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連載

前田エマ、韓国の服にあう。ニットブランド「MISU A BARBE」キム・ミスさん

連載:前田エマ、韓国の服にあう

変化のスピードが速く、SNSやインターネットを活用してK-POPやファッションなどのカルチャーを世界中に発信する韓国。しかし2023年3〜12月の間にソウルに留学したモデルの前田エマさんは、トレンドやスピード感のものさしでは測れないところで、独自のストーリーを紡ぎながら丁寧につくられたファッションブランドがあることを知り、それに惹かれたと言います。

この連載では、アイドルや文学を入り口に、韓国の社会的な背景にも関心を抱くことになった前田エマさんが、韓国で暮らすうちにできた友人に紹介してもらったり、自分自身が気になったりした韓国のファッションブランドのつくり手に会いに行きます。新しいブランドとの出会いを通して、隣の国のものづくりの思想に触れてみる。その行為を通じて、自分にとって見慣れた文化との差異を知り、異なる場所の営みを想像することにつながれば嬉しいです。

韓国のアイドルのステージや雑誌、写真集なんかを見ていると、レディースブランド、メンズブランドという括りにとらわれずにスタイリングされたファッションが登場する。それだけでなく、ハイブランドやプレタポルテ、ストリートブランドなどを自由自在に行き来するのだから、見ていて本当に楽しい。

今回取り上げるMISU A BARBE(ミス・ア・バルブ)を知ったきっかけも、私の好きなボーイズグループがウィンターパッケージ(冬に限定で発売される、写真集やポストカード、ポスター、ムービーなど様々なものがセットになっているグッズ)で着用していたからだ。

ウィンターパッケージの写真が公開されるや否や、私の周りのおしゃれな人たちがこぞって注目し、そのうちの何人かは同じものをオンラインで購入していた。まだコロナが落ち着く前だったので、友人が買ったそれを見て、遠くに感じていた韓国がグッと近づいた気がし、何か心に溢れるものがあった。

MISU A BARBEは、ニットを使ったファッションアイテムをつくるブランドだ。帽子をはじめとするヘッドピースが多いが、靴下やバッグ、トップスやボトムスなども展開している。最近はMISUUという、よりアーティスティクなレーベールも始まった。

MISU A BARBEの新しいレーベル「MISUU」

MISU A BARBEでは、ニットアイテムをつくるワークショップも行っている。スタッフの方々に教わりながら、帽子をつくる。初心者でも気軽に体験することができる。

MISU A BARBEのニットワークショップ「SAT WORK SHOP」で参加者がつくった帽子

韓国ではニッティングの文化がとても盛んだなあと、生活しながら感じる機会が多々あった。
好きでよく通ったbanulという毛糸の専門店は、2階がカフェになっており、休日になると若者が男女問わず、一日中そこかしこで編み物をしている。外国人の姿もちらほら見た。私は日本でも毛糸店に時々行くが、そこで見かける人たちとは雰囲気がだいぶ違う。おへそが出る服を着たスポーティーな子、身体のいたるところにタトゥーの入ったバンドマン風のファッションの子、ヨーロッパ圏の出身だと思われる男の子……みんな黙々と編んでいる。私はその様子を観察しながら、編み物をするのが好きだった。

「banul」には手芸用品、オリジナルの編み図が売っているほか、ニッティング作業ができるカフェも併設されている

東大門という問屋街には、毛糸の店がずらっと並ぶ。狭い店内では、おばあちゃんたちが世間話をしながら、車座になって編み物をしている様子をよく目にする。お菓子をつまみながら、お茶を飲みながら、楽しそうに編み物をしている風景が、ものすごく自然でよかった。

今回は、デザイナーのキム・ミスさんへのインタビューと、私がワークショップへ行った日のことをレポートしたいと思う。

キム・ミスさんへインタビュー

キム・ミスさんへインタビュー

キム・ミスさんへインタビュー

キム・ミスさんへインタビュー

Q.MISU A BARBEはいつから始めたブランドですか?

2010年にパリ留学中につくったブランドです。ハンドメイドアイテムを中心とした小さなコレクションから始まりました。

Q.MISU A BARBEを始めたきっかけは何ですか?

幼い頃から編み物と刺繍をする母と、母方の祖母の姿を、当たり前のように見て育ちました。その中で自然と、ニットで何かをつくるようになりました。

Q.MISU A BARBEのコンセプトを教えてください。

MISU A BARBEはニットを使って、様々な物語をつくり出すブランドです。 毎シーズン、チームのみんなとストーリーを考え、そのストーリーを表現できるような多様なニットアイテムをつくり出しています。

Q.MISU A BARBEのアイテムをつくるとき、大切に思うことは何ですか?

デザインをするときは、とにかく“美しい”ということをいちばん大切に考えています。そして、お客様がどれだけ楽しく使えるかが一番重要だと思っています。

Q.韓国では若い人たちが編み物をするのをよく見ます。なぜ編み物をする人が多いのだと思いますか?

韓国では私の母親世代が学校や家で編み物をすることが多かったのです。趣味としてやっている人も、たくさんいらっしゃいます。自らの手で何かをつくり、完成する過程を通して、達成感のようなものを感じたい方が多いのではないでしょうか?

Q.私はMISU A BARBEが大好きですが、MISUUのアーティスティックな雰囲気も好きです。 二つのブランドの関係について知りたいです。

MISUUは第一弾となるシリーズをつくり出したものの、セールスをまだ始めていないブランドです。

MISU A BARBEをファッションが大好きで着飾る妹とするならば、MISUUはこの段階を過ぎたお姉さんのような存在です。MISU A BARBEよりももっと強くいろんなことをコンセプチュアルに表現したいと思い、誕生させました。ニットでより実験的なことを試すことができる、そんなレーベルです。

私たちが考える“美しさ”をもっと盛り込もうと努力しているところです。

Q.ニットのワークショップはいつから始めましたか?

ワークショップは5年前くらいからたまに行っています。

Q.ワークショップを始めようとしたきっかけや理由は何でしょうか?

ハンドメイドに関心が高く、やってみたいなと思う人たちが楽しめる場をつくりたかったからです。

Q.どのような人がワークショップに興味を持って参加していますか?

様々な人がやってきます。MISU A BARBEに興味があったり、自分だけのデザインを探していたりする人がやってきます。

Q.ワークショップをやってみて気づいたことや興味深いことがあったら教えてください。

いらっしゃるみなさんのデザインが違うというのが興味深い点です! 本当に多様なデザインが出てきて面白いです。

ワークショップ

ワークショップ

ワークショップ

ワークショップ

2023年秋、帽子をつくるワークショップへ参加した。1時間半くらいで完成した。

1.申し込むときに、帽子の本体(被る部分)の色をあらかじめ決める。私は黒を選んだ。本体はすでに完成されており、ワークショップではツバの部分を編んでいく。まずはツバの部分の毛糸選びから。

2.本体とツバの繋ぎ目から編んでいく。私はグリーンを選んだ。机の上にはお菓子とジュースが……うれしい。

3.繋ぎ目が編み終わったら、ツバの部分を編んでいく。私はもこもこしたホワイトの糸を選んだ。好きな大きさになるまでひたすら編む。

4.最後に、毛糸でできたモチーフを帽子に縫い合わせた。スタッフの方がつくっておいてくださったモチーフがいくつかあるので、その中から選ぶ。

5.店内には可愛い商品が並ぶ。完成した商品を袋に入れてもらう。店の入り口でパチリ。

6.こちらが私がつくった帽子。暖かくてお気に入り。夏のワークショップでは夏素材の糸でバケットハットなどをつくることができるみたい。

留学以前から気になっていた「MISU A BARBE」を通して、韓国のニット文化にも触れることができ、とても満足! たのしい時間だった。

前田エマ

1992年神奈川県生まれ。東京造形大学卒業。モデル、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティ、キュレーションや勉強会の企画など、活動は多岐にわたり、エッセイやコラムの執筆も行っている。連載中のものに、オズマガジン「とりとめのない、日々のこと。」、みんなのミシマガジン「過去の学生」、ARToVILLA「前田エマの“アンニョン”韓国アート」、Hanako WEB「前田エマの秘密の韓国」「前田エマの、日々のモノ選び。」がある。著書に小説集『動物になる日』(ちいさいミシマ社)がある。

『動物になる日』

著者:前田エマ
発行:ミシマ社
発売日:2022年6月10日
価格:2,420円(税込)

動物になる日 | 書籍 | ミシマ社

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