて今は疎遠になった人は、もう互いの小島を行き来する橋はなかったとしても、自分の地図にはその人の小島が描かれている。そんなイメージがあると言います。
道端ですれ違った犬同士の関わりを見てつながりについて感じたことをシェアしてくれた方からは、「瞬間的なつながり」という言葉が。さらに「その時々で自分も相手も当たり前に移り変わる、変化に応じてつながりの形も変わる、だからおもしろい」と話が広がりました。
他にも、ショックな出来事があった日の帰りがけに神社で参拝している人の美しい一礼を目にして気持ちが解け、その人とのつながりを感じたこと。駅で大きな荷物を持ったおばあさんの手伝いをしていた人にグッドサインをしてみたこと。高校生のときに一度だけ一緒に将棋をさした男の子のこと。飲み屋で隣の席になって意気投合した人に引っ越しすると話したら送別会を開いてくれたこと。それぞれのお話からさまざまなつながりの形が浮かび上がってきます。
哲学対話の終了時間になると、「ここで終わります」と永井さん。永井さんが行う哲学対話では、話の内容をまとめたり、感想を一人ずつ聞いたり、締めとしていい話をしたりはせず、時間で終わるようにしているのだそう。ようやく入口に立ち始めた、という頃合いで終わってしまうけれど、対話は終わらないものだということを実感するため、また対話を終わらせないために、時間で終わるのが大切だと言います。
永井さんが哲学対話のなかでメモをしていた紙には、3つの約束とともに「自分にも誰かにも無理をさせない場を一緒にゆっくりつくる」という言葉が書かれていました。3つの約束はどれも決して簡単ではないけれど、一つひとつやってみることで「自分にも誰かにも無理をさせない場」をつくれるのかもしれないと感じられます。
少しの休憩を挟んで、弾き語りライブのパートに移ります。
ライブをしてくれたのは、参加者の皆さんと一緒に哲学対話をした直後の惠翔兵さんと惠愛由さん。翔兵さんのエレキギターと愛由さんのウクレレ、そして二人の歌声が響きます。
この編成でのライブは珍しいとのことでしたが、ミニマムでありながら音の層とハーモニーが感じられ、BROTHER SUN SISTER MOONの楽曲とお二人の演奏ならではの柔らかさや煌めきに包まれました。
途中のMCで「哲学対話、楽しかったな」と口々に言い、笑い合う二人。たとえば、部屋で一人、スピーカーできく音楽と、電車に乗って窓から見える景色と一緒にイヤフォンできく音楽が違って聴こえることがあるように。あるいは、激しく心を揺さぶられるような出来事があった日の終わりにきく音楽が、いつもと違ってきこえるように。つい先ほどまで哲学対話が行われていた場で、人と人、そして音楽と人との距離がぐっと縮まったようななかできく音楽は、また違う実感がありました。
ライブの後には、余韻を楽しむように話し合う人や、哲学対話を経て心に残った言葉をメモに書き留める人の姿も。
問いの力を借りることでこの世界に心を開き、自分と異なる相手の言葉に耳を傾けることができる永井さんの哲学対話。そして、対話の時間にはアーティストとオーディエンスという垣根を越えて互いに言葉をきき合った惠翔兵さん・愛由さんの音楽に感じ入るライブ。あっという間の2時間でしたが、その日その場をともにした本名もバックグラウンドも知らない人同士が、それぞれの人生の断片に触れ合うような時間になりました。
実は、Candlelightとme and youがコラボレーションして「なぜ社会に音楽はあり続けるのだと思う?」と題し声を集めた企画が、今回の企画のきっかけの1つになったそう。今後も、これまでのCandlelightの取り組みや今回のイベント、そしてCandlelightに賛同する人々のつながりによって、Candlelightの灯火が広がっていくことを願います。
プロジェクト情報
「Where shall we go by weaving our voices together?」
<開催概要>
日程:8月17日
時間:第一部 12:30-14:50、第二部 16:00-18:20(※各部完全入れ替え・二部制・各回定員20名)
場所:とをが
哲学対話進行:永井玲衣
弾き語りライブ:角銅真実
共催:スパイラルクラブ
(sold out)
イベント情報
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