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同じ日の日記

儚く消えゆく幻のようなものになるつもりはさらさらなく/ゆっきゅん

映画『ガールフレンド』、落ち込んだ時に見返す宝物、ボロボロに剥げたネイル

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年11月は、11月23日(土)の日記を集めました。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバーであり、セルフプロデュースでのソロ活動「DIVA Project」を行うゆっきゅんさんの日記です。

アフタートークをするために映画『ガールフレンド』を朝から観直す。映画上映後のトークというのものに対して自分以外の人がどのような準備をして挑んでいるものなのかよくわからないけど、私は1回観るだけでは覚えが悪いので、だいたい2回くらいメモをとりながら映画を観て、話したいことをノートかスマホにやや断片的にでもざっくりとまとめて、そのメモを持参して登壇するものの、喋ることに楽しくなり、あるいは一生懸命になりすぎてそのメモを全然開けずに終わるのが通例である。

1978年のクローディア・ウェイル監督作『ガールフレンド』のことを知って観に行って感動したのは今年、上映企画が下高井戸シネマで開催された時で、それまでは全く作品のことを知らなかった。内容は私が好きに決まっている女友達ルームシェア解消ムービーであるのに、自分の知っている感情が古びることなくたくさん描かれているのに、何にも知らなかった。そのことを思うと、自分が作っているのは映画ではなく音楽だけれども、約50年後に誰かがたまたま「ゆっきゅんを再評価したい」とか思ってくれて、まあ50年後の再評価のされ方にどんなバリエーションがあるのか知らない(だって50年前じゃ4Kリマスター上映だってなかったし、バズらせるとかもなかったでしょう)けれども、誰かの紹介やなんらかの道のりを経てで私が2024年に出した『生まれ変わらないあなたを』というアルバムを聴くこととかもあるのかな、と思うし、ないとやだ。やだー。私は今年、たくさん中島みゆきの初期作を聴いたし、研ナオコの歌に出会って感動したりしたし。儚く消えゆく幻のようなものになるつもりはさらさらなく、ていうかそんなの過ぎてゆく毎日ってものがそうなので、せっかく複製芸術を作るならば、いつかの未来を生きている孤独なあの人が、調べれば知ることが出来るものとして存在していたいと願う。でも、目の前の人を大切に思うことくらいしか、できない。それも上手くできてるのか、いつもわからない。

『ガールフレンド』って良いところ言及したいところ次々と溢れてくるような私たちの映画で、観ながら思い出せる「あの頃」の友人の横顔があるのならば、今はただの相互フォローみたいな関係になっていたとしてもいい、赤ちゃんの載った親しい友達ストーリーズに絵文字送るだけでもいいから、今すぐに連絡をするべきだ。友達はだいたいなぜか結婚していく生き物。

駆け出し写真家で夢追い人のスーザンが、同居中の親友アンとコインランドリーに行って、絶好調な様子で自分の写真が3枚売れたのだとアンに報告するシーンがある。写真が3枚売れたことが、今までになかった事態であることがわかる。ここなんか泣けるんだよね。今日のスーザンに見えているものは希望。もしかしたら、これでやっていけるのかもしれないという、光。表現者は誰だって、そんなはじめの光をずっと握りしめているものだと思う。最初期に自分の表現の価値を認めてくれた人のことを忘れることはない。一人目のファンのことを忘れるアイドルなんていないよ。そして若い時にかけてくれた褒め言葉って本当に、続ける理由たりうるものなの。私はとある後輩的なミュージシャンが憧れの音楽家にラジオで激賞されていたとき、祝福しながら「え、文字起こししときな!?」と言ったらそんな発想ないと笑われた(でも勤勉すぎて文字起こししてた)けど、絶対そういうの私は文字起こしする。落ち込んだ時に見返すために。落ち込んだ時に見返すためのものって宝物すぎる。でも最近の自分はそれらを頼りに生きてる感じでもないなあ。もしかして落ち込んでいないのかな、それならそれで、よかたわら。

 いや昨今の私は、人間としての自信を失うときはもっと、活動なんかとは関係のない3つの事柄を思い出しているのだ。①視力がいいこと。②泳げるので溺れないこと。③地図が読めること。あたしサバイバルいけます。遅刻もするし部屋も散らかっているし午前中は天井を見ているし夜は眠くないが、この3つを思い出すと、自分はかなり大丈夫だなと思える。私はさっきまで、映画の話をしていたような気がする。
 
小説家の柚木麻子さんに会って少し相談事を話す。今日も「すごいじゃん、絶好調じゃん、人気者だよ」みたいなことを出会い頭から言ってくる。活動が好調に見える時期はたしかにあるのかもしれないが、私自身が絶好調な日なんて、思い出せないくらいに、ない。私から見ると柚木さんこそがいつも絶好調でかっこいい。なんであの感じで、締め切り守れてる側の人間なんだろう。私はカフェインがだめでコーヒーが飲めなくて、でもコーヒースタンド的な店に連れて行ってくれたので、デカフェでアイスカフェオレを頼む。柚木さんは色んな提案を矢継ぎ早に展開してくれる。それを私が全て実行したらどうしてくれるんだというくらい、自身の経験で得てきた知恵と文化享受体験で得た知識をもとに、パワフルなアドバイスをくれる。あんなに色々言ってくれるのはきっと、参考にするかどうか結局は私次第ということがわかっているからか。女性と年下には優しくしようと決めているのだと思う。柚木さんに言われたことを落ち込んだ時に思い出している人間が、この世に何人も何人もいることが想像つく。私は柚木さんが思っているよりもたぶん柚木さんのことがめちゃくちゃ好きで、でもなんか、あんまりかけがえなく思うと普通でいられないので、「長生きしてくれ……」とか思い過ぎないように気をつけている。この前カラオケ断ってごめん。

柚木さんは私のひどくボロボロ剥げた状態の派手な色の爪を見て「ねえ、それすごいよ。他の人に出来ることじゃないよ。ネイルが剥がれている人はいるけど、だいたいその場合は剥がれるから地味な色を塗ってる。でもゆっきゅんは派手なマニキュアを塗ってるのに剥がれたままここにいて、そんなことをしてもいいってみんな知らないんだよ。みんなゆっきゅんのそういうところが好きなんだよ。」と言ってきた。私がネイルサロンに行かないのは撮影の感じに合わせてネイルを変えられるようにしておきたいからで、爪はだいたい撮影のときに派手にマニキュア塗ってもらったのをそのまま剥がれても塗り直せずに生きている。トークくらいならいいかって感じで、赤とかシルバーとかのマニキュアが剥がれて目も当てられないグランジっぷりを呈しているのに、家を出るときに爪を塗る余裕なんてあるわけないから、剥げたネイルで街へ繰り出している。山賊でごめんなさい。ライブの時は楽屋で出番直前にマニキュアを塗っている。もう活動10周年を迎えたが、たしかに、あまりそういう共演者は見たことがない。そんなふうに言われて、恥ずかしいから柚木マジやめてくれと思ったけど、でもたしかに、このどうしようもないネイルは私の日々の生き方を端的に表しているような気もした。

その後多摩へ移動し、バキバキにトーク仕事をして、山崎まどかさんと楽しく喋って帰って最高の1日だったけど、とにかく30日から始まるゆっきゅん映画祭のパンフレット原稿を自分だけが書き終えていなくて、本当は朝から晩までずっと気が気じゃなかった。映画を観ている場合でも「デカフェでお願いできますか」とか聞いてる場合でもなかった。でもたぶんなんとかするのだろう。なんとかして生きてきたから。

ゆっきゅん

1995年、岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバー。2021年よりセルフプロデュースでのソロ活動「DIVA Project」を本格始動。でんぱ組.incやWEST.への作詞提供、コラム執筆や映画批評、TBS Podcast『Y2K新書』出演など、
溢れるJ-POP歌姫愛と自由な審美眼で活躍の幅を広げている。
2024年9月には2ndアルバム『生まれ変わらないあなたを』を発表した。

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