この街で雨が数日続くなんて稀で、滅多にない連日の雨天に何より体が追いつかず、頭が重い。ねっとりしたジャズボーカルでも聴こうといざプレイリストを開いては、早々に止めてしまった。思春期のような素直じゃない気持ち、鬱々とした頭の動き。真撃に愛を訴えるにぴったりのクラシックジャズがその日の湿気とぶつかってしまいそうで、聞き続けるのはなんだか気が引けてしまった。
この湿度にはEtta Jamesが唄う“Stormy Weather”なんかピッタリなのにな、と私は静かに嘆きながらベッドに戻り、体の力を抜こうと横になった。ブリッジも転調もない、雨の音の重なりが永遠に続く。充実した週末の後のバーンアウトと重なって、予定はないが余裕もない月曜日の午後3時。
『模範郷』の舞台でもある台湾中西部の都市・台中で住み始めて二年と少しが過ぎた。あの一冊にリービ英雄が綴るように、台湾は「ねばねばするような光」で包まれている。そんな中でも台中はまっすぐで強い陽射しが照る街だ。台中はこの時期ほとんど毎日快晴に恵まれているので、雨に濡れた街の様子をすっかり忘れていた。季節の変わり目を印すように降る、雨。
私は、見慣れた風景こそが変わってしまうことを恐れている。そして何も変わらないという普遍性の無限さにも。思考は矛盾に満ちる。矛盾しているからこそ、いつも私は、そして一度始まるととても長い間、思考の中であちこちを彷徨っているのだ。
でも雨だからか普段の思考回路とは違う方向にハンドルが傾く、珍しい感覚。