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同じ日の日記

ファンタジーを水で溶く/堀米春寧

左川ちか全集、夢の話、22時22分、ワンダーとファンタジー

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2024年5月は、5月27日(月)の日記を集めました。ドローイングやペインティング、刺繍の作品をつくりながらワンダーやファンタジーを生み出す、堀米春寧さんの日記です。

夢の中で:呼吸をするたび耳の奥の方でごそごそと何かが気持ちわるく蠢いている。知らない街の知らない部屋の中でわたしは仰向けになり、特にもどかしい左耳を下にするようにゆっくりと体勢を変えた。何も変わらない。今度は机の上に置かれていた、だらしなく栓の空いた鯨の密造酒をティースプーン1杯、耳に垂らした。三呼吸ほどして耳に手を添えると透明の液体がとろとろと出てきて、眺めていると密造酒は蒸発し、きれいな結晶が現れた。光に当たるとうつくしい薄紫のその子たちを小さなガラスの瓶に入れ、横にゆっくりと振る。ぶつかり合いながら澄んだ音を出す結晶とわたしは涙目に遊んでいた。

昼:ここ数日、世界と自分にひどく落ち込んで暗く染まりかけていたものだから、きれいでヘンテコな景色に出会えて嬉しい。夢はへんてこが普通の顔していて楽しいな。友人が誕生日祝いに贈ってくれたすみれのリキュールをティースプーン1杯、お気に入りのグラスに垂らし、たっぷりの水で溶く。夢で出会った結晶と同じ色にしたあと、少しずつからだに流し入れた。

ファンタジーを水で溶く/堀米春寧

昼に描いた絵。まだ途中。

夕:近所の本屋で左川ちか全集をぱらぱらと立ち読む。「いまはあまり夢を見ません。見てもすぐ忘れてしまひます。疲れてゐるからではなく、夢を見ても最初に聞いて貰へる友達も居なくなつたし、そればかりか現実は私にとつてすべて夢だからです。」(左川ちか全集『童話風な』より一部抜粋)

夢の話をされると不愉快な人が多いとSNSでちらりと見たことがあるけれど、私はもちろん夢の話を愛している。眠りの夢も、将来の夢も。ゆくゆくは色んな人の夢(やっぱりきらきらしている方)を引き出す人間になりたいもの。夢使い。ワンダー師。いいな。

22:22:はっと時計を見ると22時22分、ということがほぼ毎日。スクリーンショットするのも飽きた。自分を特に見失った日などはこの数字を見逃すことが多いので、今日はまだ自分がそばにいるってことだ、ありがとう。これは癖なのか、この時間になると世界がわたしに向かって叫ぶのか。叫んでいるなら何を求めているのか。

宵:現実でワンダー師になるためには。スパイスとなるファンタジーの程度とは。と考えていたところで今朝の夢を思い出し、似た光景が出てくる、むかし好んでいたフランスのファンタジー映画を観る。思っていたよりもつまらなくて、少しさびしくて、映像が投射されている白いスクリーンをうつろに見ていた。口がぼうっと開いていたのかのどが渇いたので、すみれのリキュールと水をお気に入りのグラスにとぷとぷ注ぎ、一気に飲み干した。

ファンタジーを水で溶く/堀米春寧

グラスの中の秘密

堀米春寧

1996年生まれ。高校在学中より絵描きとして活動を開始。いのちの流れと好奇心を頼りに描くアート作品は、ドローイングやペインティング、刺繍などを用いて制作している。

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