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同じ日の日記

しらたき一つおいておけないのに/つめをぬるひと

SNSを見ながら「厳しい」という感情が湧いた7月8日のことを思い出す

毎月更新される、同じ日の日記。離れていても、出会ったことがなくても、さまざまな場所で暮らしているわたしやあなた。その一人ひとりの個人的な記録をここにのこしていきます。2022年7月は、2022年7月18日(月・祝)の日記を集めました。「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪を塗り続ける、つめをぬるひとさんの日記です。

3連休の最終日。
いつもの平日と変わりない一日。だいたい日中は爪を作り、夜になるとご飯を作る。
家で仕事をすることが好きで、こういう一日に私は安心する。
制作物の発送や、食糧の買い出しくらいしか外に出ることがないので、休みの日は夫が外に連れ出してくれたり、自分でもできるだけ外に出る用事を作ったりしている。
昨日はいつも行くスーパーとは別の、少し遠いところにある大型スーパーまで歩き、お肉や野菜を買い溜めて、お昼は近所で鰻重を食べた。
鰻重に備えて体力を消費させるために遠いスーパーまで歩いたというほうが正しい。

実際に目的地へ着いてしまえば楽しいし、他にも行きたい場所は尽きないけど、人混みも電車もあまり好きではなくて、コロナ禍で更に苦手意識が大きくなってしまい、家好きに拍車がかかっている。
今日のように、外出した日の翌日に家で制作をしている時間は、制作だけに集中していいという安定感が心地よく、自分がいる場所が穏やかである状態に安心する。

お昼はだいたい家にあるものですませるか、発送がある日は外で買って帰る。
今日は無印で買った冷や汁のパウチが家にあったので、それをご飯にかけて、きゅうりを半分輪切りしたものと豆腐を入れて食べた。
きゅうりのもう半分は夕飯の副菜用として浅漬けにした。

昼食を食べながらSNSやYouTubeを見る。
ここ最近はSNSを見ていて厳しいと感じることが多かったけど、7月8日から10日経ったいま、画面というものは良くも悪くも簡単に通常へ戻りつつある。

その7月8日、私は鎌倉にいた。
外出がそこそこ苦手な私ですら楽しみにして向かっていたその道中で、銃撃事件のニュースを見た夫からスマホの画面を見せてもらった。
自分のスマホで見るという動作を割愛してまで人の画面を覗き込むくらいには衝撃が大きかったんだと思う。

動機も背景もなにも分からない2,3行の速報だけを見て浮かんだ最初の感想は「それは違う」だった。
あの政権に賛同の意思も良い感情も抱いたことはなかったけど、だからこそ、「そうじゃないよ」という言葉しか出なかった。
政権が明確にするべきことは叶わなくなってしまった。

うまく言葉にできないまま、鎌倉へ到着。
せっかく来たからには楽しまないと、とできるだけ夫も私もその話題を口にしないようにしていたが、飲食店で待っている間にふとスマホを見ると、自然とその話になってしまう。
情報が錯綜した状態で自信に満ちた憶測がSNSに並ぶ様子を見て、とにかく「厳しい」という感情がうごめく。

私は見ることや発信することも合わせて、SNSを“使う”ということは好きだ。
思春期からいくつものSNSを渡り歩き、情報も自分なりに取捨選択して、写真や映像に対する耐性もそこそこある。
でも今回のニュースで大量に出てくる写真や映像と、不明瞭な憶測と、それに投げられる言葉と、いつも通りの投稿とがないまぜになったTLは結構なもので、久しぶりに「カオス」という言葉を使った。
悲しい、気持ち悪い、キツい、しんどいをそれぞれ少しずつ掠りながらも、そのどれとも少し違うような気がしている。
現代でこういうことが起こるとSNSの言葉はこう流れる、ということを高速で見せられているような日だった。

あれから10日経ったけど、この10日だけでも、物騒な事件が続いている。
立場や年齢、性別問わず、「安全」が私たちの身近なところで脆くなっていることを思い知らされる。
自分がいる場所が穏やかである状態に安心するなんて、ついさっき書いたことが簡単にぐらつく。
でも、主語の大きいものに怯えながら暮らしていくのも現実的ではない。

こういう時、何らかを「頭の片隅においておく」という便利な言葉を使いそうにもなるけど、実際はおいておくものが多すぎて、片隅どころか置き場がない。みんなどこにおいてるんだろう。本当においてるのかな。
頭の片隅においたものなんて、実質おいてないようなものだろうとも思う。
そんなことを考えながら、制作やメールの返信、発送準備をしているとあっという間に夕方だ。

夕飯は肉じゃがと、お昼に漬けたきゅうりの浅漬け。
煮るだけ・漬けるだけの簡単な調理にもかからわず、肉じゃがにしらたきを入れ忘れてしまった。
しらたき一つおいておけない。
頭の片隅なんてそう便利に使えるスペースではないとつくづく思う。

つめをぬるひと

爪作家。
爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、
「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪の制作・販売をする。
コラム連載や、音楽フェス・イベント等で来場者に爪を塗る企画も実施。
2020年に著書『爪を塗る ー無敵になれる気がする時間ー』を刊行。

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fashion&beauty clubの集い💫 2022年10月/つめをぬるひとをお招きした『爪を塗る会』

me and you clubのそれぞれのグループごとに開催する「グループの集い」。今回はつめをぬるひとさんをゲストにお招きし、それぞれがお気に入りのネイルカラーを持ち寄って集合し、みなさんにとって爪に色を塗る時間とはどういう時間なのかおしゃべりしながら、ゆったりとした夜を過ごせたらと思います。イベント内では、「me and you」をテーマにしたつめをぬるひとさんのオリジナルの爪のレシピもご紹介いただく予定です(お好きな色のネイル2色+サインペンがあると楽しいそう!)。

日時:10月27日(木)20時〜22時
場所:Zoom

※本イベントは、me and you club membersのみご参加いただけます。

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