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同じ日の日記

異物を演じる/細井耕平

考えたら発生してしまう責任、異物となったときの責任

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年7月は、7月4日(木)の日記を集めました。公募で送ってくださった、フリーランスのアートディレクター・グラフィックデザイナーの細井耕平さんの日記です。

仕事を15時までに終わらせたかったけど終わらなかったので夜やることにして、家を出て電車で目白に向かい気づいたら池袋で、折り返して目白に着いて、少し歩いてタリオンギャラリーで百瀬文さんの展示を観た。
自分がまだ政治や社会に関心を持てていなかった十年前に行われていたのデモの短い映像がループ再生されていて、無作為に取り出された断片のような日記や会期中に増えていくドローイングなどの仕掛けによって見ている今と十年前の映像がなんとなく結びついたりするようなというか無意識に結びつけようとしてしまう。なかなかうまく結びつけることができないうちに長い間社会を無視していたことへの罪悪感みたいなものが現れて消えないまま防衛省前のデモへ。
この日はかなり蒸し暑く、着いて立ち止まったら汗が止まらない。足首を蚊に咬まれながらすでに始まっていたスピーチを聞く。防衛省の人と直接話された方によると、イスラエルがパレスチナの市民を大量に虐殺している中でイスラエル製の武器を買おうとしている防衛省は、自分たちの行為が社会にどんな影響を与えるかどんなメッセージを発することになるかという視点を全く欠いていて、そのことの何が悪いのか本当に理解していない様子とのこと。考えたら自分(の心の中)に責任が発生してしまうから上から言われたことにただ従うことで自分の心を護ってるという感じなのかなと勝手な想像をしながら聞いていたけど、武器を買うということが自分の現実からはかけ離れた出来事なのでやはりわからない。

通り過ぎる人はこっちを見ない人が多い。デモやスタンディングに行くようになって場所や曜日、時間で周りの人の反応がかなり違うことを知った。休日の繁華街だとこっちを見て嘲笑ったりネタにしようとする人たちが増える。

終わって練馬駅へ。投票に行こうという趣旨のポスターをカバンから取り出して駅の改札の前で掲げて立つと想像以上に視線がくる。ほぼ無視されるかなという予想だったのでちょっとびっくりする。2度見したり立ち止まって凝視する人もいる。見てもらうためにやってるからこれはいいと思っていたけど去り際の表情にポジティブなニュアンスを感じられないことが途中から気になりはじめる。駅員の人に駅構内ではやらないでくださいと言われ場所を変える。適当な場所で再開するもさっきより視線が来なくなり、立つ場所を変えてみてもあんまり変わらない。駅の外だとノイズの量も種類も増えることを実感する。1時間くらい経って帰ろうとした時に同じようなピンク色の掲示物を持った方が合流してくれたので、そこから一緒に1時間半くらいやった。2人で話しながらやると1人の時より場に馴染むようで今までより自然な感じの視線が増えた気がした。

帰りの電車の中で、異物になるとその場の責任は免除されるからある意味ではラクで、自分は責任と対峙した時にいつもそうやって逃げてきたことを改めて思い出した。
そこにいるのにいないことにされる異物はその場の責任は問われない一方で異物としての責任みたいなものはたぶん残っていて、それも引き受けたくないから「なっているわけではなく演じている」という逃げ道まで用意している自分にも気づく。そしてそういう態度が過去の加害を認めず責任から逃げ続けている日本という国の態度とまっすぐつながってしまってなかなかしんどい。
家に着いたのは23時すぎでそこから晩ご飯を作って食べて片付けたら24時を過ぎていて仕事をする力は残ってなくてやれなかった。

細井耕平

フリーランスのアートディレクター/グラフィックデザイナー。社会のことを考えようとすると自分が消えて自分のことを考えようとすると社会が消えるみたいなことを最近考えています。

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