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熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

渋谷キャスト7周年祭のテーマ「不揃いの調和」「頼まれなくてもやっちゃうこと」をもとに

「不揃いの調和」という言葉に願いを込めて、場をつくり、育もうとしている人たちがいます。4月28日(日)、4月29日(月・祝)に開催される、「SHIBUYA CAST.(渋谷キャスト)」の7周年を記念したイベントでは、この「不揃いの調和」という言葉を軸にさまざまなユニークな企画が行われます。渋谷キャストが、ひいては渋谷が、東京が、そして社会が、またそこで生きる人々やその仕事が、どうあってほしいと願うか。そして周年祭とはいえ、なにを祝えばよいのか。そうした問いから生まれた「不揃いの調和」、そして「頼まれなくたってやっちゃうことを祝う」というテーマを預かって、イベントのディレクターである熊井晃史さんと、今回、パートナーの一組として関わることになったme and youの竹中万季、野村由芽の三人で話しました。

三人が集まったのは、熊井さんが主宰する小金井のギャラリースペース「とをが」がある寄り合い商店街、丸田ストアーです。そこで話した時間そのものも頼まれなくてもやりたいことだったのではないかと思うほどに、それぞれの実感がこもった言葉を手渡し合いながら話がつながり、広がっていく、豊かな時間でした。取材を担当したのは、周年祭で配られる記念ブックレットの編集に関わり、普段はme and you little magazineの編集部にアシスタントエディターとして参加している日比楽那です。


❤️「不揃いの調和」とは?/誰かがつくった言葉や場所をどう育てていくか/話は脱線していい
❤️「頼まれなくてもやっちゃうこと」と仕事との関係/会議がつまらなかったら仕事がおもしろくなるわけない/余白と創造
❤️人間への信頼感の回復/渋谷の排除ベンチ/疑心暗鬼の妖怪/創造性の創は絆創膏の創/揺らぎ、お喋りをやめない
❤️耳を傾けたくなる、見たくなるような佇まい/「なにがかっこいいか」という感性の更新/渋谷にあってほしい風景

「不揃いの調和」とは?/誰かがつくった言葉や場所をどう育てていくか/話は脱線していい

―まず、今回の7周年祭で大切にされている「不揃いの調和」という言葉について考えたいと思います。

熊井:「不揃いの調和」ってもともとは、渋谷キャストの建築デザインコンセプトです。なんですけど、渋谷キャストという存在のあり方に対して、そして社会に対しての願いとしての受け止め方もあるだろうなって考えていました。それに、少なくとも周年祭のタイミングにおいて、その言葉の意味や意義を捉え直して深めていくことが大事なんじゃないかという思いもあって、関係者と議論を重ねてきました。「不揃いの調和」って、素直な言い方をすれば「平和」と一緒だよなって感じてたんですけど、それを解釈していく言葉をみんなで豊かにしていきたいんですよね。

熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

渋谷キャストの周年イベントディレクターの熊井晃史さん。「とをが」の主宰のほか、10代のための新しいスクール「GAKU」の事務局長なども務める

―特別編集誌『SHIBUYA CAST. memorial booklet』 (以降、ブックレット)の編集に関わるなかで、いろんな人の願いが込められていることをわたしも感じました。me and youも、個を塗りつぶさないという意味で不揃いであることを大切にしつつ、調和することを諦めないように思えて、場所をつくるにあたって大切にしていることも共鳴する部分があるのかなと感じましたが、いかがでしょうか。

竹中:まず、今回のようなテーマを持った企画のなかでme and youのことを思い浮かべてもらえたのがすごく嬉しいです。ゆめさんとShe isという場を始めたのも、誰かが決めた「女性」という枠に押し込められて語られがちなことに対する疑問があったことがきっかけでしたし、一人ひとりは異なるはずなのに属性でひと括りにされたり、違いを拒絶されたりする場面は少なくないですよね。「多様性」や「SDGs」を言葉としてトレンド的に消費するのではなく、別々でありながら共にあるということを継続的に考えていくにはどうしたらいいのか、me and youを始めてからも日々考えたり話したりしているので、複合商業施設の周年イベントのテーマがこうなった理由についてお話できたらいいなと思っていました。

野村:「異なる」ということが歓迎されない場面も少なくないなかで、この社会では、「大人らしさ」や「女性らしさ」のようなものに個人のありようがどんどん回収されて、それぞれの心の形がおしこめられてしまうことがあると感じています。She isの頃から、「それぞれの声がある」ことをなかったことにしたくないという思いがあり、さらにme and youでは「わたしとあなた」になったときに、お互いの声を大切にしながらどう一緒にいられるかを考えるようになりました。そのため、「不揃い」であることを肯定しながら「調和」を考える今回の場がどういうふうになっていくのかなと楽しみに思っています。

……という前提がありながら、このテーマを聞いたときに、「調和」とはどういうことなのだろう? と考えてもいました。「わたしとあなた」の関係の形が多様だからこそ、「調和」している状態を一言で表すことは難しいと思っていて。She isのときは「自分らしく生きる女性を祝福する」というコンセプトだったけれど、たとえば「(すべての)わたしとあなたであることを祝福する」って必ずしも言えるかな? と思ったり。まきちゃん、どう思う?

竹中:うーん、相手と異なることが喜ばしい状況でなるべくあってほしいけれど、そうでないと感じられることも確実にあるだろうから、それをどう捉えたらいいのか……。

熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

左からme and youの竹中万季、野村由芽

熊井:「不揃い」というのはもちろん都合のいい状況だけではありませんよね。「調和」というものも、何をもってそうであると言えるのかは結構難しい問題であるようにも思います。

野村:そうですね。そのうえで、「わたしとあなたが違うということを、喜ぶことができるかもしれない」と思い出すだけでも、変わることは結構あるなと思っています。

―今回のイベントも、一つの思い出せる場になったらいいですよね。

熊井:思い出せたり、それを分かち合えたりするということはかなり大事ですよね。「不揃いの調和」という言葉の生みの親は、CMFデザイナー(カラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字をとって名付けられた、ものの表面に関わるデザイナー)の玉井美由紀さんという方なんですね。その言葉が出されたとき、みんながハッとしたと聞いたことがあります。まだ名前が付けられていない。でも心が動く。そういう目指すべき状況や状態を言葉にすることによって場が温かくなることはよくあるし、あるべきだなと考えています。それって、今こうやってお話をしていることの理由でもあると思うんですね。そうやって、新たな意味や意義を見出したり息を吹き込んだりして、それを場や社会に注いでいって、育んでいくという。それこそ玉井さんから頼まれたわけでもないんですけど、ある意味勝手にその言葉を引き受けて、みんなで育んでいくものにしていこうとしているんですよね。

―意味や意義を注いで育てていく。

熊井:そうそう。水や栄養で植物をケアしていくように、フレッシュに感じ取ることができる意味や意義を供給していかないと人も元気が出ないですよね。本来メディアもそうですし、今回の周年祭の役割にはそういうこともあるなって思っています。もちろん、自家発電のように勝手に育っていくことも素敵だとは思いますけどね。それで言うと、都市開発にしたって、その開発のときにたくさんのエネルギーが注がれがちだと思うんですけど、その後に豊かに運営していくことにもたくさんのエネルギーが必要になりますよね。でも結構それが見過ごされがち。だから、分離されがちな、「つくる」ということと「育てる」ということをつないでいきたいという気持ちもあります。

田中元子:「頼まれなくてもやっちゃう」っていうのは、その人が内側ですごく正直だってこと。そのさ、底からの正直な部分が好きなのかもね。なので、「頼まれなくてもやっちゃうことを祝う」ということは、その正直さを祝おうって話ですよね。

田中元子:やっぱりさ、自分で悩みながら出てきた目的みたいなものって、個人の責任にちゃんと紐づいているじゃないですか。そこに逡巡がちゃんとある。でも、そうじゃない場合は、自分の言葉じゃないからこそ、ある意味無責任になれるから、強くなれる。

特別編集誌『SHIBUYA CAST. memorial booklet』に掲載されている、「自家製の公共」「マイパブリック」「私設公民館」といったキーワードと共に活動されてきた田中元子さんの言葉。「頼まれなくたってやっちゃうことこそが必要」というのは、田中元子さんが会議の場でしばしば口に出される言葉であり、そこから熊井さんがブックレットのテーマとしたそうだ

竹中:人々の仕事において、「ここにビルが建ちました」「こういうコンセプトを掲げます」「こんなポスターが現れます」といった立ち上がる部分だけが話題になったり良し悪しで語られたりしやすいですが、そのプロセスもすごく大事なはずだし、その後にどう育っていくかもとても大事ですよね。わたしはもともと広告業界にいたんですが、打ち上げ花火的な案件に関わったり、賞をとったりした人が力を持って見える構造があるように当時は思えて、その価値観がフィットしなくて。もっと続いていくものに携わりたいという気持ちから、前職のCINRAに転職しました。

アウトプットの素晴らしさが評価されるのももちろん必要だと思いますが、その過程でどんなコミュニケーションがあったのかも気になりますし、お祭りも大事ですが、その後にある日常がどう続いていくかというところも気になります。続いていくことは大変なことなのに、そこについて語られることは少なくて……。あれ、ちょっと支離滅裂かもしれないんですけど……。

熊井:まさに目的に至る過程も目的にしたいというか、渋谷キャストも自分の寿命を超えて残っていくものですし、そもそも街や社会がそういうものなんで、長い時間のスパンで考えたい気持ちもあります。あー、で、いや、会話ってなんなら支離滅裂のほうがいいし、話が脱線したほうがいいと思ってるくらいです。支離滅裂にならない、脱線しない話って多分あり得ないと思うんですよ、創発されていないってことだから。そうやって、あーだこーだ一緒に考えたいし、考えたことを社会に置いておきたいんですよね。それに、拡散というか周知が広がっていくことはもちろん嬉しいですけど、その手前にある議論というか対話というか話し合いの方が大切だよなって。

「頼まれなくてもやっちゃうこと」と仕事との関係/会議がつまらなかったら仕事がおもしろくなるわけない/余白と創造

ー渋谷キャストの7周年を記念して、「頼まれなくたってやっちゃうことを祝う」というテーマで田中元子さん、若林恵さん、猪瀬浩平さんへインタビューした内容を掲載するブックレットが創刊されて、熊井さんはその企画・聞き手・編集をされましたが、ブックレットの制作そのものが「頼まれなくたってやっちゃうこと」だったと書かれていましたよね。

皆さんは仕事におけるさまざまな企画のなかで、あるいは受注した仕事を超えて自主提案のような形から始める仕事のなかで、「頼まれなくてもやっちゃうこと」を実現されてきたのではないかと思います。「不揃いの調和」と「頼まれなくてもやっちゃうこと」の関係、あるいは、「頼まれなくてもやっちゃうこと」と仕事との関係について考えを伺いたいです。

野村:「不揃いの調和」と「頼まれなくたってやっちゃうこと」に共通するのは、プロセスの大切さなのかもしれないと思っていて。そこにいる一人ひとりが「ここにいられる」と感じられるような場をme and youでもつくっていきたくて、そのためには間にあるものを置いていかないこと、点ではなく線や面であることが大事だと感じています。たとえば、「これをこうしたら不揃いの調和です」「この人を仲間に入れたら調和します」みたいなことってないですよね。

熊井:ないですね。

野村:今回「頼まれなくたってやっちゃうこと」の大切さを感じながら、同時に「頼まれてやること」も大事だと思いました。でも「頼まれてやること」で自戒を込めて問題に感じたのは、どうしても型にはめて考えがちになるということです。考えるのをさぼって同じやり方で何度もやってしまうとか、本当はそのケースだったらよりよいやり方があるかもしれないのに自分のやり方に押し込めてしまうとか。プロセスを創造的に考えて、「今この人と一緒にやれることが楽しいし嬉しい」「もっとよくしたい」とちゃんと思えることが、いいアウトプットにつながりますよね。自分は最近「頼まれなくたってやっちゃうこと」をやれてるかな、一緒に仕事をする相手の個性や持っているものを蔑ろにしないで、喜びながらものづくりできてるかな、ということも考えました。

熊井:ああ、基本的にはずっと教育の仕事をしてきてるんですけど、子どもたちが目の前に30人いると、気をつけないと「わたしとあなた」ではなく「わたしと子どもたち」みたいになってしまうんですよね。子どもたちは一人ひとりに人格があって、こちらのことを唯一の先生として見てくれるわけだから、30人だろうが何人だろうが、「わたしとあなた」を一人ひとりにやっていかないと不誠実な空間になってしまうんですね。それを教育現場に立つときに気をつけているし、教育以外の仕事でもその筋を通そうとしているのはありますね。

あと、ブックレットに掲載している文化人類学者の猪瀬浩平さんのインタビューでも、「会議みたいなものも、多数決であっさり決めるとかではなくて、その場に参加すること自体が一つの喜びであり、アイディアが湧き、なんか楽しいっていうイベントのようなものとして考えられないかなって」という言葉がありまして。

竹中:まさに今日、ここに来て話している感じがそうですね。

熊井:ほんとそうですよね。会議がつまらなかったら、その仕事がおもしろくなるわけがない。同じくブックレットに掲載している若林恵さんの「発注を考える 未来の奴隷にならないために」という原稿では、その結びが「仕事というものが、自分の『人生の時間』と切れちゃっているんですよね。そんな所で経済なんか発展するわけないですよね」という若林さんの言葉で締められています。3人の取材を通して、色々と考えさせられ続けています。それで、目指したいものがあるならば、そのプロセスも目指したいことと相似形にしないと、なんか誠実じゃなくなるなって思っていて、この周年祭の仕事でもそれが「自分の『人生の時間』」とつながるものにしたいし、それは自分だけじゃなくて、関わる多くの人にとっても、そうであってほしいなと願っています。

熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

渋谷キャスト7周年を記念して刊行された特別編集誌『SHIBUYA CAST. memorial booklet』。イベント当日、手渡しで配布される

野村:プロセスを大切に考えないと、携わっている人も「もっと自分の場所が他にあるんじゃないか」と思ってしまいますし、そこにいられなくなってしまいますよね。

熊井:そうですよね。関わる理由が最初はたまたまだとしても、自分も含めて、その人がそれに関わることの必然性というか意味みたいなものは、結構考えちゃいます。

竹中:たとえば「あなたはマーケティングがお上手だから、その役割で」というように、スキルで測られる部分が仕事にはありますよね。もちろんスキルも大事だけど、どんな仕事であっても社会に存在するものであり、人間が日常のなかで関わっていくものだから、そこで生きている一人ひとりが仕事だけではなく日常で何を考えているかも同じくらい大事だと思います。会議でも、マーケターとして求められる発言しかしてはいけないというわけでは決してないはず。さっきみたいに話が逸れたりするのも機械じゃなくて人間だからできることで、人間は仕事だけをしてるのではなく、感情を持って、悩みがあって、生きているからこそできる仕事がある。会議中に別のことで落ち込んでいたことさえも後の仕事に生きたことが過去の経験でもあります。自分の人間性を見てもらえる仕事は生き生きと取り組める一方で、代替可能だと感じられる機械的な空間では「頼まれなくてもやっちゃうこと」はきっと生み出されないですよね。

熊井:今の話を聞きながらまたインスピレーションがあって、話が脱線することと、「頼まれなくたってやっちゃうこと」っていうのは、限りなく近しいポイントがあるなと思いました。話が横道に逸れていくことも、「頼まれなくたってやっちゃうこと」も、自分の中から湧き出るものの流れに乗っているというか。みんなのそういう湧水のようなものが合流したら、きっとパワーが出るんだと思います。

野村:me and youは武田砂鉄さんに何度も「話が長い」と言われているんですけど(笑)、求められていることだけではなく、「こんな話をしてみてもいいかな?」というような話ができることが、今ここにいられるという実感や生きる心地につながるんだろうなと思います。「こんな話ができた、聞いてもらえた」と感じられる場が、小さくとも無数にあるといいなと思いますね。me and youもその一つでありたいし、身近な人ともそういう関係性が築けたらいいなと思います。

そのためにはきっと心理的な安全性や余白が大事で。大人数で話している時間では話せなかったことが、帰り道に横並びで駅まで歩く時間で話せたりすることがある。そういう余白の時間はスピードや効率を重視しすぎると失われがちになるなと思います。都市空間や建築もそうで、「ここはこういう場所」って決められているのではない、たとえばよくわからないけど登れそうな階段があったときに、「登ってみようかな」という気持ちがかきたてられ、「自分のなかに、こんな力が眠っていたんだな」と気づくことがあります。この丸田ストアーもそういう余白がありますよね。そんな空間や時間の余白のなかに、やってみたい、創造してみたいという気持ちが生まれる気がしていて、それは生きる手応えにつながるのではないかと思います。

人間への信頼感の回復/渋谷の排除ベンチ/疑心暗鬼の妖怪/創造性の創は絆創膏の創/揺らぎ、お喋りをやめない

ー渋谷キャストがある渋谷の街や都市空間に対する皆さんの思いや感じていること、考えていることも知りたいです。

野村:渋谷には、代々木公園の向かいに「はるのおがわプレーパーク」がありますよね。手作りの遊具があって、自分たちで責任を持って遊べるというか、人間の力が信じられているような場なのかなと思います。一方で渋谷の中心街を見ると、ホームレスの人たちがそこで過ごすことを妨げるような、いわゆる「排除ベンチ」がたくさんあったり、そもそもベンチの数が少なかったりして。お金を使わずに、ゆったり座ったり、寝転んだりできるところが少ないと思います。誰しも疲れたら休みたいですよね。もっと休み休み生きられる街がいいと感じます。

熊井:渋谷キャストは、ベンチが排除ベンチになっていなくて、あの立地でそれはすごいことで、それをつくるのにも維持するのにも心が注がれているんだと思いますし、そこへのリスペクトが結構あります。そういう安心感のある場所を、排除や禁止ではなく、会話や信頼を通して維持されるものにしていきたいですし、そういう場所が社会に広がっていったらなと思っています。

熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

渋谷キャストの外観

竹中:今の社会では、ある種の「望ましいクリーンな状態」を保つために、事前にいっぱいルールをつくってエラーが起きないようにしていく流れになっているように感じていて、技術的にもそうしたジャッジが可能になってきていると思うんですけど、とても難しい問題だと思います。どういう権力構造や勾配があるのか一個一個丁寧に見ていかないと決められないはずのこともパターン化して決められたり、議論されずに一部の人によって決められたりすることが起きがちですよね。言い切り形が好まれる世界ではあるけれど、曖昧さやグレーな部分も尊重していく必要があると思います。いくらテキストコミュニケーションが増えたとはいえ、そうした内容は人と人とが集まって話さないとわからないこともあるだろうし、でもそれ以外の方法はないのかも考えたいですね。

ー人間の悪い面にばかり目を向けるのではなく、よい面が広がっていく可能性に期待して信じてみるのにはどうしたらよいのでしょうか。

熊井:ちょっとアレな話ですけど、人と人との間にある疑心暗鬼という感情は妖怪のように社会に蔓延すると思っているから、お焚き上げしたいなと思っています。さらに話をつなげつつ別の話をしちゃうんですけど、赤ちゃんとか子どもって、バーっと駆け寄ってきて座り込んできたりするじゃないですか。猫とか犬もそうだけど。こっちが避けたら大怪我するのに。

野村:世界を信頼しているんですね。

熊井:まさに。あれは疑心暗鬼からかなり離れていて、俺はずっとその大切さを思っているようなところがあって、一時期、ジャスティン・ビーバーにはまったんですよ。ジャスティンがInstagramで”Trust Fall”っていうのをやってた時期があって、車から出て運転手とかファンとかいろんな人に体を預けて、支えてくれた相手に対して”I trust you.”と言うという。それって信頼を贈る行為だし、他者に委ねる行為だと思えて、すげえなジャスティンはと。まあ、それはそれとしても、そういう賭けのような信頼って連鎖するって思っていて、今回の周年祭も自分に託してくれた東急株式会社の丹野さんや西田さんという方がいるから、俺も若い世代のキュレーターに託すことができているという感覚もあります。そういう連鎖が街に広がったらいいなとも思います。

野村:人のなかには「怖い、脅かされたくない」という自分を守る気持ちと、「こうありたい、やってみたい」みたいに世界にひらいていく気持ちの両方が多かれ少なかれあると思っていて。わたしは、自分の声が届かなかったという時期も経験しているのですが、ベースとしては、周りの人に「こういう話聞いて」みたいな感じで話しかけて、聞いてもらえてきた、受け止めてくれた人がいたという感覚があって、それはすごく幸運なことだったと思います。だから自分も世界を信頼しようとしているところがあるんだけど、それはたまたま自分がそうだったという環境や経験の積み重ねによるものなので、積み重ねてきたものの違いによって、向き合い方は異なるとも感じています。

竹中:わたしは割とすぐに疑心暗鬼になりやすいほうかも。それは若いときに人間関係がうまくいかなくて学校の教室に行けなかった経験、誰かと関わることに怖さを感じた経験が未だに尾を引いているように思います。今は自分の話を聞いてもらえるとても恵まれている環境にいると思うけれど、自分の尊厳が失われている状況に置かれている人がいたとしたら、リスクを先に考えて人を信頼できなくなる状態に陥ってしまうこともすごく想像できて。

熊井:わかります。リスクを想像してしまうのは、自分のなかにすごく柔らかい部分があって、その部分を守るための心の動きですよね。だから、疑心暗鬼というものが悪いという話に直結させたいのではなくって、その気持ちとどう向き合うかと考えたときに、おそらくクリエイティビティの話になってくると思うんですよ。

今回の周年祭のポスターとかブックレットに絆創膏のモチーフがあるんですが、そのことともつながります。詩人の吉野弘さんが、「創造の創が『きず』だということは意外に知られていないようです」と書いてらっしゃって、非常にピンときたんですね。大学を卒業してからずっと創造性教育みたいなことををやってきて、今も渋谷パルコにあるGAKUというクリエイティブスクールをやっているのですが、創造の傷性みたいなものを見つめていかないと、すべてがフェイクになってしまうという感覚があります。傷つけてしまうことも、傷ついてしまうことも織り込みながら生まれるものがまさにクリエイティブなんじゃないかって。傷つかない高みから「創造せよ」みたいなことを言うことの白々しさというか。me and youはそういうことを一緒に考えていってくれるようなメディアでもあると思っていました。

渋谷キャスト7周年のキービジュアルには、主催者の寝室の写真が利用されている。その理由はブックレットで解説されているが、人が一番身を委ねているシーンを表現したかったとのこと

野村:わたしのなかにも、リスクを恐れる気持ちや、脅かされることが怖いという気持ちがめちゃくちゃあります。でもだからこそ、こうあってほしいと願うように、日々やme and youをやっているところがあります。揺らぎがありますね。でも、安心して過ごしたいけれど、怖いだとかできていないだとか、相反するような感情の揺らぎがあるからこそ、考えられることや話せることがあるような気もするんですよね。

竹中:今揺らぎと聞いて思い出したんですけど、わたしはいいことだけをしている心が清らかな人間では決してなくて、もちろん誠実さや真摯にやることは大切にしたいけれど、自分のなかには矛盾もあるし、反射的に感じてしまう嫌な気持ちも存在しています。でもそういうものがあったとしても、存在しているから正しいと思っているとは限らないし、外に発露するかどうかもあるし、身近な人に話したら違う形に変化することもあるし、気持ちを認めたまま向き合うこともある。そうしたものも揺らぎなのかな。

野村:いろんなものに触れて、自分と違う価値観を招き入れるときはすごく揺らぎますよね。けれど、揺らいでいる状態のほうがいいとわたしは思っています。それは、自分がものをつくりたい人間だからかもしれないとも思うのですが……。でも、わたしは「誰かのため」だけに自分が生きているとは言えず、自分の知りたい・出会いたいという、ある種エゴイスティックなところと、心から誰かのことを思うところの、両方がある。そうした揺らぎや幅が自分のなかにあるということをわかっておきたいです。

熊井:揺らぎがあるっていうのは前提にしたいというか、揺らいでないって思われると結構つらいですよね。今日話しながら、お喋りをやめないことが重要だと思いました。問いについて考え続ける、というとややストイックすぎる感じもあるかもしれないけど、考え続けつつお喋りをやめないって、やっぱりすげえいいなと。考えるから喋るというのもあるけど、喋り続けているから、考え続けるみたいな感覚もあって。

竹中:問題集のようにすでに考えていたことを一問一答で答えていくのではなく、ということですよね。生きることに関わる問いだと、答えを用意していなくてもそれぞれ考えていることがあるはずで、そうした問いを持ち寄る仕事がもっと増えたらいいなと思います。

熊井:仕事ってそもそもそういうもののはずですよね。

耳を傾けたくなる、見たくなるような佇まい/「なにがかっこいいか」という感性の更新/渋谷にあってほしい風景

ー今年の周年イベントでは、耳を澄ますことで聞こえるというパフォーマンスや、鉄彫刻作家の飯田誠二さんや美術家の光岡幸一さんによるアートインスタレーションなどが企画されています。「不揃いの調和」「頼まれなくたってやっちゃうことを祝う」というコンセプトから、どうしてこのような取り組みを企画したのでしょうか。

熊井:誰かに何かを届けようとするときに、例えば、声をでかくしたり、目立つ色を使ったりするというだけでないありようもあるよね、と思っていたんですね。目立てば目立つ方がいいというのは、行き着く先にバズったほうがいい、リーチが何人、という話になる。そうではないものを目指しているので、むしろ耳を傾けたくなる、見たくなるような佇まいであることの大切さを考えたいんです。飯田さんのサウンドインスタレーションもまさにそういう作品ですね。

熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

風を受けて美しい音色を奏で、訪れる人々の耳に澄んだ心地よさを届ける鉄彫刻作家・飯田誠二さんの作品

熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

機能性が重視される“サイン計画”も、視点を変えて捉え直すことで、新たなあり方を模索。美術家・光岡幸一さんにより設置される周年祭の会場サインは、普段当たり前に目にするそれとは異なる角度から、戯れるように施設内の回遊を促す

熊井:何が音楽を音楽としてたらしめているかって、スピーカーから音を流せば音楽かというとそうではないですよね。むしろ、「野花が咲いてる」「鳥が鳴いてる」って、周囲に意識を向ける気持ちが音楽を支えていると思うんですよ。空き瓶を吹いて演奏するアキビンオオケストラさんの音もアンプにつなぐわけではないですから、雑踏の音に紛れて聞こえづらいかもしれませんけど、まあ、それを良しとするスタンスもあるはずだし、むしろそれが今必要だとも考えています。

熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

イベント開催中、施設内各所で不思議な音たちが奏でられるパフォーマンスを実施。その名の通り空き瓶を吹いて演奏する「アキビンオオケストラ」の演奏のほか、独自に制作したオブジェクトで音や光を発生させる川口貴大さんによるソロパフォーマンス、大阪を中心に盛り上がりを見せている「石すもう」の初めての東京場所、「ダジャレ100連発」など、参加メンバーによる様々なパフォーマンスを開催。キュレーターは宮﨑岳史さん

―ファッションを通して個人と社会の関係性を探る「apartment」のキュレーションによる新しい装いを祝うポップアップ「new boutique」や、イベント参加ショップの服に袖を通した参加者たちを写真家が撮影する「集合写真ワークショップ」も企画されていますね。

熊井:「なにがかっこいいか」という感性を更新することによって、人類はより良くなってきたという側面もあると思っていて。例えば、昔のかっこよさってマッチョみたいな感じだったじゃないですか。今は優しさや親切というもののかっこよさというものが気分としてありよね。で、そうした感覚が如実に出るのがファッションの世界だと考えています。「集合写真ワークショップ」もそういう装いの人の集まりというものが、より良い社会を表象するのではという仮説を持っています。それこそ、全員が揃って整列している必要はないわけですから、じゃあそのときに、集合写真というものがどうあるべきかというのは結構難しい問いになってくるんですよね。でも、だからこそ、それをキュレーターやブランドの方、カメラマンさんたちも交えて考えていきたいわけです。

熊井晃史×me and you。揺らぎながら、信頼に値する社会を思い描くこと

編集者・フォトグラファーの杉田聖司さんが主宰するファッションマガジン 「apartment」によるポップアップイベント「new boutique」。ジャンルも形態もまったく異なる5つのショップが集まり、想いのままに“装う”ことの喜びと自由を発信

「new boutique」に出店する「Season」

野村:自分の声や心の形がちゃんと出せる場所が街にもやっぱりあった方がいいですよね。今、渋谷区にある、近所の緑道が再整備される話が進んでいます(玉川上水旧水路緑道再整備)。すごく好きな緑道でよく散歩するのですが、このあいだギターを演奏する二人組の方がいて、よくよく見たら、足元にも何かがいて。ぬいぐるみのリスと生きている鳥が足元で演奏を聞いてたんです。

一同:(感動の声)

野村:その再整備計画の全容はまだはっきりとわからないのですし、もちろん必要な整備もあると思うのですが、一部の樹木の伐採も含まれていたり、今の風景とはきっと変わってしまうだろうと思います。再整備されたら、わたしが見た音楽団は緑道で演奏しなくなるかもしれない。そういう場所が残っている方が街にはいいなって思ったんですよね。ここにはいられないって思って、創造したい気持ちを撤退させてしまうような街作りをしてほしくないって思います。

竹中:人間とまた違う、予想のつかないものが近くにある環境だからこそ、落ち着いて過ごすことができるはずですよね。

熊井:小学校の図工室の机って、傷だらけで汚れてたりするじゃないですか。でもそういう状態ってみんな落ち着くんですよね。綺麗すぎると「汚したらやばい」となってしまう。「ここにいていい。からだも心も預けていい、預けたくなる」って思える場所って大切ですよね。

竹中:今日、渋谷キャストができる前はもともとどういう場所だったか気になって、少し調べてきたんです。1964年の東京オリンピック後に人が増えはじめ、大通り沿いには店舗エリアがあって、中央には緑あふれる広場がある都営住宅「宮下町アパート」が建てられたんですよね。2015年に老朽化のため解体し、その後2017年に渋谷キャストができたそうです。渋谷キャストのサイトにも記事が載っていました。

渋谷の学校に通っていたので若い頃よくあの辺を歩いていて、裏原宿に行くときに雑貨屋さんとか小さいお店が並んでいたことを思い出しました。あと、よく渋谷キャストのそばにあった児童会館でめっちゃプラ板をつくってたことも思い出して。児童会館の外には公園があって、一歩大通りに出れば都市が広がっているけど、豊かな緑もあっていろんな人がいるような場所でした。人も動物も植物も共にある、ああいう風景は都市にも残ってほしいと強く思います。

野村:そういう空間は心がちょっと柔らかくなって、何かやってみたいと思えて、自分の可能性もちょっと拡張される感じがするよね。多様な人がいる場所が渋谷にあってほしいと、今日はあらためて思いました。

熊井:それがきっと「不揃いの調和」ってことだし、「頼まれなくたってやっちゃうことを祝う」ということなのかもしれません。

熊井晃史

「GAKU」事務局長、「とをが」主宰、『公民館のしあさって』編集など。

SHIBUYA CAST. 7周年祭

「不揃いの調和」「頼まれなくたってやっちゃうことを祝う」
2日間とその前夜、渋谷キャストの願いと問いかけを、共に考える試み

複合施設「SHIBUYA CAST.(渋谷キャスト)」は、2024年4月28日(日)に迎える 7 周年を記念し、28 日(日)と29日(月・祝)の 2 日間、施設内各所で様々な思考と体感を促す「渋谷キャスト7周年祭」を開催します。 周年祭では、渋谷キャストの建築コンセプトでもある「不揃いの調和」に改めて向き合い、その願いを叶えるための問いかけを行っていきます。それは、渋谷キャストのあり方を探る取組みであると同時に、これからの都市の姿を考える契機となるはずです。

今回は、その姿勢のひとつとして「頼まれなくたってやっちゃうことを祝う」をテーマに掲げます。2日間とその前夕にかけて、 様々なクリエイターと共に、特別編集誌の創刊号配布、トークイベント、ポップアップショップ、フォトワークショップ、インスタレーション、パフォーマンス、サンクスセールを実施。訪れる人々と共に「不揃いの調和」を考え、想いを深める機会となることを願います。

開催日程:2024年4月28日(日)、4月29日(月・祝)
開催時間:11:00〜19:00
開催場所:渋谷キャスト(スペース・ガーデン)

・年刊特別編集誌「SHIBUYA CAST. memorial booklet」創刊
「頼まれなくたってやっちゃことを祝う」をめぐる3者インタビュー 話者:田中元子、若林恵、猪瀬洸平

・若林恵 ×tofubeats「発注向上委員会立ち上げ !? 記念トークイベント(仮)」
4月27日(土)開催 特別編集誌関連企画

・東京・大阪から5つのショップが集い、新しい装いを祝う Popup Project「new boutique」
参加ショップ:SEASON、bluesis、FOME、暇午後、見た目!/キュレーター:apartment

・5人の写真家が切り取る、装いと社会の縮図「集合写真ワークショップ」
参加写真家:東海林広太、立山大貴、榊風人、野口花梨、藤井さくら

・自立する個性が交差し“これからの渋谷”を描く Popup Event「marchers(行進者)」
参加ショップ:Bastone Tokyo、Dill Pickle Club、アイアンドアイ、PLEST、California Spice キュレーター:muddler

・Performance:耳を澄ますことで届く、凝縮された響きたち
出演:アキビンオオケストラ、川口貴大、高橋美佳/競技:石すもう/キュレーター:宮﨑岳史

・渋谷キャスト7周年祭の環境を祝福する、2日間限定のアートインスタレーション
作家:鉄彫刻家・飯田誠二、美術家・光岡幸一

・7 周年の感謝を届ける、2 日間限定の「Thanks Sale」
参加ショップ:CITYSHOP NOODLE、Marked

渋谷キャスト7周年祭 | EVENT | SHIBUYA CAST./渋谷キャスト

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