6月22日の日記を書いてほしいと言われてどきりとしたのは、かなり珍しい24時間だったからだ。6月22日は満月で、22日に変わった瞬間、アタシは水瓶座の女と音楽を聴いていた。6月22日からかなり色んなことが起きた。いまは7月21日の満月の夜にこれを書いている。今夜も水瓶座の女といて、今夜も音楽を聴きに行き、ふたりで先月の満月も一緒にいたねという話をした。たったの1ヶ月でこんなにも人生が変わってしまえる自分の圧倒的な自由さと野生に少しだけ怯む。
同じ日の日記
満月、水瓶座の女、踊り続け、ロンドンの街中を駆け回る
2024/12/13
毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年6月は、6月22日(土)の日記を集めました。ロンドンと東京を拠点にする映画監督/アーティストの石原海さんの日記です。
6月22日の日記を書いてほしいと言われてどきりとしたのは、かなり珍しい24時間だったからだ。6月22日は満月で、22日に変わった瞬間、アタシは水瓶座の女と音楽を聴いていた。6月22日からかなり色んなことが起きた。いまは7月21日の満月の夜にこれを書いている。今夜も水瓶座の女といて、今夜も音楽を聴きに行き、ふたりで先月の満月も一緒にいたねという話をした。たったの1ヶ月でこんなにも人生が変わってしまえる自分の圧倒的な自由さと野生に少しだけ怯む。
「ほかのことをしなくてはならないのよ。もっと辛抱強く、骨の折れることを。夏は悪い季節なのね。冬を待たなくてはだめなんだわ」
ー映画『かくも長き不在』より
22日の明け方、アタシは水瓶座の女と踊っていた。夜を永遠に続けたいと駄々をこねて酒を飲み続けるアタシを、ちょうどいいタイミングで家に帰らせることができるのはこの人しかいないかもしれない。パーティーが終わる前に、つかれたから帰ろうと手をひかれてアタシたちは家に向かう。バスの中でやっぱりもう一杯だけ飲もうよとオフライセンスに寄ろうとするアタシに「いいからこれ見てよ」と、猫の映像を見せてくる。この猫は海だよ、と言われる。猫の映像を見ていたらだんだんと眠くなってきて、アタシたちは(アタシみたいな)(日本に住んでいる)猫がこちらをじっと見つめている映像をぼんやりと見ながらおとなしく南に向かう。この女は催眠術が使えるのかもしれない。
翌日目が覚めて、ベッドでごろんとする。やらないといけないことが山積みなのに週末の午前中は二日酔いでだいたい苦しんでいる。巨大なペットボトルの水を飲みながら携帯をスクロールしていたらなぜか木下優樹菜が出てきて、今更ながらなんちゅうかわいさなんだと思う。二日酔いに染みる可愛さ。『恋のハイエナ』でラウンジ嬢として接客している優樹菜を見て、かなりいいなと思った。36歳という年齢も完璧すぎる。優樹菜にテキーラ強要されたすぎるし、優樹菜とクロス飲みしたすぎる。どこかで奇跡的に優樹菜と会った時に極上のシャンパンを開けれるように目の前の仕事をがんばるかと起き上がり、土曜日だというのに謎のやる気がでてきて仕事をした。夕方になってまた飲みに行き(水瓶座の女が不在だったから誰も止める人はいなくて)アタシは夜を加速させ、最終的には音楽が鳴っている場所に吸い寄せられた。アタシたちは音楽に取り憑かれた夏の昆虫。
ロンドンの夏は美しい。永遠に遊び続けたくなる天国のような気候。マルグリット・デュラスは『かくも長き不在』の中で夏のことを悪い季節だと呼んだけど、悪い季節はやっぱり楽しい。悪い季節の週末は、悪い音楽を求めてずっと踊り続けている。自分の人生のかなりの時間を音楽を聴いて踊ることに費やしているのに、一度たりともこれで十分だと思えたことがないのがすごく不思議だ。思考はダンスみたいなものだ、というキルケゴールの言葉はあながち間違いではないのかもしれない。思考をやめることができないように、アタシは踊ることをやめることができない。踊り続け、ロンドンの街中を駆け回り、いつもと同じなんだけどどこか珍しい週末を過ごした。満月のせいかもしれない。ただ踊ってるだけじゃだめなんだけど、いまだけはすべてから解放されてとことん遊び尽くしたい、そうゆうタイプの1日だった。翌日、また相変わらずの二日酔いでベッドでごろんとしながら、ふと木下優樹菜の星座を調べたら獅子座だった。水瓶座だったら恋に落ちるところだった。
「見てちょうだい、あたしがどんなにあなたを忘れようとしているか。見てちょうだい、あたしがどんなにあなたを忘れてしまったか」
ー映画『24時間の情事』より
石原海
ロンドンと東京を拠点にする映画監督/アーティスト。
近年の主な活動に『スウィート・ホーム・スウィート』(国立国際美術館, 2023)第14回 恵比寿映像祭 東京都写真美術館, 2022) 第15回 資生堂アートエッグ入選 (2021) 初長編映画『ガーデンアパート』『忘却の先駆者』がロッテルダム国際映画祭に二作同時選出(2019)またAmazonプライムオリジナル作品『The Tour’23』(2023) BBC/BFI助成作品『狂気の管理人』(2019)監督。
プロフィール
『ホーム・スイート・ホーム』
マリア・ファーラ、潘逸舟、石原海、鎌田友介、リディア・ウラメン
会期:2024年10月12日(土)〜2025年1月13日(月・祝)
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
休館日:月曜日(ただし2025年1月13日は開館)、12月25日(水)〜31日(火)
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
展示情報
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