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同じ日の日記

話したいことはたくさんあるはずなのに/宮田明日鹿

編み物の仕事をしている友人に、港まち手芸部のワークショップをお願いした日

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2025年2月は、2月22日(土)の日記を集めました。「港まち手芸部」をはじめとして、手芸文化を通して様々なまちの人とコミュニティを形成するプロジェクトを各地で立ち上げている宮田明日鹿さんの日記です。

話したいことがたくさんあるはずなのに。

朝、目が覚めると、いつも通りお布団の中で猫のたねが横で寝息を立てていた。冬はなかなか起き上がれなくて、今日はワークショップをお願いした友人のことをぼんやりと思い返していた。
小学生の時からの友人で、それぞれの人生が変化していっても変わらず連絡を取り合っていて、今はお互い編み物を仕事にしている。そんな関係って私にとってはちょっと特別で、しみじみとした気持ちになった。
やっと起き上がって朝ごはんの準備。ホットケーキを作って少し火を強めたら、黒くなってしまった。
それから、春に向けてこぼれ種が自生している庭を散歩した。港まち手芸部(※1)のイベントが午後からなので、いつもより少しゆっくり家を出た。
港まちポットラックビルに到着して、さっそく準備開始。今回は、子どものために編んだ、サイズアウトしたセーターをほどく、友人によるワークショップ。来場者が思い思いに過ごせるように、ほどく場所だけでなく、編む場所も用意した設えにした。壁にセーターをピンでとめて、糸巻き機でほどいていく。
友人は「Tororino」という屋号で、YouTubeで編み方動画やニットパターンの販売を中心に活動している。トップダウンで編めるシンプルなセーターのデザインが特徴で、その編み方はほどいて編みなおしやすいため、10着以上をほどく予定ではじまった。
来場者は、セーターの構造について解説を聞きながら、糸巻き機で糸を巻き取っていく。まずは両袖の袖口、次に裾の下から上へ。

ほどかれていく様子に、「もったいない」「こういう構造になってるんだね」「なんか編みたくなったから家に帰ります」と反応があった。
ほどいた糸は湯のし器で湯気に通し、かせくり機でカセにする。そのあと、再び糸巻き機で毛糸玉に戻す。湯のし器は初めて使ったので、うまく扱えるようになるまで少し時間がかかった。灯油ストーブでお湯を沸かしながら、「ガスコンロだと糸が燃えそうだけど、昔の人はどうしていたんだろうね」と話した。

今回はゆったりとした人の流れで、YouTube用の撮影と記録撮影も無事できた。
イベントのあと友人と晩酌ができる中華料理屋さんへいき、子育ての話になって、かわいいけれど平日はほとんど一人で育てている大変さや、保育園の少なさ、近くに通わせられないこと、「みんなやってるからね」と諦めなきゃいけない感じ、それに制度が追いついていない現実に、こういう気持ちや困りごとってどうやって伝えたらいいんだろう。という話になった。
私はここ数年、入管法改悪反対のデモに参加したり、パレスチナの即時停戦を求める請願の出し方なども学んできたからそういう経験をもとに、地元の議員さんで話を聞いてくれそうな人を一緒に探してみた。

普段から話したいことはたくさんあるはずなのに、港まち手芸部に最近よく来てくれるようになっていたのに、日々の忙しさのせいで何十年来の友人といえど、会話にぎこちなさを感じることもあった。でも今日は、時間を気にせずじっくり話せて、少し肩の力が抜けた気がする。
「もっといろいろ話したいよね」お互いそう思っていることを改めて確認できたのも嬉しかった。次はいつ会えるかな?  そんな話をしながら、次回のご飯会を約束した。

※1 港まち手芸部
名古屋市港区にある港まちづくり協議会の提案公募型事業として採択(2017-2023)され、現在は委託事業として宮田明日鹿が運営する企画。様々な世代が集って参加者同士が「手芸、人生を学び合う場」であり「家の中のことを外に出してみる」実践として継続している活動です。

宮田明日鹿

テキスタイル、ファッション、現代美術の領域で手芸、改造した家庭用電子編み機などの技法で作品を制作。自分や他人の記憶を用いて新たな物語を立ち上げ、顧みることなく継承されてきた慣習や風習に疑問を投げかけている。近年では、手芸文化を通して様々なまちの人とコミュニティを形成するプロジェクトを各地で立上げている。おしゃべりしながら編む手を動かし、様々な世代が学び合い、何気ない会話を交わすなかで、見過ごされてきた出来事や家のなかの事柄も社会と密接につながっていることを参加者自身が再認識する作業を試みている。
近年の主な展覧会等に 「同伴分動態」(BUG、東京、2025年)、「ひらいて、むすんで」(岡崎市美術博物館、愛知、2024)、国際芸術祭「あいち2022」(愛知、2022年)、手芸部プロジェクトに、「港まち手芸部」(愛知、2017年~進行中)、「金石手芸部」(石川、2021年)、「有松手芸部」(愛知、2022年)、「せんだまち手芸部」(The Pool、広島、2023年)「本町手芸部」(石川、2024年~進行中)

写真:三浦知也 画像提供:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会

Web

『Knitting ’n Stitching Archives.』

著者:宮田明日鹿
発行:ELVIS PRESS
価格:3,500円(税別)

Web

『石としてある 第2号』

本屋メガホンさんが出版している本に寄稿しました。

編集発行:本屋メガホン
デザイン:和田拓海 (本屋メガホン)
発行:2025年5月11日
価格:1,650円(税込)

石としてある 第2号 寄稿のお知らせ│ASUKA MIYATA
石としてある 第2号 | 本屋メガホン

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売上の一部は、パレスチナと能登半島地震の被災地に寄付します。

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