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連載

前田エマ、韓国の服にあう。スイムウェアブランド「READY TO KICK」ヤン・スヒョンさん

連載:前田エマ、韓国の服にあう

変化のスピードが速く、SNSやインターネットを活用してK-POPやファッションなどのカルチャーを世界中に発信する韓国。しかし2023年3〜12月の間にソウルに留学したモデルの前田エマさんは、トレンドやスピード感のものさしでは測れないところで、独自のストーリーを紡ぎながら丁寧につくられたファッションブランドがあることを知り、それに惹かれたと言います。

この連載では、アイドルや文学を入り口に、韓国の社会的な背景にも関心を抱くことになった前田エマさんが、韓国で暮らすうちにできた友人に紹介してもらったり、自分自身が気になったりした韓国のファッションブランドのつくり手に会いに行きます。

新しいブランドとの出会いを通して、隣の国のものづくりの思想に触れてみる。その行為を通じて、自分にとって見慣れた文化との差異を知り、異なる場所の営みを想像することにつながれば嬉しいです。

プールで、スイスイするのが好きだ。

中学生の頃、水泳の授業中に「エマリアン、泳げないなら隣のレーンに行ってよ。お前のせいで後ろが詰まってるんだぞ」と言われてから、なんとなく遠ざかっていたのだが、高校の卒業式の翌日に東日本大震災があったり、向田邦子の黒い水着に憧れたりと、いろいろ思うことがあって、大学を卒業してから水泳教室に行きはじめた。

週に2回、ご年配の方々に混じって習っていたら、半年ほどでたいていの泳ぎはマスターした。決して上手くはないし、速くもないが、水の中をスイスイするのは気分がいい。

今はもう水泳教室には通っていないが、機会を見つけてはあちこちのプールで泳いでいる。韓国に留学中も、学校のプールに通った。

水泳は歳をとっても続けられるのがいい。今年88歳になった祖母は、コロナ前まで毎週プールで泳いでいた。

私は金持ちになりたいだとか、豪邸に住みたいだとか、そういった夢はないけれど、家にプールがあったらいいなとたまに贅沢な夢物語を見る。でも、掃除も大変だし、維持費もものすごくかかりそうなので、家から歩いて5分くらいのところにプールがあったら最高だ。

私は宿泊するホテルにプールがあると、ものすごくご機嫌になる。しかしここでは水泳帽を被らないといけない。バカンスを満喫しようと、せっかくお気に入りの水着を用意しても、一気に夏休みの小学生のようになってしまう。私は決して水泳選手のように、かっこよくはなれない。水泳帽着用って日本独特のルールだ。

「READY TO KICK(レディ トゥ キック)」は、水泳帽などのスイムウェアを作るブランドだ。私がいつか見た、昔の写真に写っていたようなお花がたくさんついた水泳帽。レディ トゥ キックのインスタグラムで、おばあさんがそんな帽子を身につけている写真を見たとき、とてもわくわくした。私はこの帽子をかぶって、おばあさんになってもホテルのプールで泳ぎたい。いや、市民プールでだって、かぶっちゃおう。

レディ トゥ キック Instagramより(公式サイトはこちら

代表 ヤン・スヒョンさんへインタビュー

代表 ヤン・スヒョンさんへインタビュー

代表 ヤン・スヒョンさんへインタビュー

代表 ヤン・スヒョンさんへインタビュー

Q.幼い頃からファッションに関心がありましたか?

特別にファッションが好きだったわけではありませんが、母の影響で美しいものが好きでした。母が幸せそうに家の中を飾っていた姿を今でも思い出します。白いタイルが敷かれたリビング。寝室には、南大門市場で買ってきた輸入品アクセサリーや真鍮のベッドがありました。そして、いつもTPO(time, place, occasion)を大切にしておしゃれをしていました。会食の席、家族行事、結婚式、お出かけ……。会う人や行く場所によって、その都度変わる母の姿を見ながら、自然と美しさに対する心構えを学びました。これって簡単そうに見えますが、面倒くさがらず細やかに気を配らないと、なかなかできないことです。今も母は私よりももっとマメに、自分の身なりに気をつかっています。

Q.どんな考えを持って生きていますか?そして仕事に向き合っていますか?

「はたしてしっかりと生きられているのか?」と、私は自分自身によく問いかけます。

子どもを授かり母となり、さらにブランドの代表にもなると、本当に忙しく日々を過ごしています。トイレに行くのも忘れたまま仕事をして家に帰り、あの状態のままどうやって家に帰ってきたのだろう? と思い出せないときもあります。

以前、会社に勤めていた頃は、夏はオフィスのエアコンにより外が暑い事も気が付かず、冬はヒーターによってどれ程寒いのかもわかりませんでした。

私自身の会社を設立してからは、季節を感じながら、小さな幸せを噛み締めて生きようと努力しています。そのため、もう夜勤や週末出勤はなるべくしません。今日は初秋を感じながら自転車に乗って退勤する予定です。

Q.どのようにファッションを勉強しましたか? ブランドをはじめたきっかけは、なんですか?

大学の専攻はファインアートでした。幼い頃から絵を描くのが好きだったので自然と進路が決まりました。大学時代にはインスタレーションやパフォーマンスを勉強し、卒業後は現代美術作家になると思っていました。しかし実際に卒業し活動してみると、この世界はフィードバックも遅く、個人で制作するという部分が適性に合わなかったんです。

「どうしてこんなことをやっているのだろうか? 世の中の役に立つことをやっているだろうか?」というネガティブな考えが、後を断たなかったんです。

なので、デザイン会社に入ってグラフィック、ブランディングデザインを始めました。フィードバックがすぐに受けられるのも良かったし、経済的な待遇もありがたかったです。

そして、チームでの仕事が私には向いていたんですね。今も小さなチームでやっていますが、できない部分をお互いで埋め合いながら、楽しく働いています。

デザイン会社で働いていた時に子供ができました。1年間育児休職をして、深く悩める時間ができました。デザイン会社でいろんなブランドと仕事をしていく中で、自分のブランドが欲しいという気持ちが少しずつ生まれていました。自分のブランドを始めるとしたら、飽きずに長く表現していくことができるものは何だろうか? 私に本当に合っているものは何だろうか? 長いこと悩んで思い浮かんだのが“水泳”です。

5歳のときに始めた水泳は、年をとってからもずっと続けるような気がしています。水泳選手のように水泳が技術的に上手な訳ではありませんが、誰よりも水の中で楽しんでいるという自信がありました。そうやってレディ トゥ キックを思いついたのです。

Q.もっと詳しくレディ トゥ キックについて教えてください。

“レディ トゥ キック”というブランド名に込めた想いがあります。「キック!」は泳ぐときに足を蹴る動作を意味しますが、笑い声のような感じもしますよね。水の中で笑顔だった私自身を思い出して付けた名前です。多くの人々がレディ トゥ キックを通じて水泳を楽しみ、笑顔になれるといいなと思います。

グラフィックデザインをやっていたのに、なぜスイムウェアブランドなのか? そう思う人もいると思います。私はそのふたつが大きく違うとは思いません。媒体がどうであれ、私にとって何よりも大切なのは「水泳が楽しい」と感じてもらえることです。

なので、レディ トゥ キックでは水泳のワンデークラスなども定期的に開催しているんです。これからもお客様がレディ トゥ キックに触れて、水泳の楽しさを知ってもらえたらいいなと思います。

レディ トゥ キックで開催しているスイミングクラブ

Q.どんなものから影響を受けますか?

最近は31ヶ月になった私の娘から影響をたくさん受けています。ここまで誰かを深く愛することができるんだと気付かされます。昨日は這い回っていた娘が、今日歩けるようになるまでに、どれだけ大きな勇気と努力をしたのか。それをそばで見守りながら、「私もこのような素敵な人にならないといけない。私もこうやって一生懸命成長しなければ」と心に誓いました。 娘は私が見てきた、誰よりも素敵な人です。

Q.韓国のファッションについて、どのように思いますか? 日本のファッションについて思うことでも構いません。

コロナで日本に行けなくなり、何年にもなります。来月東京に行くのですが、今はどんな姿なのか気になります。

韓国は本当にスピードが速い社会です。仕事の処理も速いですし、ファッションもそうです。 自分のブランドをいざ始めると、その速さに息をつく暇もなくなるときもあります。なので自分だけの呼吸に集中しようと努力しています

Q.今後の夢はなんですか?

日常を楽しく元気に過ごしたいです。その中でレディ トゥ キックも順調に成長してほしいです。

Q.私が今回、着用させていただいた水泳帽と水着の説明をお願いします。

母や祖母の昔の写真アルバムで見たような水泳帽を作りたかったのです。何十年も前に流行していた花の水泳帽。レディ トゥ キックの水泳帽は似ているようで違いますが、記憶の中の花の水泳帽を思い浮かべながら、微笑ましく思っていただけたら嬉しいです。私が聞いて、いちばん幸せだったレビューは「友人達と旅行に行って泳いだのですが、レディ トゥ キックの水泳帽のおかげで、たくさん笑って、たのしい思い出になりました」でした。レディ トゥ キックを身に付けることで、どなたかが一度でも笑顔になれたのなら、成功だと思っています。

レディ トゥ キックは22年の夏に始まりました。22年の夏には水泳帽をリリースし、水着は23年の今年の夏に初めて作ってみました。エマが着たときはどうでしたか? 生地から縫製までとても気を遣って作ったので、着心地が良いはず。気に入ってもらえていたら嬉しいです。水泳帽が華やかなので、水着はクラシックに作りたかったんです。

レディ トゥ キックの水着は、生地がもっちりとしていて肌触りが気持ちいい。Vラインの部分も、ハイレグすぎず安心感がある。泳ぐのが好きな人が作った水着なのだと、着てみると納得した。
楽しい水泳の時間を作りたい。そんな人のものづくりと行動力が、この先どのような世界を作っていくのか、とても楽しみだ。

前田エマ

1992年神奈川県生まれ。東京造形大学卒業。モデル、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティ、キュレーションや勉強会の企画など、活動は多岐にわたり、エッセイやコラムの執筆も行っている。連載中のものに、オズマガジン「とりとめのない、日々のこと。」、みんなのミシマガジン「過去の学生」、ARToVILLA「前田エマの“アンニョン”韓国アート」、Hanako WEB「前田エマの秘密の韓国」がある。著書に小説集『動物になる日』(ちいさいミシマ社)がある。
韓国をテーマにした小さな展覧会。12月27日には音楽と朗読のオープニングイベントを開催。

『動物になる日』

著者:前田エマ
発行:ミシマ社
発売日:2022年6月10日
価格:2,420円(税込)

動物になる日 | 書籍 | ミシマ社

前田エマ・尾形愛・ホンマタカシ『架空特別市S』

日時:2023年12月27日(水)〜2024年1月22日(月)
会場:東京都・twililight

《オープニングパフォーマンス》
前田エマ deer revenge feat.尾形愛
日時:2023年12月27日(水)開場:19:30 開演:20:00
会場:twililight
料金:1000円+1ドリンクオーダー
定員:20名さま

前田エマの朗読と、写真家ホンマタカシのイベントに頻繁に出没する謎の覆面バンドdeer revengeのライブパフォーマンス。

架空特別市S 前田エマ・尾形愛・ホンマタカシ|ignition gallery

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